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本棚探偵の冒険
喜国雅彦
評論・エッセイ 出版月: 2001年12月 平均: 6.50点 書評数: 2件

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双葉社
2001年12月

No.2 7点 Tetchy 2015/04/25 23:59
喜国氏の古本収集狂想曲という副題もつけられそうな本書は世に蔓延る古書収集家のHPやブログにありがちな、どこそこの店で○冊買ったとか、△×デパートの古本市で~~をゲットしたとか、紙一重の差で獲られたとか、古本屋の品揃えに対するコメントなどいわゆる古本マニアが陥りそうな買い物披露会、蔵書展覧会的内容になっておらず、古本や本自体を通じて様々な試みをしているのが面白い(いや勿論半分は古本屋探訪記なのだが)。

まず連載1回目では雑誌『ダ・ヴィンチ』でも紹介された江戸川乱歩邸の蔵を訪問する話といわばミステリ好きにしてみれば夢の体験を語っているが、この辺は至って普通の題材と云えよう。その後も海外での古本屋探訪記やデパートの古本市のエピソードなどこれまた普通の展開であるが、我孫子武丸氏の蔵書整理の話やこれまた『ダ・ヴィンチ』に紹介された手作り本棚の話に本の函作りに豆本作りなど、本に纏わる事なら何でもという展開を見せてくれる。

特に面白く読んだのが1日でどれほどポケミスをゲットできるかを描いた「ポケミスマラソン」だ。私も一度神田の古本街で古本屋巡りをしたが、朝から行って昼過ぎでも廻りきれず、疲れ切ってしまったのを覚えており、喜国氏の深夜まで本屋を駆け巡る根性には畏れ入った。本を集め出すと、多分ないだろうと解っているのに、どうしても遠方であっても訪れざるを得ない衝動に駆られ、収穫が大方の予想通りになかった場合は徒労感に加え、財布に残ったお金を見てその日に費やした交通費を想像して絶句してしまうのである。本書にはそういった本好きのどうしようも止まらない衝動があらゆる方面から描かれている。

またこれだけいっぱい本を集められる財力と本を収納するスペースがある羨ましさ(巻末のエッセイでは倉庫を借りているとのこと)を感じつつ、表紙が違っていたり、版が違うことで文章や中身が変わっているだけで同じ作品でも何冊も買ったりと、そこまではと感じる部分もあり、本好きの夢の具現化と自分の本好きのバロメータを測る指針にもなったり、本好きあるあると本好きと収集狂の境界を垣間見れたりとなかなかに深い内容なのである。

本書もそうだったが最近の出版情況は発刊すれば売れなければ1年後ぐらいにはもう絶版になって手に入らなくなることもざらで、『このミス』やガイドブックで取り上げられている有名な作品や有名な著者の作品もすぐに書店の店頭から姿を消してしまう。本好きの憂うそんな状況を補完するのが古本屋の存在なのだが、一方で手に入らないというだけで本の価格が高騰化する情況もおかしいのだ。
元々は読みたい本が見つからないから古本屋で探して手に入れるという行為が、いつの間にかマニアの間で幻とされている本を手に入れること自体が目的になっている、つまり「手段の目的化」が古書マニアの歪んだ構造なのだろう。実際読むことに既に目的はなく、ありのままで出来るだけ人の手垢が付かない状態で保存する事に神経質になっている古書マニアがいることも語られている。古書自体がアンティークの美術品のようになり、読まれるべき本が読まれない、哀しい状況である。従って最近なかなか手に入らなかった旧作が新訳版として出版されるのは嬉しい限り。本書でも挙げられているカーの『殺人者と恐喝者』も昨年50年ぶりに刊行されたし、最近ではフィルポッツの『だれがコマドリを殺したか?』も刊行され、本好き、ミステリ好きにとっては実に喜ばしい状況になっている。一方で古書マニアはこれらの作品が出回ることで稀少価値が落ちて古書価格が下がるので歯ぎしりしたくなるのではないか。しかしこれは本来おかしな状況なのだから、出版社の最近の風潮は俄然支持したい。

堅苦しい話になり、またも横道に逸れてしまったが、本書はそんな古本を巡る現在の出版情況を憂うようなものではなく、本好きの本好きによる本を好きになり過ぎておかしなことをしてしまった人々のお話である。この中で語られるエピソードの中にもう1人の自分を重ねるもよし、はたまた自分の好きな世界のさらに奥深い所を知って、境界線を引くもよし、また喜国氏のように函作り、豆本作りを手掛けるもよしと、読めば読むほど本の深さを知らされる。
特に巻末の古書収集仲間の座談会の内容の濃い事、濃い事。そして双葉社の喜国氏の担当もいつの間にか感化されて古書収集に精を出すようになってしまった。古書収集は友を呼ぶのか。

No.1 6点 kanamori 2014/03/04 21:16
漫画家にして古本蒐集家で知られる喜国雅彦氏による、古本を巡るディープで笑えるエピソードを綴った騒動記。「読むための購入」から「蒐集のための購入」に、いつのまにか手段が目的に変わってしまった、ある古本マニアの悲しくも滑稽な物語w

ミステリ本蒐集にハマるきっかけとなった乱歩邸訪問では同行の京極夏彦、山口雅也両氏、当初の古本蒐集の先生である二階堂黎人氏、喜国さんに書庫の整理を依頼する我孫子武丸氏など、ミステリ作家たちとの交際でのやり取りが、それぞれ人柄が現れていて楽しい。
奇行エピソードでは、古書店を回って一日でポケミスを何冊見つけられるかという「ポケミス・マラソン」の一部始終が笑える。
ミステリ本の内容そのものにはあまり触れておらず、しかも対象が乱歩、横溝など国内古典寄りの話題が多く海外ミステリが少ないのは残念ですが、それでも本編や巻末のマニア座談会で出てきた、輪堂寺耀「十二人の抹殺者」、大阪圭吉「死の快走船」、大河内常平「九十九本の妖刀」などの稀覯本が続々と復刊されようとしている現状は喜ばしい限りです。(マニアは逆に困るのか?)
本書が好事家に好評だったためか、続編で「本棚探偵の回想」「~の帰還」が出ており、来月には「~最後の挨拶」も出る予定とのこと。そのうち読んでみたい。


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