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いいちこさん
平均点: 5.68点 書評数: 572件

プロフィール高評価と近い人 | 書評 | おすすめ

No.572 7点 世界でいちばん透きとおった物語- 杉井光 2025/10/27 11:47
本作の中核を成す試みそのものは、有名先行作品の二番煎じでしかない。
ただ、そうした試みに意味をもたせるために構築されたプロットは、一部にはかなりの無理も感じられるものの、先行作をはるかに凌駕する苦心の跡が感じられ、その点に敬意を表したい。
ライトノベル作家ではあるが、決して筆力は低くなく、読後感も悪くなく、全体として好意的に評価したい

No.571 7点 ロスト・ケア- 葉真中顕 2025/10/21 13:25
介護問題というテーマそのものは手垢の付いたものだし、私的正義の是非を問う作品としても、宮部みゆきの「スナーク狩り」の方が上。
本格ミステリとしての大仕掛けも試みられているが、効果も必要性も感じられず、夾雑物になっているという意味ではない方がよかった。
また、日本語・叙述も驚くほど拙劣なのだが、作品には読ませる力があり、とくに真相解明プロセスは非常に斬新かつ鮮やか。
これらを総合して7点の下位

No.570 5点 タイムマシン- ハーバート・ジョージ・ウェルズ 2025/10/01 10:23
社会主義に傾倒していたとされるウェルズの政治観が非常に強く反映していて、SFというより、そのフォーマットを使った風刺小説という印象が強い。
とくに、肉体も知能も退化したエロイ族が享楽的な生活を送っているさまは、労働から解放され、優雅に暮らす資本家階級の無気力・退廃を揶揄しているようにとれる。
本作の位置づけ・意義は別にして、SF・ミステリとしてはこの程度の評価にとどめたい

No.569 6点 アヒルと鴨のコインロッカー- 伊坂幸太郎 2025/09/30 10:03
乾いた筆致や、メタファーの使い方から「村上春樹に似ている」と感じた。
ネットを渉猟したところ、やはりそのような評価が多いらしい。
物書きとしての実力の高さは疑い得ない。
本作はミステリとして、私の嗜好に外れているものの、水準には達していると評価

No.568 7点 白い僧院の殺人- カーター・ディクスン 2025/09/19 15:35
冒頭に示された不可解状況を一刀両断にする、シンプルだが、意外な真相で、世評に違わぬ作品。
レッドへリングとして配された2つの仮説も大きな効果を挙げている。
ただ、これを成立させるためにプロットの各所に相当な無理が見られ、それらを総合的に考慮して7点の下位。

(ネタバレしています)
犯人ではない第一発見者が酷寒のなか、わざわざ死体を移動させる必要があるか。
その際、殺害直後であったにもかかわらず、雪の上に血痕が全く残らないということが起こり得るか。
ジョンがカニフェストを殴り殺したと思い込み、またマーシャを殺害していないと主張しながら、死体の移動のみは語らないなどの点は、さすがにご都合主義と言わざるを得ない。

No.567 5点 緑の草原に……- 田中芳樹 2025/09/09 13:32
いずれの作品も悪くはないが、いかにも小品という印象で、著者の全盛期とは比肩するべくもない

No.566 5点 快傑ゾロ- ジョンストン・マッカレー 2025/09/09 13:31
本作の立ち位置から割り引いて評価しているが、それにしても描写が全般に雑。
悪役の言動に強く不正義が感じられないから、それと相対する主人公ゾロの魅力がいま一つ弱い、という構造になっている。
また、ヒロインであるロリータに全く魅力が感じられない点は致命的と映る。
全体に盛り上がりに欠ける作品

No.565 5点 仮面病棟- 知念実希人 2025/08/19 16:30
すでに多くのみなさんが評価されているとおり。
叙述、各登場人物の言動、ガジェット等、あらゆる点でとにかく違和感が強い。
読んでいてずっと違和感を感じているから、次の展開、すなわちどんでん返しが読みやすいし、その衝撃を薄れさせている。
プロットはそれなりに練られていて、悪い作品ではないが、ディテールの綻びが多く、拙劣と言わざるを得ない

