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アントニイ・バークリー書評集Vol.2
三門優祐・編訳
評論・エッセイ 出版月: 不明 平均: 6.00点 書評数: 1件

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No.1 6点 おっさん 2015/12/05 11:32
バークリーが実作の筆を折ったあとの、ミステリ書評家としての業績に光を当てる、インディーズの好企画の第2弾(2015年5月の文学フリマで頒布され、古書店を通して通販対応もおこなわれました)は、ジョルジュ・シムノンを中心とする「フランス・ミステリ作家特集」です。
1956年から70年まで、『ガーディアン』紙の日曜版に月一回のペースで連載された、フランシス・アイルズ名義の書評コーナーから、フランス作家の英訳作品に対する論評を抜粋し翻訳した内容(編訳:三門優祐)に、バークリー愛好家・森英俊氏のエッセイが付され、穴埋めの囲み記事の形で、前巻の修正点がいくつか記載されています。
書評の配列は、今回は掲載日時順となっていますが、それを作家別にまとめてみると――

ジョルジュ・シムノン
(ノン・シリーズ作品)仕立屋の恋/カルディノーの息子/Le passage clandestin/Le nègre/ストリップ・ティーズ/可愛い悪魔/日曜日/Crime impuni/新しい人生/青の寝室/Le déménagement

(メグレ警視シリーズ)メグレ式捜査法/メグレと田舎教師/メグレ推理を楽しむ/メグレと老婦人/メグレと火曜の朝の訪問者/メグレと口の固い証人たち/メグレ夫人と公園の女/メグレ夫人のいない夜/メグレの途中下車/メグレと老外交官の死/メグレの失態/メグレの回想録/メグレと妻を寝とられた男/メグレと殺された容疑者/メグレ罠を張る/メグレたてつく/メグレと首なし死体/メグレの財布を掏った男/メグレの打明け話/メグレとリラの女

カトリーヌ・アルレー
 わらの女/死者の入江/目には目を

ボアロー&ナルスジャック
 思い乱れて/技師は数字を愛しすぎた/呪い

ユベール・モンティエ
 帰らざる肉体/愛の囚人

セバスチアン・ジャプリゾ
 寝台車の殺人者/シンデレラの罠

マルグリット・デュラス
 ヴィオルヌの犯罪

恥ずかしながら、取り上げられている作品のほとんどが未読でした(既読は、『メグレと口の固い証人たち』『メグレ罠を張る』『わらの女』『技師は数字を愛しすぎた』『呪い』『寝台車の殺人者』『シンデレラの罠』の7作)。前向きに、今後の読書ガイドに役立てていくことにしましょう (ジャンル外作家として、筆者など完全にノーマークだったマルグリット・デュラスが、なんだか無性に面白そう)。
基本的に、好き嫌いをバークリー流の表現で綴った“作家の書評”であることは、前巻同様ですが、今回、その個性的な“主観”は、アングロサクソン(理論的なイギリス人?)とガリア(感覚的なフランス人?)の二元論になって、個々の書評に反映されています。
最多の31作にコメントしたシムノンを、バークリーが高く評価していたことは間違いありませんが(「(……)多才な作家だが、その中でも最高の美質は、それぞれの作品に一つひとつ独特の風味を添える力である」)、随所で、掴みどころのない書きぶりへの不満は表明しています。
『メグレと口の固い証人たち』を評して、「これこそ、半ばウナギのようにぬるぬると逃げてゆく、奇妙でしかし親しみやすい、本物のシムノンの世界なのである」と述べるなど、ときにバークリーの文章まで、掴みどころのないものになってしまっているのはご愛嬌。まあこのへんは、訳文のせいもあるかもしれません。癖のあるバークリーの表現を日本語に落とし込むにあたって、前巻ほどではないにしても、まだまだ、文章として違和感を生じ、ここは原文ではどうなっているんだろう? と首をひねらされる個所が散見します。
訳の良し悪しは、ひとまず置くとして――
個人的に、いちばん原文を参照したくなったのは、バークリーがアルレーの『わらの女』を次のように紹介している部分。

(……)「邪悪」なるものについての容赦のない研究であり、「悪魔たち」のガリア的な無慈悲さが、事後に回想される形で描かれる(引用終わり)

『わらの女』って、そういうお話でしたっけ? なんだか筆者の記憶と違うぞぉ 。どこに問題があるのか(バークリー? 訳者? ボケはじめている筆者?)これは、読み返さないといけないなあ。

ちなみに。
文学フリマで頒布された本書には、会場限定の「おまけフリーペーパー」が付いており(筆者は会場に参加した知人を通し、無事ゲットしました)、そこには、編集作業終了後に漏れていたのが判明したという、フランシス・ディドロの書評(『七人目の陪審員』ほか一編)が載っています。スケジュールを設定し、精力的にこなしていく編訳者の仕事ぶりには、脱帽するしかありませんが、もう少しペースを落として、遺漏なきを期してほしいという思いもあります。


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