海外/国内ミステリ小説の投稿型書評サイト
皆さんから寄せられた5万件以上の書評をランキング形式で表示しています。ネタバレは禁止 していません。ご注意を!

[ 本格/新本格 ]
世界でいちばん透きとおった物語
杉井光 出版月: 2023年04月 平均: 7.00点 書評数: 17件

書評を見る | 採点するジャンル投票


新潮社
2023年04月

No.17 6点 take5 2024/03/03 14:22
こちらのサイトで本を探される方
私もそうですが、
ネタバレしていませんとあっても
ある程度の情報を欲すると、
結果的にネタバレに近い情報が手に入ってしまう
というジレンマ。
少なくとも本作については
一切これ以下の書評に触れずに
たった230ページ700円
または図書館なら無料ですから
とっとと読まれる事をお勧めします。

それで、読み終えた後に、
人並さんの書評に納得したり、
他の方同様内容に言及したり
しなかったりする書評を書けば
よいのです。

ですから私の書評も以上!

No.16 8点 斎藤警部 2023/12/09 23:50
”ベンチに隣り合い、冬と春、死と生のそれぞれに遠く隔てられて。”

著名ミステリ作家(男)の隠し子である主人公(若い男)は、二人暮らしの母を早くに亡くし、やがて一度も会った事の無い父が病死した事を知る。そこへやはり初対面の異母兄が面会を求めて来た。 父に「幻の遺作」らしきものが在る可能性を知った主人公は、父に対する複雑な感情を抱えたまま、フリー校正者であった母を介して知り合っていた大手出版編集者(若い女)の協力を得、「遺作」を含む父の残した謎への答えを探り出すべく、生前付き合いのあった人物を次々に訪れる・・・・ その途上、事件がいくつか起こり。。


【【以下、致命的ネタバラシは避けますが、ネタバレ度ほぼほぼ低から高へと推移します(伏字あり)。未読の方はここでやめておくか、途中で適宜引き返して戴けますよう、お願い致します】】


何気な「心理の密室」トリックは妙に唐突でドタバタ感アリだけど、しっかり意外性もありました。しかしそのトリック構成の「最重要人物」についてはもう少し深く掘り下げて良かったかも。 もう一人の重要人物はちゃっかりシラッとしたままか! 物語上の落とし前も付けないで有耶無耶か(笑)。 それにしても泣ける伏線回収、熱い伏線回収の数々、見事でした。

京極夏彦が登場したのはちょっと笑いました。(だがそれさえも、ってやつなんですけどね) 親譲りの「甘いマスク」の筈の主人公が、周りの反応的にイケメン感がまるで無いのは違和感ありましたね。「父親そっくり」とは必ず言われるのに。もしやそこに何か叙述の欺瞞が。。なんて疑いもしましたよ。 折角の美貌を、内面の非モテ感が圧倒してたって事なんでしょうか。

思えば実に数学的であり、病理学的であり、出版業界的であり、何よりまさかの「○の○」の話だったというのがね。。この本の外枠のアレと不即不離なんだよね。。 最終ページの答え合わせに感動し、「あとがき」の核心ネタバレに微笑み、異様な「参考文献」に笑い、最後の献辞にグッと来る。 都合四段構えのエピローグには心を掴まれました。

ここまで「アレ」やっといて、この美しい文章と物語と強靭なミステリ牽引力。人間もよく描けている。こりゃ凄いや。 だからこそ、最後に「アレ」を「故意に」崩すところ、その心に泣けましたねえ。。。。  作者が「アレ」を自慢げに語っているようにしか取れない所もあったけど、その空気はすぐ消えてくれた。

タイトルや「電子書籍化絶対不可能⁉︎」なる帯の煽り、そしてやたら挟まれる○○に関する話題がヒントとなり、きっとあの方向性なんだろうなあ、とはすぐに思い当たったのですが(むかし『頭の体操』で見たんだよな..)、まさか、ある意味「真逆」の方だったとはなあ! 確かに現在の電書では無理なアレだろうが、そのくせ主人公はほぼ電書一本派って設定、ただのフックじゃなくて深~~い意味があったんですね。いや参ったな。 途中でそこまで気付いたお方はおるん??

