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ミステリーオタクさん
平均点: 6.99点 書評数: 186件

プロフィール高評価と近い人 | 書評 | おすすめ

No.186 6点 久生十蘭短篇選- 久生十蘭 2026/08/06 21:09
 いわゆる戦後と言われる時期を中心に書かれた15の物語からなる短編集。   

 時代、世紀の隔世のため仕方ないが、とにかく読みにくい。とにかく言葉が古い上に地の文でも会話でも訳の分からない表現をこねくり回してくることが多いし、意味不明の単語が連なっていることも多い。誰が何を言っているのか分からないこともあるし、何を言いたいのか分からない文節も多い。神視点だと思っていた地の文が突然一人称表記で語られることもある。文字使いでも「これは誤字か、それともこういうものなのか」と迷わせられるものが少なくない。また「〜楼での料理は一人前四百円についた」と言われてもどれほど高額なのか分からない。真面目に書いているのかふざけているのか判断がつきかねる所も多い。
 が、半分古文を読むが如く文字通り時を超えた不思議な別世界的な感覚や幻想性を味わうこともできた。酷い話もあったが、心に灯がともされるような話もあった。
 とは言っても個人的には1ページ毎に眠気に襲われるような読書だったが。不眠症の人にオススメ、なんてね。

No.185 9点 マスカレード・ホテル- 東野圭吾 2026/07/29 08:21
映画も素晴しかったてす。
ご冥福をお祈りします。

No.184 6点 君のクイズ- 小川哲 2026/07/23 22:48
 この本は結局3冊買った。
 1冊目は読み始める前に電車内に置き忘れた。
 2冊目は間違えて単行本を買ってしまった。当然ポケットに入らないので自室に放置となる。
 いずれもエチルアルコールのせいで流石にこれ以上買う気力は失せていたが、個人的にこの手の評判の本は諦めきれず断腸の思いで3冊目を購入。

 
 東大の学部生時代、殆ど講義に出席せず(そのため何度か留年したらしい)ひたすら本を読みまくり岩波文庫の全ての本の読破を目指したという作者が、たった1問のクイズを軸に描くクイズのトッププレイヤーの世界。
 
 主人公の心情描写やクイズテクニックの説明やクイズ論などではちょっとクドいかなと感じるところも少なくなかったが、主人公や相手の人生なども掘り下げられ濃厚な物語になっている。
 しかし本作の「最終解答」はいかがなものだろうか。これでカタルシスを得られた読者がどれ程いるのだろうか。
 これだけ緻密で膨大なクイズの話が続くのだから当然「どれ程の驚くべき解答が用意されているのだろうか」と期待を抱かずにはいられなくなるわけだが・・・

 またクイズ問題に関わる、主人公の様々な思い出話も語られるが個人的には「アンナ・カレーニナ」の話が印象的だった。というのも自分が子供の時にもこの本が家にあって、そのタイトルから「アンナ、華麗にな」などと主人公の創作に比べるとチットも面白くない文句を思い浮かべたりした記憶があるから。

 「最終解答」がどうであれ、非常に読みやすい文体だったし読んでいる間は楽しかった。また段落分けや行間スペースの「開き」をマメに設定してくれていたのでコマ切れ読みが多い自分としては更に読みやすく助かった。



 ・文庫用付録 書き下ろし短編《僕のクイズ》について
 
 テラーチェンジでの本編のエピローグ。
 実社会におけるあるクイズが本編のあるテーマと絡めて語られる。
 なくてもいい気もするが悪くはない。

No.183 7点 早朝始発の殺風景- 青崎有吾 2026/07/11 17:41
 千葉県の北西部の南東部〜北東部の南西部が舞台となっていると思われる短編集。
 海浜幕張以外は全て架空の地名で特にモデルとなっている地域もないものと思われる。

 《早朝始発の殺風景》
 いきなりの変な名前登場に驚きと失笑。そんな名前の奴いるわけねぇ。
 本作は始発電車内での小さな推理合戦。ロジックに漏れやスキップがなかったかは分からないが悪くはない。

 《メロンソーダ・ファクトリー》
 いつも一緒の帰宅部女子高生3人組。
 いつものようにファミレスに寄って安いセットをオーダーするが、この日はクラスから任された学園祭のTシャツのデザイン会議となる。しかしなぜか意見が食い違い、次第にそれが深刻な問題であるかのような様相を呈してくる。
 一体何なんだ、この話は、と思って読み進めるとやがて・・・・
 なるほど、そういうことだったのか、やられた。
 このネタは初めてではないが巧く使われている。気づけなかったことは少し悔しい。

 《夢の国には観覧車がない》
 このランド、本当にこの場所にできてほしいと一瞬思ったが、メッセでゲームや車などの人気イベントがある日の周囲の凄まじい渋滞を思い出してすぐにその思いは打ち消された。あとその天候でその高さならスカイツリーも富士山も見えるって。
 そんなことはともかく本作も前2作に続いて Why? がテーマになっていく。前作では解答提示と同時にあっと驚いたが、本作では提示の少し前に読めた(殆ど読めたことにはならんがね)。
 最後は正直少しキモ。

