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アガサ・クリスティー完全攻略 霜月蒼 |
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評論・エッセイ | 出版月: 2014年05月 | 平均: 8.33点 | 書評数: 3件 |
講談社 2014年05月 |
No.3 | 10点 | クリスティ再読 | 2017/12/26 21:46 |
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さて評者もクリスティ評を打ち止めにするので、この評論集を取り上げよう。評者はこの本に凄く感謝しているのだ。この本を読まなければ、たぶんこのサイトに書き込んでないと思うよ...というわけで評点の10点は感謝の意を込めて。
ミステリの批評というのは、どうしても乱歩以来の啓蒙的なプロセスを経て確立された定石みたいなものがある。「ミステリファンになるというのは、そういう言説に調教されること」のような雰囲気もあるわけだ。けど、今さら啓蒙ではないわけで、もっと自由に読んでいい、というのが本書の一番の主張なのである。まあクリスティのように、その作家的成長がそのまま日本のミステリ受容と足を揃えている作家の場合、戦前の「アクロイド」「ABC」のようなメルクマールが、そのまま「ミステリの大古典」に定着してしまっているわけだけど、とくにクリスティなら戦後も「アクロイド」や「ABC」に負けないいい作品を連発しているわけである。そういう認知バイアスを評者なんかは正したいと思うわけである。もはや歴史はどうでもいい。フラットに再評価をすべきなのだ。本書はそういう評者の背を押してくれたのだ。 まあ、本書ではたとえば「もの言えぬ証人」を絶賛するとか、ちょいとお茶目なところもあるのだが、実はこれは「創造的誤読」というもののように評者は感じるのだ。あえて「石を投げてみる」、批評的ヒエラルキーの攪乱者であること、そういうアティテュードの問題として、評者は肯定的に捉えたいのだ。「創造的誤読」でいいじゃないか。テキストの「絶対的な正しい読み」というものはもはや、ない。いかにそこから「自分の読み」を築いていくのか、が創造的な批評なのだ。評者はそれを実践したい。 ...というわけで、クリスティの3大傑作が「終わりなき夜に生れつく」「謎のクィン氏」「春にして君を離れ」であるような評価だって、今は可能なのである。そういう風に評者はミステリという楽しい読み物をさらに楽しく読んでいきたいと思う。感謝。 |
No.2 | 8点 | ALFA | 2017/03/20 14:57 |
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クリスティの全作品を取り上げた力作評論集。
最も参考になったのは、「クリスティの傑作はトリックだけを30字以内で取り出すことはできない。」「クリスティの傑作は作品全体が「騙し」である。」という解説。 自分が今までに面白く読んだミステリはすべてこの構造のものだったことが分かった。 もう一つ分かったことは、高評価は人それぞれだが低評価はおおむね一致するということ。 これは当サイトの評点でもそうですね。 クリスティファンならずともおすすめです。装丁もオシャレ。 |
No.1 | 7点 | 蟷螂の斧 | 2016/01/19 13:02 |
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「はじめに」より抜粋~『読もう読もうとずっと思っていたのである。アガサ・クリスティーのことだ。ミステリ評論家を名乗り、ミステリについて語ることでお金まで頂戴し、数千冊のミステリを読んできたというのに、クリスティーの作品をわずか七作品しか読んだことがなかったのである。』~
第15回本格ミステリ大賞(評論・研究部門)に選出されたアガサ・クリスティー全99作品の評論集です。本書は「ポアロ」「ミス・マープル」「トミー&タペンス」「短編集」「戯曲」「ノンシリーズ」に分けてあるので読みやすくなっています。ネタバレはありません。特徴は、著者がクリスティー氏を理解してゆく経過を読み取れることです。例えば「同じ作家とは思えない」と酷評するも、その背景に離婚問題があった年の作品であることを知るといった具合です。また、作品Aの発展形が作品Bである等々・・・。各作品の評価(おススメ度として★印)やベスト10の選出は、納得できるものもあるし、?のものもありこれは致し方ないところ(笑)。未読で高評価のものがかなりあり、今後の読書が楽しみになりました。残念だった点は、ある作品のネタがある有名作品に応用されたというような表現で、作品名が不明なところです。(この点は非常に興味があるで・・・)霜月蒼氏が選んだベスト10の特徴は、作品の内容を30字以内で表せる作品は入っていないということですね。例えば「○○が犯人」(5文字で表現できる)の作品等々です。 たまたま2015年「世界中が投票したアガサ・クリスティーのベスト10」というサイトを見ましたので、その比較をしてみました。 世界が選んだベスト10 本サイト・点 数 霜月蒼氏(10点に換算) 1位そして誰もいなくなった 8.54 79 9 2位オリエント急行の殺人 7.65 40 8 3位アクロイド殺し 8.17 59 9 4位ナイルに死す 7.46 26 9 5位ABC殺人事件 6.65 26 9 6位予告殺人 5.8 15 4 7位パディントン発4時50分 3.83 6 8 8位白昼の悪魔 6.93 15 10 9位五匹の子豚 7.27 15 10 10位カーテン 6.57 7 10 6位の予告殺人は霜月蒼氏は低評価、当サイトもまあまあといったところ。7位のパディントン発4時50分は本サイトのみ低評価、霜月蒼氏は高評価、好きな作家の折原一氏もマイベスト10に入れている作品です。早速読まなければ(笑)。 |