ところで私がぼんやり予想していた「電子書籍化不可能」な要素、の具体的な現れ方、やっばり違ったのか。。と諦めていた物語の最後になって、ふと登場! 熱かったね。

しかし、これほど「第〇章」のページが罪深い(?)本も無かろうね(微笑)。。

No.15 8点 虫暮部 2023/11/30 12:54
 この手の作品を読むたび思うのだが、一作だけ別名義でイコール語り手にすれば?
 こんなしょーもないことを思い付き、あまつさえ実行してしまった時点でスタンディング・オヴェーション。その上で、仕掛けに正当性を持たせる為の設定が上手く出来ている。割と典型的なキャラクターばかりだが、噛み合わせ方が良いので物語としても面白い。

 ただ、宣伝文句が……。

No.14 7点 パメル 2023/11/10 06:29
大御所ミステリ作家の死後、彼の隠し子だった主人公・燈真が、生前最後に書いていた父の遺稿「世界でいちばん透きとおった物語」を探していく。それとともに自分と母を捨てた父親の本当の姿を知っていく。
燈真が周りの人たちに情報を聞き、父の謎を追う描写が丁寧で伏線回収も見事。繊細な心理描写が秀逸な切なくも温かな物語。小説の歴史に残る仕掛けが施されている。途中で仕掛けに気付いてしまったが、この本のタイトルの意味が分かった時の衝撃は凄まじい。何度もページをめくり直し、確認していくと同時に感動が沸き起こる。

以下少々ネタバレ


紙という媒体を活かした作品で、電子書籍化は不可能である。これこそネタバレを耳にする前に読むべき作品で、知ってしまった後では魅力は半減どころでは済まない。作者はもちろんのこと、編集者、校正者の手間と苦労が想像できる。ご苦労様と言いたい。思いつきそうで思いつかない、思いついてもやろうとしない。世界初の仕掛けなのだろうか。何でもそうだが、一番最初にやった人は偉いと素直に褒めたい。

No.13 8点 sophia 2023/10/20 00:19
正直な話この作品の仕掛けとその意味は半ばほど読んだところで分かってしまったのですが、それはこちらの事情なのでそれで減点はいたしません。伏線の張り巡らし方はしっかりと本格ミステリーのそれでありますし、遺稿をあるいは父親の影を追う主人公の心境の移り変わりが言葉巧みに描かれた素晴らしい作品であったと思います。最後の鍵括弧の使い方でプラス1点です。本屋大賞狙えるんじゃないでしょうか?

追記 すいません。ノミネートされませんでした。うーん、そうか。

No.12 6点 ミステリーオタク 2023/10/19 17:05
 やはり未読の人は以下読まない方がいいでしょうね。


 「透きとおった」の意味は説明されるまで解らなかったが、自分の読書は(残念なことに)細切れになることが多いのでその都合上、仕掛けの一端には割りと早い段階で気がついた。ただそれが何を意味するのか、ただの作風なのかは、やはり前述の説明があるまで見抜けなかったが。
 そんな面倒なことをする理由づけとなるミステリ要素に関して、ホントにそんな事象があるのかも分からないが仕立てぶりは悪くないと思う。

 まぁアイデア賞+努力賞だが、こういう外枠で勝負する作品は本書で最後にしてほしい。
 ミステリはやはりミステリとしての内容を堪能したい。

 しかし新潮社のCMも酷い。「ネタバレ絶対厳禁!」と書いた隣にあんな文言を入れるとは。まあ某社も同様だった気がするが。

 本作の仕掛けとその意味が途中で分かったという人がいるけど、このサイトには恐ろしく高度な医学知識を持っている人がいるんだね。

No.11 6点 まさむね 2023/10/13 22:23
 売れているようですねぇ。今年最大の話題作と言ってもいいのかもしれません。こうなったからには(?)読まずにはいられない、ミーハー気質の私であります。
 正直、最大のポイントというか特徴については、途中で気づいてしまいます。タイトルからも…ねぇ。その必要性を追いかける展開になることも、想像がつきます。なので、“驚き”という面では、決して大きいものではなかったです。
 一方で、制約がある中での各種工夫は素直に評価したいと思いますし、その前提として、一定のページ数を書き上げた努力には敬意を表します。記憶に残りそうな作品ではあります。(この種の作品を1年以内に複数読むことになった点も記憶に残りそうです。)

