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[ SF/ファンタジー ]
モロー博士の島
別題「改造人間の島」
ハーバート・ジョージ・ウェルズ 出版月: 1962年01月 平均: 6.00点 書評数: 3件

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早川書房
1962年01月

角川書店
1967年01月

旺文社
1977年08月

岩波書店
1993年11月

東京創元社
1996年09月

No.3 7点 Tetchy 2022/02/23 00:43
マッドサイエンティストによる禁断の研究というテーマで一番有名なのはメアリー・シェリーの『フランケンシュタイン』だろうが、本書は舞台を絶海の孤島に設定し、そして狂える科学者によって次から次へと半獣半人の怪物たちを生み出すワンダーランドにして、更に発展させた作品だ。この魅力的な設定が映画人を刺激し、何度も映画化されている。そう、ウェルズ作品は実は映画ネタの宝庫なのだ。

モロー博士の島はフリークスのパラダイスだ。
猿男にゴリラ男やナマケモノ男、豚男に牛男、狼男に豹男、牡牛人間にセントバーナード男、などから複数の動物を掛け合わせたハイエナ豚男、猿と山羊を合わせた精霊サテュロスのような獣人、馬犀人間、熊牛人間、男だけでなく豚女に狐熊女と次から次へと登場する。
これら獣人たちから仮面ライダーの敵のような怪人を想起するが、もしかすると仮面ライダーの敵はこの作品から着想を得たのかもしれない。なぜなら仮面ライダー自体がバッタと人間を組み合わせた人造人間なのだから。

このマッドサイエンティストの住まう孤島と怪人たちが数多く出現し、そこで九死に一生を得た科学者の物語という今や数多く作られたモチーフの原点ともいうべき作品だが、決してそれは既視感を覚えるものではなく、今なお考えさせられるテーマや感心させられる着想に富んでいる。

まず獣から人を作るモロー博士の実験はいわば自ら生命の進化を生み出そうとした科学者の夢だとも云える。しかし上に書いたように人工的に生み出した進化は真の意味での進化ではなく、自然の摂理に逆らった暴挙であることを証明するかの如く、最終的には彼らは獣に戻っていく。つまり退化していくのだ。
また知性を備えた獣人たちがどのように人間社会で暮らしていくべきなのか、そしてそれを受け入れる土壌があるのかと云えば、それはまだない。つまり『Dr.スランプ』や『ドラゴンボール』といった鳥山明氏が描く人間と獣人が混在したような世界は程遠い、いや未来永劫、実現しない社会であると云えよう。

そして面白いことに最初は違和感と嫌悪感を以て獣人たちを観ていたプレンディックも次第にその姿と彼らの所作に慣れてきて親しくなっていくのだ。特に漂流していた彼を救って島へと連れてきたモンゴメリーは人間よりも獣人たちと一緒にいることを好み、先に述べた獣人ム・リンが唯一無二の友人で彼が獣たちの“買い出し”に行くときも一緒に連れていくほどの中だ。但し2人の仲は上に書いたモンゴメリーのやけっぱちな軽はずみの行動によって悲劇を迎えるのだが。
そしてその慣れはプレンディック自身にも妙な潜在意識を植え付けることになる。島を脱出し、3日間の漂流の末に助けられた彼は普通の人間の男女が獣人に見えてしまい、恐れおののくようになるのだ。彼に対する好奇の目や親切心からの問いかけなどに彼は尻込みし、対人恐怖症となるのである。それは獣が人間になるのなら、人間もまた獣になるのではという恐れである。また一方でこれはしかしプレンディックが覚える違和感はロンドンの住民が一様に無表情で無関心である、いわば死んだ目をした虚ろな人間にしか見えないというウェルズの現代人に対する皮肉でもある。

やはり今の数多くある物語の源流を成すウェルズの作品の内容が決して今なお古びれてないことにまたもや驚かされた。
短編集3作を経て初の長編を読んだ今ではウェルズはSFの父というよりも偉大なる智の巨人であったという感を抱いた。

No.2 6点 クリスティ再読 2021/03/31 08:13
旺文社文庫「改造人間の島」で読了。この本は「改造人間の島(モロー博士の島)」「魔法の園(塀についたドア)」「王様になりそこねた男(盲人国)」「怪鳥エピオルニス(イーピヨルニスの島)」の1中編+3短編を収録。以前創元の「タイムマシン」を読んだが、この本と「塀についたドア」「イーピヨルニスの島」がカブるので、論評からは除外。
メインはもちろん表題作の中編「モロー博士の島」。いやこの作品、枠組みにあたる最初の難破と救助~モロー博士の島からの脱出、の比重が意外に重くて、クラシックな「海洋冒険小説」の枠組みを重視しているのがよくわかる。この語りの枠組みが、作品が負っている「ロビンソン・クルーソー」と「フランケンシュタイン」の2作品へのレファレンスみたいに見えて、その2作についての、19世紀末という時代からの鋭い批判があるようにも見受けられる。
いやね、ウェルズというと独特の批判主義というか警世家という側面があるわけで、「フランケンシュタイン譚」として、本作の「動物を向上させて人間にする」テーマを見れば、やはりモロー博士の傲慢が復讐される話なんだし、逆に「ロビンソン・クルーソー譚」の破綻と見れば、虐待されたフライデーの復讐、という風にも読めるわけだ。だからモロー博士に代表される西洋的な「知性」が、実のところ植民地主義の別名でしかない、という大英帝国の実像を告発する小説、という風にも見えてくるのも仕方がないことでもある。
しかも末尾でこれを逆転させて、ほかならぬ大英帝国の住人たちの中に、モロー博士の島で体験したような「獣性」を感じて、文明の化けの皮が剥がれる描写さえも含むわけである...大問題作。発表当時世論を刺激した、というのはもっともな話。
で「王様になりそこねた男」は、そういえば似たような話が落語の「一眼国」だ(苦笑)。目の見えない住人ばかりが暮らすアンデス山中の秘境に迷い込んだ男が「王様」になろうとして失敗する話。ウェルズの「相対化」みたいなアイデアが仮借ない。
というわけでアイデアストーリーなんだが、両方とも仮借ない批判性が面白い。

No.1 5点 蟷螂の斧 2021/03/30 17:51
裏表紙より~『海で遭難した主人公は一隻の貨物船に拾われる。船は各種の動物を積み、とある島にむかっていた。たどりついた先は、奇怪な住人たちが棲む絶海の孤島。しかも島の主は、十年前に消息をたった高名な天才生理学者モロー博士だった!』~

1896年のSFの古典。映画は未観ですがポスターは見覚えがあります。小説の方は、サスペンス感とか恐怖感とかがあまりありません。残念。ただ、主人公が島からロンドンに帰還した後のエピソードは、まあまあブラックな味わいがありました。


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ハーバート・ジョージ・ウェルズ
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