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[ 本格/新本格 ]
人喰い
笹沢左保 出版月: 1960年01月 平均: 6.21点 書評数: 14件

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光文社
1960年01月

中央公論新社
1982年05月

講談社
1983年08月

徳間書店
1991年03月

出版芸術社
1993年06月

双葉社
1995年05月

小学館
2016年11月

双葉社
2018年05月

No.14 4点 虫暮部 2024/05/02 14:30
 冒頭の遺書には吸引力がある。直後の佐紀子周辺の成り行きにも引き込まれた。
 しかしそれ以降の事件の展開には首を傾げる部分が色々と見受けられた。最終的な目的がアレで、その為にああいった内容の犯行、と言うのは非常にこじつけがましい。
 犯行の為の犯行、トリックの為のトリック。いっそ “サイコパスの愉快犯” にした方が説得力がある。作者は視野狭窄に陥って、全体像を俯瞰出来ていなかったのではないか。

 犯行動機。ソレの為にそこまでやるか? 共感は出来ないが、故に “意外な動機” としてそれはそれでアリかな~。

No.13 7点 みりん 2024/03/28 20:08
「犯人がとある謀略のために、徐々に時間をかけて構築した既成事実」は予想だにしていませんでしたが、これとほとんど同じものが扱われている作品を読んだことがある(私の記憶が正しければ…!)ので、衝撃というほどではありませんでした。
しかし、姉の遺書から始まって色々な事件が起こり、ずっと目を離せない展開だったので夢中になって読み進められました(3時間一気読み!)。この1960年代の経営者側の絶対的優位性や身分による自由恋愛の阻害などなど、主題の本格サスペンスの影に隠れて、興味深い要素も色々ありました。

この時代に本格ミステリを描くうえで、この世の真理みたいなものを少し混ぜるのはご愛嬌ですかね
評点は「かなり楽しめた」ということで7点の最上位

No.12 7点 2021/05/27 09:13
 三つ巴の組合闘争にゆれる優良企業・本多銃砲火薬店。その浦賀工場に勤める花城由記子が、遺書を残して失踪した。度を越したワンマン社長の一人息子・本多昭一と心中するというのだ。しかし山梨県の昇仙峡で昭一の遺体が発見されてからも、かの女の行方は杳として知れなかった――。その後も会社に続発する倉庫爆破や社長刺殺事件の果て、遂に殺人犯人として全国指名手配を受ける由記子。姿を消した姉を追い、妹・佐紀子は必死の捜索を続けるが・・・・・・。
 本格、社会派・サスペンスの見事な融合! ロマンにあふれた作風で笹沢ミステリの原点をなし、第14回日本推理作家協会賞を受けた傑作長編!
 自身「惜しげもなく多くのトリックを投入した」と語る、最初期書下ろし四長編の最終作。昭和三十五(1960)年の刊行で翌三十六(1961)年、水上勉「海の牙」と共に推理作家協会賞を受賞した著者の出世作でもある。『霧に溶ける』で見られたギスギスした描写もこの頃にはかなりこなれてきており、ドライなトーンと叙情性とを突き混ぜた独特なムードは加点対象。現実的でありながら一途な恋に憧れる若い女性の、運命の変転から生じるドラマを、巧みにプロットに組み込んで盛り上げている。幾重にも迷彩が施してあるとはいえ、爆破事件絡みの人間トリックはバレた場合のリスクも大きく少々戴けないが、ライターのイニシャル判明からの突き崩しと続く新聞の特別手記とで、ラスト直前に大きく持ち直す作品。社長殺しのトリックは必然性も薄く多少捻ってある程度だが、ここで1点加点してギリ7点となる。
 ただしこの犯人の行為は必要以上に嗜虐的なため最後の手記もその異常性のみが際立ち、タイトルの暗示する普遍的な警鐘には繋がっていない。時事問題を扱ってはいるが社会性は薄く、本質的にはパズラー寄りの小説である。

No.11 7点 mediocrity 2019/07/02 04:01
この方の文章好きだなあ。上手いのに嫌味がまったくないというか、流れるように読める。内容もすごさは感じないんだけど、細かい所が結構凝ってると感じました。ちょっと変わった章立ても、読み終わってその意味に納得。日本推理作家協会賞受賞も納得です。一番好きじゃないのはタイトルですかね。