No.10 6点 名探偵ジャパン 2023/10/06 17:07
 いやあ、お疲れ様でした。と作者に言いたいですね。
 大いなる一発ネタ作品で、特に語るべきことも(そもそも語れない)ないのですが、結構大変なことをやってのけたという意味で書き込まずにはいられませんでした。

 これから読もうという方には、あまりページをパラパラとめくってしまわないように、と忠告しておきます。

No.9 6点 人並由真 2023/10/06 07:38
(ネタバレなし)
 作者に関しては10年前にあの不祥事を起こして以来、いまだハラが立っている。
(もし詳しいことを知らなくて関心がある人は「杉井光」「榊一郎」「2ちゃんねる」のキーワードを3つ並べて検索してください。)

 当人の謝罪はのちに公表されたものの、さすがにあれは商業作家として、というか、人として(またはいい大人として)どうか、と思う行為であった。
 個人的にはそれまで『神様のメモ帳』のアニメ版は観ていたし、『生徒会探偵キリカ』も小説の第1巻を読み、あの出来事がなければそのままシリーズの次巻へと読み進もうとも思っていたのだが、さすがに今後もう二度とこのヒトの本は読まないだろうと見切ってしまった。少なくとも当時は。
 実際、今回までこの人の著作はあれから一冊も読んでない、買ってもいない。作品にアニメ化の声がまったくかからなくなったのも、そりゃ自業自得だろうねと思ってもいた。

 そうしたらあれから10年経って、今年のこの大騒ぎである。
 あくまで一読者の立場として、いまだ複雑な気分も抱えこんではいるが、一方でこの10年の間に当人に創作者としてどのような変化があったのか、覗いてみたい気持ちもなんとなく生じてきた。で、なるべく冷静なつもりで、とにかく話題の本作を読んでみる。

 物語の構造そのものというか主題(当該の小説がどのような立ち位置のものだったのか)は、さすがに途中で察してしまったので、さほどのインパクトはない。
 要はそれ自体は(中略)なネタを、努力賞ものの奮闘で強化した(完成形へと築き上げた)一冊ということになるのだろうが、一方でそういう(中略)な作品であろうこともやはり早々に読めていたので、サプライズ感も希薄。
 
 となると本作の価値は送り手がどれだけ(中略)したかの深度にもよってくると思うのだが、キビシイことを言えばこの作品はその着想を得て、出版に至る環境が固められた時点でもうゴールラインは見えたのだろうし、そのあとの(中略)は、正に<ただの作業>であったろう。いや、その上でその作業が完遂に至るまでには、大変な(中略)だったことはもちろん察するが。

 あと、もしかしたら評者の自分は(作者の過去は過去として、とりあえず置いても)この(中略)に食傷している部分も実は大きいのかもしれない。
 だって新旧作品あわせて、この数年でいくつ、自分はこの手のものを読んできたのか(汗&涙)。

 まあとにかく、この一冊に関しましては、確かに(中略)は認めるが。

No.8 6点 蟷螂の斧 2023/07/23 17:25
高評価ですね。うーん、努力は買いますけど・・・。伏線の回収はまずまずですけど、預金通帳のイ)で資金の使途はわかってしまいました(苦笑)。



(注)母親が死亡し住宅ローンが残っていた。別途資金で返済したとありますが、そんなことはありえないです。銀行がかけている生命保険で完済されるので、遺族に個人負担は発生しないのです。

No.7 8点 ALFA 2023/07/22 12:15
直接の犯罪は出てこないが骨格はまちがいなく本格ミステリー。
唯一の肉親である母をなくした青年の清潔感のある人物造形がいい。

ミステリーらしい興趣に満ちた物理的な仕掛けを面白いと思えるかどうかが評価の分かれ目かな。
つけられたタイトルもベタでいい。
最後、義理の兄が妙にいいヤツになっていて笑える。

No.6 7点 makomako 2023/07/20 18:41
途中まではかなり面白い。表題の小説とはいったいどんなものだろうと興味がかきたたれます。
主人公もお話の中で翻弄され、この先どんな展開となるか全く読めない。
勿論だんだん話の目鼻がついてきて、結構などんでん返しとなります。
なるほどね。こんなお話であったのかとある意味納得できます。
皆さんの評価も高いのはうなずけますが、私の評価は多少低めです。
これっていくらでも結論が変えられそう。
私が作家だったら(才能がないので全く無理ですが)なんとおりかの結論を出しておいて、さらに読者を混乱させて---、なんて考えてしまいました。