 《捨て猫と兄妹喧嘩》
 この話の推理過程もよくできているとは思うがメインの手掛かりのシーンの情景描写がやや頭に残りにくかったことやその他の手掛かりも少し説得力が弱く感じられたことなどからカタルシスは幾分低めの印象になった。

 《三月四日、午後二時半の密室》
 卒業式後の2人の同級生の話だが、ぎこちない会話や行動が延々と続く。一体いつどんなミステリになるのかと思いながら読み進めていくと最後から10ページ位のところでそれは始まる。
 しかしこのメインの手掛かりは粗探しっぽいし、読者が事前に気づくことはまずあり得ない。ネタも含めてミステリとしては前作以上にカタルシスが少ないが、本作ではミステリはオマケのようなもので、描きたかったのは対照的と思われていた2人の女子高生そのものだったのだろう。
 最終作に相応しい話と言えると思う。

 《エピローグ》
 まぁ方向性は予想どおり。
 

 とにかく話の内容も文体も軽くて読みやすい(重い内容も少しあったが)。
 この作者の本はまだ数冊しか読んでないが、発想の豊かさという点ではミステリ作家の中でもでも多分トップクラスなのではないかなと感じた。

No.182 8点 地雷グリコ- 青崎有吾 2026/06/30 21:36
 今月、この短編集の文庫が販売開始になるという情報を入手したので発売日前に予約してゲット。
 1144円! 単行本と間違えたかと思った。
 収録作品は全て「ゲーム」だと聞いていたが・・・

 《地雷グリコ》
 ルールは至極簡単だが本書の主人公である女子高生、射守矢真兎と、対する頭脳明晰な生徒会役員の「読み合い」が深すぎてよく理解できないところもあった。が、ゲームの最後は痛快。

 《坊主衰弱》
 個人的には表題作より面白かったかな。
 ミステリ的要素もよくできていたし。
 ゲームの最後は痛快、かつ笑った。

 《自由律ジャンケン》
 この話のプロローグで初めて真兎が語り手となる。
 そして本編では一風変わった生徒会長(実はウチの娘も・・自慢してゴメンナサイ)との対決。
 半分位のところでゲームの進行具合の割に残りのページ数が多いなと思ったがゲームの最後、というよりその直後に明かされる決定的なタネ明かしは爽快そのもの。缶コーヒーの使い方がお見事過ぎる。
 ただその後の説明がちょっと長かった。
 しかもそれだけでは終わらなかった。次話へ続く。
 
 《だるまさんがかぞえた》
 ベールに包まれた超エリート校の生徒会役員との対決。
 これもシンプルかつ綿密(意味深)に作られたゲームだが、開始直後の「彼」の顔、振り向いた瞬間の顔とその後の変化を想像すると笑ってしまう。もう一人の「彼」の耳はふざけ過ぎだが、おかげで真兎の「字」にも笑えた。
 ゲームの最後はここまでで最も驚かされるものであったが、カタルシスはやや低めだったかな。
 真兎の最後の一言「雨季田絵空をつれてこい」が静かに強烈に響く。

 《フォールーム・ポーカー》
 そして最強の敵、前話の超エリート校の生徒会の切り札にして真兎の中学時代の友達、雨季田絵空との対決が絵空事ではなくなる。ページ数も130を超える。
 ポーカーは子供の頃から好きだったので目次を見た時からこの本編最終話は楽しみだった。
 ゲームはオープニングこそ静穏だが第1セットの終わりから波乱が生じ、今までの4話とは異なりゲームの趣旨を外れた「死闘」の様相を呈してくる。
 しかし絵空の最早ゲームとは言えない犯罪行為は決して許されるものではない。真兎も犯罪ではないもののかなりヴァイオレントな手段に出る。次第に何でもありの無法ゲームと化していくかの如く。
 そしてゲームの最後は・・・ついに射守矢真兎が・・・

 《エピローグ》
 そして新たな変なゲームへ。


 全て面白そうな頭脳ゲームなのでやってみたい気もするが、現実にできそうなのは坊主衰弱ぐらいかな。他の4つもできなくはないだろうが、いずれも頭のシッカリした審判が必要なのでその辺りがネックになりそう。

No.181 7点 マザー・マーダー- 矢樹純 2026/06/15 21:20
 漫画原作者でもある作者の多分5作目のミステリ短編集。

 《永い祈り》
 経済的に追い詰められた主婦の物語で所謂「イヤな話」の様相を呈するが読み止まらず。
 ただ女性心理には理解しづらいところもあった。オチもやや唐突の感があるがインパクトが大きく、少し不可解だった夫の言動も明確になる。エンディングもこの作者らしい作品。

 《忘れられた果実》
 この話も家族や夫婦やお金の問題など第1話とかぶる要素が多く(同じ脇役が登場したりもする)、意外性や捻りも十分だが第1話に比べるとややパンチが弱く、無理感が大きい。
 蛇足だが看護助手が患者のマッサージをすることなどあり得ない。

 《崖っぷちの涙》
 前2話とはガラリと変わって自立支援施設に勤務する主人公達の物語だが、ここでも前2話の脇役が登場、いや、この話では脇役ではない。
 ただこの話はどうもよく分からないところがいくつかあった。が、最後のサプライズがそれらの怪訝を払拭するに余りあった。

