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[ 本格/新本格 ]
暗い傾斜
別題『暗鬼の旅路』
笹沢左保 出版月: 1962年01月 平均: 6.83点 書評数: 6件

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No.6 7点 人並由真 2023/03/22 11:46
(ネタバレなし)
 昭和の中盤。港区にある中堅の町工場、大平製作所は、当てにしていた新案技術が利益につながらないと判明し、経営危機に陥る。亡き両親から会社の経営を引き継いでいた32歳の美しい女性社長、汐見ユカは、彼女を10年間にわたって精神的に支え続けてきた総務部長の青年・松島順二の献身も甲斐なく、苦境に立たされる。そんななか、会社の周辺で、重要な関係者の一人が死亡した。

 評判がいいので、以前から読みたい、と思っていたが、古書価がやや高めなので二の足を踏んでいた。今回の復刊で容易に読めるようになり、とてもありがたい。

 女の肉体が性器具としてどーのこーのとか、男は女の体に飽きるのが当然だとか、21世紀の今なら確実にコンプライアンスにひっかりそうな叙述がてんこ盛り。旧「宝石」に連載された作品だから、特にのちの中間小説的な方向を狙ったわけではなく、作者の地とそれを許した当時の世相の賜物であろう(その一方で、おなじみの笹沢ロマンらしい、男女間の独特の情感もかなり色濃い作品だが)。
 知的な謎解きパズラーを読むふりをして、昭和ミステリを、リミッター解除されたいやらし小説として愉しむ21世紀現在の中高生とか、世の中のあちこちにいそうな気がする。

 小説としてはスラスラ読みやすいが、これがどう、定評の(中略)トリック作品に転ずるのかと思いながら、後半までページをめくると……ああ、そういうことね。
 確かに、これがある種のリアリティというか説得力を持っているのはわかるのだが、主人公に限らず、捜査陣の誰かがひとりでも「こういうこともあるのではないでしょうか」と言い出したら、一瞬で瓦解しそうなきわどさも感じた。
 あと、このアイデアというか、ものの考え方は、後年の某・国産ミステリの某作によくいえば影響を与えている、悪く言えばちょっとだけひねってパクられているような。
(そーゆー意味では、源流または先駆に触れた意味で、よかったか。)

 笹沢作品にありがちだが、(中略)が、後半へと物語が進むなかで交代。けっこう気に入ったんだけど、最後の余計な文芸は要らなかったとも思う。かといって無いではないで、それではキャラクターが薄い、という警戒が作者の胸中に芽生えたのだとしたら、まあその気分もわからないでもない。
 いろんな想念が次々と湧いてくる作品。さほど突出した優秀作とまでは思えないけれど、作者らしさはかなり濃厚ではあろう。
 佳作の上か秀作の下くらいか。

No.5 8点 ねここねこ男爵 2017/10/29 04:49
サスペンスですかね。
笹沢左保氏はアリバイトリックの名手で、そのオリジナリティとバリエーションの豊富さ、トリックに説得力を持たせる筆力は群を抜いています。本作のメイントリックを自分は知っていて読んだんですが、それでも楽しめました。
作中の雰囲気も独特で良いです。

No.4 7点 蟷螂の斧 2017/07/30 10:32
有栖川有栖氏のアリバイ講義(「マジックミラー」)で紹介された作品。トリック自体は先例がありますが、それをアリバイトリックに応用したのは初めてかもしれません。高知の室戸岬で事件が起き、一方東京でも同じ日に事件が起きる。この場合、実は共犯者がいたでは面白くとも何ともないので、読者は犯人の移動方法を考えるのですが・・・といった作品です。笹沢左保氏の数作品が、前記のアリバイ講義で紹介されていますので続けて読んでみるつもりです。

No.3 6点 パメル 2016/10/10 22:40
男女の人間関係が愛憎と欲望で複雑に入り乱れている
独特の情緒があり雰囲気は楽しめる
ある事件の容疑者になることにより実際に犯した事件のアリバイを成立させるという
トリックはなかなか面白いと思った反面心理的な誘導を必要とするため実現可能かと
いうと少々疑問が残る

No.2 7点 ボナンザ 2014/04/07 23:03
有栖川氏が絶賛している作品。確かにアイディアの斬新さは劣るが、論理性では傑出している。

No.1 6点 こう 2009/02/09 00:08
 女社長が発明家の研究員と共謀して株価操作をした疑いで株主総会は紛糾していた。その直後研究員は失踪し不審死で発見され女社長に疑いがかかり、というストーリーです。
 メイントリックの成功はキャラクター造形に関わっていると思いますが可能性でいえばありかなと思いました。電話のトリックはいくらなんでも通用しないと思いますが。
 犯人の自分勝手すぎるところもありますが出来としては悪くないと思います。物理トリックよりも心理トリックを上手く使った作品として趣向は悪くないと思います。


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