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江戸川乱歩座談
中公文庫オリジナル
評論・エッセイ 出版月: 2024年09月 平均: 8.00点 書評数: 1件

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中央公論新社
2024年09月

No.1 8点 おっさん 2024/12/16 01:31
2024年(も残り僅かとなりにけり)は、江戸川乱歩の生誕130年ということで、いろいろ記念企画がありました。
9月、10月に中公文庫から連続刊行された乱歩セレクションが、個人的にはヒットでしたね。
第一弾の本書は、前半パートに、主要な戦前「座談」2編、戦後「座談」4編を配し、後半パートに、同じく戦後「対談・鼎談」7編を配しています(大下宇陀児の筆記録「論なき理論」など、関連資料2編のオマケ付き)。
帯裏に謳われた「本書の参加者たち」を列挙すると――

稲垣足穂、木々高太郎、幸田文、小林秀雄、城昌幸、曽野綾子、角田喜久雄、戸川貞雄、徳川夢声、中島河太郎、中村真一郎、延原謙、花森安治、春田俊郎(甲賀三郎の子息:おっさん註)、福永武彦、本位田準一、松野一夫、松本清張、水谷準、横溝正史

となります。

戦前の乱歩は厭人癖を自称するくらいで、仲間うちでも寡黙ゆえ、戦前「座談」の読みどころは、むしろ他の参加者たち――「明日の探偵小説を語る」(1937)の饒舌な小栗虫太郎とか!――の、キャラの立ったお喋りです。
ところが戦争を契機に”人間豹変”(©新保博久)した乱歩は、戦後、探偵小説の啓蒙・普及のため顔出しを厭わなくなり、特に1957年に雑誌『宝石』の再建に乗り出してからは、座談会のホストも積極的に務めるようになり、一般文壇の作家に声かけもしています。「文壇作家「探偵小説」を語る」(1957)では、短編で売り出してきた、松本清張という新しい才能に注目する乱歩を見ることもできます。一躍ベストセラー作家となった清張と乱歩が改めて語りあった、「これからの探偵小説」(1958)が本書 未収録なのは惜しまれますが、それは同対談が、『松本清張推理評論集: 1957-1988』(中央公論社 2022)に入っているからでしょうね。
もし集中、何か一編だけ試し読みをするとしたら、「「新青年」歴代編集長座談会」(1957)をお薦めします。日本の探偵小説ファン、とりわけヨコセイ・ファンは必読ものですぞ(横溝正史とサシでおこなった対談「探偵小説を語る」(1949)は、続刊の『江戸川乱歩トリック論集』のほうに、「資料」として収録)。
個人的には、「探偵小説は人間の智恵の勝利を謳う文学である」という境地にいたった木々高太郎が(この考えかた自体には、筆者も惹かれるのですよ)、座談会でキャラ全開する「探偵小説新論争」(1956)がサイコーですし、全然探偵小説とは関係ありませんが、乱歩と稲垣足穂が同性愛を語りつくす「E氏との一夕」が、なんというか……凄いなと、感じ入りました(参考資料として、乱歩作成の「同性愛文献虎の巻」も併録)。これは是非、栗本薫に読ませてやりたかったなあw

その昔、講談社の〈江戸川乱歩推理文庫〉で、『書簡・対談・座談』(1989)というのが、中島河太郎氏のセレクトで出たことがありますが、あれは「書簡」パートがメインで「対談・座談」は4編とオマケ的な扱いでしたから、同書収録の4編に、書籍初収録を含む9編を追加した本書は、初のベスト盤といっていいでしょう。
欲をいえば、背景理解のために、簡単なものでいいから、合わせて当時の探偵小説界隈の出来事も分かるような、乱歩の略年譜があればよかった。巻末解説(日本文学・大衆文化研究者の小松史生子氏)で、ある程度フォローはされていますけどね。
あと、ちょっと気になったのは、注記の付けかたかな。本文のうちに、[]でくくって同じ活字体で入れていますが、これだと、巻末に断りはあっても、老眼の身には、凄く紛らわしい。初出にあった注なのか、「中公文庫編集部」の親切によるものなのか(注記の問題については、『江戸川乱歩トリック論集』のレヴューでも、別な観点から、また触れることになるでしょう)。
とまれ、今回の企画を実現させた「中公文庫編集部」の、担当者(実質、アンソロジスト)の熱意には、乱歩育ちのミステリ・ファンの一人として共感し、心からの感謝を捧げたいと思います。
よって採点は甘めですが(乱歩のモノクロ写真をあしらったカバーデザイン(細野綾子)も美しく、これも加点要素だあ!)、サイトの諸兄姉、諒とせよ。


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