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[ 本格/新本格 ]
掲載禁止 撮影現場
長江俊和 出版月: 2023年10月 平均: 7.50点 書評数: 2件

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新潮社
2023年10月

No.2 8点 ミステリーオタク 2025/05/08 20:52
 この作者は短編集を何冊か出しているようだが、現時点では恐らく本書が最も新しい短編集ではないかと思う。

 《例の支店》
 オープニングで心霊ネタと知った時には少々ウンザリしたが、しばらく我慢して読んでいくと俄然面白い議論が始まり、読み止まらない展開が続く。顛末については何とも言えないが作者らしい不気味さも十分出ている楽しい読み物。言うまでもなくタイトルは「霊の視点」の異字表示だよね。

 《ルレの風に吹かれて》
 邦人が辿り着いた異国での物語だが前半はこの作者らしからぬ牧歌的な生活と情愛の世界が描かれる。もちろんそんなものが最後まで続くわけないことは始めから分かっている。当然の如く真ん中辺りで雲行きが怪しくなり、やがてメインのネタへ。
 このネタは初めて出会う人には結構な驚きをもたらすだろうが、いくつか前例があるので経験者なら後づけで「まぁ想定内かな」などと感想を述べそう。最後のオチは単純ながら書き方が面白い。

 《哲学的ゾンビの殺人》
 ある殺人の動機について思考実験やら哲学的ゾンビやらの禅問答のような対話が続く。そしてその末に・・・・うーん、つまりこれはどういうことなのか、読後しばらく考える。一応自分なりに説明を構築してみるが・・・タイトルが大きな手掛かりである気がする。

 《この閉塞感漂う世界で起きた》
 第2話に続いて「作者らしからぬ」まともなサスペンスっぽい話が展開されるが勿論・・・
 ただ結末は解釈に迷う気もする、が、どうであれ結果的には大差ないしこれも面白い読み物だった。

 《イップスの殺し屋》
 これもミステリ&サスペンスとして読ませてくれる。殺し屋の独白と客観描写の二交代で進むワンルーム・ストーリーだが心理戦とフーダニットが冴えている。
 真相、結末の意外性もかなりのレベル。

 《撮影現場》
 少し読み進めば、大凡の流れは見えてくるが本作の題名が本書のタイトルの半分になっている、つまり表題作に一番近いことを度外視してもこの話が一番「作者らしい」作と言えると思う。読後の個人的な総合評価は本書の中ではあまり高い方ではないが読中はノンストップだったし真相の意外性は十分評価できる。
 ところで「監督」の名前がアナグラムで「アヤマレザコ」と組めるのに何か意味があるかと思ったがストーリーとは無関係だった。

 《リヨンとリヲン》
 「ルレの風」同様、主人公が桃源郷的な地に至ってからの物語であるが、何故かそこは双子だらけの居住エリアだった・・・
 前作「撮影現場」に続いて作者の本領発揮と言える作品だと思うが、個人的にはあまり好みではない。

 《カガヤワタルの恋人》
 最終話は・・・何と言うか・・・・よくやるよ。
 

 以前この作者の別の短編集「掲載禁止」を読んだ時に大半の作品に共通した狂信的な不気味さに少々食傷気味になり、もうこの人の本は読むことはないだろう、と思っていたが本書の高評価を何かで目にして、アレから大部月日も経ったこともあり本書を手にしてみたが・・・・来てましたねー。「狂気」がふんだんに使われるとは言え、これだけ予想を覆すストーリーがズラリと並んだ短編集は殆ど記憶にない。
 ある作家の本を一冊だけ読んで「この人は合わない」と決め込まないことも大事であることを再実感した次第。

No.1 7点 まさむね 2024/05/29 23:09
 8編を収録した短編集。各編(文庫で)40ページ程度の文量で、序盤から終盤までグイグイ引っ張ってくれる引力があります。
 マイベストは「ルレの風に吹かれて」。なかなか言葉では表しにくい雰囲気を纏っていて、記憶に刻まれそうな一品。次点は悩ましいけれど「カガヤワタルの恋人」か。こういった基本的な手法の組み合わせ方(見せ方)は、個人的には好きです。
 切り上げてこの採点ということで。


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長江俊和
2024年02月
時空に棄てられた女 乱歩と正史の幻影奇譚
平均:6.00 / 書評数:1
2023年10月
掲載禁止 撮影現場
平均:7.50 / 書評数:2
2021年08月
出版禁止 いやしの村滞在記
平均:7.00 / 書評数:2
2019年05月
東京二十三区女 あの女は誰?
平均:6.00 / 書評数:1
2018年08月
出版禁止 死刑囚の歌
平均:7.67 / 書評数:3
2016年09月
東京二十三区女
平均:6.00 / 書評数:1
2015年07月
掲載禁止
平均:6.50 / 書評数:4
2014年08月
出版禁止
平均:6.20 / 書評数:10
2009年07月
放送禁止
平均:5.00 / 書評数:1
2002年11月
禁忌装置