名探偵ジャパンさん |
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平均点: 6.22点 | 書評数: 359件 |
プロフィール | 高評価と近い人 | 書評 | おすすめ
No.359 | 5点 | 可制御の殺人- 松城明 | 2023/01/08 15:23 |
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短編として受賞した1話に、新作を継ぎ足して連作短編に構成しなおされたものだそうで、メルカトルさん評のとおり、確かに表題作とそれ以外との完成度の落差が激しいです。
「機械を操るように人の行動を制御できる主人公」という特殊設定風味の作品ですが、作中ではあくまで特殊設定は存在しない、主人公の技能だけで成立しているということで、そこがまたミステリとしてはモヤモヤ感をかもしています。主人公が「できる」と言ってしまえば何でもありじゃない? |
No.358 | 5点 | クサリヘビ殺人事件 蛇のしっぽがつかめない- 越尾圭 | 2023/01/08 15:13 |
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これはタイトルがよくないですよ。どう見てもガチガチの本格、かつ、副題からして、東川篤哉っぽいユーモアミステリと思うじゃないですか。だから「このミス」は信用できないんですよ(笑)。
作品としてつまらないわけでは決してなく、確かに新人離れしたものがありますが、「これじゃない」という感覚が最後までまとわりついて離れませんでした。せめて「わざわざ犯行に毒蛇を使った理由」だけでもロジカルな答えが用意されていれば。 最初から「社会派」「サスペンスもの」という気持ちで読めば、また違った印象、評価になっていたかもしれません。 |
No.357 | 6点 | 此の世の果ての殺人- 荒木あかね | 2023/01/08 15:01 |
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ある種の特殊設定ものですが、他のそれと比べて「特殊味」が薄味で、私なんかはそれがいいと好感を持ったのですが、肝心の、この作品ならではの設定を活かす、という面では少し消化不良だったかなと思います。
犯人も予想できますし(かなりベタ)、ミステリ的な味付けも薄めで、漏れてくる前評判から結構な期待値でもって読んだせいもあってか、もうひとつ突き抜けるものがなかったかなという印象でした。 とはいえ、若干23歳での江戸川乱歩賞受賞、というトピックでも沸いた作品で、その年齢を考えれば十分伸びしろは期待できますし、数年後くらいにはミステリ界を席巻する存在になりうる可能性は秘めているだろうなと思います。周りの面倒くさい大人が色々言ってくるかとは思いますが(お前みたいなのだよ笑)頑張ってほしいです。 少し話がずれますが、この受賞年齢の件に関して、有栖川有栖が「選考委員は作者の情報を知らされないまま選考しているので、年齢が受賞に影響を与えることは絶対にない」と言っていましたが、最終選考に残る前の下読み段階では考慮対象となるでしょうね。同レベルの作品が競ったら、若い作者のほうが選ばれるはずです。100歳とかまで年齢を重ねてしまえば、それはそれで話題になるから無視できないでしょうけれど。 |
No.356 | 8点 | 方舟- 夕木春央 | 2022/12/01 20:03 |
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今までまったくノーマークの作家だったのですが、いきなりやられましたね。これは2022年の各ミステリ賞を総ナメするんじゃないですかね。面白かったです。
この舞台設定、状況設定に無理があるという感想を持つ人もいるかと思いますし、実際私もそう感じはしますが、今どきであれば「特殊設定」でいかようにも逃げることも出来たのに、あくまで現実世界で出来ることだけでやりきったのは素晴らしいと思います。設定の強引さなどの欠点を払拭するだけの完成度は十分保たれていると思います。 ※※※ 以下、ネタバレに繋がる感想です。 ※※※ 最後の大オチもいいのですが、殺人の動機に大オチに繋がる動機が隠されていた、というのも渋い高評価ポイントだと私は思います。上手いですね。 |
No.355 | 8点 | 逆転美人- 藤崎翔 | 2022/11/29 21:53 |
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まさか、令和の時代にこういうものが復活するとは!
