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[ 本格/新本格 ]
傍聞き(かたえぎき)
長岡弘樹 出版月: 2008年10月 平均: 6.19点 書評数: 16件

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双葉社
2008年10月

双葉社
2011年09月

No.16 6点 猫サーカス 2022/01/22 18:33
「傍聞き」とは「どうしても信じさせたい情報は、別の人に喋って、それを聞かせるのがコツ」ということだそうだ。あまり聞き慣れない言葉かもしれないが、なるほどと思う。小学生の娘と二人暮らしの女性刑事に、留置中の容疑者の男が話したいことがあると伝えてくる。男はかつて彼女が逮捕した男だった。出所して間もないのに、もう別の事件で捕まったのだ。だが面会に行っても、男はなかなか話そうとしない。ことによると、彼女を逆恨みしてお礼参りでも計画しているのか。男が取り調べを受けているのは、彼女の近所に住む独居老人宅への窃盗容疑だった。もしも男が本当に狙っているのは娘だったとしたら...。ごく短い小説であるにもかかわらず、一切の無駄を排した隅々まで伏線が張られた精密な作りは、あらすじとして簡潔にまとめられることを強力に拒んでいる。じわじわとサスペンスが高まっていった果てに、思いがけぬ真相が明らかにされた時、ミステリならではの見事に騙されたという快感とともに、しみじみとした感動がやってくるだろう。他の3編も、淡々とした筆致、サスペンスフルな展開、意外な結末、そして人間味あふれる余韻とを兼ね備えた作品が揃う。

No.15 5点 パメル 2021/09/16 08:18
更生保護施設の施設長、消防士、刑事、救急隊員など、それぞれ特徴ある職業人を主人公にした4編からなる短編集。どれも謎と意外性の骨格を持ちつつ、心温まる読後感をもたらす結末となっている。
「迷い箱」刑務所から出所した人を支援する更生施設の施設長である設楽結子は、過失とはいえ人を殺してしまった男のことが気になっていた。最後のオチは分かりやすいが、優しさが余韻を残す。
「899」消防署員である諸上将吾は、近くに住む新村初美のことが気になっている。出勤のタイミングを合わせたり、働いている蕎麦屋に顔を出したりと努力をしている。さりげなく配置された細やかな道具立てをうまく活用している。
「傍聞き」強行犯係所属の刑事である羽角啓子は、担当ではないがすぐ近くで起きた居空き事件を耳にし気に掛ける。啓子自身は連続通り魔を追っているが進展がない。メインとなる二つの謎のうち一つは分かりやすい。もう一つは、ある男の謎めいた行動が重要な鍵。第六十一回日本推理作家協会賞の短編部門の受賞作。
「迷走」救急救命士として救急車に乗っている蓮川潤也は、いずれ義理の父になる室伏光雄隊長とともに仕事をしている。男が刺されたという一報があり駆け付けると、そこには室伏の知り合いらしい男が倒れていた。被害者に対して個人的な恨みを持っているはずの隊長がする奇妙な行動。ミスリードが巧妙。隊長の人柄がにじみ出ている。
どの話も、主人公が何らかの誤解をしている。裏切られた、見落とした、襲われる、復讐をしているに違いないと。その過程で、人間同士の深い関わりみたいなものを浮き彫りにしていくのが上手い。

No.14 6点 名探偵ジャパン 2019/03/31 23:24
収録作品はどれも良くできており読みやすく、謎の提示と解決も面白いです。
ただ、他のレビュアーの方も書かれていますが、「謎」を生み出すために登場人物に不自然な言動を取らせているな、と感じるところはあります。特に第一話の「迷走」とか、「携帯電話を耳から離さない」理由は、きちんと説明したって一向に構わないし、立場上そうするべきなのではないでしょうか。しかも、この方法、作中に書かれているように事実行われていることなら、作者のオリジナルのネタということにはならないのでは?
とはいえ、文句を付けるとすればそのくらいで、全体としては非常に高水準な短編集であることに疑いはありません。

