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ミステリーオタクさん
平均点: 6.93点 書評数: 161件

プロフィール高評価と近い人 | 書評 | おすすめ

No.161 7点 観覧車は謎を乗せて- 朝永理人 2025/03/17 23:10
 デビュー作「幽霊たちの不在証明」で「このミス大賞」の優秀賞を受賞した作者の第二作。連作短編集かと思っていたが違ってましたね。
 観覧車のA~Fと記号付けされた6つのゴンドラの中の6つの物語がそれぞれ細分化され(必ずしも整然とはしていないが)6交代で進行する。短編集をかき混ぜたような作品とも言えるが全体としてのトリックもあるから、やはり長編ですね。

 A : いきなり本書の次の刊行書「毒入りコーヒー事件」の登場人物の名前が出てくるのには驚いたが両作品に関連性はない。
 提示される謎はかなり魅力的だがその解答はあまりスッキリしない。でも「意外な現実」の出し方は悪くない。
 
 B : 父と娘。意外性もあるが、これもイマイチピンとこない。
 
 C : スナイパーと少女。なぜ同乗するのか?  動機の謎。
 
 D : カップルのような二人。ちょっと叙情性が大きすぎて分かるような分からんような。既出と似たような「意外な現実」もある。
 
 E : 高所恐怖症なのになぜ観覧車に乗るのか?  これも動機の謎だが必然性と隠す理由が弱い。
 
 F : 兄(と弟)と時限爆弾。最後の一文が本書の「締め」。

 
 う~ん、正直唸らされる話はあまりなかったし、全体としてのトリックも、これほど重合性のある前例はないとは思うが、そのエッセンスはさほど斬新なものでもない。
 ただ各ストーリーが細断されて振り撒かれた「各章」が非常に短い、せいぜい十数ページなので細切れ読みが多い自分には非常に助かり読みやすく、男女、家族、親友などの濃厚な人間関係の中の妄想も含めたミステリを肩肘張らずに楽しむことができた。

No.160 7点 毒入りコーヒー事件- 朝永理人 2025/03/04 21:55
 伊坂幸太郎の「ゴールデンスランバー」に衝撃を受けてミステリを書き始めたという作者だが、まだ世に出回っている作品はあまり多くないようで自分も本作がこの作者の作品の初読みとなる。

 終盤で明かされるメインを含めたいくつかのトリックはいずれも斬新とは言えないまでも十分意表を突くもので、サプライズの連打を楽しませてくれる。ロジックも悪くないし、よくできたミステリだと思う。しかし解決編に至るまでのストーリーにスリルやゾクゾク感が殆どないので眠気と戦いながら読んだ部分も少なくなかった。
 
 この作者は短編集も出しているようなので次はそちらを読んでみたい。

No.159 7点 #真相をお話しします- 結城真一郎 2025/02/06 20:34
 開成中学・高校を経て東京大学法学部を卒業した作者(だから何?)の初の短編集。

 《惨者面談》
 非常に現代的で読みやすいスタイルで、途中で湧いてくる「簡単すぎる真相か?」との杞憂も一応回避してくれて(その手の小6男子なら・・・という違和感は残るが)散りばめられた伏線も一つ一つキチンと回収してくるが、種明かしは少しぎこちなさも感じる。東大生のレポートみたいな作品。

 《ヤリモク》
 へぇー、今はこんなに至れり尽くせりのマッチンクアプリがあるんだ、これなら俺も一度利用してみ・・・・なーんてね。
 本作も途中で大体の方向性は見えたが、最後までは読み切れなかった。ウ~ン、そう来たか。結果的には計画を遥かに凌駕する形で・・・

 《パンドラ》
 主人公の娘が何となく自分の娘とダブること、またメインエピソードも自分に全くの無関係ではないことなどから多少思い入れがないこともない話であると言えなくもないし、ミステリとしてもよくできているとは思うが、もう一捻りあってもよかったかなとも思う。
 蛇足だけど「前十字」は「ぜんじゅうじ」と読みます。

 《三角奸計》
 これも大凡のところまでは読めたが、終盤の捻りとテクニカルな「明かし」までは流石に無理だった。
 やはりキチンキチンとした「説明」が東大っぽく感じられてしまうのは自分の勝手な偏見によるものだろうが、エンディングはあまり「らしくなかった」。

 《♯︎拡散希望》
(未読の方は読まない方がいいかも)
 過疎化した孤島が舞台のミステリだが、時代に即したツールを介して壮大な背景に繋げる巧妙な構成になっている。細かい伏線の仕込みも悪くない。
 関連性は薄いがふと数年前のテレビドラマ「3年A組」を思い出した。


 いずれの作も総タイトルに恥じない内容だと思うし、久々にハズレのない短編集を読んだという気分にもなれた。この作者は短編集をもう一冊出しているのかな?  そちらも読んでみたいとは思うが溜まっている未読本を見ると一体いつになることやら全くの不透明。

