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アントニイ・バークリー書評集Vol.3 三門優祐・編訳 |
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評論・エッセイ | 出版月: 不明 | 平均: 6.50点 | 書評数: 2件 |
No.2 | 7点 | おっさん | 2017/10/26 09:41 |
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2015年以降、おもに春秋の文学フリマ(東京)で頒布されてきた『アントニイ・バークリー書評集』が、今年2017年11月発行の第7巻で、ひとまず完結を迎えるようです。貴重な資料をコツコツと出し続けてこられた、編訳者の三門優祐さんの努力には、素直に頭が下がります。
既刊分をとりあえず全部押さえながら、本サイトには最初の2冊の感想を投下したきりだった、己が怠惰さを反省。遅まきながら、後続の巻を順次、取り上げていくことにしましょう。 『ガーデイアン』紙に1956年から70年までのあいだ、月イチのペースで連載された、フランシス・アイルズ名義の書評コーナーから、第1巻に収録されたアガサ・クリスティーを除く「英国女性ミステリ作家」の作品評を抽出し、年代順に並べたのが、この第3巻。バークリーを「日本で一番多く手掛けてきた」編集者・藤原義也氏による、編集裏話が満載の巻頭エッセイ付きです。 本文のレヴューで俎上に上った、総勢30名に及ぶレディーたちを五十音順に紹介すると、以下のようになります(カッコ内はレヴューの総数)。 マージェリー・アリンガム(4)、ドロシー・イーデン(2)、パトリシア・ウェントワース(1)、サラ・ウッズ(11)、キャサリン・エアード(4) パトリシア・カーロン(2)、ガイ・カリンフォード(5)、アントニイ・ギルバート(8)、スーザン・ギルラス(3) シャーロット・ジェイ(2)、P・D・ジェイムズ(3)、メアリ・スチュアート(4)、エリザベス・ソルター(3) マーゴット・ネヴィル(1) グウェンドリン・バトラー(11、うちジェニー・メルヴィル名義4)、エリス・ピーターズ(3、うちイーディス・パージェター名義1)、エリザベス・フェラーズ(13)、パメラ・ブランチ(1)、ジョーン・フレミング(11)、シーリア・フレムリン(7)、マーゴット・ベネット(1)、ジョセフィン・ベル(10)、ジョイス・ポーター(5) ナイオ・マーシュ(5)、グラディス・ミッチェル(11)、パトリシア・モイーズ(7) エリザベス・ルマーチャンド(1)、ルース・レンデル(6)、ヘレン・ロバートソン(2)、E・C・R・ロラック(2、うちキャロル・カーナック名義1) 英国女流のミステリが好物な筆者は、こうして収録作家名を書き写しているだけで、胸がドキドキしてきます。同時に、取り上げられた作品の邦訳率が20%でしかないという事実に、憤懣やるかたない思いを抱くわけですが(60年代のポケミスには、もう少し頑張って欲しかったぞぉ)、そのぶん未知の作家・未訳作品の読書ガイドとして有益な一冊に仕上がっているので、マニアのみならず翻訳レーベルの編集者諸氏には、是非、目を通し、刺激を受けていただきたい。 たとえば、以下のようなバークリーの書評に触れてしまったら、これを読まず(訳さず)にどうするんだ、という気になりますよ。 クライム・クラブがサラ・ウッズの才能を発掘したことに対して称賛を贈りたい。彼女の処女作 Blood Instructions(クライム・クラブ、12シリング6ペンス)はまったく完成された傑作である。古典的な筋書きを現代に甦らせた正真正銘の探偵小説である本作は、非常に人間的な登場人物を擁しつつ、ある種驚かされる超然とした語り口の魅力も兼ね備えている。熱く推薦する次第である。(引用終わり) バークリー先生、いつもこれくらい素直に褒めればいいのにw 過去の巻で苦言を呈してきた、訳文のふつつかさも大分解消されてきて、まだところどころ、原文を参照したくなるような表現はあるにせよ、継続は力なり――を感じさせる一冊になっています。 この第3巻に関しては、すでに kanamori さん(お元気であらせられましょうか)が行き届いた紹介をしてくださっており、筆者もその内容には全面的に同感なので、これ以上、屋上屋を架する必要はないのですが……最後にひとつだけ。 バークリーは、お気に入りの作家は、基本、コンスタントに取り上げているのですが、必ずしもすべての新刊を紹介しているわけではなく、ときどきポンと抜けている場合がある。編訳者の三門氏や kanamori さんが挙げていらっしゃる、ジョイス・ポーターの『切断』は代表的な例です。個人的に残念に思っているのは、パトリシア・モイーズの『殺人ファンタスティック』(1967)が無いことですね。バークリーが敬愛してやまなかった、かのナイオ・マーシュでいえば、代表作のひとつ『ランプリイ家の殺人』にも通じる佳品(筆者がとりわけ気に入っているモイーズ作品)で、あのファースっぷりが、バークリー先生の嗜好に合わなかったわけはないのに。なぜ取り上げなかったのかな。私、気になります! |
No.1 | 6点 | kanamori | 2016/02/19 18:05 |
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本誌は、バークリーがフランシス・アイルズ名義で「ガーディアン」紙上に1956年から70年まで月1回のペースで連載したミステリー時評を、翻訳・編集した同人誌です(編訳者は三門優祐氏)。第1巻はクイーン、カー、クリスティ御三家の後期作品、第2巻がシムノンを中心としたフランス・ミステリでしたが、第3巻の本書は、英国出身(含む豪州ほかの旧統治国)の女性ミステリ作家のものを抽出し、掲載日順に並べた構成になっています。
本巻の特徴は、30作家150作品と、収録された作家と作品数が前2巻と比べて格段に増えていることです。 バークリーがこの書評の連載を開始した後にデビューしたルース・レンデル、PD・ジェイムズら、日本でも人気が高い実力派作家の作品が高く評価されているのは順当としても、ジョイス・ポーターのドーヴァーシリーズを、第1作から順次採りあげているのは個人的に嬉しい。ただ、なぜか一番人気の「ドーヴァー④切断」だけが抜けているのが残念な点で、バークリー的には嗜好が合いそうでも、アイルズ的にはダメ出しもありそうな、この作品の書評は読んでみたかったですね。 その他の有名作家では、エリザベス・フェラーズ、グラディス・ミッチェル、パトリシア・モイーズあたりが多く採られていましたが、「死後」のガイ・カリンフォードや、「蛇は嗤う」のスーザン・ギルラス、「飛ばなかった男」のマーゴット・ベネットといった、邦訳が1作限りで日本ではマイナーな作家の未訳作品が取り上げられているのも個人的にポイントが高いです。この辺はどこかで翻訳出版してもらいたいものです。 ただ、これは総体的に言えることですが、一回に多くの作品を取り上げている関係上、作品内容に深く踏み込んだ書評が意外と少ないという印象があります。”バークリーはこの作家をどう見ていたか”、”バークリーの作品嗜好はどうだろう”というように、紹介作品の内容より、あくまでも書評家バークリー像を楽しむ書評集という感じがします。 バークリー像といえば、とにかく正確な文法に対する拘りがハンパないのですが、文法ミスをネチネチと指摘する姿勢に「推理日記」の佐野洋氏を思い浮かべましたw どちらもご意見番タイプという感じ。 |