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[ 本格/新本格 ]
黒い白鳥
鬼貫警部シリーズ
鮎川哲也 出版月: 1960年01月 平均: 7.46点 書評数: 24件

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講談社
1960年01月

立風書房
1975年01月

角川書店
1975年01月

双葉社
1995年05月

東京創元社
2002年03月

光文社
2013年12月

No.24 7点 みりん 2024/10/26 17:27
【松本清張作品のネタバレもあり】




輝かしい道を歩いてきたと思われる人間がその実… というのがタイトルに隠された意味でしょう。知らんけど。
似た内容に対して鮎川哲也は『黒い白鳥』、松本清張は『ゼロの焦点』と題して同時連載をしていたなんて、ものすごい偶然があるもんなんですね。それともただ終戦直後の日本の暗部を描くのが流行っていただけなのでしょうか?同じ意味だとしても私は清張のタイトルの方がおしゃれで好きです。
内容について。鮎川哲也というより鬼貫警部シリーズ?はやはり激渋です。このアリバイトリックは流石にリスクありすぎだろというようなつまらんツッコミはさておき、やはり鬼貫の捜査プロセスを楽しむものです。たとえ容疑者に犯行が絶望的に不可能に見えたとしても、あらゆる可能性を検討し、一縷の望みに賭け続ける鬼貫サンが魅力なのです。そして犯人の動機にも…

No.23 7点 ねここねこ男爵 2022/08/07 11:31
メインのアリバイトリックは正直平凡よりややマシといった程度なものの、周辺のディテールや補強アイデアが素晴らしい…というかそっちがメインなのかも

初読時小学生だった自分は「すごい作家と聞いてたけどこんなもん?」と失望した(のでこの作者を避けていた)のだが、一回りしてから再読すると凄さが分かった
ただやはりメインの味の薄さからこの点数で

No.22 7点 2021/08/01 08:40
 六月二日の早暁。埼玉県久喜駅近くの線路沿いで、八の字ひげをぴんと生やした男の射殺死体が発見された。列車の屋根に乗ってそこまで運ばれた被害者は、労使抗争に揺れる東和紡績社長・西ノ幡豪輔と判明。敗色濃厚な組合側の妄動か、冷遇の憂き目に遭う新興宗教の報復かと囁かれる中、最右翼と目される容疑者を追っていた当局は意外な線から彼の行方を知ることに。
 膠着する捜査を引き継いだ鬼貫警部は社長が貸し金庫に預けていた写真に注目、あるかなきかの糸を手繰って京都から大阪へ、そして忘れじの九州へと足を運ぶ。そこで鬼貫が得たものは? 緻密なアリバイトリックを駆使し、第十三回日本探偵作家クラブ賞を受賞した雄編。
 松本清張『零の焦点』と共に「宝石」誌に併載され(連載は昭和三十四(1959)年七月号~同年十二月号)、書き下ろしの次作『憎悪の化石』と併せて協会賞を獲得した初期鮎川の鉄道名作(他の候補作は佐野洋『一本の鉛』、水上勉『霧と影』、結城昌治『ひげのある男たち』)。怪宗教や労働争議描写はあまり生きていないが、ゆったりした筆運びと簡潔かつツボを心得た人物描写、何より余韻のある幕切れが印象的な作品。鮎川長篇はおおむね静かなラストを迎えるが、本書などまるで名句のようである。極力贅肉を削ぎ落としたその後に残るもの、と言ったら良いか。単なる悲劇には終わらず、その先にあるヒロイン自身の運命を見つめている気すらする。
 ただしストーリー前半はやや散漫な展開。鬼貫が本格的に登場する後半からの巻き返しは流石で、読了すれば「なるほど」と思うのだが、それでもメイントリックは他の一線級に比べて弱い。秀逸な伏線を冒頭部分に持ってくる事により、巧みにカバーしてはいるけれど。
 小説としては『黒いトランク』よりも遥かに好みだが、再読してみると8点弱程度が限界か。

