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[ 本格/新本格 ] invert II 覗き窓の死角 城塚翡翠シリーズ |
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相沢沙呼 | 出版月: 2022年09月 | 平均: 6.60点 | 書評数: 10件 |
講談社 2022年09月 |
No.10 | 6点 | E-BANKER | 2024/04/17 17:37 |
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大好評(?)の「城塚翡翠シリーズ」。今回はその第三弾ということで、翡翠の秘密の素顔も徐々に明らかになっていくという展開。自身の「美しさ」を存分に駆使しながらも正義感に燃える名探偵というキャラもだいぶ定着してきた。
単行本は2022年の発表。 ①「生者の言伝」=少し変わった設定ではある。別荘に不法侵入した少年が弾みで殺人を犯してしまったところに、偶然にも(!)訪れる翡翠とパートナーの真。人智を超えた名探偵VS一介の少年では、最初から勝負あったと思いきや、意外に粘り腰を発揮することになる。そして、ラストは意外な真相が目の前に現れる(ことになる)。でもまあ、なんかあると思うよね。じゃないと、あまりにも平板すぎるから・・・。ただ、トータルでは小品。 ②「覗き窓(ファインダー)の死角」=こちらが本命。中編でも十分に熱量のこもった力作に仕上がっている。途中でところどころ語られる翡翠のセリフも「想い」が詰まっていて、読者の心を揺さぶることになる。 事件は完璧なアリバイトリックを弄したカメラマンの女性(←変な表現だな)が相手。しかもアリバイの証言をするのが、何と翡翠本人というのが逆説的だ。当然、アリバイ崩しが大きなテーマとなるが、これが一筋縄ではいかず翡翠の前に大きく立ちはだかることとなる。今回、実は真の存在が事件の「裏のカギ」となっていて、これが旨い具合に効いてくる。序盤に撒いておいた伏線が一気に回収されていく刹那! これはかなりお見事。 以上2編。 たまたまだけど、ここのところ本シリーズと「福家警部補シリーズ」を立て続けに読んできた。別に「倒叙もの」が大好きというわけではないけれど、どちらも優れたシリーズになっていることは確か。ただ、探偵役が神格化されすぎると「つまらない」と思う私自身にとっては、翡翠は元々が神格化されているキャラなので、そこがあまり気にならないのが利点。 本作では、翡翠の過去や人間関係なども「いかにも曰くあり気に」仄めかされていて、次作以降の展開も気になるところ。 いずれにしても、本作は②だけで読む価値ありという評価。 |
No.9 | 5点 | いいちこ | 2023/11/09 19:38 |
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捻って着地も決まっているので、水準には達しているが、物足りなさが残る。
倒叙ミステリというジャンルそのものが、やや特殊な変化球であり、連投されると、どうしても目が慣れてくるというハンデはあるのだが。 いずれにしても世評ほどの傑作とは感じられなかった |
No.8 | 6点 | レッドキング | 2023/05/01 21:49 |
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城塚翡翠シリーズ第三弾。中長編2作の倒叙作組み合わせ。
「正者の言伝」侵入した別荘で刺殺犯となる少年の倒叙・からのドンデン返し。履物とバッグと雨のロジックに6点。 「覗き窓の死角」探偵を証人に利用した殺人アリバイトリックの解明と紛失宝飾品からの犯人特定。7点。 超美女にして「てへぺろこっつんさん」ブリっ子キャラの探偵ヒロイン。コロンボ「あと、一つだけ・」、古畑「ん~・・」同様、犯人サイドから倒叙されると、基本、ヒールにして鬼の嚇かし役になってしまい、酉乃初・マツリカに比べると、ちといただけないなあ、ヒスイちゃん。「殺人は絶対だめですぅ」倫理キャラ設定が失敗っだったんじゃないか。ま、好みの問題だけどネ。 |
No.7 | 7点 | take5 | 2023/04/23 07:32 |
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ここまでの評価で私を含め、
7人連続7点という安定の作品。 読んでいて常に ビジュアルが立ち上がる そういう点では名作。 作品の切れは前二作が勝る と感じますが、 描写がドラマ的漫画的で スラスラ読めます。 主人公の翡翠の家族関係が 最後少し書かれていますので 次回作品も期待します。 翡翠は古畑任三郎的な行動をとりますが、 キャラとしても似てるかも。 ※それにしても相変わらず本文横に打つ 、、、、、、強調する点が多いなあと。 |
No.6 | 7点 | 虫暮部 | 2023/01/19 15:06 |
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“なにもそこまで” と言いたくなる程エスカレートする翡翠のもえもえきゅんな言動。内面的にはゆるふわ感など皆無なまま、その “型” だけが研ぎ澄まされる萌え要素。物凄い作者の悪意を感じるなぁ。
『 medium 』と『 invert 』とでは、同じ描写でも読者の受け取り方は対極でしょ? 外面の菩薩(?)によって内面の夜叉をグイグイ突きつけて、その悪意を無理矢理読者にも共有させてしまう強引さよ。どんなにイラッとしても表層がコレだから嫌いになれないだろへっへっへ、と言う感じ。表紙イラストも写実的だし。 しかし、月刊アフタヌーンのインタヴュー漫画『もう、しませんから。~青雲立志編~』によると、相沢沙呼は “元々、漫画的、アニメ的な表現を目指してキャラ作りや物語作りをしている” とのことで、メディア展開に関してもノリノリなのである。すると単に自分が見たい場面を書いているだけかと言う疑いも浮上する。いや、創作への動機付けとしては充分アリですけど。 |
