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日本ミステリー小説史
堀啓子
評論・エッセイ 出版月: 2014年09月 平均: 6.50点 書評数: 2件

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中央公論新社
2014年09月

No.2 8点 小原庄助 2019/02/06 11:59
ミステリーとSFはいずれも米国の文豪エドガー・アラン・ポーが創始したジャンルだが、正統的文学史からは長らく排除されてきた。近年ようやく、こうした周辺ジャンルを含めた新たな文学史の構築が始まりつつあるが、本書もそうした試みの一つだ。
尾崎紅葉の「金色夜叉」が米国小説の翻案であったことを突き止めるなど、著者は比較文学の視点から日本文学に新たな光を当てる研究を行ってきた気鋭の研究者。本書では、ミステリーというジャンルが日本の近代文学と密接に絡み合いながら発展してきた歴史を解き明かす。
まずミステリー史を「大岡政談」から語り始める視点が興味深い。同作に代表される、「裁判もの」が、「時間を遡り事件を再構成する」というミステリー小説のプロットに日本の読者をなじませ、後のミステリー大国への地ならしをしたのだ。また「大岡裁き」の有名なエピソードの多くが中国の裁判記事の翻案だったことなど、意外な事実も明らかにされる。
明治に入り、成島柳北や仮名垣魯文、黒岩涙香らによる翻訳や翻案でミステリー文化が開花し、1893年を頂点とする最初の探偵小説ブームが到来する。泉鏡花もデビューにミステリー小説を選んだほどの人気だったそうだ。その後一時衰退するが、岡本綺堂の「半七捕物帖」や谷崎潤一郎の犯罪小説をきっかけにミステリーは息を吹き返し、「新青年」創刊と江戸川乱歩の登場によりジャンルとして自立する。
こうした数々の挿話と共に、「デカ(刑事)」という呼称の起源や、2時間ドラマのクライマックスはなぜ断崖絶壁なのか、などの身近な話題も随所にちりばめての日本ミステリー史は、読者を倦ませない。
さらに本書で言及される鉄道小説(鉄道ミステリーとは別物)や毒婦物、家庭小説などは、近年の英米文学研究でも注目されている重要な話題である。まさに最新の研究成果と一般読者を橋渡しする知的エンターテインメントとして、お薦めの一冊だ。

No.1 5点 蟷螂の斧 2015/05/23 21:13
裏表紙より~『江戸後期、大岡越前の裁判小説が人気だったように、日本人は元来、謎解きが大好きだった。だが、ポーの「モルグ街の殺人」にはじまるミステリーが受容され、国産の推理小説が定着するためには長い茨の道が必要だった。黒岩涙香による本邦初のミステリー、探偵小説でデビューした泉鏡花、『新青年』と横溝正史、社会派という新ジャンルを切り開いた松本清張や「日本のクリスティー」仁木悦子まで、オールスターで描く通史。』~

序章では、シェークスピア「ヴェニスの商人」に登場する裁判官名ダニエルは、旧約聖書外典の裁判物語にあるなど、ミステリーのルーツ的な話題から始まります。また「大岡政談」の子争いなど一部の話は中国の裁判小説「棠陰比事」が原典であるなど、目から鱗が落ちるような話もありました。黒岩涙香氏の翻訳苦労話などは今では笑えるような話です。「ドグラ・マグラ」を読んだ横溝正史氏が頭がおかしくなっちゃたという逸話など楽しめます。ヴァン・ダイン氏に影響を受けた甲賀三郎氏が本格について論争(1931)を引き起こしたことなどは、2005年の「X論争」に通じるものがありますね。そういえば、二階堂黎人氏もヴァン・ダイン氏のファンだと思います。なお、一部有名作品の完全ネタバレをしていることが難点です。


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