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[ 本格/新本格 ]
憎悪の化石
鬼貫警部シリーズ
鮎川哲也 出版月: 1959年01月 平均: 6.74点 書評数: 19件

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講談社
1959年01月

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No.19 6点 みりん 2024/03/31 13:26
鬼貫警部シリーズ第二弾
【直接的なネタバレはありませんが、未読の方は読まないことを推奨】

メイントリックは超シンプル。鬼貫サンは苦戦したけど、現実の警察が少し調べたら真っ先にバレそうですねぇ… そしてアリバイトリックが露呈した時点で殺人犯と確定するため、リスクリターンが…まあ推理小説って大体そういうもんか
もうひとつのアリバイトリック(今となってはインパクト薄目だが当時なら斬新?)の方がメインで良かったのではと思います。
しかしながら島荘の吉敷竹史シリーズしかり、アリバイ崩しものはそのトリック自体より警察の地道な捜査のプロセスを楽しむものだと認識しているので十分楽しめました。中盤でアレがデカデカと載せられ、メタ的に犯人が確定してしまうことだけは勘弁してほしいが

終盤で唐突に日本の暗部にスポットが当たるのもまたこの時代の本格における一興ですね(笑)

No.18 3点 虫暮部 2023/08/17 12:14
 何か変だ。
 ネタバレするけれど、アリバイ工作とは、基本的に自分が疑われる前提で、ならばコレを崩してみろと言う防壁である。
 しかし本作の犯人は疑われた時点でアウト。だって動機は脅迫で、そのネタは過去の殺人なのだから。疑われるってことは、それが警察にも知られるってことだ。

 「ほら刑事さん、私にはアリバイがあります。犯人じゃありませんよ」
 「成程ねぇ。ところで、血の付いたバッジを証拠に、あなたはどういう理由で脅迫されていたの?」
 「そ、それは……」

 犯人にとって望ましい展開は――相手を殺し、証拠品を回収する。自分と被害者とのつながりを警察が知ることは無く、従って疑われることもない。アリバイ工作は無駄になるけどそれがなにより(あくまで “念の為” と言う位置付けだった筈)。
 でもバッジさえ取り戻せば安泰? 犯人の心理として、そんなに甘い期待が出来るだろうか? そうは行かない。

 どうにかして被害者(脅迫者)の自宅を調べ、何らかのバックアップがあったら破棄しておきたい。
 しかし殺人事件なら警察も被害者宅を捜索するだろうし(作中では描写されてないけど……)、彼の行状を洗うだろう。そこから自分につながっては元も子もない。
 だから出来れば死体は隠して、“失踪” に留めておきたい。大人が行方不明になっても、事件性が見られなければそうそう本気の捜査は行われない。しかも、“死体が見付からなければ安全” だと犯人は既に前の殺人で学習している。
 実際、警察は “こいつの周辺で脅迫のネタになるような事件が起きたとしたら、それは何だ?” と辿って過去の件を掘り起こしたわけで、容疑者として名前が挙がったこと自体が最大の失点だと言える。

 と考えると、犯人の計画は根本的に適切ではない。
 近視眼的に “アリバイ・トリックで警察に勝てば万事OK” みたいに思っちゃってそうだが、それは勘違い。なるべく警察を介入させないよう注力すべきで、アリバイを問われる状況など作っては寧ろ駄目なのである。
 逆から言うと、作者はアリバイものに相応しい状況を設定出来ていない、と言うことだ。

No.17 7点 クリスティ再読 2021/05/31 06:47
本書はこのサイトに書き込みを始める直前くらいに再読していたから、改めての再読(4回目くらい?)になって、トリック犯人手がかりオール記憶完璧状態での再読。鮎哲でも大技で有名な作品である。
客観的に考えると、この大技がファンタジーな雰囲気を作っているようにも思う。ウソつき時計、幻の列車....ね、わざとこう形容してみると、日常の中に隠れたファンタジーの味わいが立ち上るように思うのだ。

けどね、本作って昔は鮎哲三大名作みたいに捉えられていたのだが、最近では「りら荘」人気が高まって、相対的に落ち込んだ印象がある。これがなぜか?の客観的な手がかりが、角川文庫版の小林信彦の解説にあるのが面白い。

「黒いトランク」のあと「リラ荘殺人事件」(昭和三十三年)という、やや通俗的な本格物を書いた鮎川は、昭和三十四年に....