No.5 8点 メルカトル 2023/07/15 22:41
 大御所ミステリ作家の宮内彰吾が、癌の闘病を経て61歳で死去した。
 女癖が悪かった宮内は、妻帯者でありながら多くの女性と交際しており、そのうちの一人とは子供までつくっていた。
それが僕だ。

 宮内の死後、彼の長男から僕に連絡が入る。
「親父は『世界でいちばん透きとおった物語』というタイトルの小説を死ぬ間際に書いていたらしい。遺作として出版したいが、原稿が見つからない。なにか知らないか」
Amazon内容紹介より。

ラノベを多く書いてる作者だけあって、どうにもラノベ臭が漂う文体に正直うーむとなりました。まあそれはそれとして、なるべく予備知識なしで読もうと臨み、それが結果的に奏功したと思います。ただ早い段階で違和感を覚え、しかしそれが物語にどう関わってくるのかが全く分からない状態でした。
中盤までは主人公で語り手の「僕」が只管亡き父の遺稿を探し求めて、様々な相手に接触していく姿を描いており、余り抑揚は感じません。その時点では何ら事件の予感もしませんでした。

しかし、終盤第十二章から俄かにストーリーが動き始め、そのまま解決へと雪崩れ込んでいきます。成程確かに色々と伏線を回収しているし、これは紛う事なき本格ミステリだとかなり見直しました。お見それしましたと、作者に頭を下げたくなる心境です。ところがそれを遥かに超える衝撃が待ち受けていました。比喩ではなく本当に鳥肌が立ちました。もうこうなってはこの作品の前に、只々ひれ伏すしかありません。この人の努力と苦労に、最大の敬意と惜しみない拍手を送ります。
多くの人に読んで欲しいです、そして果たしてこれをどう評価するのか知りたいですね。

No.4 8点 ことは 2023/07/12 00:08
メインの趣向は、有名作のアレンジなので、それだけでは高い評価はしないが、その趣向の見せ方がうまい。類似の趣向は、あの人とか色々書いてたり、去年もあったりしたけど、見せ方では、これが一番では?
必然性に関する伏線も、きれいにはられていて、感心されられた。
個人的に、ラストページの「透きとおって」みえる言葉は好み。ベタだけど、これはいいなぁ。
他の人も書いているけど、できるだけ前情報無しで読んでほしい。短いのですぐ読めるしね。

No.3 6点 みりん 2023/07/11 20:03
暫定で今年1番の話題作ですね。たぶん。非常に凝られた力作であると思います。
前評判、前情報、なんなら帯すら目を通さずに読んだ方が良いです。

No.2 8点 文生 2023/07/05 23:08
大きな事件は起きない日常の謎ものに近い作風ですが、人気ミステリー作家の遺作の行方を追うというプロットには大いにそそられました。そして、なんといってもあの大仕掛けです。先にレビューしたミシェル・ビュッシの『恐るべき太陽』 もそうですが、まさか続け様に泡坂妻夫マジックを彷彿とさせる作品を読めるとは思いもしませんでした。ちなみに、どちらも力作ではあるものの、個人的には冗長さが目立つ『恐るべき太陽』よりもテンポ良く読めて、謎の提示から最後のサプライズまでを寄り道なしに楽しめる本作の方が好みです。

No.1 7点 フェノーメノ 2023/06/22 21:34
最近一番の話題作。
ずっと品薄が続いていましたが、最近やっと普通に手に入るようになりました。

さてこの作品、前情報は一切仕入れずに読むことをおすすめします。
というのもわたくし、あまりの雑音の多さもあって、半ばほど読んだあたりで仕掛けに関しては完全にわかってしまいました(細かい伏線回収や理由に関してはまた別ですが)。

ネタバレしないように気を使ったレビューをしている方が大半ですが、その気の使い方すらもヒントになってしまうという非常に語るのが難しい作品。なので私の何も語っていない駄文に関しても別に読む必要はないのですが……。

とりあえずこういう作品は本屋で見つけたらレジに直行でいいと思います。面白いか面白くないかは別として、さっさと読んでおくべき作品であるのは間違いないです。


キーワードから探す
杉井光
2023年04月
世界でいちばん透きとおった物語
平均:7.00 / 書評数:17