海外/国内ミステリ小説の投稿型書評サイト
皆さんから寄せられた5万件以上の書評をランキング形式で表示しています。ネタバレは禁止 していません。ご注意を!

[ サスペンス ]
東へ走れ男と女
改題『残り香の女』
笹沢左保 出版月: 1967年01月 平均: 6.00点 書評数: 1件

書評を見る | 採点するジャンル投票


恒文社
1967年01月

徳間書店
1983年07月

角川書店
1992年02月

No.1 6点 人並由真 2021/10/12 04:32
(ネタバレなし)
 昭和40年代の初め。旅行会社「東西ガイド」の観光案内係で30歳の大和田順は、妻の洋子に不倫相手と心中され、さらに部下の横領の引責を命じられてクサっていた。そんな時、一人の中年女が大和田を60歳過ぎの富豪・結城仙太郎のもとに招待する。結城老人は10年前に4人の犯罪者仲間と、ユダヤ系の貿易商から総額30億円のダイヤモンドを強奪し、その後現在までほとぼりが冷めるのを待っていた。だが結城老人は現在、心臓を病んでおり、本来なら息子を代理人として近日中の予定の分配の場に行かせるつもりだったが、その息子が数年前に死んだため、よく似た顔の大和田に息子のふりをして分け前を受け取りに行ってほしいという。大和田は、その直後に出会った若い娘・曾我部毬江ともに、結城の犯罪者仲間またはその関係者と合流。一同はダイヤを秘匿してある場所に向かい、分配を図るが、道中で次から次へと命が失われていく。

 改題された角川文庫版『残り香の女』の方で読了。

 時代設定が古いのに違和感を覚えつつも、読んでいる間は80年代の比較的近作だと思っていた。だってなんか、赤川次郎のハチャメチャ設定の諸作が隆盛の時代に、その辺を仮想敵にして一本仕立てた、<とにかく読者を食いつかせればいい>タイプの作品かと思ったんだもの。
 で、読了後に巻末の郷原宏の解説を読んで、さらにAmazonで元版の刊行年を確認して、やはり古い初期作品(1966年)だったかと、それはそれで腑に落ちた。

 ちなみに主要登場人物のひとり、結城仙太郎じいさんの設定が「丸仙商会」というキャラクターものの玩具やプラモで儲けた玩具問屋の大物実業家。会社のモデルは怪獣ソフビやプラモで世代人には有名な「マルサン(マルザン)商店」だな。評者のような怪獣ファンにはユカイであった。

 ミステリとしてはあまりにも強引な展開を、力技でとにかく読ませるが、途中で出没する「残り香の女」の正体ほかいくつかのネタが見え見えで、まあ出来そのものはあんまりヨロシクはない。
 細部にしても、そんなにうまくいかないだろ、とか、アレコレと、こういう事態は生じないのか? などの疑問がいくつも湧く。
 それでも一応は最後まで読ませてしまうあたりは……うん、やっぱり後年の(80年代の)赤川次郎の諸作のうちの、出来の良い方みたいな感じ(笑・汗)。

 ただまあ、もともとは「東へ走れ男と女」のタイトルで(※註)恒文社発行の週刊誌「F6セブン」(はじめて聞く名前だが、当時「平凡パンチ」のライバル誌的な男性週刊誌だったらしい)に連載されたらしいので、イベントが矢継ぎ早に起きる展開はそれなりに人気を博したものとは思われる。
 B級とC級の中間の昭和エンターテインメントミステリで、ちょっとフランスミステリっぽい味付けというところ。
 ラストは劇画チックではあるが、ちょっとだけ余韻のあるクロージングで悪くはなかった。まあ笹沢ファンなら、作者の芸域の広がりも確認する意味も込めて、そこそこ楽しめる、かも。

【註】
 角川文庫の巻末の解説では郷原宏は、連載当時のタイトルは「走れ東へ男と女」だったと書いてあるが、2021年10月12日時点でたまたまヤフオクにくだんの週刊誌「F6セブン」の本作連載開始号が出品されており、そこで表紙と目次を見ると元版の書籍と同じタイトル「東へ走れ男と女」で掲載されて(連載開始して)いる。郷原の単純な勘違いか? まさか途中で題名が変わったか?


