皆さんから寄せられた5万件以上の書評をランキング形式で表示しています。ネタバレは禁止
していません。ご注意を!
いいちこさん |
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平均点: 5.68点 | 書評数: 563件 |
No.563 | 7点 | 絞首商會 - 夕木春央 | 2025/08/05 16:08 |
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淡々とした筆致、物事をそのまま写生するような描写でありながら、やや難解な作風は、京極夏彦の再来を思わせる。
本作は、とにかく犯行理由と、主要登場人物の行動原理のユニークさ、奇想が群を抜いている。 そして、その判明をもって真相を一刀両断にできるよう、プロットが考え抜かれ、奇妙奇天烈なガジェットが周到に配置されている。 真相に論理的に到達できないとか、レッド・へリングが長すぎる、ボリュームが大きすぎるとか、さまざまな批判もあろうが、許容範囲ではないか。 一段上の実力を感じさせる作品 |
No.562 | 5点 | バスカヴィル家の犬- アーサー・コナン・ドイル | 2025/08/05 15:49 |
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奇々怪々としたムードを散々演出しておいて、何の捻りも工夫もない真相は肩透かしそのもの。
作品としての歴史的意義の高さから過剰評価されていると言わざるを得ない |
No.561 | 5点 | #真相をお話しします- 結城真一郎 | 2025/07/29 16:47 |
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いずれの作品も、取り上げられているテーマに同時代性が強く意識され、構想がよく練られている。
ただ、尺があまりにも短いので、納得感が不十分になりがちで、また同じ球種が連投されるから、徐々にサプライズを減じていく点が強くマイナスに作用。 非常に世評が高い作品だが、そこまでの水準とは感じられず、5点の最下層 |
No.560 | 5点 | 恋する殺人者- 倉知淳 | 2025/07/29 13:41 |
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明かされる真相は想定の範囲内。
真相解明プロセスは丁寧で、随所に上手さも光るものの、突出した点は見当たらない。 批判的な立場に立つべき作品ではないが、入門的な本格ミステリとして水準レベルにとどまるという印象 |
No.559 | 6点 | 霧に溶ける- 笹沢左保 | 2025/07/16 08:16 |
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本作のプロットは、現代ならいざ知らず、執筆当時としては相当に野心的なものであったろう。
ただ一方で、登場人物の行動が合理性・リアリティに欠け、犯行計画のフィージビリティに相当に難がある等、完成度の点では多くのアラを指摘せざるを得ない。 著者の大胆な稚気を前向きにとらえてこの評価 |
No.558 | 7点 | 凍てつく太陽- 葉真中顕 | 2025/07/02 11:54 |
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独特の乾いた筆致で、語り口も淡々としているのだが、とにかくリアリティが高くて読ませる。
取材が緻密であるうえに、筆力が高いということであろう。 本サイトでは、あくまでもミステリとして評価し、7点の最上位にとどめたが、1個の読物としてはそれ以上に評価されてしかるべき作品 |
No.557 | 4点 | ルビンの壺が割れた- 宿野かほる | 2025/06/23 12:51 |
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メールのやり取りだけで構成される本作のプロットは、男性と女性の思考回路・様式の相違点に着目し、それを活かすために考案されたものであろう。
ただ双方、とりわけ女性側がメールのやり取りを続けていることそのものに合理性が見い出せないから、リアリティがまるで感じられない。 このやり取りが暴露合戦にエスカレートし、その先にあるラストに「日本一の大どんでん返し」という惹句がついているのだが、完全に読者の想定の範囲内であり、出版戦略上、意図的に過大評価したものでしかない。 作品に残された余白を含めて考えれば、ミステリとして成立しているのだが、構想・読み物としての完成度の低さを考慮してこの評価 |
No.556 | 5点 | ラインの虜囚- 田中芳樹 | 2025/06/23 12:37 |
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舞台・登場人物の設定はすばらしいが、プロットが平凡で、それらを活かして切れていない。
全体として悪い作品ではないが、いかにも小品であり、この程度の評価にとどめたい |
No.555 | 5点 | ノン・サラブレッド- 島田明宏 | 2025/06/12 18:10 |