No.21 7点 クリスティ再読 2021/04/18 23:48
中学生の頃に読んだときには、「なんて重厚な...」というイメージだったのだけど、今読むと全然そんなこと、ないな。けど、本当にトリックよく憶えてる。長岡側は内容忘れてたけど、すぐにピンときちゃうのは、やはり無意識で憶えていたのかなあ....
なんてのは「嘆き」になるんだろうか。「鉄道にしっぺがえしされる」風のオチがナイスなのはいうまでもないが。

なので今回は、とくに「世相」が目に付く。事件自体が下山事件を思わせるものだし、近江絹糸争議やら璽光尊やら終戦直後の混乱期のネタなので、この本の出版が「所得倍増」の1960年というのが、評者はちょっと不思議に感じる。もちろん鮎哲は「社会派」じゃないんだけども、執筆時点で10年くらい前の話をモデルに書いていることになる。だからこういうナマな事件を扱っても、フィルターかかったような、ファンタジックな印象を受けるのかな。
だからこんな緻密なトリックの小説でも、「重厚」ではなくて「ファンタジックな軽さ」みたいなものが出るのが、鮎川哲也、なんだろう。やはり「ペトロフ」「黒いトランク」のタッチは「スペシャル」で、本作あたりから「鮎川哲也」が確立したと見るべきなんだろう。

(ネタばれ)
でも鳴海くん後味悪いから殺さないでおくれよ。それにしても、被害者の社長ゲスだなあ...

そういえば本作だと堅物の鬼貫が飛田を訪問するのが「らしく」なくて面白い。まだ遊郭営業している時代。

No.20 6点 ミステリ初心者 2019/07/18 02:35
ネタバレをしています。

 犯人の緻密な計画や、アクシデントを利用しそれを計画に組み込む機転に感服しました。また、私が今までに読んだ鮎川作品よりも今作のほうがより犯人について細かく書かれており、小説としての厚みを感じました。

 しかしながら、鬼貫警部が登場するまで、個人的に好みではない展開でした。そのため、なかなかページが進みまず、読みづらさを感じました。社長の死~動機探し~犯人候補のアリバイ検証→候補から外れるという繰り返しは苦手です(笑)。労働組合と会社側の対立、宗教団体との対立も面白さは感しませんでした(宗教団体のほうは、非常に怖かったです)。
 さらに、犯人にやや都合が良い証言者や、予期せぬ偶然の要素はどちらも好みではなく、その点では期待はずれでした。

No.19 7点 まさむね 2018/09/10 21:37
 いかにも「鮎哲」という作品。後半はアリバイ崩しがメインとなり、個々のアリバイトリック自体は分かりやすいのだけれども、決してそれだけで解決するものではなく、複数のトリックを非常に巧く組み合わせています。鬼貫警部の調査の過程も面白く、途中の複数の転換点の驚きもあって、ほぼ一気読み状態。
 個人的に大好きな名作「黒いトランク」は、一般的には複雑さを敬遠される向きもあると思うのですが、この作品は、脳内で十分に完結できる作品なので、鮎哲初心者向きと言えるような気がします。
 ちなみに、優等列車「白鳥」が登場するのだろうと、勝手に思い込んでいたのですが、全然関係なかったのですねぇ。

No.18 6点 パメル 2017/07/08 23:41
前半は疑わしい人物を多く配置し第二第三の事件が発生しフーダニットとして興味を抱かせてくれる
また労働争議と新興宗教という社会的題材が扱われておりその状況がミスディレクションを容易にしている点が実に巧妙
ただ中盤になると容疑者は一人に絞られメインは時刻表トリックなどアリバイ崩しとなっていくためこの時点で個人的にはトーンダウンとなってしまった

No.17 9点 MS1960 2016/06/08 21:08
【ネタばれあり】小説として奥の深い作品。時刻表のトリックや血痕の流れの意味するところ、替え玉と見せかけて・・・という部分も秀逸ではあるが、やはり、最大の見せ場は、一枚の写真に写っていた顔のない写真から、犯人の生い立ちや経歴を追及していくところでしょうか。それがあるから、最後のデパートの屋上でのエンディングがこの上ない余韻を残すのでしょう。他の鮎川作品と少し趣が違う傑作です。

