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ミステリは万華鏡
北村薫
評論・エッセイ 出版月: 1999年05月 平均: 5.00点 書評数: 1件

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集英社
1999年05月

集英社
2002年09月

No.1 5点 Tetchy 2019/01/22 23:45
北村薫氏によるお馴染みのミステリに纏わるエッセイ集。今回のコンセプトはとにかく縛りなく自由にミステリについて語ることになっている。従って本書では北川氏が『これはミステリだ』と感じた物事について自由に書き綴られている。「万華鏡」という題名は、一概に万華鏡と云っても色んな種類があるらしく、そのことからミステリも万華鏡の如く、色んな種類があるという意味で取ったようだ。

北村氏がミステリだと感じた物事を自由に書き綴っていることからどこか一貫性が欠ける感は否めなく、いわゆる稀代の読書魔である北村氏によるディープなミステリ話を期待すると肩透かしを食らうことだろう。
押しなべて感じられるのはミステリど真ん中の作品についての言及が少なく、純文学からラジオで聞いたある話、他人から聞いたエピソードなど、多事多彩な方面から得た話の中に北村氏がこれぞミステリだと見出した内容が多く書かれている。

それは新聞・雑誌の記事や一編の詩であったり、美術館の展覧会に掲げられた一服の絵に対する解釈文だったり、図鑑に付せられた文章だったり、更には靴箱の番号まで、と実に多岐に亘る。
そしてそんなエピソードにミステリを、とりわけ不可解な謎の探究として本格ミステリ魂を感じる北村氏の講釈が延々と語られる。この辺りはちょっと本格ミステリ愛を通り越して少し病的に感じられるのだが。

本書で一番面白かったこの探究心をそそるエピソードに次のようなものがある。

「濁音、半濁音、ん、小さい字、音引き、普通の字を全て含んだ1つの単語はあるか」

という疑問だ。つまりこれは通常の「あいうえお、かきくけこ、…」といった普通の字と「がぎぐげご、ざじずぜぞ、…」と濁点が付いた字、「ぱぴぷぺぽ」と丸がついた半濁音の字、そして「きゃきゅきょ、しゃしゅしょ、…」といった小さい字が含まれる字、即ち拗音、そして「ん」、それら全てを持つ1つの単語を探す話だ。こういったゲームは実に私の知的好奇心をそそるのだが、女性の方々はいかがでしょうか?ちなみに本書ではその単語がきちんと紹介されます。

そして私もそうだが、その作品を読んで抱いた思いを100%文章にして感想として表出するのは実に難しい。今までそれが出来た感想は1%にも満たないだろう。この心に抱いた、云いたいのに言葉に出来ないもどかしさをいかに感想として吐き出すか、そんな命題を解決するためにまた語彙を増やし、そして表現を知り、血肉とするために読書を重ねるのだ。
即ち読書とは自分の知識や人生経験から生じる解釈や感慨を作品の中に見出すこと、更にその感想を書くことはそれらを言語化することで、それをするために知識や表現を蓄えることなのだ。全てが環となって巡り巡る行為なのだ。そしてそれらを可能にするには上に書いたような知的好奇心やそれ以上の探究心で色々な謎を自ら解くこと、もしくは自ら作った謎に対して第三者から思いもしなかった解釈をされて気付かなかった自分を知ること、などを重ねることで有意義になっていくのだ。

ミステリは万華鏡、即ち色んな種類の万華鏡もあるように全ての話だけでなく、絵、音楽もなぜそうなったのかを考えることで万華鏡の如く見方が変わってくることを示しているのではないだろうか。
実は謎は己の内にあるのだ。それを謎と感じる感性にこそミステリは宿る。

私はこの題名と内容がイマイチピンと来なかったが、北村氏には我々が見たこともない万華鏡が見えているに違いない。


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