と、「りら荘」を「やや通俗的」と評価しているわけである。派手な連続殺人事件を「通俗的」と捉え、地味なアリバイ崩しを「本格らしい本格」と捉えるミステリ観が、確かにこの時代にあった、という証拠みたいなものだと思う。逆に言うと、今鬼貫モノを読んだときに、評者とかは「リアルで重厚」というよりも、「軽さとファンタジー」を感じることのが多いわけで、そうしてみると、「ミステリというファンタジー」に徹した「りら荘」との差別化がもやは効かなくなっている、という風にも結論できるのでは、と思う。


ネタバレ注意!
本作は実は時刻表の挿入位置がメタなトリックなのかもしれないね。フェアな時刻表トリックの場合には、作中の時刻表登場ページに律義に挿入するけども、本作は巻末である。強引かもしれないが、評者はこれを作者が読者に仕掛けた叙述トリック、と捉えたい(苦笑)としてみると、実はフェアなトリック?

No.16 7点 HORNET 2020/11/15 19:16
 鮎川氏得意のアリバイもの。捜査を進めるうちに容疑者は12人にもなり、特に怪しい容疑者のアリバイ崩しがメインかな。
 昨今の無駄のない、シャープな展開に慣れてしまうと、地道に一人一人のアリバイをあたる捜査過程を描く(つまりムダ足が多い)この頃の作品は逆に新鮮で、たまに読みたくなる。ただそれも鮎川哲也という、その「ムダ足」の部分も読ませる筆力のなせる業だということは読むほどに実感する。
 真相に迫ったかと思われる最終版、再度の「ひっくり返し」も用意されていて、今読んでも十分欲求を満たしてくれる本格推理もの。

No.15 7点 2019/03/31 22:33
久々の再読ですが、2つのシンプルな原理のアリバイトリックのみが印象に残っていた作品です。
最初に読んだ時には、2つのトリックが重なるのが、ご都合主義に思えたのでしたが、読み返してみると確かに時刻まで重なるのは偶然ですが、殺人動機が、ほぼ同じ日にそのことが起こる必然性のある設定にはなっています。そのあたりが、似たことをやっても偶然の扱いに安易なところのある森村誠一とは異なる点です。
しかしアリバイトリックだけの作品というわけではありません。前半の鬼貫警部登場以前の部分では、11人の動機を持ち得る人物たちについて調査が進められていきます。さらに12人目の容疑者については、鮎川作品には珍しく(クロフツには意外にあるのですが)捜査過程にサスペンス要素まで多少取り入れています。後半では、過去に起こったはずの殺人事件探求があり、捜査小説として読みごたえがあります。

No.14 7点 あびびび 2016/04/25 00:34
作者が長年温めていたトリック。偶然に頼った面もあるが、全部が全部計算されたものばかりだと逆に違和感があるし…。現実の事件でも、そんな場合が多い。

自分的には鮎川さんのミステリを一冊楽しんだという満足感がある。最初のトリックで犯人が喋り始めた時には、「まさか?」と思ったが、やはり最後は時刻表のトリックで、妙に安心?してしまった。

No.13 6点 いいちこ 2015/09/30 11:17
プロットや真相に傑出した点はなく、2つのアリバイトリックが見せ所。
1つ目のアリバイトリックは鮮やかな反面、フィージビリティには大いに疑問。
2つ目のサブトリックは警察の捜査に耐え得るレベルの仕掛けではなく、かなりお粗末な印象。
完成度の高さは光るものの、捜査過程でご都合主義が積み重なるチープさも散見され、この評価に止めたい

No.12 8点 斎藤警部 2015/09/28 20:42
「湯田真壁」なんて被害者(ガイシャ)の名前が絶妙だね。
鮎哲にしてはちょっと冷たい、硬い暗さを感じる。新境地でも意識したのか。
ところが小説の中身はね、全く悪くないんですよ、これが。