No.158 5点 バック・ステージ- 芦沢央 2025/01/16 21:51
 短編の名手(?)による「連作短編集」 

 《序幕》
 他のどの幕よりも長い、50ページ近くある「序幕」。

 《第一幕 息子の親友》
 分からなくもない家族の話でミステリと言えなくもないが、長男の言動は小学3年生のソレではない。

 《第二幕 始まるまで、あと5分》
 これも分からなくもない男女の話だが、読み進めると予想外のミステリになっている。しかし普通の若者で流石にコレはあり得ないだろう。伏線になるような描写も記載も全くないし。
 また、前幕との繋がりを一瞬だけ覗かせている。

 《幕間》
 序幕の「続き」となる20ページを越える「幕間」。

 《第三幕 舞台裏の覚悟》
 ここからの二幕は舞台関係者がメインの話となる。
 現実路線のミステリとしてはこの幕もあり得ない話だが悪くはない。が、途中で分かってしまった。
 本幕でも前幕と繋がる件が一言だけ話される。

 《第四幕 千賀雅子にはかなわない》
 芸能事務所の女性マネージャーが、自分が長年担当している高齢女優について回想を交えながら今回の舞台、更には今後に関して思い悩む話だが、盗難ごとはあったもののミステリ要素はなかった気がする。

 《終幕》
 序幕と幕間でのドタバタ劇の、第四幕のエピソードを絡めての終焉。頭脳戦はなかなか面白かったが最後は御都合、単純すぎてあまりシックリこない。

 《カーテン・コール》
 こういうエンディングも悪くはないが、ありふれているし、チョッと安っぽい感は否めない。


 率直な感想としては「全体として何かもう少しシカケがあってもよかったんじゃないか」と言ったところ。
 各編に「幕」を付けていかにも全編が繋がって一つの作品に仕上がっているような体裁を取っている割には第一幕、第二幕は一体何だったのか。
 まぁ作者としては序幕、幕間、終幕以後に登場する本書の「主人公」、そしてその他の幕のメインキャスト達の生き様をそれぞれの舞台で演じさせることで多彩な人生劇場を連ねて見せるのが主旨だったのだろうとは思うが。

No.157 7点 ハートフル・ラブ- 乾くるみ 2024/12/24 22:40
 皆さん、メリークリスマス。
 聖なる夜、如何お過ごしですか。
 私は家族での外食から帰宅して、今は安ワインを片手にこの文章を書いているところです。本日の昼休みに読了した、7編からなるこの短編集の感想を今日のうちに書いておかないと忘れてしまいそうなので。

 早速収録された各作品について一言ずつ感想を述べさせていただくと・・
 《夫の余命》
 時系列が逆行性に語られるストーリーの中に秘められた「騙し」・・・過去に某有名作品を含めて何度か出会ったことがあるトリックだけど楽しめます。
 《同級生》
 時々見られる同窓会モノ・・・昔の同級生仲間が久しぶりに集まってワイワイ楽しむうちにふと往時の「ある非日常的な出来事」の思い出話が出て、それを蒸し返す展開となり埋もれていた意外な真相がジワジワと掘り起こされていく・・・かと思ったら少し違いましたね。本書の作品にはシバリはないだろうけれど、できればコレ系はナシにしてほしかった、というのが個人的な感想です。
 《カフカ的》
 これも時々お目にかかるトリックが使われるけれど他のミステリファクターも絡めて加工がよく、読ませてくれます。ある登場人物の深層心理は理解し難いものがありますが、これは「カフカ的」なのでしょうかね。
 《なんて素敵な握手会》
 本短編集の中で唯一掌編と言える極く短かい話ですが、これは何かのアンソロジーで既読だったと思います。○○○(書こうか迷ったけれど未読の人が読んでいないとも限らないので)と同じ構図ですね。実は私も昔、自分の仕事を題材にしてこのネタで書いた掌編小説をあるメジャーな文芸雑誌の応募コーナーに投稿したことがあります。もちろんボツでしたが。
 《消費税狂騒曲》
 ミステリとしては何ということもないかもしれませんが、本邦初の消費税の導入とその増税がもたらした平成時代の庶民の買い物の際の小さな混乱がリアルに描かれています。
 《九百十七円は高すぎる》
 前作に続いて消費税の問題がメインの細かいお金のお話しですが、正直大して面白くもないこのテーマの話を二作続けることに何の意味があるのか理解に苦しみます。
 登場するのはほぼ女子高生だけですが、その描写も「男性が描いた女子高生」という印象を拭えませんでした。
 《数学科の女》
 最終話は100ページを越える中編とも言える作品。
 典型的なキャンパス青春物語で始まりますが、一転クローズドサークルをも予感させる舞台・・・そして「くるみ流ラブストーリー」、かと思えばトリプル援護射撃に必殺ヒット(何を言ってるんでしょうね)となかなか無邪気なコンテンツになっていますが、もう少し捻りがあってもよかったかな、この作者なら・・・というチョット贅沢な読後感も残りました。
 
 以上本書の各作品について感じたことを簡単に書き並べてみましたが、本書の(個別作品のものではなく包括的になっている)タイトルに関しては・・・この時期に似つかわしい素敵なワードだと思いませんか。
 ですが実際に本書を通読した方の中には、この総タイトルに相応しいとは思えない話ばかりだった、という印象を持たれた向きも少なくないのではないでしょうか。
 この齟齬はこの表題が作者の皮肉心によるものなのだからでしょうか・・・

