皆さんから寄せられた5万件以上の書評をランキング形式で表示しています。ネタバレは禁止
していません。ご注意を!
毒薬の手帖 澁澤龍彦 |
|||
---|---|---|---|
評論・エッセイ | 出版月: 2010年08月 | 平均: 6.00点 | 書評数: 1件 |
河出書房新社 2010年08月 |
No.1 | 6点 | クリスティ再読 | 2023/12/29 16:23 |
---|---|---|---|
いわゆる「黒魔術」「毒薬」「秘密結社」の澁澤三手帖だけど、ミステリに一番ご縁があるのが、本書だろう。連載は「黒魔術」「毒薬」が旧「宝石」、「秘密結社」が「EQMM」、というわけでミステリ周辺書であることは断るまでもない。
というかさ、雑学ネタでここらへんに触れる場合、ネタ元は大概本書、というのも本書の影響力の凄まじさを物語っているだろう。エジプト・ペルシャ・ギリシャから始まって、ローマから中世・ルネサンス、そしてブルボン王朝での毒殺の横行、そして近代医学の発展とともに医者による毒殺犯罪(とくにパーマー医師)、そして「集団殺戮の時代」現代へ。もちろんオリジネーターとしての栄冠は博覧強記の澁澤のものである。 中田耕治も本書にインスパイアされて「ド・ブランヴィリエ侯爵夫人」を書いたわけで、この本の評で評者は「ひねくれた愛情表現」とブランヴィリエ侯爵夫人の毒殺を評したわけだが、本書に収められた女性毒殺者たちの肖像を見ると、毒殺がそのままエロスの表現だ、と言いたくなるほどだ。そのくらいにエロスと毒とは切っても切り離せないものだ、というのが本書のテーマみたいなものであり、またそれが「無意識の悪意」となって現代には蔓延しつつある...黒魔術に象徴されるような「悪の象徴」としての毒殺が、西欧文化の根底にある、なんて結論も出せるのかもしれないな。 しかし面白いことに気がついた。実は日本というのは戦国やら幕末やら暗殺が横行した時代であっても、毒殺というのはきわめて珍しい話だ、ということだ。そりゃ江戸時代の商家で「石見銀山鼠取り」による毒殺事件があるし、「伽羅先代萩」の政岡の毒殺警戒の話があるわけだが、欧米と比較したら意外なくらいに日本は毒殺事件が少ないのではなかろうか。 いやこの澁澤の手帖も、そういう「西欧の暗黒の文化」への憧れを掻き立てた本だ、ということにならないだろうか? |