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アントニイ・バークリー書評集Vol.7
三門優祐・編訳
評論・エッセイ 出版月: 不明 平均: 6.00点 書評数: 1件

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No.1 6点 おっさん 2018/02/24 15:31
 ・・・そういう時代でありましたよ・・・ 木原敏江『夢幻花伝』より

「スパイ・冒険小説その他編」と銘打たれた、2017年11月発行の、『アントニイ・バークリー書評集』最終巻です。
往時は、海の向こうでも“本格冬の時代”だったし、さかんに書かれ、我国へ大量に紹介されたのも、時局(東西冷戦)を反映したスリラー群だったなあ……と、なぜか物心つかないころを回顧しシンミリしてしまうのは、筆者が十代の頃、激動の60年代を背景にした小林信彦の大河ブックガイド『地獄の読書録』(1980)を愛読したからですね。同書の第二部には、「スパイ小説とSFの洪水」という見出しがついていました。
こちらの第7巻は、SFこそ含まれていないものの、これでオシマイ、ということで、1956年から70年までの『ガーディアン』紙の、フランシス・アイルズ名義の書評欄から、編訳者の三門さんが、既刊に取り込めなかった作家・作品(オランダ生まれのファン・ヒューリックのディー判事ものから、北欧の新進作家の翻訳、再評価の機運にあった、アメリカの闇の貴公子ラヴクラフトまで!)も追加投入しており、シリーズの拾遺集的な性格が強い一冊になっています。
豪華ゲストを迎えてきた巻頭エッセイ・コーナーの、トリをつとめるのは、「近年の英国における古典的探偵小説リヴァイヴァル」を寄せた、英米文学者の若島正氏。海外の情勢にきちんと目配りした内容で(翻訳ミステリに関する文章を書いている、プロの評論家諸氏で、いま、これができない人が多すぎるんだよなあ)啓発されます。

では、いつものように、バークリーが俎上に載せた42名の作家を、ラストネームの五十音順に見て行きましょう(カッコ内はレヴューの総数)。

マイケル・アンダーウッド(14)、ジェイムズ・イーストウッド(1)、ジョン・ウェルカム(1)
アンドリュウ・ガーヴ(14、うちポール・サマーズ名義2)、ジョン・ガードナー(1)、ヴィクター・カニング(5)、フランシス・クリフォード(6)、E・H・クレメンツ(5)、サラ・ゲイナム(2)、マニング・コールズ(3)、リチャード・コンドン(1)
マイ・シューヴァル&ペール・ヴァールー(1)
ジェイムズ・ハドリー・チェイス(5)、レン・デイトン(1)、ライオネル・デヴィッドスン(2)
ウラジミール・ナボコフ(1)
サイモン・ハーヴェスター(11)、ジョナサン・バーク(8)、ジェフリー・ハウスホールド(4)、ウィリアム・ハガード(10)、デズモンド・バグリイ(1)、ジャック・ヒギンズ(5、うちハリー・パタースン名義4)、コーネリアス・ヒルシュバーグ(1)、ジョン・ビンガム(4)、ロバート・ファン・ヒューリック(7)、ジョン・ブラックバーン(6)、アントニイ・プライス(1)、ディック・フランシス(1)、イアン・フレミング(4)、ジョン・ボーランド(5)、アダム・ホール(2)
ヘレン・マッキネス(3)、ヘンリー・S・マックスフィールド(1)、アリステア・マクリーン(2)、ハロルド・Q・マスル(2)、ジェイムズ・マンロー(3)
ギャビン・ライアル(3)、H・P・ラヴクラフト(3)、マリア・ラング(2)、ジェイムズ・リーサー(2)、ジョン・ル・カレ(3)、ケネス・ロイス(5)

意外に毒舌が影を潜め、フツーに褒めている例が多い。とりわけバークリーの寵愛を受けているのは、アンドリュウ・ガーヴ(いわく「いつでもベストの作品を提供してくれる作家」)とウィリアム・ハガードで、若干の例外を除いて、新刊が出るたびに絶賛の嵐が吹き荒れます。ラッセル大佐シリーズのハガード(いわく「国際謀略スリラーの頂点に位置する作家」)は、結構、邦訳もあるのに読まず嫌いだったのですが……本サイトでも、クリスティ再読さんが興味深い書評を投じられていますし、ちょっと古本を探してみますか。
ただ、バークリーの書評の魅力の、かなりの部分を占める、ディスり芸が減っているということは、本巻の、読み物としての面白さに影響しています。あのバークリーが、マクリーンを、フランシスを、ライアルを、それにル・カレをどう受け止めたのか? という、こちらの(過大な)期待に対して、コメントがそれを上回らない。良く言って妥当。悪く言えば平凡。
やはりバークリーには――「『女王陛下の007号』(ケイプ、16シリング)では、無敵のボンドがスリリングなスキーレースに参加し、見事賞を射とめる。ミスター・フレミングの標準よりも、多少優れた作品といえるだろう」くらいの、皮肉な言い回しが良く似合うと再確認できましたw 

本巻の「後記」には、結びとして、『ガーディアン』紙に載ったバークリーの死亡記事が訳載されています。これが、なかなか心打つ追悼文なんですね。よく探してきたなあ。そして、これをここに置くという、センスに感服しました。最終100ページの、最後の1行は、編訳者のメッセージです。――「ありがとう、そしてさようなら、バークリー!」

(以下は、筆者の勝手な独り言です)
有難う、三門さん。そして、お疲れさま。
しかし、さようならは、いいませんよw
この『アントニイ・バークリー書評集』は、このまま終わらせていいものではありません。是非とも、編年体の「完訳」を出すべき。もちろん商業出版で(きちんとした編集者の手が加わったもので)、です。そのために、動いて欲しい。
いつの日か、その本のレヴューを本サイトに投稿できる日が来ることを、楽しみに待つことにします。


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