 実は本書のタイトルの「ハートフル」は heartfulではなくhurtfulなんです。カバーの片隅にさりげなく保護色で記されています。「イニシエーション・ラブ」の作者らしいフェイントとも思えますね。
 (ちょっと注釈しておきますが「ハートフル」という言葉は和製英語でこれに相当する英語はheartwarmingが一般的でheartfulという単語はあまり使われないようです)


 さて、今年も残すところ後一週間となりましたが皆さんにとって2024年はどんな年だったでしょうか。私は個人的なミステリ読書に関しては「やや不作」だったかなと少しだけ心残りの感を抱いています。来年はもっとマメにこのサイトをチェックして、より多くの楽しいミステリに出会えればと思っています。
 
 それでは皆さん、よいお年を。

No.156 3点 カミサマはそういない- 深緑野分 2024/12/16 21:12
 「オーブランの少女」という(個人的には)素晴らしいミステリ短編集の著者の(多分)第2短編集。いやがうえにも期待が高まる。

 《伊藤が消えた》
 ミステリといえばミステリだがミステリとしても人間関係の面でも何をしたいのか何が言いたいのかよく分からない。落ちこぼれ若者の歪んだ友達意識?  捻れたプライド?

 《潮風吹いて、ゴンドラ揺れる》
 狙いは分からなくもないがコレも中途半端というかパッとしない印象。途中は昔のアメリカの短編サスペンスドラマ風でそれなりに面白くはあるんだけど・・・
 ●本作の一部を少し改変してみた勝手な逃走シーン(オチなし):
 他に誰もいない遊園地。牛刀包丁を片手に真っ赤な髪をなびかせながら迫ってくる身長2メートルのピエロから必死に逃げる。ダッシュ&ダッシュ、柵を越え溝を跳び、無人の車が走り回るゴーカート場を前後左右に飛び退きながら懸命に横切り、無人で回転し続ける巨大なメリーゴーランドの外周を200メートル走の如く全力で回り込み、騒々しく電子音が鳴り響くゲームセンターのわきを膝も砕けんばかりにドタドタと突っ切り、機械的な叫び声が定期的に聞こえてくるお化け屋敷の裏手を太ったゾンビのようにバタバタと駆け抜ける。続く広大なフラワーガーデンの間をメロス1.5倍速で激走、気がつけば空気を引き裂きながら乱高下を繰り返すジェットコースターを囲むフェンスに突き当たり、足をもつれさせながら方向転換する。更に気力と体力を振り絞って両下肢を駆動し続け、これでもかとばかりのアップダウンの連続を息も絶え絶え耐え難きを耐えクリアして、その先のエリアボーダーの長い架け橋を死に物狂いで走り渡って脇道へ逸れたところでとうとう体内エンプティランプの最終点灯を感知して、極まる焦燥を自制しながら背後にピエロが見えないことを確認すると、すぐ先の無人で稼動している観覧車のゴンドラに飛び乗り倒れ込むように身を潜めた。
 心臓は今にも破裂せんばかりに通常の2.5倍のピッチで低いビート音を立てて鼓動し、両肺は肋骨をへし折らんばかりに起伏を繰り返し、全身は発汗で搾る前の雑巾のようにビショ濡れだ。また最悪なことに携帯電話の電波が繋がらない。
 やがて乗り込んだゴンドラが頂上を越えてしばらく下降したところで恐る恐る体を起こして地表の様子を窺うと・・・・・
 ゴンドラの着地ホームに赤髪のビエロが立っていた。
 こちらを見上げている。そして目と目が合った。
 もちろんゴンドラの内側には鍵はない。
                                      The end.
(or continue reading the sentence at the bottom of this column.〈*〉)

 《朔日晦日》
 10ページ位の掌編だが、気持ち悪い話だし何より意味がサッパリ分からない。何か元ネタになる伝説だか神話だかがあるのかな。

 《見張り搭》
 これまた何がいいたいのか分からない話。ミステリと言えなくもないし反戦論を含ませているようにも思えるが、やっぱりよく分からない。

 《ストーカーVS盗撮魔》
 いくら趣味と言えども一文にもならない上、性的嗜好程にも意味不明なそんなことにそんなに時間と労力をかけることの何が楽しいのか全く理解できない前半・・・その後、予想外に規模の大きな面白そうなファクターが見えてくるが・・・やはり、あまり面白いと思えるものではなかった。

 《飢奇譚》
 時空を超越したこの話も分かるような分からんようなだが、どうやら寓話っぽいようだ。ボーダーレスな舞台環境からは何となく「千と千尋」を彷彿させる印象を受けた。

 《新しい音楽、海賊ラジオ》
 これも現世とは時空がズレた設定で末期を思わせる世界において、ナルコレプシーの主人公が仲間と音楽を探す話で相変わらず訳の分からない付帯状況もあるが前作までとは異なった向きの最終話らしさを残す。また文中の一句「ルイ・・・・アーム」に作者の意図の一端を垣間見た気がした。