 《シーザーと殺意》
 再び母と娘の物語。
 で、「あの人物」の名前が語られた時は「出たーっ」という感覚に捕らわれる。
 そして事件の検証、推理と解決編。
 真相とあの人の人物像は自分の想像など微塵も掠らない遥か遠いところにあった。

 《Mother Murder》
 文字通り「まとめ」の作品だが動機が心情的にイマイチ理解できない。「それ」で殺すものだろうか。
 また結末は皮肉にもタイトルに包括されている。

 
 グッドエンド、バッドエンド、どちらとも言えない話が混在し、勿論全て最後まで全く分からないヤギジュン色全開の一冊。

No.180 7点 あなたが選ぶ結末は- 水生大海 2026/05/28 21:19
 作者の一番最近の短編集・・・多分。
 個人的には3冊目。
 
 《俺の話を聞け》
 ある人物の不審死に関して関係者たちがインタビューに答える形でのコメントを連ねながら真相に迫っていく形式(貫井徳郎の「愚行録」の形式、だったかな?)のストーリー。
 読みやすい上にどんどん好奇心を掻き立てられていくので読み止まらない。ただ結末は・・・・なるほど、本書のタイトルはそういう意味なのか。

 《二週間後の未来》
 コロナ禍を背景にした、ある会社内での恋愛、セクハラ、パワハラに絡むエピソードたが、何ともダラダラした感じで第1話に比べるとリーダビリティ、スピード感が著しく劣る。まぁ結末は本書の作品としては悪くないが。

 《それは財布からはじまった》
 オープニングは財布の掏摸とじじい、ばばあの応酬。そしてそれがきっかけで始まる婆さんと婆さんにつきまとう保険外交員の楽しい攻防戦・・かと思いき・・

 《きみのための探偵》
 映画「卒業」の有名なシーン(自分は見ていないがそのシーンのことは知っていた)の再現で幕を開ける探偵もどき物語。
 途中で変な小叙述が使われていたりもするが、最後の方は話がよく分からなかった。

 《真実》
 う〜ん、最終話そう来たか。これは完全に想定外。
 そして最後の最後、これは予想通りと言うべきか、予想外と言うべきか。


 本書は本書の前に読んだ作者の短編集「最後のページを捲るまで」のテイストを踏襲しているが、更にその前に読んだ「ランチ探偵」はまるで別人が書いたかのような短編集だった。
 漫画家から本格ミステリ作家への変遷と言えるだろうか。

No.179 8点 罪の棲家- 矢樹純 2026/04/28 21:33
 短編集「夫の骨」の表題作で日本推理作家協会賞短篇部門を受賞した作者の多分一番最近の短編集。

 《裏山》
 いやー、全く思いもつかない展開。しかしいくら何でもこれはあり得ないだろう。でもこんなことを思いつけるのは裏山しい。

 《ずっと、欲しかった女の子》
 これも全く読めないオチだがチョットねー。

 《嘘つきと犬》
 これも意外なネタがあるが、前2作に比べるとパンチが弱い。
 変な話(全作そうだが)だけど何か寓意があるようにも思える話だった。でもそれが何かは分からなかった。

 《吸血鬼の⬛し方》 (⬛には「ころ」と仮名がふられている)
 前3作とは打って変わってスマホアプリの戦略ゲーム真っ最中で幕を開ける。
 自分はゲームやSNSにはあまり強い関心がないので途中はイマイチ乗れなかったが、読み終わってみればよくできたミステリだったし、面白い作品だった。

 《三年目の帰還》
 田舎の農家の話かぁ、と少々気が重くなるのを感じながら読み始める。
 事が起こってからも眠気(睡眠不足のせいもあるが)と戦いながら物語を追っていく。そしてメイントリックが明かされた時に・・・覚醒。そうきたか。多少は◯◯だろうとは思っていたがそこまでとは。
 トリックだけでなくこの話もまた読み終わってみればなかなか味のある話だった。  
 
 《運命の天使たち》
 途中までは割と平凡ミステリかなという感じで終盤に唐突に別件が出てきたりするが、流石にそうそう鋭い作品ばかりは続かないかと思っていたら・・・

 《罪の棲家》
 ここまでのミステリとしてのレベルの高さから、表題作にして最終話の本作には当然大きな期待を抱いてしまう訳だが・・・まぁ、ある意味最終話らしいと言えるのかもしれない。
 

 これほど「殆ど」の作品で驚きを感じた短編集は本書以外には殆ど記憶にない。しかも読みやすくて話が巧い。
 この作者の短編集は多分3冊読んだと思うが、自分的には現時点での国内の短編ミステリにおいて法月綸太郎と並ぶ最高の名手。ロジックのノリリン、意外性のヤギジュンという印象。

No.178 6点 死の絆 赤い博物館- 大山誠一郎 2026/04/09 22:12
 「赤い博物館」シリーズ第3弾。

 カバーの表紙の顔イラストはこれぞ緋色冴子(館長にして本シリーズの探偵役)という雰囲気がよく出ていていいねぇ。
 「実はコレは館の掃除のおばちゃんです」なんてことはないよな。