※※※ 察しの良い方には、私の感想だけでネタバレになってしまう可能性がありますので、以下ネタバレ注意とさせていただきます ※※※ メルカトルさんが書かれているように「史上初」ではないのですが、かつてこの手のものを得意としたあの作家の「あれ」や「それ」を知らない若い読者にはかなり新鮮、かつ驚愕を持って受け入れられるのではないでしょうか。 果たして「これ」を素直に驚けるか? それとも「バカミス」の烙印を押されるか、若いミステリ読者の感想を聞いてみたいところです。 というか、帯の惹句に「紙の本ならでは!」と書かれていた時点で、「あの手」を使ってるんだろうなと察しが付いてしまいました。なので、真相を明かされても「やっぱりな」という思いが先に来てしまって、正直、帯の惹句さえなければさらに素直に驚けていたと思うと、編集者はもっと的確な仕事をしろと文句を言いたくなります。 |
No.354 | 5点 | 船富家の惨劇- 蒼井雄 | 2022/10/21 23:05 |
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出版年を考えれば、十分にオーパーツレベルのミステリだとは思うのですが、いかんせん読みにくすぎでした。ブラウン神父ものが可愛く感じるレベル。読破するのに相当の精神力を要しました。昔の小説だからと言われればそうなのかもしれませんが、これより古い横溝や乱歩作品にそんな感想は持たなかったので、これは純粋に作者の筆力によるものなのでしょう。誰かもっと分かりやすく、短くまとめてくれと思いました。 |
No.353 | 7点 | invert II 覗き窓の死角- 相沢沙呼 | 2022/10/21 22:59 |
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「世界一続編が書かれてはいけないミステリ」の続編の続編が登場です。
もうここまで来ると、いたって普通の倒叙ミステリになってしまいまして、これはこれで出来が良いのですが、私は未だにもやもやしたものを払拭しきれません。 探偵役の翡翠がチート級に無敵すぎて、対決する犯人がかわいそうになってくるのは倒叙ミステリのお約束とはいえ、それでも「古畑」や「コロンボ」などは探偵役にある種の可愛げがあり、そこまで読者(視聴者)の反感を買いはしないのですが、本シリーズの翡翠は……。私はそろそろきつくなって来ました(笑) |
No.352 | 5点 | スクイッド荘の殺人- 東川篤哉 | 2022/09/11 20:15 |
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烏賊川市シリーズのみならず、作者としてもかなり久しぶりの長編なのでは?
あまりに長編を書かなすぎて腕が鈍ってしまった……とは思いたくありませんが、数十年前ならいざしらず、令和の世にこれはさすがに厳しいです。バラバラ死体のトリックは面白いものがあっただけに、ここだけ取りだして短編に仕上げた方がよかったかも? 物語の舞台となる「スクイッド荘」が「イカの姿に似ている」というのも、トリックに関わるわけではなく、ただのネタに過ぎず、ここはかなり残念に思いました。 |
No.351 | 6点 | 君に読ませたいミステリがあるんだ- 東川篤哉 | 2022/07/06 17:21 |
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「鯉ケ窪学園シリーズ」まさかの復活!