 う~ん、正直「オーブラン」と同じ著者による短編集とは思えない内容ばかりだし、あまりミステリとは言えないような自分には意味不明な話も多く個人的には期待外れと言わざるを得ないが、それぞれ人間の弱さだったり文明との関わりだったりを描出しているようにも思われ、感性が合う人には少なからず共感される作品集なのかもしれない。


 確かに
 カミサマはそういない
 だけども
 ゴミサマはそこら中にいる


〈*〉なす術もなく着地ホームに到着すると・・・ピエロがドアを開け・・・手を伸ばして・・・声を発する・・・・・
 「お掃除のお姉さん、コレ落としたよ」
 差し出されたのは白い貝殻の小さなイヤリング。
 本日からこの遊園地で働き始めた18歳のディーディー・マクドナルドは暫しのフリーズの後、驚きと戸惑いと少しずつ薄まりつつある恐怖の色を浮かべた目を見開いたまま小刻みに震える手でそれを受け取った。「あ、ありがとうございます、社長さん」
 ピエロとシェフを兼ねた人前では決して素顔を晒さない一風、いや、かなり変わった性格の社長は莞爾と目を細めると背を向けて厨房へと戻っていった。点検中のアトラクションが正常に作動していることに満足し、自分が包丁を握ったままでいることと自分もいつの間にかどこかで調理帽を落としたことに気づいて苦笑しながら。

No.155 4点 神の悪手- 芦沢央 2024/11/14 21:12
 将棋をテーマにした5つの話を収録した短編集。作者は三十代女性。(失礼。まぁ許してくれ、後輩君)
 
 《弱い者》
 将棋の対局を通して大災害被災地での弱者の窮状を浮き彫りに。

 《神の悪手》
 シュールなオープニングも、割とありがちな途中のミステリ展開も悪くはないが、エンディングもそうエシカルにせずにもっとミステリにしてほしかった。タイトルからイメージされるようなスケールの大きさがあるわけでもないし。

 《ミイラ》
 人間社会のルールの根源に関する考察を提示したのだろうが、これはある程度以上将棋、特に詰将棋を理解していないと作者の出したかったテイストが十分には伝わらないだろう。まぁ伝わったところで大して面白いとも思えないが。

 《盤上の糸》
 本作の大半を占める対局シーンはやたらと抽象的な描写が多く何を言っているのか、何を言いたいのかよく分からなかった。

 《恩返し》
 最終話は将棋の駒を作る駒師の体験、視点を通しての勝負の物語。どの世界にもある優劣、葛藤、成長、師匠越え、悟りなどについて語られる。


 全て将棋を媒体にしてのヒューマンドラマだが、将棋をモチーフにすることへの拘りが強すぎて個人的にはいつもの「芦沢ショートミステリ」の妙味があまり感じられなかった。しかし作者自身そんなことは百も承知で「面白いミステリ」を犠牲にしてでも挑んでみたかった新境地だったのだろう。

 ところで文庫の帯にコメントを寄せている羽生さん、ホントに読んだんですか?

No.154 4点 家族パズル- 黒田研二 2024/10/24 20:26
 ヒッサビサに手に取ってみたクロケン著作(Killer X 四部作とか懐かしいっ)。もう作風とかも大部忘れてしまっているし、多分短編集は初めて。 尚自分が手にしたのは改題後の「神様の思惑」の方。

 《はだしの親父》
 うん、コレ系ね・・・悪くはないけれどコレ系としてはまぁ普通かな。

 《神様の思惑》
 う~ん、どうやらこの短編集はコレ系でまとめてくるらしいな。好きな人には好短編集になるだろうが、自分はコレ系を連続して読まされるのはチョッとねー。

 《タトゥの伝言》
 前二作よりはドロ味があるが展開の必然性は乏しい気がする。

 《我が家の序列》
 ミステリとしてのそれなりのネタはあるが、何と言うかまぁワンピース・・なんてね。これも悪くはない。

 《言葉の亡霊》
 二つの時系列で進み少し混乱させられ気味になるところもあるが、巧みに仕立てられたファミリーミステリ。


 くどくて申し訳ないが全編「悪くない」5話からなる短編集。幅広い読者層にオススメできると思うが、もし自分が読む前に「こういう短編集」だと知っていたら手を着けなかったかもしれない。

 (以下未読の人は読まない方がいいと思われる感想)
 
 表題作以外は家族愛をテーマにした「感動するでしょ」系ミステリ。表題作も家族愛ではないが「神様のような御慈悲に感動すべき」ミステリ。
 決してバカにしているわけではない。
 端的に言うと作りが全体的に童話的、つまり子供向けの寓話集のような印象を個人的には受けたということ。大人が読んでもそこそこ楽しめるとは思うが社会に擦れた層がコレにどれだけ感動するかは甚だ疑問。
 要するに「大人のスパイス」がギンギンに効いているミステリが大好きな自分にはイマイチだったというだけの話。

