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このミステリーがすごい!2021年版
このミステリーがすごい!
雑誌、年間ベスト、定期刊行物 出版月: 2020年12月 平均: 7.00点 書評数: 1件

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宝島社
2020年12月

No.1 7点 Tetchy 2024/05/01 01:19
2020年は歴史に残るであろうコロナ禍の年で自宅待機や外出自粛で読書の時間が増えた年だったように思う。

そんな年のランキングを制したのはなんと辻真先氏の『たかが殺人じゃないか』だった。なんと御年88歳にして初の1位。最年長記録であると同時に恐らくこの記録は今後のミステリ作家も破ることはできないのではないか。
本格ミステリは年を取ると書けなくなるという。複雑に入り組んだトリックとロジックを矛盾なく仕上げるのに記憶力と理解力が低下しているからだ。しかし現在でもアニメ脚本家として働いている辻氏にこの定説は無縁であったことが証明された。いやあ、まさに偉業である。


そして偶然にも氏が脚本を手掛けることもある『名探偵コナン』が全面的に押し出された『このミス』となった。

国内ランキングは辻氏の1位が象徴するようにベテラン勢と勢いのある新人勢の作品、つまり世代格差の現れたランキングとなった。なんせ2位にまだデビュー3作目の阿津川辰海氏の『透明人間は密室に潜む』がランクインしているからだ。この作家、恐らく今後の本格ミステリシーンを背負っていく存在になるかもしれない。

そして海外編はさらに新規ランキングの作家が目立つが、それらを差し置いてまたもやアンソニー・ホロヴィッツが『その裁きは死』でなんと『このミス』史上初3連覇を果たす。
2~10位までは初ランクイン作家がなんと7人も並ぶ。しかも他の2人は最近評価の高いギョーム・ミュッソとアンデッシュ・ルースルンド&ベリエ・ヘルストレムの新進作家なのだから、世代交代の色合いが実に濃いランキングとなった。

今回は2021年がもうすぐコミックス100巻に達するメモリアルイヤーになることで『名探偵コナン』が前面に出され、しかもベストエピソードの選出まで行われている。ただやはりすごいのは100巻に達しようとしているのに作家の青山剛昌氏にアイデアの枯渇が見られないことだ。彼もまた細胞がミステリ成分で出来ているに違いない。
また『名探偵コナン』の脚本を手掛けるミステリ作家で『このミス』ランキング作家である辻真先氏と大倉崇裕氏氏の対談も面白かった。なんとこのアニメのスタッフは辻氏が『アタック№1』の仕事をしていた頃からの付き合いがあるなんて!しかし御年88歳にしてオンラインインタビューを使いこなす辻氏の若さには驚愕せざるを得ない。

あと最も面白く読んだのは伊坂幸太郎氏の作家生活20周年記念インタビューだ。いやあ、この作家、かなり『このミス』ランキングを気にしていることが判り、ニヤリとしてしまった。彼も私と同じ島田荘司信奉者であるから、過去に島田作品にケチを付けられてカチンときたなんて話は実に親近感が沸くではないか。
このインタビューが面白いのは伊坂氏の『このミス』偏愛ぶりを尊重して彼の過去作品を『このミス』ランキングに準えて語っていることだ。
ランキングは気にしないという作家もいるが、逆に伊坂氏のようにランキングを常に気に留め、それが創作のモチベーションになっている事を正直に話すと実に気持ちがいい。特に自信を持って放った作品ほどランキングが低かったり、むしろランクインしなかったりとその落胆ぶりは率直で好感が持てた。やはりミステリ・エンタテインメント系の作家はこうでないと。せっかく自作を評価してくれる企画があるのなら、それは目を通した方が参考になり、次作のレベルアップに繋がるからだ。

しかし何よりも巻末に付せられた刊行作品リストのページ数の少なさに驚かれた。確かに文字の大きさが小さくなって切り詰められてはいるが、これまで国内作品が12ページ、海外作品が5ページくらいだったのに対し、今回はそれぞれ7ページと海外に至っては3ページである。出版不況の影響をまざまざと見せつけられたような寒気を覚えてしまった。


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