 《三十年目の自首》
 その男はなぜ三十年前の殺人事件の自首をしてきたのか。そしてそれは真実なのか。
 ・・・こんな動機もありますよ、という作品。
 いろいろなwhyを考え出すのはこの作者の特長の一つ。だがこのトリックはいくら何でも成功しないだろう。警察がそこまで間抜けとも思えない。

 《名前のない脅迫者》
 これも発想は作者らしいと言えばらしいが、食事の手がかりの話など殆どの人は知らないだろうし、動機もそこまでする程のものとは納得できない。

 《三匹の子ヤギ》
 これもよくできているとは思うが、いろいろ緻密過ぎて冴子の説明についていくのに少し疲れた。

 《掘り出された罪》
 これが一番作者「らしい」作品かもしれないが、推理はぶっ飛び過ぎ。例えば「体質」に関して「・・かもしれない」と思いつくことはあっても「・・だ」と断定する根拠は全くない。
 まあ、この辺りも作者らしいと言ってしまえばそれまで、意外性のためには多少の非論理性は厭わない。

 《死の絆》
 表題作に相応しいなかなか突き抜けたストーリー。
 「思いつき」が「推理」になってしまうのは相変わらずだが、それはもういい。
 しかしこのケースで警察が「真実」に辿り着くことは難しかったとしても当時の関係者の身辺、行動を徹底的に洗えば犯人に辿り着くのはさほど困難ではなかったのではないだろうか。捜査に3万人動員しても犯人に至らなかったというのは少し不思議。

 《春は紺色》
 最後は冴子と同期の警視正の回想話。
 しかし起こる事象の数々はムニャムニャしているし(後から思えば)矛盾しているとしか思えないものもある。そしてそれらから真相への想像はテレパシーでもなければ思いつくことさえできないレベルの代物。

 テレパシー?
 そうか、緋色冴子はテレパシーができるのか。そう考えれば本書の作品の大半の解決編に納得がいく。あの世の人とのテレパシーもできるとすれば全てに納得がいく。

 作者はあとがきで「版元の許しがあれば今後もこのシリーズを続けていきたい」と述べているが、そうなったら自分も手に取り続けることだろう。

No.177 7点 サクラオト- 彩坂美月 2026/03/25 21:38
 四季それぞれを舞台にした情景描写豊かな6つの作品からなる短編集。

 《サクラオト》 春
 面白い心理ミステリだと思うし、理屈づけも共感はできないがよくできていると思う。大筋は途中で見えるがエンディングは・・・・どうだろう。

 《その日の赤》 夏
 この話の姉弟と近い年代の姉弟の子供がいる自分には結構来るものがあった。

 《Under the rose》 秋
 いわゆる「同窓会モノ」と言っていいと思うが、これはちょっとねー・・・あり得なさすぎる・・ここまでのある話と共通するものだが、これがこの作者の感性であり永遠美学なのだろう。

 《悪いケーキ》 冬
 これもねー、まぁ何というか「推理」小説とは言えないが、極めて根拠の乏しい思いつきとそれに合わせた御都合展開で娯楽小説としては悪くない。

 《春を掴む》 春 
 これは・・う〜ん・・・・手の温もり・・
 子供時代の話が終わった時、残りの長さが怖かった。

 Extra stage 《第六感》
 なるほど・・・そういうことか・・
 相変わらず推理はかなり強引だがよく練られてはいる。


 第五話まで全て・・・おっとこれ以上は言わない方がいいだろう。

 良くも悪くもこの作者の、先行きの不透明感が強く、心理的にややエキセントリックに感じられるエピソードも多い上で、非常に読みやすい独特の作風が味わえる短編集だと感じた。
 

No.176 6点 アミュレット・ホテル- 方丈貴恵 2026/02/20 22:56
 作者の第一短編集・・・のようだ。
 
《Eqisode 1  アミュレット・ホテル》
 うーん、これは上手い。決して斬新ではないいくつかのトリックの組み合わせによって完全に幻惑される。
 しかしこのホテルは退職していく人をどうするのだろう。

 《Episode 0  クライム・オブ・ザ・イヤーの殺人》 
 確かにこれはEpisode 1の前に置くわけにはいかない。
 エレボス、ウーティス・・・まさにEpisode 0

 《Episode 2  一見さんお断り》
 話としては面白いと思うが、少しややこしくて分かりにくいところもあった。

 《Episode 3  タイタンの殺人》
 太田夫妻でも出てくる・・・わけねぇだろ
 この話もよくできているが、個人的にはやはり技巧に走り過ぎている感が否めずあまりカタルシスが得られる内容ではなかった。
 それに揃々全編を通してのこのあまりにも非現実的な犯罪業界の構図が鼻に付いてきもした。


 この作者の本は2冊か3冊しか読んでいないが、いずれもミステリとしての内容が文体も含めて極めてハードで骨っぽいので、作者は乾くるみや北村薫などのように実は女性っぽいペンネームの男性ではないかと疑うに至り、検索してみると・・・紛うかたなき女性でした。可愛らしくてチョット気が強そうな感じの。

