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殺しの一品料理(ア・ラ・カルト) 日本推理作家協会編/別題『推理小説代表作選集 1973推理小説年鑑』 |
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アンソロジー(国内編集者) | 出版月: 1973年01月 | 平均: 7.00点 | 書評数: 1件 |
講談社 1973年01月 |
講談社 1978年04月 |
No.1 | 7点 | クリスティ再読 | 2021/04/18 23:18 |
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いわゆる推理小説年鑑の1973年度。昔は「推理小説年鑑」、最近は「ザ・ベストミステリーズ」で、「ミステリー傑作選」とか「推理小説代表作選集」とか銘打たれて、日本推理小説作家協会編で、講談社で刊行される年度別短編選集。名前が何度も変わってるし、文庫になるときに年ごとにキャッチーなタイトルが付くから、こういうサイトだと、分かりづらい。「日本推理小説作家協会編」で判別するしかないかな。けど、作品は当然粒ぞろい。一応全作短評しよう。
小松左京「待つ女」 人間消失だけど、奇譚風の話。「おクラさま」と古風なのを揶揄される女性の暮らしぶりが、「昔の庶民の生活」を体現していて、評者なんぞはすごく懐かしさを感じる。好き。 山村正夫「気になる投書」 人生相談を巡るアイロニカルな仕掛け話。ふつう。 三好徹「不確かな証人」 意外にリアルなトリックあり。ふつう。 海渡英祐「酔っぱらった死体」 吉田茂はゲスい。まあそれがウリのシリーズだけど。ふつう。 陳舜臣「宝蘭と二人の男」 神戸の中国人専用の娼婦宝蘭の数奇な人生と、彼女を巡り殺し合った二人の男の話。庶民の歴史、といったあたりの面白さに惹かれる。 夏樹静子「暗い玄界灘に」 婚約者がヘルニア手術中に急死した真相の話。雰囲気がいい。 戸板康二「明治村の時計」 中村雅楽ではない単発の、アララギ派歌人と無頼派詩人の因縁の話。いやこんなのフィクションでやるのかな? 都筑道夫「九段の母」 タイトルは戦時歌謡だけど、戦前の靖国神社の例大祭の縁日では見世物小屋や香具師がわんさかと...という猥雑な市井の「噺」という印象の作品。雰囲気が面白い。「なめくじ長屋」の昭和版?かしら。 松本清張「理外の理」 時代遅れの考証家が雑誌ラインナップから外されたことを復讐する話。書痴な話で、そこらへんに妙な味がある。 鮎川哲也「竜王氏の不吉な旅」 三番館でアリバイ崩し話。鬼貫物風の話で、不吉な名前の地名を回る旅行がアリバイ(死の島=篠島はw)。だけど、安楽椅子探偵のバーテンだから、どうも名探偵過ぎて、逆につまらない。 佐野洋「猿の証言」 ふつう。 土屋隆夫「泥の文学碑」 「盲目の鴉」の冒頭部分で事件が少しだけ違う。確かに「盲目の鴉」でこの部分、浮いてるもんね。「盲目の鴉」読んでると、モヤモヤする。 森村誠一「殺意の造型」 美容室でよろけた客がヒゲ剃り中の美容師を突き飛ばし、客は喉を切り裂かれて...単純な事故と思われた事件に、刑事は疑いを持つ。当時全盛期でベストセラー連発していた森村誠一。この頃まだかなりパズラー寄りでそれを社会派とミックスした作風....評者今まで1作もやってないけど、実は大の苦手。文章が嫌いだから、たぶん取り上げないんじゃないかと思う。けど、この作品、妙にバカミスな味があって、実に面白い。この本のベスト。 戸川昌子「裂けた鱗」。 パリにロケに出たTVクルーの一行は、独裁的なディレクターの独断で、「足の裏を切り裂く」ことで恍惚となる女をヒロインに据えた、「パリで蒸発する女」のセミドキュメンタリーな話を取ることになる....猟奇性高し。ナイス。 いやこの頃、社会派全盛末期くらいだけど、「ジャンル感が薄い」何が飛び出てくるか予測がつかないような面白さがある。レギュラー探偵もヒーロー性が薄い吉田警部補と三番館のバーテンだけだし、「ポストモダン」にならない「モダン」というあたりでは、一番典型的な時期のようにも思う。だって土屋隆夫だって戸板康二だって、古典的なパズラーとは言い難い作品を収録だし...意外に三好徹・夏樹静子がパズラー寄りかなあ。 |