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[ 本格/新本格 ]
神薙虚無最後の事件
紺野天龍 出版月: 2022年06月 平均: 6.71点 書評数: 7件

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講談社
2022年06月

No.7 7点 八二一 2023/12/16 20:11
錬金術が存在する架空の世界で起きた密室殺人事件を描いた本書は、異世界の設定が明快で、論理遊戯を存分に愉しめるように仕上がっている。
ホームズとワトスンを演じる二人組もチャーミングだし、真相も映える。

No.6 7点 名探偵ジャパン 2023/10/09 23:04
 キャラクターも立っているし、事件そのものも面白いしで、とりあえず欠点が見当たらない佳作であることに間違いはないのですが、今の時代こういうのは供給過多というか。流行り廃りがあるので仕方ないことではありますが。
 本来この手のミステリは変化球だったはずですが、今やこっちが直球になりましたね。





※以下少しネタバレ※
 多重解決の中の「それじゃなくてあっちのほうが動く」というトリックは、「あっち」にいたほうの人が気付かないはずないだろ(笑)誰か突っ込んで下さい(笑)
 あと「鏡の厚さが1センチ」も、こちらのほうはあとで突っ込みが入るとはいえ、その時点で誰か「それはないやろ」と指摘して下さい。

No.5 6点 mozart 2023/10/08 20:07
冴えないキャラの主人公に何故か親しくしてくる超カワイイ女子、しかも名探偵であると。関係する主要キャラが美人揃い(主人公の「恋路」に加勢する一名を除いて)と。最近こうした設定のミステリーが多いように感じるのは自分の嗜好がそちらに向いているからなのでしょうかね。

(ややネタバレ)
作中作に××××××が使われていてしかもそのキモは○○○○であると。これも何か既視感ありまくりでした…。多重解決の謎解き部分はそれなりに面白かったです。

No.4 5点 虫暮部 2022/09/08 13:47
 想定内の材料でそこそこ器用に組み上げた、って感じ。悪い意味ではないが、こういうのは読み慣れちゃったなぁ。
 一つ大きな違和感が残る。そもそも計画内容がキャラクターと合っていない。事件がエンタテインメントとして大衆に受け入れられるのは人死にが無いからだ、と計画者は充分認識していただろうに、と言うこと。焼け跡に死体を残さないシナリオにするのが自然では。

No.3 8点 人並由真 2022/07/20 07:02
(ネタバレなし)
 東雲大学の広報サークル、別名「名探偵倶楽部」に参加する「僕」こと薬学部二年生の瀬々良木白兎(せせらぎはくと)は、同じ大学の一年生、御剣唯に出会う。その彼女が持ち込んできたおよそ20年前に刊行された書物「神薙虚無(かんなぎうろむ)最後の事件」。そこにはいまだ解明されぬ謎が秘められていた。そして。

 敷居が高そうかな? と思いながら手元に置いておいたが、メルカトルさんのレビュー(意外に軽いタッチ、後半でヒートアップなどのご主旨)に背中を押されて、イソイソと読み始める。
(あと、くだんの小説版『スパイラル』を未読でも大丈夫、というのにも安心させられた。ありがとうですw)

 ……いや、とても良かった&面白かった。現在まで読んだなかでの、今年の国内新刊ベストワン。

 過去の事件の方は存外にシンプルだが、推理合戦の多重解決ものとして必要十分なレベルではある(そのほかにも、なぜ? どうやって? などの謎は山のように多いし)。
 一つ目の意外に堅実な推理と二つ目の(中略な)推理、その二つの並び順でのコントラストもイイです。仮説を語るキャラクターとのマッチングもうまく演出してあると思う。

 最後の大ネタはその手で来るか、という正直な感慨であったけれど、それがすんなりと心地よく受け入れられる辺りも本作の持ち味であろう。この辺は(中略)の趣向を巧妙に作劇に溶け込ませた文芸の勝利だね。

 評点はとりあえずこの点数だけど、一瞬二瞬、何回かもう一点つけようかとも本気で思った。本作の総体の印象を語るとある種のネタバレになりそうなので控えるが、とにかく(中略)謎解きミステリの優秀作。