じつに7年ぶりくらいの新作で、しかも前作までの登場人物は誰も出てきません。もう新シリーズとして立ち上げたほうが良かったのでは? 相変わらず安定の東川節が今作も炸裂。正直、どんでん返しと驚愕のラストがこれまでにないほど幅を利かせている現在のミステリ界において、場違い的な普通さですが、こういうものもありなのでは。むしろなくしてはいけない気がします。 |
No.350 | 7点 | 兇人邸の殺人- 今村昌弘 | 2022/07/06 17:14 |
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シリーズ第三弾も安定のクオリティ。最近の若い作者は本当に「ハズレ」を書きませんね。とはいえ、さすがに1作目、2作目のようなインパクトは薄れます。『屍人荘』以降、この手のミステリが爆発的に増えたという状況もあるのでしょうが。作者にはこの路線の第一人者として、今後も頑張ってほしいものです。
ただ、文章だからかなり誤魔化されているのだと思いますが、この話が置かれた状況がかなり異常(事件そのものとかいう話でなく)で、「こんなことになるんかいな」と思わないでもありません。 |
No.349 | 5点 | 紙鑑定士の事件ファイル 模型の家の殺人- 歌田年 | 2022/07/06 17:05 |
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探偵役のキャラクターと模型の蘊蓄だけで保たせた、みたいな話に感じられました。肝心のミステリ部分が弱く、だから「このミス」は信用できないんだよなぁ(笑)。ライトノベルのレーベルで出したほうが読者を獲得できたかも。 |
No.348 | 6点 | 密室黄金時代の殺人 雪の館と六つのトリック- 鴨崎暖炉 | 2022/07/06 16:59 |
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皆様の書評通り、これは好き嫌いが明確に分かれる作品だと思います。何だか最近の流行りとして「ミステリなんてトリックが面白ければそれでいいんだから、難しいこと考えないで素直に楽しもうぜ」というものが感じ取られるのですが、そうであれば本作はまさに時代にマッチしたミステリといえます。トリックのためのトリック。密室殺人のオンパレード。中には実現性に大いに「?」が付くものもありますが、その気概は凄いです。
最後の大オチの密室トリックは、作者が定義した「密室を構成する15のパターン」のどれにも当てはまらない全く新しい密室トリック、としていますが、それを成立させるためには特殊な条件が必要不可欠で、非常に限定された条件下でしか実行できません。 こういうハウダニットを前面に押し出した作品の場合、どうしても「早く答え合わせが読みたい」という意識に駆られてしまうので、解決編に至るまでの道中が余程面白いものでないと、さっさと流し読みされてしまいかねません。そういう「謎と答えの繋ぎも読ませる」意味で、人間ドラマや血の通った登場人物というのはやはりミステリにも必要なのでしょうね。 以下、ネタバレ的な感想を。 「液体窒素万能説(笑)」 |
No.347 | 10点 | 忌名の如き贄るもの- 三津田信三 | 2022/07/06 08:52 |
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これこれ、これですよ! これこそ刀城言耶シリーズ、これこそ三津田信三。
本作の肝は、ラストで明かされる「ホワイダニット」にあるわけですが、これが凄い。少なくとも私はこのホワイダニットを初めて読みましたし、「どこかに前例がある」という話も今まで聞いていません。あれだけ古くからあるものなのに、今まで誰もそれをミステリのホワイダニットの要素として使おうとしてこなかったとは。やはり三津田信三、目の付け所が違います。 逆を言えば、大オチ以外はそれのための前座、みたいな読み方も出来てしまうわけですが、私はそれでも満足です。久しぶりにミステリで「叙述トリックに騙された」や「構成が巧み」といった以外の、「そういうことやったんか!」という正当な(?)驚き方をしました。 |
No.346 | 6点 | 碆霊の如き祀るもの- 三津田信三 | 2022/07/06 08:50 |
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「刀城言耶シリーズ」の集大成、いや、完結していないのですから、別の言い方をすれば「最大公約数」的な、手堅くまとめた佳作という印象でした。
ミステリとしてよく出来ているのは間違いないのですが、何かひとつ足らんのですよ。各事件のトリックを分割して短編集にしたほうが印象に残ったかも。 シリーズもそろそろ息切れを起こしてきたかな? と余計な心配をしてしまいました。次作長編『忌名の如き贄るもの』を読むまでは……。 |
No.345 | 4点 | 月下美人を待つ庭で 猫丸先輩の妄言- 倉知淳 | 2022/02/18 11:21 |
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さすがにブランク長すぎ?
