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欧米推理小説翻訳史 長谷部史親 |
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評論・エッセイ | 出版月: 1992年05月 | 平均: 8.00点 | 書評数: 1件 |
本の雑誌社 1992年05月 |
双葉社 2007年06月 |
No.1 | 8点 | おっさん | 2022/06/06 11:21 |
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『ハヤカワミステリマガジン』2022年7月号の記事で、長谷部史親氏が今年の4月に亡くなっていたことを知りました。
筆者の世代だと、膨大な蔵書を持っているミステリ同人業界の凄い人・谷口俊彦さん、という印象が強く、プロとなり“文芸評論家”を名乗られるようになってからの、ハセベフミチカ氏には、正直、一流の書誌学者だからといって、一流の評論家たりえるとは限らないなあ、と、そんな(悪い)見本を見るような思いを抱き続けていました。 最近、あまり名前をお見かけしないな、とは思っていましたが……前掲の号の追悼文(ワセダ・ミステリ・クラブの後輩である、西上心太、三橋曉の両名が執筆。同誌に連載を持っている、ワセミスOBの某氏からは――書いていただけなかったんだろうなあ)を読むと、晩年は、やはりいろいろあって、業界からフェードアウトされていたようです。 日本推理作家協会賞を受賞した、『欧米推理小説翻訳史』(1992 本の雑誌社)は、帯のコピーに 「明治にルブラン、大正にクリスティー そして昭和のクロフツまで、推理小説はいかにして日本に移入されたか」とあるように、「――何らかの意味で日本へ影響を及ぼした作家たちを選び出し、個々の作家の翻訳史にスポットを当て」た労作で、筆者も多大の影響を受けました。ネット時代以前に、現物をきちんと確認しながら綴られた、孫引きでない書誌的データ(これは容易に真似できません。古書店主でもあった、著者の真骨頂)には感服させられます。 ただ、客観的な「翻訳史」に、プラスアルファとして、ご自身の感想や意見を付け加えようとすると、独断と偏見が露呈されてしまう。たとえば、こんなふうに――「クリスティー、ヴァン・ダイン、クイーンといったトリック中心の推理小説が、一度読んで解決を知ってしまったら二度と読む気になれないのに対して、カーの作品が繰り返し読むたびに新しい感興を呼び起こすのは、小説としての内的成熟があるからにちがいあるまい」。はあ、そうですかw とはいえ。 そういう、書き手の悪い癖みたいなものをさっぴいても、本書が、翻訳ミステリに関心がある者にとって、読まで叶うまじき一冊であることは動かせません。 もともと雑誌『翻訳の世界』に連載されていた「欧米推理小説翻訳史」を、連載途中で本にした関係で、書籍刊行後の連載分(A・E・W・メイスンなど)は未収録ですし、その後、掲載誌を『EQ』に変えてからの、「続・欧米推理小説翻訳史」は、本になることなく終わりました。 著者には、生前に是非、それらを完全収録した『欧米推理小説翻訳史 増補改訂版』を出していただきたかった。 いただきたかったんですが…… とりわけ国書刊行会の、<世界探偵小説全集>以降の、クラシック・ミステリ・リバイバル(長谷部氏の予想を裏切る事態が、進行していきます)を踏まえた加筆訂正を考えると、執筆の手も止まってしまったのでしょう。 残念です。 |