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~わが国の競馬草創期に圧倒的な競争・繁殖成績を残した名牝ミラ。
ただ、血統書が存在しないがゆえに、サラ系として扱われ、母系からいくら活躍馬を輩出しようとも、父系が発展することはなかった。 もし、このミラの血統書が存在すれば、ミラから拡がる子孫の全頭がサラブレッドとして認められることになる~ 私は30年来の競馬ファンであるが、このテーマの妙に強く感銘を受けた。 たった1枚の血統書が存在しないことで、ミラのみならず、ミラの8代子孫に至るまで、莫大な数の馬、それも名馬たちの運命に決定的な影響を及ぼした。 サラブレッドの語源はサラ(徹底的な)+ブレッド(品種)であるが、本作はブラッド・スポーツという競馬の本質をまざまざと見せつけてくれた。 そのうえで、著者の競馬に対する知見がすばらしく、ホーリーシャークの臆病な性格と、それにあわせた馴致・調教、馬を取り巻く人間模様など、とにかく描写が具体的で、リアリティがあり、実に読ませる内容となっている。 その一方で、ミステリの中核を成す現代編は、捜索のプロセス・真相を含め、あらゆる点で凡庸な印象が強い。 ミステリとしては、いかにも小品であり、5点の上位にとどめるが、構想力・独創性・筆力、いずれの面でも見るべき点がある作品 |
No.554 | 6点 | テロリストのパラソル- 藤原伊織 | 2025/06/03 15:41 |
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非常によく書けていて、著者の筆力の高さは疑い得ない。
ただ、ミステリとしてはプロットがあまりにもご都合主義的であり、完成度の点で相当に問題があると言わざるを得ない |
No.553 | 4点 | 樹のごときもの歩く- 坂口安吾 | 2025/05/27 10:58 |
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坂口安吾の未完の作品を高木彬光が書き継いで完結させたというエピソードに興味を惹かれ、本作を手にとった。
他人が途中まで描いたミステリを完結させる作業がいかに難しいか、ということは理解しているものの、それを差し引いてもデキが悪い。 もちろん、安吾が生前に夫人に語っていたプロット・真相をもって、安吾自身が執筆していたとして、本作がどのような水準に達し得たかはわからない。 ただ、それでもなお、高木が描いた真相を評価するならば、「駄作」の一語に尽きる。 まず、「樹のごときもの」の正体はリアリティがないうえに、面白くないという意味で論外。 犯行の動機・プロセスは、平凡極まりないうえ、無味乾燥という印象を受け、前半部分の軽妙洒脱な作風との違和感も強い。 最後に、作品の前半部分に散りばめられた大量の伏線を全く回収できていない、というより、論点として言及もしていない。 言葉を選ばずに言うならば、1個のミステリとして完成していないとさえ言えるデキ映えであり、本来であればさらに低い評価がふさわしいところ、本作の誕生経緯等も考慮して、この評価としたい |
No.552 | 5点 | 君のクイズ- 小川哲 | 2025/05/16 12:34 |
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以下、ネタバレを含みますので、ご留意ください。
冒頭に提示された謎は非常に不可解で、魅力的である。 それに論理的に解が与えられているが、全く面白くない。 どういうことか。 なぜ、ゼロ文字押し、すなわち問題が読み上げられる前に、解答することができたのか。 それは問題が読み上げられる前に、問題を特定できたから。 それは当該クイズ大会の出題者をよく知っていて、その出題傾向が事前に予測できたから。 そのうえで、問い読みが読み上げ直前に口を閉じたことで、1文字目が両唇音であることが確定し、問題を特定できたから。 最大の謎は、対戦相手が回答できないことが確実である以上、もっと問題を聞いてから回答すればよいのに、なぜゼロ文字押しをしたのか。 それは本大会をもって引退する決意を固めていて、仮に間違えたとしても、注目されればよいと思っていたから。 確かにきわめて論理的に説明できている。 しかし、全く面白くない。 真相が当然すぎて、何の意外性もない。 本作はミステリとして成立している。 ただ、密室殺人を「部屋の外から針と糸でカギをかけました」と説明する式の、ミステリである。 プロットの着想と、ミステリとしての筋のよさで加点し、サプライズが皆無の真相を大きく減点して、5点の最下層 |
No.551 | 8点 | ジャッカルの日- フレデリック・フォーサイス | 2025/05/14 14:33 |
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読みたい書籍が常に山積みになっているので、一度読んだ書籍を再読するということは基本的にないのだが、今般、本サイトで本作を評価するために、十数年ぶりに再読した。
