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[ 短編集(分類不能) ]
緋色の残響
長岡弘樹 出版月: 2020年03月 平均: 5.50点 書評数: 4件

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双葉社
2020年03月

双葉社
2023年06月

No.4 5点 まさむね 2024/07/30 23:19
 スマッシュ・ヒットとなった「傍聞き」に登場した、シングルマザー刑事と新聞記者志望の娘が主人公となる短編集。
 作者の作品の多くは、一つの蘊蓄ネタだけを拠り所にしながら人間ドラマに結びつけようとする結果、相当のこじつけ感や非現実感、人間ドラマと真逆の作り物感が残るんだよなぁ…というのが私の個人的な印象。本書の短編においても、そういった側面は多分にあるのだけれども、母と娘の関係性や娘の成長という側面がそのマイナスを補ってくれたような気がしますね。もとより、リーダビリティは高い作家さんですしね。

No.3 5点 ミステリーオタク 2024/07/04 21:03
 数多くある作者の短編集のうちの1冊。自分が読んだのは多分これが2冊目だと思うが、なぜ本書を買った(大部前)のかはよく覚えていない。
 未亡人の刑事とその娘の中学生が主人公の連作短編集。


 《黒い遺品》
 今時こんな、対立し合う複数の「不良グループ」なんてあるのかねえ。平成の後半ぐらいまでには絶滅したのかと思ってた。
 それはともかく、いくつかの小ネタも含めて、小ざっぱり纏まったショートミステリになっている。悪くない。

 《翳った水槽》
 今時、家庭訪問なんてしている学校があるのかあ。前時代のうちに全面廃止になったのかと思ってた。
 それはともかく、犯人は出てきた瞬間に丸分かりだが、この話は犯人自明の上での「犯人落とし」を描いている。しかしコレで決定的に落ちるというのはあまりにも無理が大きい。仮に犯人に「その知識」があったとしても、これで「参りました」と平伏す必要性は全くない。自供さえしなければ何の証拠もない。かなり苦しい作品。

 《緋色の残響》 
 この話の始めの方で、この短編集の舞台が実は刊行された年時より二十年位前であることが初めて明記される。全く気づかなかった。前2話の感想の冒頭で不適当なコメントを記してしまったが、作者の悪戯心も少し感じた。でも、この頃にエピペンが一般普及していただろうか?  ちょっと時代考証が甘いような気もする。(間違ってたらゴメンナサイ)
 ミステリとしては何ということもない流れながら、事後に気づかされる「付加的真相」・・・これはいくら何でも・・・これじゃ殆どオカルトだ・・

 《暗い聖域》
 いろいろな「読心術」が出てくるが、殆ど机上の理屈っぽいものばかりで現実的に有効性が高いとはとても思えない。それにメインの「落とし」も、うまくいきすぎ感タップリ。着眼点は面白い話だが、ミステリとしてはどうだろう。

 《無色のサファイア》
 結末前までは不自然感満載だったが、そう纏めてきたか。現実味などどうでもいい。


 う~ん、何て言うのかな~、ミステリとして評価すると感心できる話はあまり多くなかった気もするが、ミステリに拘泥せず普段なかなかできないいろいろな「思いつき」や「蘊蓄」を「なるほど」とか「へー、そんなこともあるんだ」という姿勢で読めれば「面白い読み物」と言えると思う。 とにかく読みやすいし。

 また、作者名を知らずに読んだら、作者が女性であることを微塵も疑わせないだけの女性目線を演じる筆力は流石。

No.2 5点 E-BANKER 2022/06/02 21:36
~刑事であった夫が殉職後、強行犯係の刑事として、またひとり娘の母親として日々を過ごす羽角啓子。中学生の娘。菜月の将来の夢は新聞記者になることだ~
ということで、今一番「短編の名手」という名前に相応しい作者の短編集。2019年の発表。

①「黒い遺品」=へぇー、もう今ってモンタージュはなくなってるのね。というわけで、目撃者となった娘・菜月は途切れがちになる記憶を手繰り似顔絵を描くことに。真犯人は最初から何となく自明。
②「翳った水槽」=家庭訪問に訪れた女性教師。母親(啓子)に会えず帰っていった教師が何者かに殺される事件が発生。たまたま教師の自宅へ訪れていた娘・菜月・・・って、よく関係者になるよね。で、今回も真犯人は何となく察してしまう。メダカの性質のことは・・・知らなかった。
③「緋色の残響」=娘・菜月が昔通っていたピアノ教室。懐かしさから訪れた結果、生徒が絡む殺人事件に巻き込まれることに。で、この「残響」なんだけど、深読みし過ぎじゃない?
④「暗い聖域」=中学生の分際で〇〇なんて・・・。昔、これをテーマにした地上波ドラマもありました。しかし、またしても事件の関係者は娘・菜月の同級生。
⑤「無色のサファイア」=いくら新聞記者志望でも、こんなことやるかねぇ・・・。相当非現実的だと思うんだけど・・・。

以上5編。
現在のミステリー界でここまで短編に拘っている作家も珍しい。短編好きの私としてはできるだけ応援したい気持ちはある。
短編は、長編と違って書き込める量が少ない分、どうしても紋切り型になりやすい。特に意外な結末なんかを用意しようと思えば思うほどリアリティを犠牲にすることになる。
本作は、連作短編集としてもまぁよくできてるとは思う。、同じ学校や娘の生活圏で、よくもまあ殺人事件が頻発するもんだという横槍は入れたくなるんだけど、これはまぁ仕方ないかな。

でも何かひとつ食い足りない気がする。何だろう?
強いて言えば「リズム」とか「余韻」のようなものか。そういう意味では横山秀夫や米澤穂信の域には達してないかな。でも、これからもどんどん短編を発表してください。
(個人的ベストは②かな。他もあまり差はない。)

No.1 7点 HORNET 2021/02/07 15:33
 杵坂署の女性刑事・羽角啓子は、先輩刑事であった夫に先立たれ、中学生の娘・菜月と2人暮らし。家を空けることも多い多忙な母親だが、新聞記者を目指す菜月は、事件について母親と話すことも多く、良好な親子関係だった。本作は、そんな羽角母娘を主人公にした全5編からなる連作短編集。
 「翳った水槽」「緋色の残響」「暗い聖域」の3編は、菜月の通う中学校での事件であり、最後の「無色のサファイア」も含めて、本作品集は娘・菜月の活躍場面が多い。どの話も独特の切り口から真相解明に至る仕掛けで、各話ともユニークだった。特に最後の「無色のサファイア」は伏線の描き方からオチまでの流れが非常に巧みだった。
 日本推理作家協会賞短編部門受賞の「傍聞き」の母娘が、作者のフィールドである短編で三たび、存分に魅力を発揮する。


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