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新本格ミステリはどのようにして生まれてきたのか? 編集者宇山日出臣追悼文集
太田克史(星海社) 編
評論・エッセイ 出版月: 2022年03月 平均: 6.00点 書評数: 1件

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星海社
2022年03月

No.1 6点 人並由真 2022/05/10 07:31
(ネタバレなし)
 『虚無への供物』の文庫化を為すために編集者に転職し、その後は講談社文芸図書第三出版部の部長として活躍。長い編集者時代に、綾辻、法月、我孫子、摩耶そして京極などの才能を発掘、さらに「ショート・ショートランド」の創刊、メフィスト賞の設立や、叢書ミステリーランドの発刊など、多くの実績を残しながら、2006年に急逝した「新本格の生みの親」「新本格の仕掛け人」「新本格の父」の異名をとる伝説的編集者・宇山日出臣氏。そんな同氏に捧げられた、業界関係者諸氏による、没後16年目の追悼文集(企画そのものは没後15年目の昨年夏に始動)。

 本文記事の追悼文集では70人弱もの作家、出版界関係者の長短の追悼文(それぞれの思い出エッセイ)が並び、さらに逝去直後の弔文の再録、関係者の対談(座談会)などの企画記事が続く。
 
 あまりに情報量が多くて、一読しただけでは消化不良を起こすこと請け負いの一冊だが、ミステリというジャンルを愛し、そして書籍や雑誌の編集作成と、新人作家の育成に精魂を傾け、そしてそんな作業を楽しんだ(苦労された)故人のお人柄と実績は、門外漢の当方にもじわじわと伝わってくる。そんな内容。
(もうひとつ大事なこととして、そんな故人に向ける関係者の方々の思い入れと哀悼の念の集積の場でもある。)
 
 編集者は黒子ですらない、作家性の前で唖(おし)であれと言ったという故人。もちろん職務を放棄し、原稿の推敲や是正をするなという意味ではなく、不要で無意味な編集者の自己主張をするな、という主旨だが、評者などが読んでいて特に心に残ったのは、故人のこの姿勢であった。

 なお宇山氏の並外れた酒豪のほどは、今回はじめてしっかり伺った。
 評者がいちばん強烈だったのは、椹野道流氏が明かされた逸話(本書の239ページ)。唖然としつつ爆笑、そしてそのあと、実際の現場にもし居合わせたら……と余計なことまで考えて困惑の念を深めた。関心があったら、いつか本書の現物を手にとってください。
 
 人生の上で、新本格ムーブメントにはまったく中途半端にしか付き合っていないアレな評者だが、それでも非常に有意な一冊であった。改めて故人のご冥福を、ミステリファンの末席からお祈りいたします。

 とても良い本だったが、ただひとつ不満は巻末の複数の座談会記事の活字の級数があまりにも小さいこと。キャプションみたいな小さい文字が合計40ページ近くも並んでいて、読んでいて目が痛くなった。
 追悼文の本文の級数の大きさをある程度確保しつつ、ページ数総体をそんなに増やせない制約のなか、紙面の割り付けに苦労したのかもしれないが、いずれにしろ、この読みづらさでは元も子もない。
 現状では紙媒体でしか刊行されてないようだけど、いずれ活字を大きく出来る電子書籍の形で出すつもりかね? (それでも紙の本として、これでは困るが。)
 誠に恐縮ながら、この点で減点させていただきます。
(もちろん、故人への不敬の意などは毛頭ないし、本書の企画刊行そのものには、深く厚く感謝いたしますが。)


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