不可解な謎と鮮やかな解決、そこに猫丸先輩のキャラクターが加わることで魅力を出してきたシリーズですが、今回は過去作品と比べると数段落ちます。もはや猫丸先輩のキャラだけで保っているような話ばかりになりました。 その猫丸先輩も、もうこれ以上キャラを広げようがないというか、完成されたキャラクターなので、シリーズを引っぱっていくには、謎と解決の魅力は絶対に必要なのですが……次(あれば)に期待ということで。 |
No.344 | 7点 | 蒼海館の殺人- 阿津川辰海 | 2021/12/27 19:56 |
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これはかなりの力作です。これだけのものをよくぞ書き切ったと、作者の苦労をねぎらいたくなる逸品ですね。
ただ「騙しとどんでん返し」に特化した最新鋭ミステリの暴走とでも言いましょうか、ある意味「トリックのためのトリック」に一周回って帰ってきている気がします。本作に限らず、ここ数年の新作ミステリ全般に言えることですが。 |
No.343 | 8点 | 硝子の塔の殺人- 知念実希人 | 2021/12/27 19:51 |
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年末のミステリランキングを席巻するかと思っていましたが、それほどでもなかったですね。審査員を務めるような人たちは、こういうのはあまり好きじゃないのかな?
「ベタベタな本格」にカテゴライズされるミステリを書いてこなかった作者ですから、各事件のトリックは正直、素人が考えたレベルのもの。ですが、それを逆手にとってこういう作品を書いてくるしたたかさが、プロのプロたるゆえんなのでしょうね。作中の、主に綾辻の「館シリーズ」をベタ褒めしているのも、トリックメーカーになれない作者自身のコンプレックスを表しているのかもしれません。 |
No.342 | 7点 | invert 城塚翡翠倒叙集- 相沢沙呼 | 2021/12/27 19:44 |
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前作はその性格からして、「世界一続編が出されるべきではないミステリ」だったわけですが、これだけの話題作の続編が刊行されないなどということがあるはずもなく、当たり前のように出ちゃいました(目次で「前作の結末に触れています」という注意書き付き)
SNSなどの感想を見ると、みな判で押したように「反転が凄かった!」と書いていますが、タイトルの「invert」は、「inverted detective story(倒叙推理小説)」のことで、本作がことさら「反転」を売りにしているというわけではないですからね。 それでも、前作で一皮むけた作者のこと、本作も高水準のミステリに仕上げ、「出されるべきでなかった続編」という悪名は払拭したかなと思います。 |
No.341 | 7点 | 鳥居の密室 世界にただひとりのサンタクロース- 島田荘司 | 2021/06/19 23:03 |
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久しぶりの島荘、そして御手洗! やっぱり好きだなぁ。出てくるだけでワクワクします。
本作のトリックについて、密室をどうやって作ったか、のハウダニットだけを取り出してしまうと、確かに、どうよ?となりますが(あんなこと、本当に起きるの?)、この話(トリック)の肝は、「どうして密室になったのか?」というホワイダニットにあります。そこに犯人の心情や、ある種の被害者であるヒロインの立場も絡んできて、そういう視点で読まないと、本作のトリックを味わい尽くすことはできないでしょう。作品からトリックだけを抜き出して語れないトリック、になっていますし、ミステリのトリックって、そういう使い方をするのが一番効果的なんだと思います。 |
No.340 | 6点 | 透明人間は密室に潜む- 阿津川辰海 | 2021/01/08 21:37 |
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特殊設定あり、法廷もの(?)ありと、バラエティに富んだ短編集なのですが、私は一貫性がなく「とりあえず書いたものをまとめただけ」という印象を持ってしまいました。作者はまだ若いのですから、それぞれのテーマごとの短編をもっと書かせて、一貫性のある短編集として出したらよかったのではないかと思います。表題作が明らかに浮いています。
この作者、「紅蓮館」がライトノベルレーベルの文庫で出て、本作はハードカバーですね。どういう扱いを出版社からされているのか、いまいち掴み切れません(個人的には逆がよかったと感じます)が、次世代の本格の旗手になる可能性は十分秘めていると思います。 |