No.175 10点 十角館の殺人- 綾辻行人 2026/02/02 11:26
huluで実写版を見ました。
お見事でした。

No.174 8点 幸福な生活- 百田尚樹 2026/01/19 21:00
 現在参議院議員にして日本保守党の代表が作家時代に著した短編集の一つ。

 《母の記憶》
 阿刀田高やらなんやらで似たような感じのネタがあったような気もするが、より巧妙に伏線を張って最後にキッチリ落としてくれる。

 《夜の訪問者》
 これは出だしから笑えた。途中も笑いまくり。オチはやはり一昔前のショートミステリっぽいがラストの味つけは悪くない。この最後の一行の作者の意図は分からないが、自分はやはり笑ってしまった。

 《そっくりさん》
 これは一見無関係に見える「二つのテーマ」の組み合わせ方が実に上手い。

 《おとなしい妻》
 まぁこれは途中から大体見えるよね。これも最後は驚くというより笑ってしまう。

 《残りもの》
 これも早々に前話と類似パターンだなと気づく。男女入れ替えバージョンで。でも落とし方が凄いので驚いてから笑ってしまった。社会的にあり得ない話だけどね。

 《豹変》
 三話続けての同系統と言えなくもない。これもオチは読みやすい上に前二話に比べるとバンチが弱い。

 《生命保険》
 これもとても面白いストーリーだが流石にミステリ慣れしていると、途中で完全に読めてしまう。

 《痴漢》
 あまり好みではないタイプの話だと思いながらも止まらず読み進めると・・・・

 《ブス談義》
 まぁ何というか、プロットはともかく途中バカバカしくて笑えたのでよし。

 《再開》
 終盤でオチは見えたがこのパターンは好きではない。少なくとも本短編集ではやめてほしかった。

 《賭けられた女》
 ん? これはどういうことだ? よくわからん、と思って極めて珍しく再読して自分なりの一つの解釈を得ることかできた。「あの手法」だな、と。
 ここに出てくる作家先生はご自身がモデルかな? 百田先生。

 《雪女》
 二話前の「再開」同様あまり好きなパターンではないが、コレは落とし方が上手いし味のある話なので嫌いではない。 

 《ビデオレター》
 これは終盤にジワジワとネタが見えてきて最後の一行のオチはないが、なかなか面白い独白録。でもそこまでするかあ、という感じ。そもそもが対等の取り引きみたいなものじゃないのか。

 《ママの魅力》
 かなり物騒な話ではあるが、人間の闇を描いた作品だらけの本書の中では一番平和な話と言えるかもしれない。被害に会われた人や◯には申し訳ないがこういうのは楽しくて好み。

 《淑女協定》
 これは半分位で概ね読めるが、とにかく笑える。いい加減で節操がなさ過ぎる大人達に。

 《深夜の乗客》
 いかにもありふれた怪談風に展開するが、いくら何でもそんな今どき子供騙しにもならない話は書かないだろうと読み進める・・・・・ちょっと中途半端かな。

 《隠れた殺人》
 これはミスリードも効いた、なかなかの◯◯◯系ミステリだが個人的には最後の一行をその数行前の内容と入れ替えた方がより効果的だったと思う。 

 《催眠術》
 これも最後の二行を何とかページを捲った最後の一行にまとめられていたらより面白かっただろう。

 《幸福な生活》
 う〜ん、最後そうきたか・・・パターン的には珍しくない。


 以上全19作品。
 マイベストは第3話「そっくりさん」
 次点は第14話「ママの魅力」
 三位 第8話「痴漢」
 四位 第5話「残りもの」
 五位 第1話「母の記憶」

 殆どの作品が非常に読みやすくて面白くて、それでいてドンデン短編の教科書のようなストーリー集に仕上がっている。しかも殆どの作品でラストはページを捲ったところに衝撃的な最後の一言が用意されている構成は見事という他ない。

 そしてこれだけストーリーメイク力と文章力と豪気さとユーモア(おふざけ、バカバカしさ)を自在に使い回すこの作品集の中に、数多の奔放な発言やツイートにより無数の反発やトラブルを引き起こしてきた作者の人間性の一端を垣間見たような気がした。

No.173 7点 神様の次くらいに- 久住四季 2025/12/24 23:02
 「ミステリの祭典」にご参加、ご閲覧の皆さん、メリークリスマス。
 イヴの今宵、如何お過ごしでしょうか。
 私はたった今、この「神様の次くらいに」を読み終えたところです。というか何とか今日中に読み終えようと気合いで完読しました。
 サブタイトルも穏和なこの短編集ですが、甘く見ると結構やられますよ・・・

 《さくらが丘小学校 四年三組の来週の目標》
 うーん、平和でいいねー。
 それでいてミステリとしてもなかなかの構成。
 少し早熟な子供達、そして若き成田先生の今後の成長も楽しみ。

 《ライオンの嘘》
 おっとソレを使ってきたか。ちょっと笑っちゃうけどまぁ高校生の心理を上手く利用したということで許せる。
 そして密室トリックにはもっと笑っちゃうよね。殆ど漫画。
 ここまでくれば最後のダメ押しにはさほど驚かない。