No.153 5点 11文字の檻- 青崎有吾 2024/10/10 20:40
 この作者のデビュー10年目にしての初の短編集・・・・かな。
 
 《加速してゆく》
 あれからもう19年も経つのか・・・
 ルポルタージュ風の社会派かと思いきや・・・

 《噤ヶ森の硝子邸》
 不可解極まる密室殺人だか・・・超△△ミス。全員△△か●●か。

 《前髪は空を向いている》
 何かあるのかと思ったが・・・

 
 ここからの3編は掌編になる

  《your name》
 これは何かのアンソロジーで読んだことがあった。
 さほどの鋭さは感じられないが悪くはない。
 
 《飽くまで》
 前作以上に凡庸。
 
《クレープまでは終わらせない》
 この人は掌編には向いていないと思う。


 再び中短編へ

 《恋澤姉妹》
 「生きる伝説を追う冒険物語」は嫌いではないがこれはチョッと人間離れし過ぎ。殆ど超人バトルアニメの世界。

 《11文字の檻》
 帯にはこの表題作に対するミステリ作家達の絶賛コメントが並んでいるが・・・自分にはそこまでの高評価が理解できなかった。解答に至る必然性もよく分からなかった。


 アンソロジーだと言われても微塵も疑いそうにないノンシリーズ作品集だが正直半年もしたら殆ど忘れていそう。まぁ「噤ヶ森」と「恋澤」は記憶に残るかな。

No.152 7点 あと十五秒で死ぬ- 榊林銘 2024/09/12 21:34
 多かれ少なかれ「十五秒」が関わる4つの話からなる中短編集。

 《十五秒》
 非常によく構成された話だとは思うが、技巧に走りすぎたせいで「十五秒後に死ぬ」というテーマの割にはスリルやサスペンス感が少し薄まってしまっているようにも感じた。
 また主人公の業務内容は現実にはあり得ない。(まぁ、この話そのものが全くの非現実設定だから余計なお世話か)
 
 《このあと衝撃の結末が》
 これも凝りに凝ったミステリで、作中ドラマで時空を行ったり来たりするのでついていくのに少々疲れる。

 《不眠症》
 「不思議な感じ」で話が展開していくが前二作に比べると遥かに読みやすく、また何とも言えない余韻を残す。

 《首が取れても死なない僕らの首無殺人事件》
 読む前は何を言っているのかサッパリ分からないタイトルだが、これまたムチャクチャな非現実設定の「本格」ミステリ。
 主人公たちが共同行動を始めた辺りは本当に気持ち悪かったが、いつの間にか慣れて、延々と繰り返すような展開に「飽き」も感じた。また、トリックや動機はあまりスッキリしないし、尋常ならざることこの上ない設定をベースにした緻密極まる推理過程を自分が完全に理解したかも疑わしいが、読後は「読んでよかった」と思える作品だった。
 
 
 全く類似性のない世にもエキセントリックな発想を4つも展開させる本書は特殊設定の短編集としては極北に位置すると言えるのではないだろうか。

No.151 6点 汚れた手をそこで拭かない- 芦沢央 2024/08/22 22:02
 短編集なのに本のタイトルがどの収録作品名でもなく「・・・集」でもない禍々しいフレーズのちょっと風変わりな体裁のサスペンス集。

 《ただ、運が悪かっただけ》
 運命論などの考察を含めて中身の濃い話だとは思うが、面白かったかと訊かれれば個人的にはチョットね・・・

 《埋め合わせ》
 倒叙物とも言える焦燥型サスペンスで捻り方も悪くないけど、最後の「嵌め込み」はあまりシックリ来ない。

 《忘却》
 物忘れと罪悪感、そして電気の問題。これも辻褄合わせが面白いと言えば面白い。

 《お蔵入り》
 このタイトルはダブル・ミーニングかな。そんな使い方はないか。

 《ミモザ》
 ある再会からの淡い焼け木杭的なストーリーかと思いきや予想外の展開へ・・・
 最後のドタバタは古い漫画チックながらなかなか面白かったが「締め」は・・・何とも言えず。


 帯の「もうやめて」という文言から相当のイヤミス短編集かとワクワクして読み始めたが、期待が大きかったためか全体的に薄味のイヤミスに感じられたのは少し残念。ただどの話も纏まりの良さとリーダビリティの高さは短編の名手(と言われている?)に相応しいクオリティだったと思う。

No.150 7点 「本当の自分」殺人事件- 水木三甫 2024/08/03 21:25
 帯に「ショートミステリーの新鋭」と称されている作者の6編からなる短編集。

 《のぞみの結末》
 複数の男女が入り塗れたドロドロの愛憎劇と巧妙な策略。そしてその結末・・・・幸せになったのは・・・

 《時間にまつわる物語》
 8つの掌編で構成された作品。
 始めの話を読んだ時にはその内容のなさに呆れたが、次の話に入って「繋がっている掌編集」であると知る。たわいもないファンタジーだが、子供の頃自宅にあった稲垣足穂という作家の「一千一秒物語」というファンタジー掌編集をふと思い出した。(必死に考えてやっとタイトルと作者名を思い出した!)