No.10 7点 斎藤警部 2019/04/19 00:42
つァ面白い、スカッと爽快! 物語を逆算するてと相当なイヤミス真相だってのがまた、たまらん。 殺傷事件が物語を襲うたび生存説が更新される第一容疑者は、姉妹二人で暮らしていた主人公の姉。 労働組合の幹部をやらされている彼女は社長(傲岸極まりなし)の息子(好青年)と恋仲。妹への遺書を残して消えた彼女は彼氏との心中現場(社長の息子は屍体で発見)から一人消えたと目された。姉の無実を証明するために彼女の死亡を確認する必要に迫られた主人公は、姉と同じ会社に勤める、以前からの恋人と共に真相を追及する。。。。 これ以降のストーリー展開は言わずにおきましょう。 いや、新社長は進歩的センスで社員からの信望厚いハンサム・ガイという事は言っておこう。

快速プロットに大中小トリックと穏当ロジックと、絶妙なミスディレクション、適度な社会派ドラマにやや複雑な恋愛劇に。。。盛り込みも凄いがバランスが最高に良くて読みやすいことこの上なし。サスペンスいっぱいの昭和三十五年本格力作。大型心理トリックには圧倒されたが、小型の心理的物理トリック(図解付き)も妙に心に残る。 しかし連れ込みの偽名に「徳川忠勝」 w

真犯動機と結末にあと一歩半のキツい深みがあったら8点行きましたね。惜しいとこ。



さてここから後はネタバレになりましょうが、読了してみると表題に取って付けたよな違和感が。ミスディレクション(旧社長、実は新社長も?の悪意を匂わせる)もあるのかな。それと、作者が意図してかせずしてか、昔の大映ドラマみたいな思わす噴き出すベタな痴話喧嘩シーン、時代ってコトかとうっかり気を抜いてたら、それがまさかの大伏線だったとはねえ。んで、ここまで言ったらたぶん完全ネタバレだけど、クリスティとアイリッシュの某代表作どうしをクロスさせたよな(タイムリミットが咬ませてあるのも含めて)作品構造ですかね。最後、敵同士でしかないと思われた女どうしの間に意外な友情萌芽が連発したのは、いい意味で参りました。

No.9 7点 HORNET 2019/04/07 16:53
 労使の闘争の様子や、登場人物の物言い、描写の文体など、昭和の名作の雰囲気があってそういう意味で非常に楽しめた。
 主人公の姉の遺書から物語はスタートする。唯一の肉親である最愛の妹に宛てて、悲恋の恋人と心中することを伝えるものだったが、発見されたのは相手の男性の遺体だけだった。姉はどこへいったのか?不安と心配に苛まれる中、心中の原因となった姉の会社で次々に不審な事故や殺人が起こる。生き延びた姉の仕業なのか?妹の佐紀子は恋人である豊島と力を合わせ、事件の真相解明に乗り出す。
 いちOLである佐紀子が、探偵よろしく関係機関や人物のもとを訪れて捜査まがいのことをする展開はいかにも昭和の2時間ドラマタイプのように感じるが、私は好きだ。からくらやトリックも今のように妙に凝ったものではないが、十分に楽しめる。人間関係や愛憎劇が真相に上手く関わっていて、物語の魅力を増していると感じた。

No.8 5点 nukkam 2018/05/15 00:57
(ネタバレなしです) 1960年発表の長編ミステリー第4作の本格派推理小説です。企業における労使の対立を描いたり、失踪して殺人容疑者となった姉の無実を証明しようとする妹を主人公にしたりと当時人気の高かった社会派推理小説の影響が色濃くにじみ出ています。この作者らしくトリックもありますが、アマチュア探偵となった主人公の推理が時にミスディレクションの役割を果たしているところが工夫になっていてトリックよりもプロットで勝負した作品だと思います。1960年の初期4作の中では謎解きの出来では劣るように感じますが、物語性では1番充実していると思います(主人公の不幸が強調された物語ですが)。

No.7 7点 パメル 2016/11/23 01:01
本格推理小説の技巧と哀愁のロマンに満ちたストーリーが融合している
トリックは先入観と錯覚を巧みに使われていて読者を欺くための仕掛けが惜しげもなく使われている
姉の名誉のために真相を追及していく妹がある矛盾点に気が付く
この妹がいい味出していて魅力的
数々の小道具・細かいところに仕込まれた伏線そして犯人の意外性と作者の妙技が堪能できる作品