 《神様の次くらいに》
 家電量販店のオープニングセールに突撃する若い男女の話だが、延々と開店前の待ち時間でのシーンが続く。一体いつどんな事件が起きるのかと読み続けると折り返しを大分過ぎた辺りで「ある事」が起きる。そして伏線もしっかり張られている。
 この物語の季節は夏だが、今の時期に読んだ私には作者からのクリスマス・プレゼントになった。

 《小さいものから消えよ》
 ここまでの3話とは異なり「普通の人」とは言えない有名なタレント探偵と作家であり本編の語り手でもあるその助手(と言うと本人は怒る)が図らずも探偵役となる。
 しかしこの話はチョットねー。
 核になる発想は面白いとは思うが、かなりの専門知識がなければ推理のしようがない。まぁミステリというより「そんなこともあるんだ」というお話として読めばいいのだろう。

 《デイヴィッド・グロウ、サプライズパーティーを開く》
 最後はアメリカン・ホームバースデーパーティーが舞台の少しリッチなコジャレタ・ミステリ。
 前半ではパーティーへの招待、準備、更に会のオープニングからイベントの進行が描かれる。
 そして主役が参加者達からのプレゼントを次々と開示する場において最後の一つをリヴィールした時に「事件」がエクスポーズする。
 私はすぐに「犯人」を確信したのだが・・・
 後半ではパーティーは語り手の探偵ショーと化す。しかし前話同様推理には一般常識とは言い難い知識が持ち出されるし推理過程においてもコジツケっぽさが少なからず感じられた。それでも一筋縄ではいかない意外な展開は流石だったし、パーティーの主役にとっても素晴らしいバースデーになったようだ。
 

 以上5編、「日常の謎」にカテゴライズされている本書ですが、前述のとおり大半の作品で予想を上回る捻りが仕掛けられていました。
 

 さて、今年も残すところあと一週間となりましたがこの一年、皆さんのミステリ読書ライフはどのようなものだったでしょうか。私は一年前の今日、ここで「今年はトータルではイマイチだった」というようなコメントをしたかと思いますが、本年は一転、多くの楽しいミステリに出会えたと感じています。これも当サイトの皆さんに依るところが大きいので皆さんにはとても感謝しています。
 来年も宜しくお願い致します。

 それでは皆さん、良いお年を。

No.172 6点 阪急電車- 有川浩 2025/11/05 21:24
 実は女性だと知って驚いた作者の比較的初期の非ミステリ作品。(つーか、この人ミステリの著作あるのかな)
 非常に読みやすくて本当に短時間で読み終えてしまうが果たしてこれは短編集なのか? それとも掌編集? あるいは長編?

 阪急電車とその停車駅を舞台に偶然交錯する様々な人達の人生。
 恋の始まり、裏切りと報復、老練な人生観、ささやかな温かみ、DV、大人にも子供にもある排他集団、友情、成長・・・
 そして本当の優しさ、本当の愛とは何なのか。

 実に様々なライフストーリーが描かれ楽しませてくれるが、ただこれだけいろいろなことがあったのだから最後にはもう少し集大的な盛り上がりがあってもよかったかな、とも感じた。

No.171 6点 家族シアター- 辻村深月 2025/10/23 20:33
 勿論作者のお名前は以前から存じ上げている(つーかこの人も後輩でした)が、その作品を実際に読むのはこの短編集が初めて。

 《「妹」という祝福》
 どういう話を書いてくるかと思えば・・・思春期の姉妹の何とも濃厚な物語。う〜ん、わかるところもあるが、わからないところもある、としか言いようがない。読みやすくて面白くていい話だとは思うが、てっきりミステリかと思ってこの本を読み始めた自分には・・

 《サイリウム》
 アイドルオタクのハタチ男とバンギャ(バンド追っかけギャル、ハタチ以上だとオバンギャとも言うらしい)の姉のファンキーな物語。
 「ふうん」って感じ。

 《私のディアマンテ》
 あまり賢くなさそうな元キャバ嬢の母親と頑張り屋で勉強ができるがオシャレに興味がなく恋愛にも縁がなさそうな高校生の娘の何ともぎこちない関係を描いた物語。
 途中まではあまり面白くない上に、時系列が交錯して混乱しそうになるところもあるが3分の2位のところからガラリと印象が変わる。コレは気がつかなかった。
 関係ないけれど小学校の林間学校が一週間というのはいくら何でもあり得ないだろう。

 《タイムカプセルの八年》
 まあ、いい話だと思うし最後のオチも悪くないが内容の割にはダラダラ長過ぎの感が否めない。先生の所行もイマイチしっくり来ないし。それはともかくふとアイドルルネッサンスの「PTA~光のネットワーク」を思い出した。また(前半までの)お父さんの性格はよく解かる。多分自分に近いから。

 《1992年の秋空》
 第一話に続いて年子の姉妹の物語。(辻村さん、多分・・)
 「科学」と「学習」、懐かしいね。
 自分も小1か小2の頃「科学」でLやdLなどを実感覚で覚えたり「学習」で印象深い物語を読んだりした記憶がある。
 タイトルの出自は前半で明確にされるがこの年の夏から秋、作者は12歳で主人公より学年が1つ上の中学1年だったはず。当然当時の自分への思い入れが強い話(「科学と学習」のために設定学年を1つ下げたのだろう)だと思うが、その歳頃の女子があの事に強い関心を持っていたのだとしたら、作者は主人公よりも主人公とは対照的なその妹に自分を投影させていたのかもしれない。
 後半は個人的にはある事情により、この姉妹が自分の子供達(姉弟だけど)とダブる部分があることもあって、少し胸が詰まる思いで読んだ。

