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[ 社会派 ]
クサリヘビ殺人事件 蛇のしっぽがつかめない
越尾圭 出版月: 2019年07月 平均: 5.00点 書評数: 3件

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宝島社
2019年07月

No.3 5点 名探偵ジャパン 2023/01/08 15:13
 これはタイトルがよくないですよ。どう見てもガチガチの本格、かつ、副題からして、東川篤哉っぽいユーモアミステリと思うじゃないですか。だから「このミス」は信用できないんですよ(笑)。
 作品としてつまらないわけでは決してなく、確かに新人離れしたものがありますが、「これじゃない」という感覚が最後までまとわりついて離れませんでした。せめて「わざわざ犯行に毒蛇を使った理由」だけでもロジカルな答えが用意されていれば。
 最初から「社会派」「サスペンスもの」という気持ちで読めば、また違った印象、評価になっていたかもしれません。

No.2 5点 メルカトル 2020/08/30 22:45
動物診療所を営む獣医・遠野太一の幼馴染で、ペットショップを経営する小塚恭平が、自宅マンションでラッセルクサリヘビに噛まれて死んだ。ワシントン条約で取引を規制されている毒蛇が、なぜこんなところに?死に際に恭平から電話を受けて現場に駆けつけた太一は、恭平の妹で今は東京税関で働いている利香とともに、その謎を解き明かそうとするが、周囲に不穏な出来事が忍び寄り…。
『BOOK』データベースより。

帯に「これがデビュー作とは思えない」とありますが、逆に言えば新人にしてはよく書けている方とも取れます。よって、過剰な期待はしないほうが無難だと思います。滑り出しは「おっ、なかなかやるな」とは思い、その後の展開が期待できそうだと感じました。しかし、読ませる筆力はあるものの、これと言った新味を感じさせるような突出した個性はありません。そもそもクサリヘビでの殺害と云う、言わばプロバビリティの犯罪という不安定な殺害方法を取った理由が理解できませんね。それを言っちゃお終い、なのかもしれませんが、もう少し何とかならなかったものかと思います。

もう少し本格物に近い作風かと思いきや、「社会派」として登録されていたのね。これはやっちまったな、想定外の事態と言えそうです。私の期待を裏切って、なんとなく進行していくストーリーももどかしく、今一つ抑揚が感じられなかったのは残念な限り。やはりこれでは隠し玉止まりと言われても仕方ないでしょう。まあしかし、後味は爽やかさを残します、それだけは評価に値すると思います。

No.1 5点 人並由真 2019/09/13 15:13
(ネタバレなし)
 都内で祖父の代から獣医を営む30歳の遠野太一は、その夜、幼なじみのペットショップ経営者・小塚恭平からの着信で眠りを妨げられた。電話の雰囲気にただならぬものを感じた遠野は小塚のマンションに向かうが、そこで彼が見たのはワシントン条約で国際取引が禁止されている毒蛇ラッセルクサリヘビに襲われて絶命しかける親友の姿だった。遠野はやはり幼なじみで小塚の2歳下の妹、今は税関職員として動物の密輸事件にも携わる利香とともに、小塚の変死の謎を追うが。

 第17回「このミステリーがすごい!大賞」の「隠し玉」(受賞には至らなかったが、編集部の推奨を受けて推敲ののちに刊行される作品)。
 ワシントン条約違反、その延長にある動物虐待事件などを主題にした社会派スリラーで、下馬評(大賞選考時の講評や、Amazonなどでの刊行後のレビューなど)のとおり、400頁以上のやや厚めの物語をひと息に読ませるリーダビリティの高さには、新人離れした筆力を感じる。
 
 ペットショップで売れ残り、殺処分される動物の現実など、評者のような愛玩動物好きには読むのも辛い話題にも最低限触れ、ペットとの交流は心地よい事ばっかじゃないよと受け手全般に釘を刺す姿勢はまっとうではあろう。
(一方で、飽きた動物を身勝手に捨てる、よくいそうなタイプの飼い主の無責任ぶりには、ほとんど触れられない。その辺は、あまり説教の成分が多くなると読者が鼻白むからか?)

 それでミステリとしては良くも悪くも昭和のB級長編っぽい大味感があって、そこがお茶目で愛せるような、21世紀の作品でコレかよ、と言いたくなるような。

 とりあえず警察がかなり本格的に動き出した中、主人公を含む関係者を奇襲して事件に深入りするなという犯人側の行動もいささかアレだが、一回だけならともかく二回も毒蛇による面倒な殺人を行う犯罪者側の心理がなー。
 最後の真相暴きの段階で、この件に関するホワイダニットへの相応の回答があるのだと期待していたら、あまりにもスカタンでフツーでがっかりしました。

 犯罪の実態にもうひとつ奥があることはまあサプライズで良かった。
 あと、もうけ役ポジションキャラの運用に関しては、良い意味で赤川次郎的な読者サービス感を認めて、その辺は結構、キライではない。

 全体的になつかしい感じの、昭和40年代作品風の一冊。
 この作者の次作は、面白そうな趣向だったら、また読むかもしれない。


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越尾圭
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2019年07月
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