No.6 5点 ボナンザ 2014/04/07 23:01
やや社会派よりの作風。おもしろいが、他作に比べると見劣りするかもしれない。

No.5 7点 E-BANKER 2014/01/18 23:56
1960年発表。その年水上勉氏の「海の牙」とともに日本探偵作家クラブ賞を受賞した作品。
本格ミステリーを量産していた作者初期の代表作。

~花城佐紀子の姉が遺書を残して失踪した。労働争議で敵味方に分かれてしまった恋人と心中するというのだ。だが、死体が発見されたのは相手の男だけで、依然として姉は行方知れずのままであった。姉にかけられた殺人容疑を晴らそうと、佐紀子は恋人の豊島とともに事件を調べ始めることになるが・・・~

まずは佳作といっていいと思う。
とにかく読みやすいし、時代性を勘案すればトリックの取り入れ方や意外性十分の真犯人など、初期の作者らしい本格ミステリーのギミックが十分込められた作品だろう。
(まぁ、2014年の今から見れば、多少陳腐化したプロットに見えるのは致し方のないところ・・・)
「人喰い」というタイトルも随分意味深だが、真犯人が語るこの言葉の意味や、労働組合・労働争議などという単語など、やはり60年代という時代性を考えずにはいられない。
ただし、一方的に社会派寄りにならず、あくまで本格ミステリーという風合いを大事にしていた作者には敬意を評したい。

で、本筋としては、二幕目の社長殺害がやはり本作の「山」になるのだろう。
「錯誤」をうまく使ったアリバイトリックは、シンプルな分だけ説得力はある。
(犯人サイドにとってかなり危ういと言えることは言えるが・・・)
フーダニットについては、序盤から慎重に伏線が張られていて、多少齟齬があるとはいえ、なかなか良いと思った。
探偵役を素人の女性にしていることもプロット全体に効いていて、作品の雰囲気作りとともに成功している。

まぁ全体の出来としては、「霧に溶ける」などの方がやや上かなという気はするが、本作も十分評価に値する作品だと思う。
他の方が書評しているとおり、若干「二時間サスペンス感」があるのがちょっと残念。
(女性を書かせたらさすがにウマイ!)

No.4 6点 文生 2012/04/08 13:02
笹沢左保の初期の作品は本格要素満載でそれなりに楽しめはするのだが、指摘のある通り、トリックに新味も使い方に工夫もないのが難点。
本作も派手なトリックはいくつかあるが、いずれも前例があるものばかりで、使い方に特にひねりがあるわけでもないので傑作と呼ぶには今ひとつ物足りない出来。

No.3 6点 isurrender 2011/06/26 02:22
トリック自体は悪くないかな、っていう印象
恋愛を絡め、2時間サスペンスのような展開だが、50年近く前の日本で最も労働運動が盛んだった時代の作品だけに、当時の労働運動の雰囲気が垣間見れるという点は面白かった

No.2 6点 kanamori 2010/06/29 18:20
初期の本格ミステリで協会賞受賞作ですが、同時期の作品と比べても飛びぬけて出来がいいとは言えないと思います。
社会派+恋愛ロマン+本格トリックを組み込んだいつもの笹沢節の作品です。
社会派=労働組合というのはまたかと思わせますし、密室トリックもクレイトン・ロースンなどの前例があるので、あまり読後の印象はよろしくなかったです。

No.1 6点 2010/05/09 09:09
1961年の日本推理作家協会賞受賞作。全体的にメロドラマチックな謎解きになっているのはこの作者らしいところです。
最初の姉の遺書の章は、無理やり遺書の中で状況説明をまとめてしまったような感じがして、あまり好きになれなかったのですが、その後は快調に読んでいけました。ただ、妹の視点から描かれた部分と、より第三者的な描き方の部分とのバランスが、多少まとまりを欠いているようにも感じられます。
犯人の計画の根本はクリスティーも使った手ですが、書かれた当時の社会状況などもうまく利用していて、なかなか巧妙な使い方です。ただし社長殺害については、殺害トリック自体は悪くないのですが、そのようなトリックを使う理由がないのが難点です。また、犯人指摘の決め手のひとつになる犯人のある行為にも意味が全くないので、この行為ははぶいてしまった方がよかったと思います。


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