 《孫と誕生会》
 妻に先立たれながらも充実した生活を送る独居だった爺さんと、そこへ家族と伴にアメリカから帰国してきたチョット人づきあいが苦手な8歳の孫娘の物語。
 少し痛ましいエピソードが続くがマトメは・・・
 そして最後の爺さんの心情描写が綺麗事ではない本心であるところには共感。
 余談だが主人公のように自分も娘が小4の時に学校の特別授業で臨時講師の一人として喋ったことがあるが、本作みたいに司会役の先生が(皆わかっているのに)「◯◯さんのお父さんでーす」などという紹介のしかたをしたり、話す方も「▢▢がお世話になっています」などという挨拶することはあり得ない。そんな指名的なことをされたら普通の小3~4の女子なら、全員からの意味がよく分からない意識の集中を感じてどんな顔をすればいいのか困惑するだけだろう。

 《タマシイム・マシンの永遠》
 最終話は本書の中ではズバ抜けて短かい20ページ弱の作品。
 四世代家族の心の中のSF物語。
 乳児(?)の伸太(しんた)の名前の由来が「のび太」なのが微笑ましい。


 予期せず読んだ家族の「人間関係」がテーマの非ミステリ(ミステリっぽい要素がある話もあったが)短編集だったが、どれもとても読みやすくて殺伐としたミステリの合間に読むのには悪くないと思う。

No.170 7点 殺人事件に巻き込まれて走っている場合ではないメロス- 五条紀夫 2025/09/16 22:50
 タイトルから明らかな通り、彼の日本文学作品のパスティーシュ短編集。

 《メロスは推理した》
 どういうストーリーが始まるのかと思えば、なるほど、こういう系統ね。正直パロディ系の文体はあまり好きではないが、これはそれなりに楽しめたところもそれなりにあった。また紀元前シチリアの生活や建築や社会背景などの描写は勉強にもなった。
 本作のトリックはバカミスになるかならぬかというところだろうが、子供向けの推理クイズにしたら読んだ子供は腹を立てることだろう。

 《メロスは約束した》
 本書と原作を繋ぐような話。
 この話もバカバカしいと言えばそれまでだがミステリ的には割と楽しいし、実在した超有名人を登場させるのもなかなか面白い。少し身につまされる話。

 《メロスは奮闘した》
 バカバカしいと言えばこの話がその極みだろう。ある種のトリックのパロディカルユースとも言えるが真面目なミステリ読者が読んだら怒り出すことだろう。自分はたまにこういう話が入っているのは嫌いではないが。自分も気づいた伏線も一応あったし。やたら教養がある山賊のボスも悪くない。

 《メロスは入水した》
 これもたまに見られるあるトリックの簡略使用+α。
 もしかしたら本作に作者の一番の真意が込められているのかもしれない。

 《メロスは激怒した》
 最終話は最終話らしく前作まで以上にドタバタ展開してまとめてくる。トリックなどどうでもいい。しかしいいのかね、実在した偉人をあんなふうにして。


 本書のフィジカルもメンタルもバイオレントなメロスはパロディとしてのデフォルメが強いが、第1話の感想にも書いた通り古代ギリシャ文化の勉強になる説明文も多かったし、またストーリーもパロディ一辺倒ではなく、メロスや人間一般の本質を突くところも随所に見られる。
 しかし、健全なる青少年諸君が原作より先に本書を読むことはあまりおすすめできません。

No.169 8点 十戒- 夕木春央 2025/08/28 20:35
 作者の聖書ワードタイトル作品第2弾。 
 前作の「方舟」は文庫化が待ち切れず自分としては例外的に単行本で読んだが、本作は今月文庫化されたらしく運良くいいタイミングでそれを知ることができた。(「首無」なんか単行本で読んだ直後に文庫化された記憶がある)
 「方舟」にマイミステリ史上屈指の衝撃を受けた自分が「方舟の痛撃の再帰」という宣伝文句を冷静にスルーできる筈もなく天命に感謝して迷わず購入クリック。

 読み始めてみれば出だしはウンザリするほどベタシチュな孤島モノ。
 しかしやがて見えてくる、登場人物達が到着する前に不審な人物達が如何わしい意図を持って潜伏していた痕跡がある別荘、そして作業小屋やバンガローのとんでもない状態、そんな中で犯人探しの禁止を含めた奇怪な警告文を伴うマーダーが発生・・・と異様な展開を呈し始める。

 そして犯人に従わざるを得ない状況下で様々な事態が生じていくが、途中で何度も行われる犯人への御神託伺いは始めこそ不気味だったが段々笑えてきた。作者も段々バカバカしくなってきたのか、やがて「こっくりさん」とだけ表記するようになる。

 自分は途中からある人物が犯人であることを確信していたが終盤でそれは作者のミスディレクションにまんまと嵌まっていたものだったことを悟る。それも一筋縄ではいかない形で。