No.13 5点 ayulifeman 2014/11/09 12:40
一度読んだことある作品でしたが、忘れていて古本屋でかってしまいました。オチが思い出せるものがあったり、最後まで思い出せなかったり。一話がサクッと読めてどれも面白かったです。また何年後かに読もうと思います。

No.12 7点 2012/11/21 11:26
切れ味のするどさを感じる作品集です。
前の方が指摘されているように、横山秀夫の二番煎じのようにも思われますが、むしろするどさでは上を行くのでは?
地の文も会話文も歯切れが良いというか、いや悪すぎるのかな?文章を削ぎ落としてスリムにしてあります(そのわりにヒントは惜しげもなく教示してありますが)。読んでいて何のことかわからなくなることがあり、後であっそうかというようなことも多い。そんな文章に急かされてしまいます。
この語り口はたしかにうまいが、これをずっと続けると次第に飽きられるでしょう。国内には似たような短編の名手が多くいますから。だから、いろいろと手を変え品を変え多くの作品を書いて、そしていつかは直木賞を獲れるようがんばってほしいですね、横山氏の代わりに。

「迷走」・・・話は出来すぎ。でも著者の術中に見事にはまってしまった。
「傍聞き」・・・途中で傍聞きの効果をばらしてあるので、それをもとにオチを必死に考えた。的中はしなかったが外れでもなかった。
「899」・・・主人公の視点で、2人にスポットを当てている。これがミソ。うまいなぁ。でも、それほどミステリー的効果はなかったような気がする。
「迷い箱」・・・捨てるに捨てられないものって何なのか?いい話、というよりも、ちょっとつらい。

みな作りすぎの感じはするが、ラストが心地よいから許せます。ミステリー的に見ると、ヒントや伏線が十分に開示してあるのにサプライズが大きいのは評価できる点です。
「傍聞き」が一番。次点が「迷い箱」。他も悪くない。でも話はすぐにも忘れてしまいそう。
評価は1週間ほど頭の中で寝かせたあとにしました。その結果、7点ですが、1ヶ月後に5点になってるかもしれません(笑)。そんな可能性もある作品集です。

No.11 6点 こう 2012/10/21 19:19
 地味ながら良質な短編集といった印象でした。これがいい、と膝を打つ作品はなかったですが楽しめました。

No.10 6点 Q-1 2012/07/05 18:01
謎解きを楽しめたのは迷走と傍聞きでしょうか、
全体的にいい話ですが、少しだけ説教臭い感じがしました。
何となく赤川次郎の小説を連想しました。

No.9 6点 makomako 2012/06/04 20:36
どの作品も必要十分の内容でありきちんと出来上がっているのだが、だからとても面白いというものでもない。
 短編なのだから当然不要な内容はできるだけそぎ落としたほうがしまった話となるし、そしてここに収められた作品はいずれもスリムでピシッとした作品でちゃんと落ちもついているのだが。うーんどうもそれほど面白くないのだ。
 なんだか機械的で情緒に乏しい。そうすると内容が込み入ってくるほど楽しいというよりうっとおしくなる。短編だから読み通したが、長編だったら嫌になってしまいそう。
 

No.8 6点 メルカトル 2012/03/19 21:51
うーむ、どの作品も無難にまとめているが、言い換えればどれもこれもインパクトに欠けるということだろうか。
読み方が悪いせいなのか、私の頭が弱いせいなのか、一度本を置いてブランクが空くと、それまでのストーリーがほとんど思い出せないという珍現象が頻繁に起こった。
もう自分にはミステリを語る資格がなくなったと言うことか。
悲しい現実を突きつけられた作品だが、決して面白くなかった訳ではなく、それなりに楽しめたと思う。
それぞれの短編に教訓のようなものが示唆されているのも、一つ良いポイントであろう。

No.7 7点 haruka 2012/02/27 21:19
無駄な描写を削ぎ落とし、明確な謎を提示したうえで、説得力のある落ちを用意している。短編のお手本のような作品だが、お話として出来すぎている感あり。

