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真紅の法悦 怪奇幻想の文学I 訳者代表 平井呈一 |
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アンソロジー(国内編集者) | 出版月: 不明 | 平均: 7.00点 | 書評数: 1件 |
No.1 | 7点 | クリスティ再読 | 2022/07/24 16:39 |
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教祖平井呈一とチルドレン、といえば荒俣宏やら紀田順一郎となるわけだが、それに種村季弘のエッセイ「吸血鬼小説考」、吸血鬼に造詣の深い仁賀克雄...とオールスターによる吸血鬼アンソロ。この「怪奇幻想の文学」のシリーズ自体、ちょっと伝説的と言っていいくらいの幻想文学の金字塔となったシリーズなのだが、その第一弾。シリーズ自体の狙いは「オトラント城奇譚」の初訳にあったようだが、この本には吸血鬼小説の本家であるポリドリの「吸血鬼」、平井の名訳で今も創元にある「カーミラ」などなど収録。
ポリドリの「吸血鬼」って「バイロン真似っこ」とか意外に軽んじられている小説、というイメージがあるけども、いや悪くない。ルスヴン卿の両刀使いっぷりがなかなかナイス。要するに吸血鬼ってさあ「性的逸脱」をモンスター化したようなところがあるからね。実際、このポリドリの作品が、バイロン卿の乱行っぷりを当てつけたように読まれたらしい(種村の序文によるとね)。 E.F.ベンソンの「塔の中の部屋」はだんだん実現していく夢の話。雰囲気結構。前半はイギリス中心で、イギリスの吸血鬼小説はオーソドックスなゴシック小説のカラーが強いものが多い。後半はアメリカ物だが、こっちはSF作家が書いているケースが多いようだ。だから突飛な発想や仕掛けを楽しむのがいい。ウェルマンの「月のさやけき夜」はポオを主人公にして「早すぎた埋葬」から始めて怪異譚の中で「黒猫」のアイデアを思いつく話(苦笑)。で...だけど吸血鬼モノが得意のマシスン「血の末裔」。これね〜子供の頃読んでガチ怖かった記憶があるからぜひ取り上げたかったんだ。 ぼくは大きくなったら吸血鬼になりたい。ぼくは永遠の生命をえて、みんなに復讐をし、女の子を吸血鬼にするんだ。死の匂いを嗅ぎたいんだ と学校で作文を発表する少年、ジュールスの話。泣ける。というか、怪奇小説というものが、実は怪奇小説の愛読者というものを扱った一種の「読者論」になっているという性格(ラグクラフトなら「アウトサイダー」とか「インスマスの影」)が覗くと、実に味わいが深くなる。怪異に魅了されるのは、犠牲者も読者も同じことなのだ。 |