 もちろんシリーズ化は「名探偵倶楽部シリーズ」の公称のもとに期待しております(これなら、特にネタバレになってないであろう)。

No.2 8点 メルカトル 2022/07/18 22:45
活殺自在に読者を手玉にとるミステリセンス ーー辻 真先
多重推理の果てに現れる新たな景色 ーー麻耶雄嵩
虚構であろうと虚無ではなく。虚無ではなく。ただ、万雷の喝采を ーー奈須きのこ
読み進めるうち、この謎に本気で挑戦せずにはいられなかった ーー今村昌弘
論理遊戯【パズラー】生まれ、戯言拳闘【メフィスト】育ち。擦り切れ方を忘れかけた、ぼくらのための物語 ーー青崎有吾
名探偵の信念と贅沢な趣向。これは、懐かしくも幸福な玩具【おもちゃ】箱だ ーー阿津川辰海
何と技巧と細工に満ちたデラックスな探偵小説世界か ーー城平京
粗削りながら燦然と輝きを放つ才能の原石。瑞々しく魅力的な多重解決ミステリをご堪能あれ ――知念実希人
Amazon内容紹介より。

ハードルを思い切り高くして読み始めたところ、意外にも軽いタッチにやや拍子抜けしました。全てに於いて予定調和的で、大時代的な面もあり、どこかで読んだような既視感と余りに型に嵌ったそのスタイルに鼻白む私でした。作中作は全てが掲載されている訳ではなく肝心なところだけ抜粋されていますが、推理を展開させるに十分な手掛かりが揃っています。しかし、これも又密室とは言え地味な事件であまり魅力的な物とは言えませんでした。

ところが解決編、つまり多重推理の件に入って一気にヒートアップします。これですよ、これ。これを待っていたんです。随所に新本格を彷彿とさせるトリックや趣向なども盛り込まれ、大技小技を駆使して各々の推理がそれなりに説得力を持って解決を見ます。中にはそれはかなり無理があるだろうとツッコミを入れたくなる部分もあります、その辺りに粗さが隠しきれないことは確かです。それでもこのジャンルに於いて優れた作品の登場であることだけは間違いないと思います。

それにしても来栖さん可愛すぎ。その、時にさり気なく、時にあからさまな瀬々良木君への密かな想いに気付かない彼の鈍感さはお約束なのか?
まあそれはそれとして、是非シリーズ化を希望します。そして今年の各種ランキングへの上位喰い込みを願っています。

尚、鋼鉄番長の件は城平京の『小説スパイラル 推理の絆2』を読めば本作との共通点が分かります。多重推理だけではない事にも気づくでしょう。因みにどちらを先に読んでも問題ありません。

No.1 6点 フェノーメノ 2022/06/21 21:14
2012年のメフィスト賞座談会に掲載されたものの受賞を逃し、その後第29回鮎川哲也賞の最終候補になったもののまたも受賞を逃した作品(ちなみに受賞作は方丈貴恵「時空旅行者の砂時計」)。
なぜ今になってこの作品が日の目を浴びることになったかは、本作のプルーフの表紙を参考されたい(Twitterで検索すれば画像は出てくる)。

「麗しの鋼鉄番長にこれを捧ぐ」というエピグラフからも、スパイラルの小説版第二作「鋼鉄番長の密室」に強い影響を受けていることが窺える。
ただ「鋼鉄番長の密室」は、熱き番長の時代とかいう突拍子のない過去話の、スパイラル世界からは乖離したギャップが面白いのであって、主人公の身近に名探偵が存在する世界で「名探偵と怪盗の対決」を「番長」の位置にすげ替えたところで、同じ面白みは味わえないだろう。
「鋼鉄番長の密室」の歩と本作の主人公は荒唐無稽な過去の出来事に対して同じようなリアクションを取るが、しかし本質の部分では全く似通っていない。
本作の場合、主人公のすぐ身近に非現実的名探偵が存在するのに「名探偵と怪盗の対決なんて非現実的だ!」といくら慨嘆させたところで、空々しいだけだ(そもそも主人公自身名探偵倶楽部とかいういかがわしいサークルの一員だ)。
スパイラルの主人公・鳴海歩が「こんな漫画みたいな番長たちが覇を競っていたなんて非現実的だ!」と嘆くのとは全然違う。スパイラル自体かなりファンタジーな作風だが、しかしアナクロニズムなバンカラの放つ男臭さとは無縁であり、そのギャップこそが面白かったのだ。本作は形ばかりを真似して、本質部分を理解できていないように思う。
そもそもこういうギャップを生み出す手法は、スパイラルがシリーズ物だったからこそ可能だったわけで、オリジナルの単発物でやることではないだろう。

ミステリとしても力作だとは思うが、あまり好みではない。こういういくつもの解釈を生む作品はどうしても事件自体を曖昧にせざるを得ないため、一つ一つの推理に対して想像が占める幅が大きくなるが、個人的にはもっと一つの推理を詰めている作品のほうが好みだ。また、真相部分に関しても今ひとつ納得しきれない面もあった。

注)「鋼鉄番長の密室」に関しては昔一度読んだきりなので頓珍漢なことを書いているかも知れませんが悪しからず。


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