No.6 7点 ボンボン 2012/02/26 10:12
消防士や刑事など社会的に役割を持つ人々を主人公に、その業務に絡む人生の一場面を切り取った短編集。どれもそれぞれの課題は残されたまま、何かが大転換するわけではないが、その人の心に転機になるような変化が起き、じんわりと温かい読後感を残す。一つ一つちょっとした謎が仕掛けられている。その部分だけ、少し不自然な作り物っぽい感じがしてしまったが、それでも全体的には、滑らかな展開で上手い。

No.5 7点 akkta2007 2012/02/13 18:44
4編からなる短編集の集まりであるが、どれも読みやすく納得の出来る作品ばかり・・・
満足であった。長岡氏の他の作品も読んでみたい。

No.4 7点 まさむね 2011/12/10 17:53
 4話で構成される,人情ミステリ短編集。どの短編も,軽快で切れ味のあるプロットで,余韻を残す温かな結末も素晴らしい。「短編の良さ」を堪能できる作品が揃っています。
 中でも,日本推理作家協会賞(短編部門)受賞作である「傍聞き」は秀逸。「色々な意味で厚みのある短編」とだけ述べておきましょう。しかも良質。お見事。
 人に薦めたくなる短編集です。

No.3 6点 E-BANKER 2011/10/26 21:02
2008年の日本推理作家協会賞短編部門受賞作である表題作を含む作品集。
氏の作品を読むのは初めてですが・・・評価は如何に?

①「迷走」=救急隊員が主人公。怪我人を病院へいち早く運ばなければならない筈の救急車を、隊長が病院の周りをうろつかせていた理由とは、というのが本作のテーマ。最初は登場人物の相関関係がよく分からなかったが、最後は納得。でも、他にいい方法あるんじゃない?
②「傍聞き」=『かたえぎき』とは、『傍らにいて、人の話を聞くともなしに聞く』こと。自分の耳で直接聞くよりも、人が話をしていることを傍で聞くことの方が真実味を感じるという人間心理が本作のテーマ。さすがに、協会賞受賞作らしく上質な作品で、オチも見事。
③「899」=消防士が主人公で、タイトルは火災現場での要救助者を意味する。火災現場に取り残された筈の乳児が突然消えた理由は、というのがテーマ。乳児の体に残った1つの特徴から、事件の背後にあったものが明らかになる・・・ラストは爽やか。
④「迷い箱」=元受刑者の受け入れ施設が舞台。再就職が決まり新しい人生を歩む筈だった男が自殺を図った理由とは、というのがテーマ。捨てるに捨てられないものを一旦入れておくための箱、がタイトルの意味。ラストで判明する、無口な男の本音がやりきれなさを誘います。
以上4編。

どれもなかなかの出来。短編らしい小気味いいプロットと切れ味、そしてラストの余韻を感じる作品が並んでます。
(4編とも、自分を犠牲にしても他人を助ける職業の現場を舞台に、ある登場人物がとった不可解な行動がミステリの核になるという仕掛け。)
ただ、あまりにも作風がカブりすぎでしょう・・・「横山秀夫」と!
作者名を伏せられて読んだら、これ絶対横山秀夫の作品だと思ってましたねぇ。
他作品がどうなのか分かりませんが、そこはどうしても気になる。
(やはり②が一番の秀作。④もなかなか)

No.2 7点 HORNET 2011/01/10 13:15
 人情話の中にミステリが含まれている,といった感の短編集。一つ一つの話がよく練られており,伏線もうまく張られていて,「上手だな」と感じました。それぞれに心温まる結末が用意されていて,読後感もよい作品です。

No.1 5点 江守森江 2009/10/17 17:09
日本推理作家協会賞・短編部門受賞の表題作を含む作者の第二短編集。
人を救う職業に従事する(異なる)主人公の人情ミステリを4話揃えた。
各話に謎(何故)があるが、丁寧に描き過ぎ(作者に隠蔽する気がないのかも)で先の捻りが察せる。
しかも、捻り方がマンネリ気味なのでミステリ短編集としては微妙、その一方でマンネリな捻りを捨て駒に暖かな結末を導き人情小説として読後感は良く素晴らしい。
※人情小説として楽しむなら邪道だが、ミステリとして楽しむなら表題作を先に読み堪能してから残り3話を流し読めば良い。


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