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壜づめの女房 異色作家短篇集 |
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| アンソロジー(国内編集者) | 出版月: 1965年08月 | 平均: 6.00点 | 書評数: 1件 |
![]() 早川書房 1965年08月 |
| No.1 | 6点 | クリスティ再読 | 2025/12/13 23:39 |
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| さて早川書房「異色作家短篇集」でも、アンソロのこの巻は最初の刊行(第三期,1965)だけでしか出なかったために、稀覯扱いをされている巻としてその筋では有名。まあ第三期は「くじ」以外は改訂版(1974,76)ではオミットされたので、新装版(2005-2007)でしか読めない。この新装版ではアンソロは「内容が古くなった」ということで、完全に新しい内容で差し替えて3巻編成になった。だから旧版アンソロは手に入れづらく、古本は5000円程度の値がついている。図書館にあったのでありがたくさせて頂く。
内容は、 「夜」 レイ・ブラッドベリ 「非常識なラジオ」 ジョン・チーヴァー 「めったにいない女」 ウィリアム・サンソム 「呪われた者」 デイヴィッド・アリグザンダー 「駒鳥」 ゴア・ヴィダル 「壜づめの女房」 マイクル・フェッシャー 「破滅の日」 ロバート・トラウト 「剽窃」 ビル・ヴィナブル 「崩れる」 L・A・G・ストロング 「プレイバック」 J・T・マッキントッシュ 「二階の老婆」 ディラン・トーマス 「変身」 マルセル・エイメ 「わが友マートン」 ジュリアス・ファースト 「災いを交換する店」 ロード・ダンセイニ 「私の幽霊」 アンソニイ・バウチャー 「マダム・ロゼット」 ロアルド・ダール となっており、本編で採用された作家ではブラッドベリ、エイメ、ダールが収録されているだけで、他の作家を含めて日本語版EQMMで紹介された作品だそうだ。解説が短いのだが、いわゆる「奇妙な味」とは「文学と大衆小説の間にある短編」と定義している。とはいえ、この定義はやや問題ありで、おそらくアメリカの出版事情を考慮すると、専門ジャンルで特化したパルプマガジンに掲載される「ジャンル小説」ではなく、ザ・ニューヨーカー、ハーパーズ、エスクァイアといったスリックマガジン(一般高級紙)に掲載された短編を集めた編集方針だと言いたいのだろう。 だからミステリ・SF・ファンタジー・ホラーといった「ジャンルに収まりづらいエンタメ」をとりあえず「奇妙な味」と呼んだ、とするべきだろう。ヴィダルの「駒鳥」なら少年時代を描いて文学性が強いことになるし、バウチャーの「私の幽霊」ならばホラーともSFともつかない「幽霊が死んだらどうなる?」という話。ダールのは「飛行士たちの話」収録の戦争中の女遊びの話。 秀逸はサンソムの「めったにいない女」がロマンスともホラーともつかない話でまさに奇妙。ヴィナブルの「剽窃」は小説アイデアを提供してくれる緑の小人をめぐる話でSFともユーモアともつかない。でもダントツにいいのはエイメの「変身」。オルゴールを手に入れるために老人三人を惨殺した死刑囚が突如赤ん坊に変身してしまい、死刑にすべきかで混乱する話。ファンタジーだけども根底にあるのは奇蹟譚。素晴らしい。 まあだけど「古臭いから」で新装版で全面改訂されたのは、全体から見ると仕方ないかな。 |
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