キーワードから探す
笹沢左保
2023年06月
シェイクスピアの誘拐
平均:5.00 / 書評数:1
2018年01月
流れ舟は帰らず 木枯し紋次郎ミステリ傑作選
平均:8.00 / 書評数:2
2000年07月
生存する幽霊
平均:5.00 / 書評数:1
1995年04月
殺したい女
平均:7.00 / 書評数:2
1994年09月
危険な隣人
平均:4.00 / 書評数:1
1993年11月
取調室 静かなる死闘
平均:4.50 / 書評数:2
1992年07月
一方通行
1991年11月
追越禁止
平均:5.00 / 書評数:1
1991年08月
夕暮れ
1991年05月
白い悲鳴
平均:5.00 / 書評数:1
1991年02月
昼下がり
平均:5.00 / 書評数:1
1990年09月
夜明け
平均:6.00 / 書評数:1
1990年07月
アリバイの唄
平均:5.62 / 書評数:8
1990年06月
青春の葬列
平均:6.00 / 書評数:1
1989年05月
霧の晩餐―四重交換殺人事件
平均:6.00 / 書評数:2
1987年11月
真夜中に涙する太陽
平均:4.67 / 書評数:3
1987年01月
ふりむけば霧
平均:5.67 / 書評数:3
1986年11月
血の砂丘
平均:5.00 / 書評数:1
1985年02月
逆転
平均:4.00 / 書評数:1
1984年08月
密会
平均:5.00 / 書評数:1
1983年11月
四十八時間の告発
平均:6.00 / 書評数:1
1983年10月
盗作の風景
平均:7.50 / 書評数:2
1982年12月
魔の不在証明(アリバイ)
平均:4.00 / 書評数:1
1982年07月
悪魔の関係
平均:3.00 / 書評数:1
1982年05月
三人の登場人物
平均:6.00 / 書評数:1
1982年01月
華やかな迷路
平均:5.00 / 書評数:1
1981年09月
どんでん返し
平均:5.50 / 書評数:4
1981年05月
愛人岬
平均:4.00 / 書評数:1
1981年02月
後ろ姿の聖像
平均:5.50 / 書評数:2
1981年01月
悪魔の部屋
平均:5.00 / 書評数:1
1980年12月
沈黙の追跡者
平均:6.00 / 書評数:1
1980年05月
セブン殺人事件
平均:5.67 / 書評数:3
1980年04月
遥かなりわが愛を
平均:6.50 / 書評数:2
1978年07月
求婚の密室
平均:6.67 / 書評数:9
1978年05月
異常者
平均:8.00 / 書評数:1
1976年09月
愛人関係
平均:5.00 / 書評数:1
1976年03月
金曜日の女
平均:4.00 / 書評数:1
1976年01月
他殺岬
平均:5.88 / 書評数:8
1974年12月
真夜中の詩人
平均:6.12 / 書評数:8
1973年01月
闇の性
平均:7.00 / 書評数:2
1972年01月
地獄を嗤う日光路
平均:6.00 / 書評数:1
1971年01月
いつになく過去に涙を
平均:5.00 / 書評数:1
六本木心中(角川文庫、ナショナル出版 版)
平均:8.00 / 書評数:1
雪に花散る奥州路
平均:7.00 / 書評数:1
1968年01月
六本木心中(文華新書 版)
さよならの値打ちもない
平均:6.00 / 書評数:2
1967年01月
東へ走れ男と女
平均:6.00 / 書評数:1
幻の島
平均:6.00 / 書評数:1
明日に別れの接吻を
平均:5.50 / 書評数:2
1966年01月
孤独な彼らの恐しさ
平均:7.00 / 書評数:1
二人と二人の愛の物語
平均:6.00 / 書評数:1
1965年01月
明日まで待てない
平均:6.00 / 書評数:1
誰もが信じられない
死人狩り
平均:5.00 / 書評数:2
1964年01月
火の虚像
平均:6.25 / 書評数:4
1963年01月
赤い氷河
平均:5.00 / 書評数:1
揺れる視界
平均:5.00 / 書評数:1
突然の明日
平均:6.00 / 書評数:4
1962年01月
崩壊の夜
平均:6.00 / 書評数:1
暗い傾斜
平均:6.83 / 書評数:6
1961年01月
真昼に別れるのはいや
平均:6.50 / 書評数:2
泡の女
平均:5.67 / 書評数:3
空白の起点
平均:6.10 / 書評数:10
1960年01月
結婚って何さ
平均:5.67 / 書評数:6
霧に溶ける
平均:7.22 / 書評数:18
人喰い
平均:6.21 / 書評数:14
招かれざる客
平均:6.14 / 書評数:14
不明
沖縄海賊
平均:6.00 / 書評数:1