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[ 本格/新本格 ]
突然の明日
笹沢左保 出版月: 1963年01月 平均: 6.00点 書評数: 4件

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朝日新聞社
1963年01月

講談社
1977年01月

徳間書店
2022年02月

No.4 6点 人並由真 2022/04/18 06:38
(ネタバレなし)
 たぶん昭和30年代のその年の2月15日。銀行の本店課長である小山田義久は、妻の雅子、そして上は28歳の長男から下は19歳の次女まで6人の家族で食卓を囲んでいた。その場で、長男で保健所に勤務する晴光が、今日の昼間、銀座の路上でかつて同僚だった女性を見かけたが、相手はほんの一瞬の間に目前から消失したと家族に語った。半信半疑の一家だが、やがて翌日の夜、その晴光が都内のマンションから転落死。しかも晴光には死の直前に、同じマンション内の人物を殺害していた容疑がかけられた。殺人者の家族という汚名をかぶって分解しかける小山田家。だが兄の容疑に疑惑を抱いた次女の凉子は、父の義久、晴光の友人だった瀬田大二郎に協力を求めながら、独自に事件の再調査を開始するが。

 今年刊行された、徳間文庫の新版で読了。
 本サイトの斎藤警部さんも、そしてその徳間文庫での巻末の解説で有栖川先生もともに書かれているが、自分も本作との最初の接点は、たぶんミステリ・トリック・クイズ本「トリック・ゲーム」だったと思う。
(あるいはもしかしたら、同じように、ミステリ実作のトリックを引用もしくはパクってネタバレさせた、トリック・クイズ系のまた別の類書だったかもしれないが。)

 ただし今回、実際にこの作品『突然の明日(あした)』を読むまでは

・その笹沢左保の該当作品では、印象的な人間消失の謎とそれにからむトリックが設けられている
・しかしそのトリック・クイズ本を読んでおきながら、長い歳月が経つうちに、それが具体的にはどんなトリック
 だったのかは、まったく忘れた(その作品名すら一時期はおぼろげになった)
・なんとなく、そのトリックそのものは(中略)というか(中略)系だったような印象がある
 ……という、評者の立場であった(汗・笑)。

 実は、ひと昔前までは、この路上人間消失ネタの笹沢作品は『空白の起点』だと勘違いしていた。そんなこともあったので(実際はまったく違います。そもそも『空白~』には、通例の人間消失事件なんか、出てこない)、その疑いが晴れたこの数年に至っては「じゃあやっぱり、都会の路上で人が消えるのは『突然の明日』なんだな、改めてちょっと読みたい」とは思っていた。
 ただまあ、これについてはそんなに高い古書価を払う気もなかったので、評者の欲求に応えて適当な頃合いで実現された、今回の復刊はありがたかった。

 で、くだんの人間消失トリックは、妙にキー要素として最後まで引っ張られるものの、メインの謎解きのポイントは別のところにあるし、犯人の意外性も(中略)で割と早々と見当がついてしまう。あと中盤からは全体的に、トラベルミステリっぽいね。

 犯人の犯行事情というか動機に関しては、なるほどちょっと感じるものはあったが、まあ全体的には笹沢初期作品の中での、Bの中~下クラスというところか。
 案の定(中略)ぽかった消失トリックは、ほほえましい。フラットにホメられはしないけど。

 なお作中人物の推理のロジックが一部、強引なのは、いかにもこの作者らしいが、実は同じ理屈で、この感想を書いている評者自身もそのロジック通りのことをしているのに気づいて苦笑した。文句は言えない。

 今回の徳間文庫版の裏表紙の作品紹介で、締めの言葉は「ヒューマニズム溢れる佳作」。
 とはいえ正直、ヒューマニズム溢れるとはあんまり感じないし、一方で、物語の後半で調査にいった義久が捜査の不順でストレスを感じ、証人になってくれた人の飼い猫に八つ当たりしかける描写にも腹が立った(怒)。こういう人間の弱い(というよりダメダメな)部分で、ヒューマンさを見せられてもねえ。
 だから1~2点減点してやろうかと思ったが、まあ笑える人間消失トリックに免じて、その辺には目を瞑ってあえてこの点数で。
 21世紀でのホメ言葉としては、確かに「佳作」でいいんじゃね。

No.3 7点 斎藤警部 2021/08/25 00:00
“義久は寂しかった。彼はしばらく、その場にたたずんでいた。新橋駅へ向かったのは、五分ほどたってからであった。”

家族の悲劇から突如、ゲーム性の高い世界へジャンプイン、強い思い込みを道連れに。。それも悪くない、現実世界が実はそんなもんだろう。だがやはり社会派ならぬ人生派らしい空気は琴線に触れる。ちょっくら理屈のエセーがうるさいのも許せる。タイトルワードの置き方が説教くさい所もあるが、いいでしょう。それにしてもこの小説には何やらケミカルの匂いが、、それともうひとつ、”アレ”の匂いがどうにも漂うのだが。。。 探偵役を買って出た被害者の父親と妹それぞれによる、頼もしき実地検分シーン、振り返れば泣ける。人造の筈のアリバイに、自然発生(?)の大火災がどう関わって来るのか興味津々。。と言ってアリバイトリックは腰を抜かすようなものでもないが、その、偶発事から身を守る要素も入った複雑な忙しなさと、ちょっとした心理トリック取り込みの妙、これはいい。主舞台は東京と宮崎。控え目な旅情が愛おしい。たまらなく鎮魂焼酎を呷りたくなる場面にも遭遇する。これだけ人間ドラマで煽っておきながら、靄の中で見えない、いかにも業の深そうな殺人動機はいったい何なんだ! ところが。。。。 いや、この動機そのものはともかく、その発端となった事象を軽く見ることなど、まともな人間に出来るものか! もうひとつの大きな謎、交差点での人間消失トリック、文字通りの物理心理トリック(かの「トリック・ゲーム」でも紹介!)のほうを最後の最後に解明して終わるのも、破格の味がある。 それと、目次では明かされないサブ章タイトルが普通にいい。 寂しいお父さん、まだまだ希望は残ったじゃないか。。!!

No.2 5点 ボナンザ 2014/12/21 00:03
すこしひねりが足りないが、笹沢の貴重な本格ミステリの一つで有り、佳作とは呼べる。

No.1 6点 kanamori 2010/04/27 20:36
人間消失がメイントリックの本格ミステリ。
尾行していた主人公の目の前で対象人物が消える、いきなり提示される謎は強烈で魅力的ですが、終盤で明かされる解答には唖然というか脱力。読んですぐ「姑獲鳥」を連想しました。しかし、京極堂のほうは視点人物が精神不安定だとか、説得力を高めるため色々工夫されていたように思いましたが。


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