 《雲を描く男》
 この作者は本当にどんな話を書いてくるのか分からない。この話もどこへ行くのかと思えば・・・ソチラか・・
 伏線が凄いといえばスゴい。

 《不運な殺人者》
 ツカミはなかなか魅力的で展開も悪くないが、一体何があるのだろうと期待させられながら結末は割りとありがち。

 《未来から来た男》
 シビアな騙し合いだが・・・・ん?最後は一体・・・

 《「本当の自分」殺人事件》
 これもなかなか面白い連続殺人事件が提示されるが、真相というか動機はあまり唸らされるような物ではなかったかな。
 

 初読みの作家だったが、淡々としてドライでありながら内容の濃い文体で読者を予想のつかない流れへ導く、ミステリファンならワクワクしながら読める短編集ではないかと感じた。
 特に細切れ読みが多い自分には一つ一つの話が短編としても比較的短く、また各作品の中でも章分けが細かい、というか区切りが多いのも嬉しかった。
 まだ短編集を二冊出しただけの作家のようだが、好みに合っている気がするので今後に期待したい。(と思って少し調べたら新鋭という割には、余計なお世話ながらなかなかのお歳で・・)

No.149 7点 夫の骨- 矢樹純 2024/07/30 22:12
 うゎ、またしてもやってしまった・・・・自室の、気の向くままにネットで買い溜めしてきた文庫本の山の中に本書が2冊・・・
 まぁ、しょうがない。気を取り直して気になっていたこの短編集に取っ掛かる。


 《夫の骨》
 この作者らしい曲者ぶりがよく出ている。

 《朽ちない花》
 途中かなり面白い話になりそうな流れを感じたが、終わってみれば個人的にはそこまでは盛り上がらなかったかな。

 《柔らかな背》
 昨今時々見られる○○○を使ったミステリだが、その類いとしては、まぁ普通かな。

 《ひずんだ鏡》
 前作に続いてソッチ系が絡むが、主人公の心理葛藤や予想外の展開は深刻な話のようでもあり喜劇のようでもある。

 《絵馬の赦し》
 これは・・・・・う~ん・・・・
  母親とは何か。

 《虚ろの檻》
 前作までウェットな家族の問題ばかりの作品がここで一変して突然ワイルドな話に。(以前に読んだこの作者の短編集「妻は忘れない」でも似たような変異パターンがあった)
 漫画原作家でもある作者の一面とも言えるのかも。

 《鼠の家》
 再び湿った家族物に戻るが、作者らしい捻りが効いているなかなかのサスペンス。

 《ダムの底》
 この作者にしては珍しい(?)男目線で語られるファミリーストーリー。更に珍しく折原張りの「騙し」が使われている。
 
 《かけがいのないあなた》
 最終作は・・・・そう纏めてきたか・・・
 

 この人の文章はとてもよみやすいが、他の方も指摘しているように時々突然時系列がジグザグして混乱させられることがある。それでも気にせず読み進めていけば見えてくるようになっているので慣れればさほどの支障にはならない。というか故意の所作である気がしなくもない。
 それはともかく個人的には、あまり明るくない作品に混じっての意外なグッドエンドの○編の読後感がとてもよかった。

No.148 5点 緋色の残響- 長岡弘樹 2024/07/04 21:03
 数多くある作者の短編集のうちの1冊。自分が読んだのは多分これが2冊目だと思うが、なぜ本書を買った(大部前)のかはよく覚えていない。
 未亡人の刑事とその娘の中学生が主人公の連作短編集。


 《黒い遺品》
 今時こんな、対立し合う複数の「不良グループ」なんてあるのかねえ。平成の後半ぐらいまでには絶滅したのかと思ってた。
 それはともかく、いくつかの小ネタも含めて、小ざっぱり纏まったショートミステリになっている。悪くない。

 《翳った水槽》
 今時、家庭訪問なんてしている学校があるのかあ。前時代のうちに全面廃止になったのかと思ってた。
 それはともかく、犯人は出てきた瞬間に丸分かりだが、この話は犯人自明の上での「犯人落とし」を描いている。しかしコレで決定的に落ちるというのはあまりにも無理が大きい。仮に犯人に「その知識」があったとしても、これで「参りました」と平伏す必要性は全くない。自供さえしなければ何の証拠もない。かなり苦しい作品。

 《緋色の残響》 
 この話の始めの方で、この短編集の舞台が実は刊行された年時より二十年位前であることが初めて明記される。全く気づかなかった。前2話の感想の冒頭で不適当なコメントを記してしまったが、作者の悪戯心も少し感じた。でも、この頃にエピペンが一般普及していただろうか?  ちょっと時代考証が甘いような気もする。(間違ってたらゴメンナサイ)
 ミステリとしては何ということもない流れながら、事後に気づかされる「付加的真相」・・・これはいくら何でも・・・これじゃ殆どオカルトだ・・

 《暗い聖域》
 いろいろな「読心術」が出てくるが、殆ど机上の理屈っぽいものばかりで現実的に有効性が高いとはとても思えない。それにメインの「落とし」も、うまくいきすぎ感タップリ。着眼点は面白い話だが、ミステリとしてはどうだろう。

 《無色のサファイア》
 結末前までは不自然感満載だったが、そう纏めてきたか。現実味などどうでもいい。


 う~ん、何て言うのかな~、ミステリとして評価すると感心できる話はあまり多くなかった気もするが、ミステリに拘泥せず普段なかなかできないいろいろな「思いつき」や「蘊蓄」を「なるほど」とか「へー、そんなこともあるんだ」という姿勢で読めれば「面白い読み物」と言えると思う。 とにかく読みやすいし。

