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アントニイ・バークリー書評集Vol.4
三門優祐・編訳
評論・エッセイ 出版月: 不明 平均: 7.00点 書評数: 1件

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No.1 7点 おっさん 2017/11/24 10:44
2016年の、春の文学フリマ(東京)で頒布された第四巻は、「英国男性ミステリ作家編」の上巻。抽出すべき作家・作品が多いため、第5巻との分冊になっており、本巻では、バークリーが『ガーディアン』紙に連載した新刊月評のうち、1956年11月から1962年11月までのぶんを対象としています。
英国ミステリ通の、小林晋氏の巻頭エッセイ「バークリー好み」は、示唆に富みつつユーモアが光る好内容。これだけでも一読の価値はあります。

では例によって、取り上げられた51名の作家を、ラストネームの五十音順に並べてみましょう(カッコ内は今回のレヴューの総数)。

アーサー・アップフィールド(6)、マイクル・イネス(5)、クリフォード・ウィッティング(1)、コリン・ウィロック(2)、ヘンリー・ウエイド(1)
グリン・カー(4)、ハリー・カーマイケル(3)、マーティン・カンバーランド(2)、H・R・F・キーティング(2)、マイクル・ギルバート(1)、ジョン・クリーシー(5、うちJ・J・マリック名義3)、ブルース・グレアム(2)、F・W・クロフツ(1)、S・H・コーティア(4)、ベルトン・コッブ(6)
ロジャー・サイモンズ(3)、ロデリック・ジェフリーズ(3、うちジェフリー・アシュフォード名義1)、ジュリアン・シモンズ(4)、フィリップ・スペンサー(1)、ヘンリ・セシル(1)
D・M・ディヴァイン(2)
ビヴァリーニコルズ(2)
コンラッド・ヴォス・バーク(1)、スタンリイ・ハイランド(1)、ジェイムズ・バイロン(1)、ブルース・ハミルトン(1)、E・R・パンション(1)、バーナード・J・ファーマー(2)、スチュアート・ファラー(2)、ナイジェル・フィッツジェラルド(5)、クリストファー・ブッシュ(6)、マイケル・ブライアン(1)、ダグラス・G・ブラウン(1)、レオ・ブルース(6)、ジョージ・ブレアズ(11)、ニコラス・ブレイク(4)、スチュアート・フレイザー(1)、モーリス・プロクター(5)、シリル・ヘアー(1)
シェーン・マーティン(5)、マーク・マクシェーン(2)、フィリップ・マクドナルド(1)、J・C・マスターマン(1)、ウィリアム・モール(1)
ダグラス・ラザフォード(3)、クリストファー・ランドン(1)、アントニイ・レジューン(3)、ジョン・ロード(1)
アーサー・ワイズ(1)、コリン・ワトスン(3)、サーマン・ワリナー(5、うちサイモン・トロイ名義4)

馴染みの薄い名前も、多いですね。収録作品の翻訳率は(本巻の刊行後に訳出された、イネス『ソニア・ウェイワードの帰還』、ワトスン『浴室には誰もいない』を合わせても)、第三巻の「英国女性ミステリ作家編」同様、20%程度です。
その点に、とっつきにくさを感じる向きもあるでしょう。バークリー書評集で人気投票をすれば、まずぶっちぎりで「英米三大巨匠編(クイーン / カー/ クリスティー)」の第1巻がトップになるでしょうし、もしもう1冊、試しに読んでみて、と一般のミステリ・ファンに薦めるなら、「米国嫌い」のバークリーがあのロス・マクを、マーガレット・ミラーをどう読むか、といったワクワク感が半端でない、第六巻「米国ミステリ作家編」かな、と思います。
しかし、未訳作品の情報に飢えた、筆者のような病膏肓の人間には、ポスト黄金時代の、英国ミステリの推移を浮かび上がらせるリアル・ドキュメントとして、第三巻以降、本巻、そして第五巻と続く流れが、最高に面白い。
犯罪小説が台頭し(その旗手ともいうべきジュリアン・シモンズを、高く評価しつつ、しかし一作一作、批評家としてガチで向き合うバークリーは、なるほど「フランシス・アイルズ」なんだなあ)、いまや「絶滅の危機に瀕している」探偵小説を、どんな作家たちが支えていたのか? その答えがここにあります。
そして、1961年には、ついにD・M・ディヴァインが登場。『兄の殺人者』にコメントする、バークリーの先見の名をご覧あれ。

 複数の意図が入り混じりそれぞれ隠された事実が、捜査の中で少しずつ暴かれていく過程を描いたこの作品は、まさに本物の探偵小説だ。残念ながら、警察捜査の在り方が本来あるべきものと違ってしまっている部分があるかもしれないけれど、そういった留保はあるにせよ本作は、もっとも約束された、ずば抜けた処女作である。(引用終わり)

「もっとも」何が「約束され」ているのか、この訳文だけだとチト心もとないのですがねw
こういう、文章や表記の揚げ足取りは、バークリー先生の十八番で、ほとんどビョーキ、もとい芸の域に達していますが……翻訳がところどころ明晰さを欠くため、悪文をあげつらう文章が悪文になっている嫌いもあります。
書評集の完結は偉業ですが、来るべき「総集編」のためにも、訳文のリファインに取り組んでくださいね、三門さん。


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