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[ 社会派 ]
ロスト・ケア
葉真中顕 出版月: 2013年02月 平均: 6.57点 書評数: 7件

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光文社
2013年02月

光文社
2015年02月

No.7 6点 パンやん 2023/06/30 06:42
残念ながら注意はしてはいたものの、映画化に際してのネタバレによって、ミステリーの興をそがれてしまったのは否めない。どうにもこの手の映像化は総じて難しく、こちらも例に漏れず、大幅なアレンジがされたもようである。にしても、介護現場のヒドさ、辛さからの解放(死)の答えとしての読み応えはあり、介護体制側からの描写にも長けていると思われる。

No.6 6点 ぷちレコード 2020/09/17 18:07
介護問題という重いテーマに挑みながら、一方的で表層的な視線に堕することなく、しかもトリッキーな企みが炸裂している。

No.5 6点 E-BANKER 2019/05/19 11:26
「凍てつく太陽」が第72回推理作家協会賞受賞。
今、個人的に一番気になる作家である作者の処女長編作品。
本作は日本ミステリー文学大賞新人賞の受賞作。2013年の発表。

~戦後犯罪史に残る凶悪犯にくだされた死刑判決。その報を知ったとき、正義を信じる検察官・大友の耳の奥に響く痛ましい叫び・・・“悔い改めろ!” 介護現場に溢れる悲鳴、社会システムがもたらす歪み、善悪の意味・・・。現代を生きる誰しもが逃れられないテーマに圧倒的リアリティと緻密な構成力で迫る! 全選考委員絶賛のもと放たれた日本ミステリー文学大賞新人賞の受賞作~

「ロスト・ケア」・・・重い言葉だ。
仕事がら介護施設の現場に接することがある。
とにかく「大変だ」という感想しか湧いてこない。もちろんビジネスとして介護業界を捉えると、できるだけ介護度の高い人を多く扱う方がいいし、医療機関と提携して入所者に安心してもらう方がいい、etc
でも、ビジネスの損得勘定だけでは到底務まらない仕事だ。本作でも触れられてるけど、職員の離職率は半端ない。想像以上の肉体労働だし、セクハラも横行している、実質24時間目を離せない人もいる・・・
やはり人間と直に接する仕事なのだ。嘘くさいかもしれないけど、気配りや愛情抜きではできない仕事なのだと思う。

だからこその“ロスト・ケア”ということなのだろう。
真犯人が語り、検察官・大友が衝撃を受けた言葉の数々はそのまま読者へも突き刺さる。
(もちろん本作はフィクションだし、実際介護現場で働く方々からすると鼻で笑われることなのかもしれないが・・・)
結局、大友は救われたのか? 羽田は救われたのか? そして何より真犯人は救われたのか?
この答えは語られてはいない。
うーん。難しい問題だね。答えは・・・きっとないのだろう。

ミステリーとしての観点からは、やはり終章前に炸裂するサプライズ!
うーん。確かにうまい具合にミスリードされてましたなぁ・・・。てっきりそこは確定っていう感じで読みすすめてたしね。
その辺は単なる社会派じゃないというミステリー作家の矜持を感じてしまった。
ということで、作品は少ないけどしばらく作者を追いかけてみようと思います。

No.4 10点 Tetchy 2016/09/04 00:22
介護という日常的なテーマを扱った本書で日本ミステリー文学大賞新人賞を受賞した著者のデビュー作。新人とは思えぬ堂々の書きっぷりで思わずのめり込んで読んでしまった。
介護。それは誰もが必ず1度は直面する問題で2000年に我が国も介護保険制度が導入されたが、今なお介護が抱える問題や闇は払拭されていない。

作者は色んな対比構造を組み込んで物語に推進力をもたらせている。
介護する側される側。助かる者と助からない者。富める者と貧しい者。善人と悪人。
しかし究極の光と闇はやはり大友と<彼>である。これについては後に述べよう。