犯行プロセスが全体として合理的でリアリティがあり、描写がきわめて緻密であること等と相まって、抜群のリーダビリティを生んでいる。 このボリュームで犯人特定に至る必要があるため、警察が万能すぎる、すなわちしらみつぶし的な捜査の進行が速すぎる点や、警察サイドに有利なご都合主義が散見されるのは事実。 ただ、それをハニートラップによる捜査情報の漏洩で、犯人サイドに有利になるようにリバランスするなど、1個の読み物としてとにかくよくできている。 初読時と同様に、サスペンス、スリラーの世界で、オールタイムベスト候補として名を連ねて不思議ない作品という印象を受けた |
No.550 | 6点 | ホテルローヤル- 桜木紫乃 | 2025/05/13 14:32 |
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ラブホテルという異例の舞台設定を活かしきったプロット、作風の赤裸々さとは裏腹に、それを感じさせない乾いた筆致・読後感等、筆力の高さは明らか。
本サイトではこれ以上の評価は難しいものの、好意的に評価 |
No.549 | 7点 | サーカスから来た執達吏- 夕木春央 | 2025/05/02 11:58 |
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ご都合主義的な展開や、細部における無理・アラ等、ミステリとしての完成度には難があるものの、真相が明かされることで、構図が鮮やかに反転するプロットを高く評価したい。
そして何より、大正時代という舞台設定、ユリ子のミステリアスな魅力を活かしきったストーリーテリングに、作者の確かな力量を感じる。 ミステリとしてはともかく、一個の読み物としては、既読の「方舟」「十戒」よりはるかに上。 全体として好意的に評価できる佳作 |
No.548 | 6点 | 一次元の挿し木- 松下龍之介 | 2025/04/24 17:45 |
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冒頭に提示される謎の不可解性、ストーリーテリングの巧みさ等、群を抜いて光るところがあり、強烈な求心力をもった作品。
ただ、登場するガジェットがことごとくチープで、明かされた真相にリアリティ・納得感がない。 デビュー作としては出色のデキであり、今後に期待したいところ |
No.547 | 4点 | ローマ帽子の秘密- エラリイ・クイーン | 2025/04/14 18:28 |
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本作のほぼ全編が「帽子がなぜ、どのように消えたのか」という謎の解明に費やされるのだが、それ自体にまるで魅力が感じられない。
犯人特定プロセスのロジックも万全とは言い難く、何より特定する証拠が提示されない。 後年の代表的な作品群に比べれば、あらゆる面で格段に見劣りすると言わざるを得ない。 |
No.546 | 8点 | 絶叫- 葉真中顕 | 2025/02/18 15:06 |
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生命保険業界の機関運営、生活保護ビジネスの実態等が取り上げられているが、とりわけ前者は、約20年前の実態に非常に近いさまが描かれており、丹念な取材の跡が伺われる。
こうした社会問題の描写を通じ、現代社会における個々人の疎外感が巧みに表現されており、社会派ミステリとして相当な水準に達している。 明かされた真相は、現代ミステリを渉猟している読者であれば、想定の範囲内であるが、独特の人物視点とあわせて考えれば、そのプロットの妙を称賛せざるを得ない。 そして何より筆力の高さ、すなわち登場人物の造形の細やかさ、心理描写の巧みさ、それらが読者の共感を呼び起こすことに成功している。 それゆえ、それなりに長尺の作品であるものの、とにかく読ませる、一気読み。 久々のヒット作というところ |
No.545 | 5点 | 白ゆき姫殺人事件- 湊かなえ | 2025/02/17 12:52 |
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関係者の証言(独白)だけで全編が構成されるという異色の作品であるが、それでも読者を惹きつける吸引力をもっている。
これはプロットが、人間の認識の相対性・いい加減さ・自己中心性や、人間の悪意を描くという点で明確であること、そして著者の筆力の高さゆえだろう。 ただ、ミステリとしては納得感が低い、というより、著者がミステリを意図して執筆した作品ではない。 本サイトではこの評価とするが、一読の水準には達している |
No.544 | 4点 | ブラウン神父の不信- G・K・チェスタトン | 2025/01/30 17:48 |
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とにかく翻訳がキツい。
構文が現代的な日本語とかけ離れているうえ、指示代名詞が著しく多用されるなど、英語翻訳調で、中身が頭に入ってこないまま、結末を迎えてしまう。 原文がそもそも難解という評価もあり、訳者の責のみに帰する訳ではないかもしれないが、いずれにしても快適な読書にはならなかった。 本作の評価として妥当性を欠くということは認識したうえで、読後感に正直にしたがって、この評価 |