 解決編で様々な謎が芋づる式に説明されていくのには納得感が得られたが、靴やクロスボウの件は「そう都合良く、そううまくいくか」とのフィクション感を拭えなかった。が、しかしそれは・・・

 最後に未読の方は読まない方がいいであろう感想を一言。




 この話も「方舟」同様、恐るべき頭脳が事件全体を支配していた訳だが、主人公視点による情景描写にはかなりキワドイものもあった。まぁギリギリセーフだと思うが。
 いずれにせよ作者は「方舟」に続いて読者に問いかける。神の御前においてこの「選択」は罪になるのか、と。

No.168 8点 Y駅発深夜バス- 青木知己 2025/08/20 22:56
 ずっと表題作が気になっていた本短編集をようやく手にとってみる。

 《Y駅発深夜バス》
 PAでのオカルト的な光景には「これは本当にミステリなのか、ミステリで説明が付けられる現象なのか」と些か訝しんだが、終盤ではストーリー本編と合わせて「なるほど、そういう事だったのか」と一応納得させられる。純粋に本格ミステリの枠に収まる作品なのかはビミョーな気もするが、細部に渡り緻密な構成でよくできた面白いミステリ的読み物ではあると思う。

 《猫矢来》
 中学生が主人公で、青春の甘酸っぱさがあり深刻なイジメ問題があり重大犯罪があり、そして心情面では理解し難いところもある話だが、深い傷みと淡い癒しの交錯を残すような何とも言えないミステリ風ストーリーだった。

 《ミッシング・リング》
 これはタイトルどおりのミステリでコテコテの本格パズラーと言えるだろう。またミステリ読者が一般にイメージするものとは少しニュアンスが異なるが「雪の山荘モノ」でもある。 
 そして「読者への挑戦」もあるが、自分は面倒で考える気にもならなかった。解決編での時系列の細かさに「考えなくてよかった」と安堵する。穢れを知らない真面目で熱心なミステリ入門者には是非読んで挑戦して頂きたい作品だが、最終解決後の動機の話を含めたエピローグは取って付けたような感じであまりシックリ来なかった。

 《九人病》
 こういう「秘境での奇談」が自分のゾーンに入ることはあまりないが、これは恋愛などのヒューマンな要素が多く面白かった。後半の科学的な説明を加える試みも薄っぺらくないし、そして終盤の捻り具合もなかなかのもの。 

 《特急富士》
 所謂トラベルミステリで一風変わった倒叙モノ。
 正直状況に応じて何度も修整される細かい時間計画の計算や、いろんな駅や車種に関してのああでもないこうでもないという乗り換えの算段にはついていけなかったがスリリングと言えるだろう雰囲気は楽しめた。


 個人的にはやはり表題作が傑出していたと思うが、どれも文体が読みやすくて皆さん仰るとおりバラエティーに富んでいたので終始楽しみながら読むことができた。
 本書のようなクオリティーの高い短編集を書いている割には作者はなぜか寡作のようだが、短編好きな自分としてはこのレベルの短編集をたくさん出してほしいと願うばかりだけれど・・・

No.167 8点 蟬かえる - 櫻田智也 2025/08/02 22:47
 全国各地の旅を続ける、どこかとぼけた昆虫大好き青年・えり沢泉が探偵役になってしまう話を紡ぐ連作短編集第2弾。
 第1弾を読んだのはいつだっただろうか。

 《蟬かえる》
 民俗信仰系の話は苦手なので、その蘊蓄には少々辟易したがミステリに関係することは間違いないだろうと頑張って読む。  
 人間消失モノだがトリックはさほど際立つものでもない・・・と解決編を読み進めると・・・

 《コマチグモ》
 この作者にしては珍しく本格色の濃い作品。相変わらず昆虫の絡ませ方が上手くホワイダニットが秀逸。

 《彼方の甲虫》
 これもよくできた話だとは思うが、前二作に比べるとカタルシスに欠けるかな。
 言ってることは分かるが「その人がそんなことをする」事自体、ストーリー的にぎこちなさを感じる。

 《ホタル計画》
 これは・・・後半に入って少し進んだところで気がついた。前半から「ん?」と思うところはあったんだけどね・・・遅い方かな。
 最後から2番目辺りに置くのに相応しい話かとは思う。

 《サブサハラの蝿》
 非常に勉強になった。そして感涙を堪えることができなかった。アフリカ睡眠病。
  「カイが打って」   「きみを愛している」
 そして見捨てられている人民のために行おうとする犯罪的行為と「そんなことをしてはいけない」とする説得。
 後半ではなぜか脳内に「主よ、人の望みの喜びよ」が流れていた。少し酔っているせいかもしれない。第1短編集の最終話でもそんな気分になった記憶がある。
 

 えり(魚偏に入)沢泉・・・昆虫オタクだが人間も大好きでその観察も深くしているようだ。

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ひとこと
γーが3桁に突入してから週3日禁酒すると強く心に決めているが、なぜか週2日あるいは1日になってしまうことが多い。(仕事上週1で「泊まり」があるため0にはならない、ていうか休肝目的で泊まりを始めました。貴...
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