No.564 7点 宇宙戦争- ハーバート・ジョージ・ウェルズ 2025/08/19 16:26
恐るべき戦闘力を誇る火星人が地球人を蹂躙・虐殺しながら、地球上の感染症によって全滅してしまうというプロットが秀逸。
かつて、スペイン・ポルトガルをはじめ、多数のヨーロッパ人がアメリカ新大陸に上陸し、インフルエンザ・麻疹・天然痘等の伝染病をもたらしたことで、免疫をもたなかった先住民が大量に死亡した。
数年前、コロナという未知のウイルスが登場し、数億人に感染し、数百万人が死亡するという、人類史上に類を見ない惨禍をもたらした。
ミステリ・SFとして不足もあるものの、120年以上前に書かれたという事実に鑑みると、出色の作品ではあるまいか

No.563 7点 絞首商會 - 夕木春央 2025/08/05 16:08
淡々とした筆致、物事をそのまま写生するような描写でありながら、やや難解な作風は、京極夏彦の再来を思わせる。
本作は、とにかく犯行理由と、主要登場人物の行動原理のユニークさ、奇想が群を抜いている。
そして、その判明をもって真相を一刀両断にできるよう、プロットが考え抜かれ、奇妙奇天烈なガジェットが周到に配置されている。
真相に論理的に到達できないとか、レッド・へリングが長すぎる、ボリュームが大きすぎるとか、さまざまな批判もあろうが、許容範囲ではないか。
一段上の実力を感じさせる作品

No.562 5点 バスカヴィル家の犬- アーサー・コナン・ドイル 2025/08/05 15:49
奇々怪々としたムードを散々演出しておいて、何の捻りも工夫もない真相は肩透かしそのもの。
作品としての歴史的意義の高さから過剰評価されていると言わざるを得ない

No.561 5点 #真相をお話しします- 結城真一郎 2025/07/29 16:47
いずれの作品も、取り上げられているテーマに同時代性が強く意識され、構想がよく練られている。
ただ、尺があまりにも短いので、納得感が不十分になりがちで、また同じ球種が連投されるから、徐々にサプライズを減じていく点が強くマイナスに作用。
非常に世評が高い作品だが、そこまでの水準とは感じられず、5点の最下層

No.560 5点 恋する殺人者- 倉知淳 2025/07/29 13:41
明かされる真相は想定の範囲内。
真相解明プロセスは丁寧で、随所に上手さも光るものの、突出した点は見当たらない。
批判的な立場に立つべき作品ではないが、入門的な本格ミステリとして水準レベルにとどまるという印象

No.559 6点 霧に溶ける- 笹沢左保 2025/07/16 08:16
本作のプロットは、現代ならいざ知らず、執筆当時としては相当に野心的なものであったろう。
ただ一方で、登場人物の行動が合理性・リアリティに欠け、犯行計画のフィージビリティに相当に難がある等、完成度の点では多くのアラを指摘せざるを得ない。
著者の大胆な稚気を前向きにとらえてこの評価

No.558 7点 凍てつく太陽- 葉真中顕 2025/07/02 11:54
独特の乾いた筆致で、語り口も淡々としているのだが、とにかくリアリティが高くて読ませる。
取材が緻密であるうえに、筆力が高いということであろう。
本サイトでは、あくまでもミステリとして評価し、7点の最上位にとどめたが、1個の読物としてはそれ以上に評価されてしかるべき作品

No.557 4点 ルビンの壺が割れた- 宿野かほる 2025/06/23 12:51
メールのやり取りだけで構成される本作のプロットは、男性と女性の思考回路・様式の相違点に着目し、それを活かすために考案されたものであろう。
ただ双方、とりわけ女性側がメールのやり取りを続けていることそのものに合理性が見い出せないから、リアリティがまるで感じられない。
このやり取りが暴露合戦にエスカレートし、その先にあるラストに「日本一の大どんでん返し」という惹句がついているのだが、完全に読者の想定の範囲内であり、出版戦略上、意図的に過大評価したものでしかない。
作品に残された余白を含めて考えれば、ミステリとして成立しているのだが、構想・読み物としての完成度の低さを考慮してこの評価

