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このミステリーがすごい!2018年版 このミステリーがすごい! |
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雑誌、年間ベスト、定期刊行物 | 出版月: 2017年12月 | 平均: 10.00点 | 書評数: 1件 |
宝島社 2017年12月 |
No.1 | 10点 | Tetchy | 2018/05/08 23:59 |
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30冊目のメモリアルに相応しく、本書は質・量ともに近年にないほど充実していた。
まず驚くのはなんと第1冊目の誕生号がまるまる1冊収録されていることだ。もうこれだけで『このミス』1冊読んだのと同じくらいの気分になれた。 新本格勃興期の綾辻行人氏を筆頭に第1次新本格作家たちが出てき出した頃の新本格ブームの中、船戸与一氏の南米三部作の掉尾を飾る『伝説なき地』と原尞氏のデビュー作でハードボイルドの傑作『そして夜は甦る』が1,2位を抑えるという冒険小説、ハードボイルド小説、本格ミステリそれぞれが勢いを増し、切磋琢磨していた時代の凄さが紙面に溢れている。 海外も同じでトレヴェニアンの叙情豊かな警察小説『夢果つる街』が1位となれば、2位はリーガル・サスペンスの傑作トゥローの『推定無罪』が、そして3位はイギリス本格ミステリの重鎮P・D・ジェイムズの『死の味』が鎮座ましますとこれまた物凄いランキングである。 また投稿者のコメントもミステリ愛が深く、正直最近の『このミス』以上に読み応えがあり、紹介されている作品に食指が伸びて伸びて仕方がないほどの魅力と魔力を持っている。 更にはパソコン通信のミステリを話題にした「会議室」の紹介もあったりと時代を感じさせながらも、当時も昔もミステリに対する愛好者の愛の強さは変わらないのだと感じさせられた。いやどちらかと云えば、古くから古典ミステリに親しみ、云わばミステリの系譜を連綿と受け継いできた当時の読者諸氏の方が、それら名作を読まずに新本格以後からの作品しか読んでいない人が多い昨今のミステリファンよりも愛情は深く、そして広範な知識に裏付けされた遊び心があるように感じた。 しかし本編も今年は負けず劣らず、非常に注目が高いランキングとなった。 まず驚くのは今村昌弘氏の『屍人荘の殺人』が堂々1位を獲得したことだ。新人でしかも本格ミステリ作品での1位である。今までにない快挙だ。2位は伊坂氏の復活を告げる『ホワイトラビット』。自身デビュー30冊目の記念碑的作品らしい。3位はもはや常連と化した月村了衛氏の『機龍警察』シリーズの『機龍警察 狼眼殺手』、そして4位がこれまた本格ミステリ、貴志祐介氏の『ミステリークロック』、5位も本格ミステリ出身の古処誠二氏の『いくさの底』と、本格ミステリが中心の中、一人怪気炎を吐く月村氏の『機龍警察』シリーズが食い込み、誕生号とは対照的なランキングとなって興味深い。 海外編ではやはり『フロスト警部』シリーズ最終作『フロスト始末』が1位と有終の美を飾った。このシリーズ、過去の『このミス』でも上位5位圏内にランクインしている高品質ミステリ。いつか必ず読みたいシリーズだ。 しかし海外ランキングはこれ以外では波乱含みのランキングとなった。新進気鋭のケイト・モートンの『湖畔荘』は下馬評の評判通り4位という好位置につけたが、それ以外ではボストン・テランの『その犬の歩むところ』が8位、マーク・グリーニーは13位、アーナルデュル・インダリダソンが15位、ヘレン・マクロイが16位、ジェフリー・ディーヴァーが17位と下位圏内にひしめく状況で、上位は本邦初訳、もしくは2作目訳出の作品がランキングを席巻する状況となった。 特に驚きなのは第2位を射止めた陳浩基氏の『13・67』である。中国ミステリが初ランクインでしかも2位という快挙だ。それ以外にもオーストラリア、フランス、アイスランドと多国籍化が進み、以前の英米主流からますますグローバル化へ拍車がかかった。いやあ、今回のランキングは本当に海外ミステリの大転換期であると大いに感じた。その中で古参の『フロスト警部』シリーズが1位を獲得した意義は実に大きい。 また今回は以前のスタイルに戻ったことが大きい。ランキング結果が最初に出され、その後にランキング本の解説がなされている。やはりこの方が読みやすい。 更には座談会が充実しており、実に読みごたえがあった。宮部氏×綾辻氏(しかし綾辻氏は老けたなぁ)、恩田陸氏×宮内悠介氏、新鋭作家大座談会と、それぞれの時代のそれぞれの読書遍歴、作風スタイル、交流などが垣間見れて非常に興味深かった。特に新鋭作家の皆さんは若いだけあってSNSを非常に活発に活用されているのが印象に残った。 コラムも充実しており、これぞ『このミス』といった納得の内容だった。30冊目という記念だからの充実ぶりだとしたら、それは哀しい。やはりその年一年のミステリシーンを概観し、総括するムックならばこれだけやって当然なのだ。 今回の『このミス』はどんどん読み進みたいのに読み終わりたくなくなるほどの面白さだった。迷わず10点を献上しよう。毎年『このミス』はこうであってほしい。『このミス』と出逢ってミステリ読者となった一読者の心の底からのお願いである。 今年もいいミステリが生まれ、そして年末に更に面白い『このミス』と出逢えることを祈りつつ。30周年記念号、大いに期待してます! |