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死体消滅 戦慄ミステリー傑作選 山村正夫編 |
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アンソロジー(国内編集者) | 出版月: 不明 | 平均: 7.00点 | 書評数: 1件 |
No.1 | 7点 | クリスティ再読 | 2022/01/10 08:15 |
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先日楠田匡介やったから、ついつい「人肉の詩集」が読みたくて図書館で探すとこのアンソロがあった。大昔読んだ記憶あり。1976年ベストブック社だけど、アマゾンに登録がないみたいだ。
収録作品:「人間腸詰」夢野久作、「王とのつきあい」日影丈吉、「人肉の詩集」楠田匡介、「二瓶のソース」ダンセイニ、「死を弄ぶ男」山村正夫、「人間解体」森村誠一、「失楽園」北洋、「屍臭の女」斎藤栄、「おーそれーみお」水谷準。 死体処理に特化したアンソロ。グロ耐性がない読者は避けた方がいいかもね。要するに死体処理は即物的だから、アイデアだけだと小説にしたときに面白くない。だからそれに語り口なりロマンなりをうまく融合させる腕の見せ所、のように思える。そういう意味で夢Qはさすがなもの。腕一本の大工のべらんめえな語り口のうまさにしてやられる。 同様に語り口のうまさで読ませるのが日影丈吉とダンセイニ。技巧の極みみたいなものがある。山村正夫のは「自殺したけどもゾンビになるだけで死ねない男」を主人公にして、自殺の原因になった女に嫌がらせとして復讐をする話。どんどん腐っていくしブラックユーモアが落語みたい。これが意外に面白い話。 逆に「リアルで陰惨」になると、どうも面白くない。森村誠一と斎藤栄のはリアルで陰惨系だから嫌い。実は楠田匡介のは筋立てだけなら本当に安っぽいスリラーなんだ。しかしこれは、リアルで陰惨な話が、血をインクに、肉体をパルプに溶かし、皮を装丁に...として詩人とその想い人を「亡き人を追悼する詩集」化けさせるというイメージが、話の具体の内容を超越して訴求する力がある。ある意味究極の「肉体の詩集」なんだから、マラルメ的な「書物」にこだわるビブリオマニアな詩人の理念みたなものでもある。 つまり、観念的な「ロマンの味」が死体処理話の決め手のスパイスなのだ。まさにこの「ロマン」で押し切って成功したのが水谷準の伝説的な名作「おーそれーみお」で、やや押しきれていないのが北洋。「おーそれーみお」は昭和二年の新青年が初出だそうだからほぼ百年前! ポオをやや甘口にしたロマンチックな名作。 読みごたえありの名アンソロ。 ちなみに「人肉の詩集」をタイトルにする楠田匡介の短編集(1956)は、稀覯度が高くてやたらな値段がついている...で、湘南探偵倶楽部が短編「人肉の詩集」だけを抜き刷りにして2021年に出しているそうだ。たった14ページに2640円だすのも酔狂といえばそうなんだけど、思わず「本」として欲しくなる気持ちは、「人肉の詩集」については、わかる(苦笑) |