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ミステリマガジン2010年4月号 特集:秘密のアガサ・クリスティー |
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雑誌、年間ベスト、定期刊行物 | 出版月: 2010年02月 | 平均: 8.00点 | 書評数: 1件 |
早川書房 2010年02月 |
No.1 | 8点 | おっさん | 2011/02/04 13:21 |
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特集は「秘密のアガサ・クリスティー」。
掲載された“幻の未訳2篇”、「犬のボール」と「ケルベロスの捕獲」は、それを収めたジョン・カランの『アガサ・クリスティーの秘密ノート』(クリスティー文庫)が刊行されたいまとなっては、有難味も失われてしまいましたが、真打はこちら。 瀬戸川猛資訳(松阪晴恵=補訳)戯曲「ホロー荘の殺人」です。 アンカテル一族が週末に集った、ロンドン郊外のホロー荘。 庭園に面した部屋(全三幕を通しての舞台)に銃声が轟き、一同が駆け付けると、医師のジョンが死に瀕し、そばには妻のガーダが拳銃を手にして立ち尽くしていた。夫の裏切りに気付いた、彼女の犯行なのか? ジョンは、最後の気力を振り絞り、ある一言を残すが・・・ 探偵小説と恋愛小説の融合ともいえる、1946年の秀作『ホロー荘の殺人』を、著者が51年に劇化したもので、目下のところクリスティー文庫には未収録。 今回の採点対象に決定w 原作に関しクリスティーは、自伝の中で、「ポアロの登場が失敗の小説」「彼を抜きにしたらもっとよくなるのではなかろうか」と述べており、「ナイル河上の殺人」同様、ポアロをはずして脚色しています(パスカル・ボニゼール監督の映画版『華麗なるアリバイ』も、それを踏襲していますね)。 小説版のポアロは、事件(直後)の目撃者という役割を振られながら、探偵役としては機能しておらず、事件の推移と帰結を見守る人(大いなる父性を感じさせる、バイプレイヤーの一人)にとどまっているので、この修整は必然でしょう。 彼を積極的に謎解きに関与させる、という方向での改変は――まあ無理ですね。中心になる犯行計画の杜撰さは、本来、“名探偵”の前に持ちこたえられるものではありませんから。 戯曲版では、単純で幼稚な犯行(小説より、ひとつ小細工が増え、それが逆に首を絞める結果になる)が犯人像をきわだたせ、その人物が仮面をかなぐり捨てて生地をむき出しにするクライマックスは、迫力満点です。探偵役――と言えるかどうか? 手掛りを追う警察とは別に、被害者の遺志を理解することで真相を把握できた、本編の主人公――が食われているw 重層的な原作小説の、削られたエピソードの数かず(たとえば被害者の医師と、患者のお婆さんの交流、あるいは完成した彫像に致命的な欠陥を発見し、断腸の思いでこれを破棄する芸術家の挿話――じつはこれ、心理的な伏線だったりするところが、クリスティーの凄みなわけで――)に思いがいたるのは事実ですが、少数精鋭の愛憎劇として、演じ手を刺激する充実の脚本(ホン)に仕上がっていると思います。 うん、この舞台は観てみたい。 |