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都筑道夫の小説指南―エンタテインメントを書く
都筑道夫/改題『都筑道夫のミステリイ指南』
評論・エッセイ 出版月: 1982年09月 平均: 6.00点 書評数: 1件

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講談社
1982年09月

講談社
1990年07月

中央公論新社
2023年10月

No.1 6点 人並由真 2017/09/29 12:45
 1970年代末頃から数年(以上)にわたり、都筑道夫が西武デパート池袋店のコミュニティ・カレッジで設けた定期的な講演「エンタテインメント作法入門」の内容を活字にしたもの。本文は録音の記録から起こされ、文章化は講談社ゼミナール選書(本書を収録した叢書)の編集者・藤田克彦が都筑の監修のもとに行っている。
 
 本書の一応の体裁としては、これから小説家を志す人向けのもの。
 そのうえで都筑の講演は基本的な執筆作法や売文上の決まり事(ワープロやPC以前の、原稿用紙が主流の時代のものだが)、また自分はこうしてきた、などの知識や技術を伝えているが、肝心な創作上のポイントのなかには言葉にしにくいものもあり、それは当人も自覚している。

 そんな枠組みのなかで主体に語られるのはショートショートそしてホラー執筆の都筑なりのノウハウで、先に本サイトで当方がレビューしたばかりの都筑のショートショート集『夢幻地獄四十八景』の一編「夜の声」とそれをリメイクした奇妙な味の短編『風見鶏』を比較対照するための実作として掲載している。このあたりは基本的には同じプロットでありながら、物語の興味の比重を変えていく送り手の意向が窺えて興味深かった。

 同時にショートショートやホラーの本質についても言及され、特に後者の場合、「怖さ」の幅を説明するために実例として語られる、現実のなかで出会った不条理な逸話なども面白い(夏場、一見まともそうな年輩の運転手のタクシーに乗った際のエピソードなど、実際の車中でその当人と二人きりになっていた都筑自身の語り口のうまさもあって、本当に肝が冷える)。

 しかし本書を通読して思ったのは、ほんものの趣味人作家としての都筑の知識量の凄さと、その素養に基づく言葉へのこだわり。
 その辺は言外に、昨今の<なんちゃって作家>や<スーダラ読者>を(都筑流のユーモアをところどころまぶした皮肉で)批判しているようにも読め、思わず襟を正すこともしきり。

 たとえば『九マイルは遠すぎる』へのリスペクトで書いた短編を若い読者に「ケメルマンの真似だ」と言われて驚くエピソードは読んでるこっちもいっしょになって呆れて笑えるが、『捕物帳もどき』のメイキングとして開陳される、諸編へのネタの仕込み具合の豊富さなど、もうついていけない。もちろんそれは受け手の自分にそういう素養が薄いからだが、都筑にとっての「有名な作品」が読者(自分)にとってそうでない場合の隔差というのがここまであるのだと改めて思い知らされた。
 ここまで引きだしの多い作家は、狙った意図が読者にいまひとつ伝わらず、送り手としてさぞ歯がゆい思いをすることも往々にあったんだろうなあ、とも思う。
 
 まとめとしては、作家志望というより、都筑作品の読者にこそ読んでもらいたい一冊。創作の経緯を窺いたい受け手の興味に応え、その意味では都筑ファンの末席として非常に楽しかった。


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