No.16 9点 ロマン 2015/10/21 09:49
非常に面白かった。前半は本庁の刑事二人による事件の概要把握に費やされ、後半からはいよいよ我らが鬼貫警部によるアリバイ崩しへと流れこんでいく。理路整然とした推理の上に成り立つアリバイ崩しには興奮せざるを得ない。苦心惨憺して手がかりをつかもうとするその過程と、その結果からもたらされる一喜一憂にこそ、アリバイ崩しという一ジャンル、ひいては鮎川哲也という大作家の醍醐味が隠されているのだろうと個人的には思う。

No.15 9点 斎藤警部 2015/10/06 06:27
初めて読んだ鮎川長篇がこれです。どこの文庫も出ていなかった平成一桁鮎川暗黒期、少々プレミア付きで角川文庫の古本を買ったものです。地方ではなく都内のチマチマした路線(国電!)を大胆に使ったトリックは当事者感が強く新鮮で引き込まれました。本格の流儀を保ちつつ贅沢にもダブルで取り込んだ社会問題も謎の陰影に深みと暗い彩りを添えています。緻密なトリックも最後はきっちり露呈され、心地よい推理疲れと(本当は自分じゃロクに推理なんてしないけど)ちょっとした社会派気取りの苦味と、何かが終わって始まるような爽やかな風を感じる上質の読後感が長い間残りました。

No.14 7点 いいちこ 2015/05/01 13:24
プロット全体としては本筋からの脱線も散見されるなど、完成度としては今ひとつであり、アリバイトリックも凡庸。
しかし、そのトリックを補強するために使用されているサブトリックの奇想が際立っている。
エピローグで明かされる伏線も実に巧妙。
犯行全体の合理性・フィージビリティ、犯人の人物造形との親和性等も高く評価

No.13 8点 あびびび 2015/01/27 04:28
うーむ、血しぶきの方向か…。鬼貫警部が登場するのは中盤からだが、そこからぐっと話が盛り上がる。風の中にゆらめくろうそくのごとく、消えかけてはまた炎がよみがえり、ひとつ、ひとつの捜査に緊迫感があった。

ずっと大地康雄の顔が浮かんで、そう言えば火曜サスペンスで見たような気もしたが、これはアリバイトリックの名作だなと思った。

No.12 8点 蟷螂の斧 2014/12/03 13:17
(東西ベスト100位)第十三回日本探偵作家クラブ賞受賞作。時刻表トリックはあまり好みでない(「黒いトランクで苦労した経験<笑>)のですが、本作は、時刻表と”にらめっこ”することなく楽しめました。東京創元社版にある著者の「創作ノート」によると、本作と松本清張氏の「ゼロの焦点」が同時進行の形で連載され、ある類似点があることが判明したとのことです。興味深い逸話でした。また、「トリックのオリジナリティとモラル」については、「苦労して考え出したトリックを安易に転用されるのは御免こうむりたいと思う」と語る一方、同じトリックを用いた秀作に遭遇すると主張をまげないわけにはいかなくなるとも語っています。・・・ただし、その著者が先例のトリックをを知らなかった場合のようですが、それ自体はうかがい知ることはできませんので、読者としてはやはりオリジナル作品をリスペクトせざるを得ないのではと思います。解説は有栖川有栖氏です。自作「マジックミラー」(1990)については触れてはいない(この解説より先の作品か後か判りません)のですが、鮎川哲也氏へのオマージュ作品であるような気がします。オリジナルとオマージュを比べるのも読書の楽しみの一つですね。

No.11 8点 ボナンザ 2014/04/07 02:04
憎悪の化石と比べると分量が圧倒的ですが、最後には一気にたたみかけるのが爽快。トリックでは憎悪の化石に劣りますが、読者が読みながら推理する楽しさはこっちが上かな。

No.10 6点 江守森江 2011/03/03 09:58
鬼貫警部アリバイ崩し長編は角川文庫で鮎川哲也フェア的にコンスタントに出版された際に、小遣いをコツコツ貯めて揃え今でも所有しているが引っ張り出すのが億劫なので再読の為に図書館で創元版を借りた。
どうせ犯人当てではなくアリバイ崩しに突き進むのだから前半の労働争議や新興宗教の部分を削り、最初のアリバイ崩し一本の方がスッキリしているし、時刻表型アリバイ崩し離れが進む今でも通用する作品だったかもしれない。
受験勉強からの逃避もあったにせよ、あれほど夢中になって読んだ作品なのに、今ではその頃の感動は得られなかった。
一番の読み所が初読な有栖の解説と思えてしまうのだから、何たるテイタラク。
若かりし頃の感性は、もう戻ってこない気がしてきた。