 また、作者名を知らずに読んだら、作者が女性であることを微塵も疑わせないだけの女性目線を演じる筆力は流石。

No.147 7点 追想五断章- 米澤穂信 2024/06/20 22:19
 古書店アルバイトの主人公がある人からの依頼により、ある故人が書いた、同人誌などで少数の人にしか読まれていない昔の5つの掌編小説を探し回っていく話だが、小説はいずれも「リドルストーリー+切り離された1行の解答」になっているのが何ともユニーク。
 主人公は探し求めるうちに依頼の枠を越えて、作者の人生、人間性、重大な疑惑と関連した作品群の意図と家族との繋がりにまでも踏み込んでいく。
 
 特段に感心したところはなかったが奥が深く、良し悪しはともかく綺麗に纏まったヒューマンミステリだと感じた。

No.146 7点 妻は忘れない- 矢樹純 2024/06/07 20:35
 漫画家出身という作者のサスペンス中心の短編集。

 《妻は忘れない》
 こういう話は全く前情報なしで読まないと興趣が激減する。
 シビアな男女サスペンス、とだけ書いておくが最もシビアな「告白」にはつい笑ってしまった。

 《無垢なる手》
 日常を舞台にしたジワジワ系のストーリーだが、ちょっと無理が大きい。そういう経過になることはまずあり得ない。だがそれだけで終わらないエンディングは流石。

 《裂けた繭》
 前二作とはまるで異なる作風の作品で、ちょっと白井系で驚かされる。
 たまに見られるトリックが少し騙し度を上げて使われるが、これはあまり効果的とは思えなかった。それにもっと早く○○できたはず。

 《百舌鳥の家》
 日常・・・というか平凡な家族の奥に潜む慄きらしきものが段階的に露呈されてくるがイマイチしっくり来ない。話も何か散乱している。

 《戻り梅雨》
 最終作は・・・うーん、そうきたか。


 以上全5編。
 この作者の本を読むのは初めてだが、かなりの曲者であることは間違いなさそうだ。盲点の突き方がエグいし、多彩な珍球を投げてくるタイプらしい。各話とも最後までハッピーエンドかそうでないのか分からないのもいい(当サイトに限ったことではないが時々ミステリの感想欄に「いい話だった」などと書かれていることがあるが、それってネタバレになることも多いよね)。
 
 何はともあれ機会があったら他の作品も是非読んでみたい。

No.145 5点 ランチ探偵- 水生大海 2024/05/22 21:35
 グルメに彩られたランチ合コンが舞台の安楽椅子ミステリ短編集。

 《MENU   0》
 ホームズとワトソンの出会い以来、ミステリ小説において無数に繰り返されてきた、観察と推理により相手の状況を言い当てる1シーン。何で今時(と言っても10年前)、という感じだし、大して感心する内容でもない。
 まぁ、二人の主人公の名刺代わりのイントロダクションといったところだろう。

 《MENU   1 アラビアータのような刺激を》
 あまり面白くない話かと思わせられてからなかなか捻りがある展開を見せるが、この真相解明は推理というより殆ど超能力か霊視だろう。

 《MENU 2 金曜日の美女はお弁当がお好き》
 一生懸命〇〇話にしているのは分かるが、何かピンボケ気味で空回りの印象。

 《MENU 3 午後二時すぎのスーパーヒーロー》
 狙いは古典的で悪くないが、結局小振りでチマチマした話になってしまっている。

 《MENU 4 帝王は地球に優しい》
 前半三作のややややこしいストーリーに比べればシンプルな構成の話だが、恐ろしくマニアックな謎が提示される。
 これを解決編前に見抜ける読者はまず皆無だろう。

 《MENU 5 窓の向こうの動物園》
 これも提示される謎が非常に魅力的だが、その意味深に思わせられる度合いに対して、真相は「そんなもんか」という程度。前作の印象が強烈だっただけに自然と期待してしまっていたが・・・残念。話自体は悪くないが。
 
《MENU 6 ダイヤモンドは永遠に》
 最終話らしいタイトルで、これも期待させられるが・・・まぁ、こんなもんかな。

 
 以上全6(+1)話。
 第1話の感想で述べた通り、他の話も殆ど論理的に推理する探偵話というより、神がかった閃きで解決する話でミステリとしてはどうかとも思うが、とにかく軽くて読みやすい。
 非日常系と日常系のストーリーが混在していて飽きも来ない。
 月並みな形容だが、いつでもどこでも気軽に読める短編集としてはオススメ。

No.144 6点 少女を殺す100の方法- 白井智之 2024/05/11 14:39
 作者の第1短編集・・・かな?

《少女教室》
 あれだけの殺戮をやってのけた動機とグイグイ練り上げるロジックが素晴らしい。ただあんな単純なトリックが通用するのかと思いきや・・・
 ありえない経歴や、ありえない松葉杖使用・・・
 そんな末節はともかくトータルとしてよくできていると思う。

《少女ミキサー》
 冷酷極まりない超ソリッドなクローズド・デスゲーム。正直好みのシチュエーション。
 この作者らしく汚物や血塗れの臓物まみれの物語だが、展開は思った程コンクな物ではなかった。(人数が一人多いのでは?、それがキーポイントの一つか?、とも思ったが関係なかったようだ)

《「少女」殺人事件》
 ふざけた作中作ミステリ。ノックスの十戒への揶揄か?

