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ずっとこの雑誌のことを書こうと思っていた
鏡明/雑誌連載時の題名「マンハントとその時代」
評論・エッセイ 出版月: 2019年07月 平均: 8.00点 書評数: 1件

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フリースタイル
2019年07月

No.1 8点 人並由真 2019/08/31 16:26
 SF(とヒロイックファンタジー)作家で翻訳家、そしてロックの権威? にして50年代ハードボイルド私立探偵ミステリの大ファンでもある鏡明。
 その我らがアトラス鏡明が、雑誌「フリースタイル」に連載した述懐エッセイ記事「マンハントとその時代」を一冊にまとめた本。

 もちろん「マンハント」とは1950年代末~60年代初頭に久保書店から刊行され、当時「日本版EQMM(現在のミステリマガジン)」および「ヒッチコック・マガジン」とともに日本三大翻訳ミステリ専門誌時代の一角を築いた、海外ハードボイルドミステリ専門誌(あるいは主力雑誌)のこと。
 大昔に同誌のバックナンバーを全部揃えて(ただし掲載作品の全部はいまだに読んでない~汗~。コラムの方は基本的に積極的に精読した)家の中に積んである評者にすれば、その魅力をあの鏡明に語ってもらえる! ということで刊行前から多いに期待していた一冊である(すみません。「フリースタイル」連載時にはほとんど読んでいなかった。)

 内容は「マンハント」のみならず、同時代のサブカルチャー誌として「漫画讀本」や「笑の泉」(評者には、初代ゴジラ公開時の吊り広告がすぐ頭に浮かぶ)「洋酒天国」などにも及び、正直、そちらはまあ……という気分もないではないのだが、長い大きな目で見れば、ここで御大・鏡明にいろいろと思うこと広い知見を語っておいてもらった方が良いとは思う。
(個人的な我が儘であることを重々承知で言えば、一冊まるまる「日本版マンハント」「本国版マンハント」、その背景となるペーパーバック文化に花咲いた50年代私立探偵小説ジャンル、の話題「だけ」で、くくってもらって欲しかったのだが。)

 実際、早々と「マンハント掲載のミステリ作品そのものにはあまり語らない」と釘をされてしまい、いささかショボーン。
 なにしろ、こういう場、こんな機会でなければ、21世紀にどこの誰がマンビル・ムーンやジョニー・リデルのことを語ってくれるんだ? と思ったが、それでも「マンハント」の誌面作りの方向性の解析や、種々の見識などは読んでいて面白いし、本の中盤、舌が回ってくれば何のかんの言っても、ハードボイルドミステリそのものについても熱く詳しく、語りまくってくれる(大嬉!)。

 50年代私立探偵小説の中では、やはりシェル・スコットが一番スキだと叫び、未訳の原書の内容にも触れている鏡明。ここまでシェル・スコットへのオマージュを込めた熱い文章は久々に(もしかしたら生まれて初めて?)読んだ思いだよ(笑)。
 また、米国の「マイケル・シェーンミステリマガジン」にカーター・ブラウンの長編が一挙掲載されたという、評者なんかはまったく知らなかった驚きの例を出し、その上でごく自然に(「ファンならその辺の気分は黙っていてもわかるよね?」と言わんばかりに)
「でもマイク・シェーンとカーター・ブラウンというのは相当相性が悪いという気がするんだけどなぁ」とさらりと言ってのけるあたり(246ページ)、脳みそが爆発しそうなまでに感動してしまう! こんな一文が2019年の新刊でリアルタイムで読めるという喜び、いや、もうサイコーでしょう(笑)。

 「エド・マクベインズ・ミステリマガジン」の日本語版についての記述など「あれ? 勘違いでしょ?」という箇所なども全く無いではないのだが、最後の「マンハント」関係者各人への貴重なインタビューもふくめて、評者のような種類のミステリファンには必読の一冊。あと無いものねだりでは、「日本版EQMM」に載った、「ハードボイルドミステリマガジン」の休刊を惜しむ小鷹信光の特別寄稿にも触れておいてほしかったこと、くらいかな。今でも「ハードボイルドミステリマガジン」のことを思うたびに、個人的にはあの記事がまっさきに念頭に浮かぶ。

 本当に素晴らしい本ですが、評点はあえてこの点で。いや一冊まるまるこちらの希望の形質でまとめてくれていたら、文句なしに10点を差し上げていたんですが(笑)。


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