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乱歩と清張 郷原宏 |
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評論・エッセイ | 出版月: 2017年05月 | 平均: 7.00点 | 書評数: 1件 |
双葉社 2017年05月 |
No.1 | 7点 | 小原庄助 | 2017/12/07 16:52 |
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昭和40年7月28日、江戸川乱歩は自宅にて逝去した。8月1日の本葬で当時の日本推理作家協会理事長、松本清張が読み上げた「声涙ともに下る」弔辞全文から本書は幕を開ける。
著者はこれまで、「物語日本推理小説史」や「松本清張辞典決定版」など乱歩や清張を扱った評論を多数発表している。本評論の執筆動機は、この巨匠2人が「不倶戴天の敵同士」だったという「誤解」を払拭し、むしろ両者の協働によって戦後のミステリ史は成立していることを示すことにある。 本書の卓抜な点はその構成である。葬儀の場面の後、戦後へと時代をさかのぼり、そこからすべてを書き起こすのだ。すると読者の眼前に現れるのは、戦前と違って通俗小説以外の本格的な作品を書かなくなった乱歩の姿。その代わりに抜群の事務能力と人望、財力によって推理作家を束ね、比類のないカリスマを発揮する。乱歩を頂点とする推理作家たちのひしめく群像劇が、本書の最大の読みどころである。甲賀三郎の立場を引き継いだ乱歩と木々高太郎の間で交わされた有名な「探偵小説芸術論争」もその一場面として読み直せる。 一方、戦争直後の清張はいわば丸腰で、苦しい生活と貧しい家族に縛られながら、作家になる気配すらまだない。つまり、小説を書くのが実質難しくなった乱歩と、一文字も書いていない清張をスタートラインに置いて、そこから戦後の日本ミステリ史を書き起こそうとする試みなのである。 その清張がやがて筆を執り、駆け足で大作家の階段を駆け上がっていくと、本書も軽やかに躍動する。著者の筆は時に作品の解釈に深く立ち入り、その魅力を雄弁に語りつつ、清張文学の本質について平易に解き明かす。本書を通じ、乱歩がなぜ清張を日本推理作家協会理事長にぜひにと推したのか、清張にとって乱歩がどんな大切な作家だったのか、思わず膝を打つように納得させられる。 明快で読みやすく、読書案内としても大いに役立つ一冊である。 |