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H・P・ラヴクラフト 世界と人生に抗って ミシェル・ウエルベック |
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評論・エッセイ | 出版月: 2017年11月 | 平均: 9.00点 | 書評数: 1件 |
国書刊行会 2017年11月 |
No.1 | 9点 | 小原庄助 | 2018/05/12 09:52 |
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ラヴクラフトは不思議な作家だなと、本書を読みながら改めて思った。
1920年代から30年にかけて、米国の大衆エンターテインメント小説誌に、幻想と怪奇に満ちた作品の数々を発表したが、1冊の著書を出すこともなく不遇のうちに46歳で病没する。 ところが没後に刊行された作品集が、ホラーやSFのファン層を中心に熱狂的な愛読者を獲得、E・A・ポー、スティーヴン・キングと並ぶ米国ホラー三大家の一人に数えられるまでになる。とりわけ彼が生み出したクトゥルー神話(クトゥルーは異次元の神格の名で、他にクトゥルフ、ク・リトル・リトルなどの各種の訳語がある)と呼ばれる架空の神話大系は映画や漫画、現在ではワールドワイドな人気を博しているのである。 そればかりではない。本書に序文を寄せているキングをはじめ、アルゼンチンの文豪ボルヘス、英国の批評家コリン・ウィルストンから村上春樹や水木しげるに至るまで、多彩な著名作家がラヴクラフトに熱烈な関心を示し、自らクトゥルー神話の流れをくむ作品を執筆するなどしているのだ。 彼らの各人各様な反応ぶりを見ていると、あたかもラヴクラフト世界という鏡(照魔鏡!?)にそれぞれの文学観を投影させているかのようで、興味は尽きない。 その点では、著者が27年前に発表したデビュー作である本書も例外ではない。ラヴクラフトの特異な生涯をめぐる思索的エッセーであると同時に、ウエルベックというこれまた特異なプロフィルの作家-新作を世に問うたびに轟然たる反響とスキャンダルの数々を巻き起こしてきたフランス文学界きっての異端児をめぐる、裏返しの青春期、矯激な内容告白の書としても読むことができるのである。 著者の近未来小説に描かれる人種問題や人格転移、カルト宗教といったモチーフのルーツが、ラヴクラフトの作品世界に見いだされることにも一驚を喫するに違いない。 |