No.9 7点 2010/12/09 19:50
読んだのは角川文庫版なので、有栖川有栖が創元版解説でどう書いているのかは知らないのですが。
どこで知ったのだか忘れたのですが、これって松本清張のあの作品と同時連載だったんですよね。作品のタイプは全く違いますが。いやあ…こりゃ確かに、書いてて困ったでしょうね。
このシリーズにしては、犯人がなかなかわからないのがちょっと珍しいところでしょうか。アリバイ崩しだけでなく犯人の目星をつけるのまで、途中参加の鬼貫警部がやってしまうのですから。そのアリバイ・トリックだけとり上げてみれば、二つともそれほどのものではありません。最初に読んだ時不満に思ったのもその点です。しかし再読してみると、写真を手がかりに容疑者を絞り込む足の捜査、視点の使い方の理由、そしてエピローグで明かされる伏線の妙などきめの細かさはさすがです。
ただし、前半のストライキや新興宗教の描き方については、社会派ではないという言い訳はあるでしょうが、ちょっともの足らないというか。

No.8 6点 nukkam 2010/10/26 09:55
(ネタバレなしです) 1959年発表の鬼貫警部シリーズ第3作でアリバイ崩しを堪能する作品です。複数のトリックを組み合わせたものですが前作の「黒いトランク」に比べて格段にわかりやすいです。犯人当てとして楽しめる作品ではありませんが(物語の2/3ぐらいでやや唐突に特定される)謎解き伏線の張り方とそれに基づく推理は堂に入ったもので、これはこれで立派な本格派推理小説です。余談ですが創元推理文庫版の巻末解説で有栖川有栖が批判している、「アリバイ崩しは地味で退屈だという偏見を抱いている読者」には間違いなく私が含まれていますね(笑)。

No.7 7点 kanamori 2010/07/31 16:09
「東西ミステリーベスト100」国内編の37位は鬼貫警部の2度目の登場。
アリバイ崩しを主題とした同シリーズは、「砂の城」「憎悪の化石」「鍵孔のない扉」など、個人的に出来はいづれも甲乙つけがたい。どれを先に読んだかで評価の順番が変わるだけの様な気がします。
地味な捜査小説で物語が二転三転し、最後に論理のアクロバット的発想の転換により真相が立ち上がる定型プロットが読んでいて心地いい。

No.6 7点 E-BANKER 2010/06/13 22:45
鬼貫警部シリーズ。
巻末の解説で有栖川氏が語っているとおり、鮎川の鬼貫物ミステリーの完成形といえる作品でしょう。
ストーリーの肝は、やはり「時刻表」を基にしたお得意のアリバイトリックが2つ。
メイントリックの方は、アリバイトリックの定番ともいえる「場所の錯誤」を使ったものですが、そこに「替え玉」というブラフを重ねて読者を煙に巻くところが憎いですね・・・
サブトリックの方は、まさに「時刻表」トリックですが、「時刻表」好きの私にとっては、割と分かりやすい種類のものでした。
本筋とは関係ないですが、有栖川氏の解説でも触れていた、鮎川氏と松本清張氏の作品との相似性という考え方は「なるほど」と思わされましたねぇ・・・

No.5 7点 りゅう 2010/05/23 07:24
 2つのアリバイトリック自体はそれほどでもないが、アリバイを補完するために使われているトリックは秀逸。逆転の発想とも言うべきもので、ちょっと思いつかないものだ(ここまでやるかとも思うが)。
 不満は読者挑戦ものになっていないこと。時刻表などの謎解きに必要な情報が、種明かしの段階になってようやく明らかにされている。伏線も散りばめられているが同様で、その解釈に必要な情報が種明かしまで伏せられている。声優が気付いたことなどは、声優が生きている間にさりげなく語らせたほうが良かったのではないだろうか。


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