以下ネタバレを含みます。

重介護老人を自然死に見せかけて計43人もの犠牲者を出した<彼> の所業を暴くプロセスが実に論理的だ。
大学の数学科の元研究員という奇妙な経歴を持つ大友の相棒の事務官椎名によって『フォレスト八賀ケアセンター』の各従業員の出勤記録と殺人が起きた日の曜日との間にある奇妙な相関関係を分析して容疑者に辿り着く。このように具体的な数値データから犯人を導くプロセスは今までミステリで読んだことがない、本当のデータによる犯人の特定であった。これをデビュー作で既に独自色を出すとは恐るべき新人である

しかしこの物語は上に書いたように新人作家の一デビュー作であると片付けられないほど、その内容には考えさせられる部分が多い。
介護生活は今40代の私にとってかなり現実味を帯びた問題になっている。実際母親は更年期障害で入退院を繰り返し、義母に至ってはつい先月末に脳梗塞で倒れ、半身麻痺の状態で入院中だ。本書に全く同じ境遇の人物が出てきて私は大いに動揺した。そう本書に書かれていることはもう目の前に起こりうることなのだ。

人を殺すことは悪だと断じる大友も実は人を多く殺したから死刑を求刑する自分もまた間接的な殺人者であることを犯人に論破され、動揺する。つまり人を殺すことは悪い事だと云いながら、社会は治安を守るために殺人を行っているのだ。
しかしそれは必要悪だ。この世は単純に善と悪の二極分化では割り切れないほど複雑だ。しかし実は自然でさえその必要悪を行っている。自然淘汰だ。自然は、いや地球は生態系を脅かす存在を滅ぼすような人智を超えたシステムによってバランスを保っている。
私は本書の犯人の行ったことは自然淘汰に似ていると思った。誰もが最低限の幸せな生活を送る権利があるが、それが実の両親もしくは義理の両親によって侵される人々がいる。そんなアンバランスはあってはならない。それを生み出した日本のシステムを変えるために<彼>は制裁を行ったのだ。

東野圭吾の『さまよう刃』でも思ったが、人は殺してはいけないが死刑のように社会の治安を守る、つまりはシステムを維持するための必要悪としての殺人は存在しうるのではないのだろうか。実に考えさせられる作品だった。日本の介護制度の想像を超える悪しき実態を知ってもらうためにもより多くの人に読んでもらいたい作品だ。

No.3 6点 虫暮部 2014/05/07 11:00
序章で、いやもっと言うなら新聞広告の謳い文句で、着地点がなんとなく見えちゃっていた。ミステリ的な驚きに満ちた作品というわけではない。
 とはいえ見えているラストへ上手く導くのも作家の腕であり、そういう意味で評価は出来る。作者の本気度が問われる題材だが説教臭くなる前に上手く引いていると思うし、思想の対立する登場人物それぞれにきちんと説得力があるところも良い。
 くさか里樹のコミック『ヘルプマン!』と併せて読みましょう(?)。

No.2 6点 アイス・コーヒー 2014/03/27 15:26
現代の介護事情を描きつつ、そのあり方に疑問を投げかける日本ミステリー文学大賞新人賞受賞作(長い)。

人々の想像を超えて過酷な現場介護の限界と、スキャンダルに飲み込まれていく総合介護企業という二つの側面から「ケア」の実情を描く技は見事。主人公である検察官の大友はそれを「傍観」する第三者でありながら、要介護の父親を抱える「当事者」。では、人知れず老人たちを殺害していく〈彼〉とは何者なのか?
クライマックスには物語が二転三転とし、ミステリとしてもよく出来ている。残念だったのは、読者に明かされた「あの事実」が本編の演出にはならなかったこと。
介護において、「自分がしてほしいことを他人にもする」黄金律をいかにして実現するか、粗削りではあるが考えさせる社会派。

No.1 6点 kanamori 2013/04/06 12:55
読者を一瞬思考停止に陥らせるようなサプライズが終盤にあって、そういった新本格風のミステリ趣向も面白いことは間違いないのですが、本書の本質は高齢者介護という今日的題材を扱った社会派の要素だと思う。

”そういう立場の人々”をキリスト教の教義に絡めて、”救済”の真の意義を問う、<彼>の行動原理には考えさせられるものがありました。


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