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「新青年」の頃 乾信一郎 |
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評論・エッセイ | 出版月: 1991年11月 | 平均: 8.00点 | 書評数: 1件 |
早川書房 1991年11月 |
No.1 | 8点 | 人並由真 | 2023/04/08 16:06 |
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(ネタバレなし)
「あの」夭逝した渡辺温の、その補欠要員的な立場で、博文館に入社。「新青年」の編集者として活躍したのち、後年は(本サイトの参加者なら周知のとおり)クリスティーやクロフツ、ガードナー、マクリーン、ポーターそのほかの海外ミステリの翻訳家としても多大な業績を遺した文人・乾信一郎の、青年時代を主軸にした自伝・半生記風のエッセイ集。 ミステリマガジンに89~90年にわたって掲載された連載版は当時、楽しんで読んでいた記憶がうっすらあるが、定本としてまとまった書籍の形で読むのはこれが初めて。 (数日前に、気が付いたらもう始まっていた駅前の古書市で、帯付きのハードカバーを300円で買ってきて、すぐ読み出す。) 新卒の著者が運命的ななりゆきで博文館に入ったら、同期の新入編集者で荒木なる中年の御仁がいて、これが実は橋本五郎(『疑問の三』)だと判明したり(お~~!)、前述の渡辺温の事故死が自分のもとに来る途中だったという縁から谷崎潤一郎がすごく罪悪感を覚えているという逸話が語られたり、とにかく昭和前半の博文館周辺の文壇の話題がすこぶる面白い(松野一夫だの、小栗虫太郎だの、延原謙だのに関しても、愉快なエピソードがいっぱい)。 著者が、部数が落ちた博文館のエロ読物誌「講談雑誌」の立て直し? を任されて苦闘の末に挽回。その中で、捕物帖というジャンルを育てようと思い、横溝に『不知火甚左(不知火)捕物双紙』の執筆を打診。これがのちの『人形佐七』に繋がっていくことなども初めて知った(昔、ミステリマガジンで読んでいたら、確実にこの辺は忘れているな・汗)。 乾信一郎がいなければ、日本の捕物帖という文藝ジャンルは、確実に別の進化の経路を辿っていたであろう。 ご町内の好々爺から、問わず語りを聞くような趣の内容はしばし脱線もするが、ユーモラスな語り口での回顧譚は、その辺のブレ具合もまた味という印象に転じる。 読んで本当に楽しかった一冊。 論創から刊行が予定されている乾信一郎のミステリ実作集も、早く読みたい。 |