No.11 7点 蟷螂の斧 2014/12/01 09:42
第十三回日本探偵作家クラブ賞受賞作。最近の読書はサスペンスものが多く、久しぶりのアリバイ崩しで楽しめました。サブトリック?は大胆で先例を知りません。メイントリック?とサブを入れ替えた方がよりインパクトがあったような気がしました。著者は題名にかなり気を使うそうで、「憎悪の化石」の意味は読み終えれば納得できますね。

No.10 8点 ボナンザ 2014/04/07 02:00
鮎川哲也全盛期の一編。トリックの合わせ技が光る傑作です。

No.9 6点 crabking 2013/08/19 11:59
Schedule crime.

No.8 6点 2010/12/25 11:38
著者と同時代(1900~30年代生まれ)の作家にはみないえることですが、久々の鮎川ということもあって特に、本を前にしただけで鳥肌が立ちました。地味ですが刑事主人公のアリバイ本格モノには、いまでも惹かれます。時間軸を頭の中に置いての読書は、混乱のため時間を要しますが、たいていの場合解法がていねいなので、たとえ偶然頼みの気になる点があっても、結果的には満足していることがほとんどです。
本書の場合、1つ目のアリバイトリックはかなり豪快(似たものを読んだことがあります)、2つ目は知る人ぞ知るという知識もの。ともに容易には解けませんが、アリバイ物はそもそも解くつもりはないので、私にとっては上等な部類だと思います。
難を言えば、12人もの容疑者を揃える必要があったのかということ。犯人当て要素は早々に捨て去り、アリバイ崩しにもっと力を入れれば大傑作になったのではという気もします。それに、「憎悪の化石」という暗喩タイトル。これは真相の一部(背景、動機)につながる言葉ですが、こんな背景は本格好きには意味のないことだし、そんなタイトルではぴんときません。タイトルで損をしていますね。

No.7 6点 E-BANKER 2010/04/26 23:08
鬼貫警部シリーズの代表作の1つ。
本作品もやはり典型的な「アリバイ崩し」ものです。
2つのアリバイトリックが鬼貫によって崩されるわけですが、個人的には2つともちょっと違和感があります。
1つ目のトリックについては、鬼貫の解法こそ鮮やかですが、かなり偶然性に頼った方法のように感じます。
2つ目は時刻表頼みというか、「知識の有無」だけでトリックが成立している点でどうかなぁ・・・という感想。
ただ、トータルで見れば、読んでいて安心感を感じるほどの完成度の高い作品なのは確かだと思いますし、これぞ「鬼貫」物と言うべき作品という評価でいいでしょう。

No.6 8点 測量ボ-イ 2009/05/05 18:01
メイントリックはありきたりですが、サブトリックが実に
ユニ-ク(ある意味豪快)です。このトリックの類似品は
僕は知りませんので。
鮎川氏の作品なので時代背景を古臭いですが、アリバイ
破りものが好きな方にはお勧めしたいです。

No.5 7点 VOLKS 2008/03/12 12:07
奇を衒いすぎないミステリィ。
一昔前の・・・という感は否めないが、それでも十分に楽しめる1冊だった。

No.4 7点 npn 2004/04/26 00:21
「黒いトランク、黒い白鳥」を読んだ後なので、トリックのレベルは劣ると言わざるを得ない。

No.3 8点 ギザじゅう 2003/03/24 22:37
名作『黒い白鳥』と並行して書かれた作品。
ちょっとしたことから手がかりを得て推理していくアリバイ崩しの王道!
メイントリックとサブトリックがあるけど、サブのほうが面白かった。

No.2 9点 まさ 2003/03/22 22:36
トリックがシンプルでよい。そんなに傑出した作品ではないが、まさに「本格!」と言いたくなるような設定(容疑者全員に成立するアリバイ)がよかった。

No.1 5点 tenkyu 2002/01/21 05:47
確かに楽しめた。楽しめたが、いかんせん期待が大きかった為、少々不満でもある。
作品自体は出来すぎているほど、よく出来ている。
名作と言う評判も良く耳にするので、是非読んでみてください。


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