No.556 5点 ラインの虜囚- 田中芳樹 2025/06/23 12:37
舞台・登場人物の設定はすばらしいが、プロットが平凡で、それらを活かして切れていない。
全体として悪い作品ではないが、いかにも小品であり、この程度の評価にとどめたい

No.555 5点 ノン・サラブレッド- 島田明宏 2025/06/12 18:10
~わが国の競馬草創期に圧倒的な競争・繁殖成績を残した名牝ミラ。
ただ、血統書が存在しないがゆえに、サラ系として扱われ、母系からいくら活躍馬を輩出しようとも、父系が発展することはなかった。
もし、このミラの血統書が存在すれば、ミラから拡がる子孫の全頭がサラブレッドとして認められることになる~

私は30年来の競馬ファンであるが、このテーマの妙に強く感銘を受けた。
たった1枚の血統書が存在しないことで、ミラのみならず、ミラの8代子孫に至るまで、莫大な数の馬、それも名馬たちの運命に決定的な影響を及ぼした。
サラブレッドの語源はサラ(徹底的な)+ブレッド(品種)であるが、本作はブラッド・スポーツという競馬の本質をまざまざと見せつけてくれた。
そのうえで、著者の競馬に対する知見がすばらしく、ホーリーシャークの臆病な性格と、それにあわせた馴致・調教、馬を取り巻く人間模様など、とにかく描写が具体的で、リアリティがあり、実に読ませる内容となっている。
その一方で、ミステリの中核を成す現代編は、捜索のプロセス・真相を含め、あらゆる点で凡庸な印象が強い。
ミステリとしては、いかにも小品であり、5点の上位にとどめるが、構想力・独創性・筆力、いずれの面でも見るべき点がある作品

No.554 6点 テロリストのパラソル- 藤原伊織 2025/06/03 15:41
非常によく書けていて、著者の筆力の高さは疑い得ない。
ただ、ミステリとしてはプロットがあまりにもご都合主義的であり、完成度の点で相当に問題があると言わざるを得ない

No.553 4点 樹のごときもの歩く- 坂口安吾 2025/05/27 10:58
坂口安吾の未完の作品を高木彬光が書き継いで完結させたというエピソードに興味を惹かれ、本作を手にとった。
他人が途中まで描いたミステリを完結させる作業がいかに難しいか、ということは理解しているものの、それを差し引いてもデキが悪い。
もちろん、安吾が生前に夫人に語っていたプロット・真相をもって、安吾自身が執筆していたとして、本作がどのような水準に達し得たかはわからない。
ただ、それでもなお、高木が描いた真相を評価するならば、「駄作」の一語に尽きる。
まず、「樹のごときもの」の正体はリアリティがないうえに、面白くないという意味で論外。
犯行の動機・プロセスは、平凡極まりないうえ、無味乾燥という印象を受け、前半部分の軽妙洒脱な作風との違和感も強い。
最後に、作品の前半部分に散りばめられた大量の伏線を全く回収できていない、というより、論点として言及もしていない。
言葉を選ばずに言うならば、1個のミステリとして完成していないとさえ言えるデキ映えであり、本来であればさらに低い評価がふさわしいところ、本作の誕生経緯等も考慮して、この評価としたい

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いいちこさん
ひとこと
評価にあたっては真相とトリックの意外性・納得性を最重視しつつ、プロットの構想力・完成度、犯行のフィージビリティ・合理性に重点を置いています。
採点結果が平均6.0点前後となるよう意識して採点するととも...
好きな作家
東野圭吾、麻耶雄嵩、京極夏彦、倉知淳、奥田英朗。次点として島田荘司、有栖川有栖、法...
採点傾向
平均点: 5.68点   採点数: 572件
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