《少女ビデオ 公開版》
 再び汚物、吐瀉物、大腸、残虐創傷まみれの白井ワールド炸裂の話だが、主人公が少女達をどう処理していたのか、なぜ猿を食わせなくてはならないのか、なぜ子供を産ませてはいけないのか、などよく分からないことも多い。
 ただ、珍しくわずかばかりの感傷がないこともなかった。

《少女が町に降ってくる》
 これは白井作品にしてはエログロが抑えられ、民話テイストを塗した荒唐無稽な特殊設定のミステリ。トリックや推理や真相はゴチャゴチャしているが面白いネタもいくつかあった。


 以上本編5編。ここまでで少女が100人ぐらい死んだだろうか。


 以下、文庫特別収録掌編

〈ヴィレッジヴァンガードで少女を殺す方法〉
 行ったことがないのでよくわからない。

〈ときわ書房で少女を殺す方法〉
 まぁ、短いからいいだろう。

〈下狢書店で少女を殺す方法〉
 最終作だから少しだけ期待したが正直面白くない。

 オマケの3編は殆ど「ルーフォック・オルメスの冒険」だな。

 
 この作者は「鬼畜系特殊設定パズラー」などと称されることもあるようだが、驚くほど細密なロジックを展開してみせることもあり、個人的には「エログロを頻用する摩耶雄嵩」という印象も抱いた。 

No.143 6点 お前の彼女は二階で茹で死に- 白井智之 2024/04/17 21:22
 鬼畜系とかエログロ炸裂とか形容される作風でマニアックなファンも多いという作者の短編集。怖いもの見たさで手に取ってみる。

《ミミズ人間はタンクで共食い》
 始めの5ページぐらい読んだところでやめようかとも思った(以前は合わないと感じたら早々に放り出すことも度々あった)が、数年前から一度読み始めた本は意地でも完読するという方針を自分に課しているので、自信喪失に陥らないために、また帯の乾くるみ氏の言葉も「全くのウソではないだろう」と信じて何とかしがみつき続ける。しかし尋常ではないキモさ(エログロなどという芸術的用語は相応しくない)の上のややこしくてムチャクチャな展開にはホトホト悪酔いさせられる。

《アブラ人間は樹海で生け捕り》 
 前作よりは、ムリヤリ鏤められたピースを強引に嵌めていくというパズラーとして、まだ読める代物にはなっているが桁外れのキモさは相変わらず。これが最後まで続くかと思うと・・・苦行以外の何物でもない。

《トカゲ人間は旅館で首無し》
 幸い前2作に比べるとキモ度はやや控え目にはなっているが、やはり爛れた皮膚を剥がしたり、膿でくっつけたりなどの想像しにくい(したくもない)作業描写が多い上に、やはり推理展開もややこしい。
 しかし終盤の残虐極まる壊滅は結構笑えてしまった。なるほど消化・排泄系や膿汁・粘液系はダメでもコッチ系は割りと好きだったな、と忘れていた自分のキュートな一面を久々に思い出させられた。
 また前2作とは異なり、好みではない多重解決ではないのもよかった。皮膚科医の名前がゲンタというのも受けた。

《水腫れ猿は皆殺し》
 更にキモ度は抑えられてホッとするが、ムチャクチャ度は相変わらず。ただ前3話のファクターを取り入れたり、またストーリー的にも一応本短編集のマトメのつもりのようだ。

《後始末》
 あってもいいけどなくてもよかったかな。

 
 人の嗜好は様々だからこういう風味の小説を好む人がいることも理解できるし、本書の各作品がキモ塗れながら特殊設定においてそれなりに緻密なロジックを張っていることも評価できる。が、生理的に合うか合わないかはどうしようもない。恐らく自分がこの作者の他の作品を手にすることは当分ないだろう。

No.142 7点 孤島の来訪者- 方丈貴恵 2024/03/19 20:49
 始めの見取り図などからはガチガチの本格かと思って読み進めると、いやはや何とも・・・・まぁ特殊設定での本格と言えるのかもしれないが。
「黒猫」の話はしばらくは冗談かと思っていた。

 それに例のマレ、いやアレはこのミステリを成立させるため、トリックを創案するために余りにも技巧的過ぎる造りになっているが、これは特殊設定のミステリなら当然であり、そのムリヤリをいかにロジックに繋げるかが評価のポイントにもなるだろう。
しかし「○○のフリをする」というのは如何なものだろうか。「設定」の範疇に入っていると言われれば、そうかな~と思いながらも否定しきれないが・・・これをやられると何でもアリに近い印象が滲んでくる。

 また最後の「決め手」は古いしショボい。
つーか、そもそもどんなに寝呆けていても持ちにくいワインボトルを持ったままトイレに行く奴なんているか? 「決め手」を演出するための余りにも稚拙なムリヤリの極み。

 まぁ他にもいろいろ言いたいことはあるが、何はともあれ「世にも異様な殺人物語」として読んでいる間は楽しめた。

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