No.5 | 7点 | まさむね | 2022/12/12 23:22 |
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中編(生者の言伝)と長編(覗き窓の死角)の2作品で構成されています。
「生者の言伝」は、終盤の展開がいかにも作者らしい。「覗き窓の死角」は、むむむ、そう来たかといったところ(巧いことしてやられた感もある)。両作品とも倒叙ミステリとして良質、とは言えると思います。 一方で、これはシリーズ一作目の展開からやむを得ないのでしょうが、衝撃度という点ではシリーズを追うごとに減少しています。シリーズはまだ続きそうですし、自分としては、期待のステージを過度に上げず、質が確保された倒叙ミステリとして、ついでに城塚翡翠の過去の開陳も少しだけ期待しながら、次作を待つことにします。(ちなみに、個人的には城塚翡翠、あまり好きになれない…) |
No.4 | 7点 | 人並由真 | 2022/12/06 04:03 |
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(ネタバレなし)
シリーズ二冊目を未読のまま、こちらを読んだ。 それゆえ劇中に出て来る登場人物や固有名詞に、ところどころ摩擦感を抱く。まあ、その辺は間違いなくこっちがワルイ(笑)。 (ミステリとして楽しむ限り、二冊目をとばしても大きな問題はないと思うが。) 今回は、いろいろな意味で口当たりのいい前半の中編に比して、短めの長編のボリュームがある表題作は、けっこうヘビーな仕上がり。 最後の決着のつけ方は、コロンボの某編を想起した(←こう書いてもネタバレにはならないハズ)が、たぶん作者も意識しているとは思う。 デティルの矛盾や不審にいちいち突っ込んでくる翡翠に対し、それはこう解釈できるとひとつひとつやり返すゲスト主人公側の図はありがちな印象があるが、改めて記憶を探ると、これだけしつこくその趣向をやっている倒叙ミステリは、自分の読書遍歴のなかからすぐに思い浮かばない。そういう意味では、やはり丁寧に作られた秀作だろう。 ところで評者は現在放映中のテレビドラマ版を正編から「invert」編まで、ずっと観ている(ということでシリーズ二冊目の内容は先にそっちで知ってしまったことになる・苦笑)が、本書(『覗き窓』)の内容とあわせて、翡翠の<苦悩する名探偵>としてのキャラクターがどんどん際立っていくのがいささか意外。 いや、フツーのシリーズもの名探偵ならきわめて王道の流れではあるが、その王道を見せるタイプの主人公だとはついぞ思っていなかったので。 シリーズの先行きは期待半分、不安半分という現在の評者の気分だが、たぶんまちがいなく、作者は納得できる着地点を見せてくれるだろう。いつか。 しかし、これだけ翡翠の文芸設定、特に司法機関との関係性が匂わされると、割を食ったのは天祢涼の音宮美夜シリーズ(ニュクス事件ファイル)だなあ。最後の活躍からすでに5年、万が一来年あたり復活しても、「あー翡翠のマネしてる」と言われそうだ。いや、こっちの方がずっと先輩なんですが(笑・汗)。 最後に本書(『覗き窓』)の評点は、8点にしようかギリギリ迷った末の、この点数で。 |
No.3 | 7点 | 名探偵ジャパン | 2022/10/21 22:59 |
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「世界一続編が書かれてはいけないミステリ」の続編の続編が登場です。
もうここまで来ると、いたって普通の倒叙ミステリになってしまいまして、これはこれで出来が良いのですが、私は未だにもやもやしたものを払拭しきれません。 探偵役の翡翠がチート級に無敵すぎて、対決する犯人がかわいそうになってくるのは倒叙ミステリのお約束とはいえ、それでも「古畑」や「コロンボ」などは探偵役にある種の可愛げがあり、そこまで読者(視聴者)の反感を買いはしないのですが、本シリーズの翡翠は……。私はそろそろきつくなって来ました(笑) |
No.2 | 7点 | HORNET | 2022/09/24 20:45 |
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同性に嫌われ、友達がいない城塚翡翠。そんな自分に悩んでいた彼女についに友達ができた―。喜びはしゃいでいた翡翠だったが、その友達・江刺詢子が殺人事件の容疑者に。そしてそのアリバイを証明するのが、なんと翡翠自身だった。やっとできた友達を糾弾するのか、傷つかないために立ち入らないようにするか、悩む翡翠だった…(「覗き窓の死角」)
「生者の言伝」「覗き窓の死角」の2本立て。 ここまでくると、翡翠の「霊媒探偵」という設定はほとんど生きなくなっており、普通に物理的に推理を進める名探偵である。 1作目「medium」が、1回限りの渾身の仕掛けだったので、まぁそれ以降はこうならざるを得ないところはある。つまり、オーソドックスな正道のミステリとなるのだが、それとして読んでも十分に面白い。 2作目以降続く倒叙スタイルだが、「作中に示された何が手がかりとなって、どう真相にたどり着いたのか」を謎として提示する展開は堂に入っており、古畑任三郎ばりの演出も面白い。 今後は翡翠のキャラと演出を売りにしていくことになるのだろう(続くのであれば)。 |
No.1 | 7点 | 文生 | 2022/09/16 21:19 |
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150ページほどの中編と300ページ弱の長編の2本立て
中編の方は恒例の反転が炸裂。とはいえ、前2作と比べるとインパクトは弱め 一方、長編の方はアリバイ崩しがメイン。アリバイそのものは古典的なトリックですが、それを悟らせないミスリードがなかなかに巧妙。また、今まで犯人に対してマウントを取り続けていた城塚翡翠が今回初めて苦悩の色を深めていくのが印象的でもあります。 ミステリ部分はシリーズ中一番地味ながらも完成度は決して低くありません。謎解きと物語のバランスのとれた佳品です。 |