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ミステリマガジン1984年4月号
女たちの殺人物語
雑誌、年間ベスト、定期刊行物 出版月: 不明 平均: 5.00点 書評数: 1件

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No.1 5点 弾十六 2020/04/27 20:03
HAYAKAWA’S MYSTERY MAGAZINE 1984年4月号 <336>
小特集は「女たちの殺人物語」と題して3篇。234ページ。定価580円。
表紙イラストは岡本 信次郎、表紙・扉・目次構成は島津 義晴と野々村 晴男。表紙にはMECHANICALの文字とゼンマイのネジが毎号描かれているようだ。今号のメインはベルリン風キャバレー・ダンサー。裏表紙の広告は大塚製薬 カロリーメイトとポカリスエット。
ダイアン・ジョンスンの『ハメット伝』は連載3回目、作家修行時代(1921〜1926)が載ってる。稿料について下で結構いろいろ書きました。他は都筑『出来るまで』と瀬戸川『睡魔/名作篇』はやはり見逃せない。リレー小説はバークリーがウィムジイ卿を引っさげて登場。
雑誌全体の暫定評価は5点として、収録短篇を読んだら追記してゆきます。
小説は10篇。以下、初出はFictionMags Index調べ。カッコ付き数字は雑誌収録順。
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⑴ “Murder by Dog” by Christianna Brand (初出HMM 1984-4書き下ろし)「人間の最良の友」 クリスチアナ・ブランド 中村 凪子 訳(挿絵 山野辺 進)
英語タイトルの記載がない。上記はWebサイト“ミステリー・推理小説データベース Aga-Search”にあったものを採用。
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⑵ Mary Postgate by Rudyard Kipling (初出Nash’s and Pall Mall Magazine 1915-9 挿絵Fortunino Matania; 米初出The Century Magazine 1915-9) 「メアリ・ポストゲイト」ラドヤード・キプリング 山本 俊子 訳(挿絵 佐治 義隆): 評価7点
コンパニオンについての話だと解説にあったが、そーなのか? こーゆー話を書くキプリングは只者ではないなあ。途中で泣きそうになりました。実にハードボイルドな文体。翻訳は不安定なのが残念。(最後のほう、ニュアンスを掴みかねてる匂いがする… しかしながら原文を読んでも私の英語力ではよくわからない…) Mataniaの素晴らしいイラストはWebで見つかるので是非。
p40 建物のすぐ裏手で銃声—と二人には聞こえた(a gun, they fancied, was fired immediately behind the house): このgunは大砲だろう。数行あとで「爆弾(A bomb)」と言っている。爆発音が、大砲を発射したようだった、ということ。
p42 鼻先が平になった弾丸(たま)をつめた大きな自動拳銃だった。この種のものは戦争のきまりで敵国の市民に対して使ってはならないことになっている…(a huge revolver with flat-nosed bullets, which latter, ... were forbidden by the rules of war to be used against civilised enemies): 試訳「大きなリボルバーと先端が平らな弾丸—それは…文明国の敵兵士に対して使用を禁じられているものだ…」ハーグ陸戦協定(1899)で定められた弾丸先端は固く尖っていなければならないルール、先端がフラットな弾丸は体内で潰れて拡がり、内部の損傷を悪化させ兵士を不必要に苦しめるためお互いにやめましょう、という国際協定。(野蛮人には適用されない。) この翻訳では意味が取りにくいし、「市民」ではなく「兵士」に対する規定だし(むしろ警察のほうが後ろの市民に2次被害を起こすのを避けるため体内を貫通しにくいフラットノーズ弾を使う)、リボルバーを自動拳銃と間違えている。
(2020-4-26記載)
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⑶ The Woman Who Loved a Moter-Car by Julian Symons (初出The Argosy(UK) 1968-10 挿絵David Knight)「モイラ — 車を愛した女」ジュリアン・シモンズ 水野谷 とおる 訳(挿絵 天野 嘉孝)
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⑷ The Belvedere by Jean Stubbs (初出”Winter's Crimes 3” 1971, ed. George Hardinge)「ファニー — 望楼」ジーン・スタッブス 山本 やよい 訳(挿絵 新井 苑子)
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⑸ Whip Hand by E. S. Gardner (初出Argosy 1932-1-23 as “The Whip Hand”) 「先手を打て」E・S・ガードナー 大井 良純 訳(挿絵 門坂 流)
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⑹ Captain Leopold's Gamble by Edward D. Hoch (初出AHMM 1980-11-19) 「レオポルド警部の賭け」 エドワード・D・ホック 木村 二郎 訳(挿絵 畑農 照雄)
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⑺ 「黒いレストラン 第1話 理想的な夫」東 理夫 (挿絵 河原まり子)
連載ショートショート。今月の料理(レシピ付き)はスプリング・ラム・レッグ・ロースト。
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⑻ A Piece of Cake by Ron Montana (初出AHMM 1981-3-4) 「ケーキの分け方」 ロン・モンタナ 竹本 祐子(挿絵 細田 雅亮)
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⑼ Passport in Order by Lawrence Block (初出AHMM 1966-2) 「逃げるが勝ち?」ローレンス・ブロック 和泉 晶子 訳(挿絵 楢 喜八)
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⑽ Ask a Policeman (単行本1933) リレー小説『警察官に聞け』連載第4回 「解答篇3 ウィムジイ卿の個人的助言」アンソニイ・バークリイ(Anthony Berkeley) 宇野 利泰 訳(挿絵 浅賀 行雄)
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HMM OPENING FORUMとして
『連想ゲーム(岡嶋 二人)』二人三脚の作家の秘密を公開。
『世界のミステリ作家を撮る(南川 三治郎)』文藝春秋のグラビアになった作家たち。撮影の苦労話。実家で文藝春秋を毎号とってたので懐かしいなあ。掲載号は捨てちゃったかな?
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Dashiell Hammett: A Life by Dian Johnson (1983)「ダシール・ハメット伝: ある人生」ダイアン・ジョンスン 小鷹 信光 訳 連載第3回「修行時代—サンフランシスコ(1921〜1926)」以下の日本円換算は当時の米国消費者物価指数を2020年と比較して算出したもの。1921年末のピンカートンからの日給は6ドル(=9504円、フル稼働で月額約24万円)。『マルタの鷹』のプロットはヘンリー・ジェイムズの『鳩の翼』(1902)がヒントだ、という。しかもハメットがジェイムズ・サーバーにそう言ったらしい。『鷹』の前にぜひ読まなくては。しかし内面描写溢れるヘンリー・Jの文章がハメットに(逆の)影響を与えた、というところがとても興味深い。復員局補償金はタコマ時代の最悪期(1919か1920か)に月額80ドル(=13万円、1919年基準)、回復期病院転院時に40ドルになり、退院後(1921年5月頃)は20ドル(=31680円)に下げられた。1922年に遡及適応される追加補償金月額2ドル50セント(=4208円)を勝ち取り(合計額16ドル21セント…何の合計?)、1924年4月末に遡及適応される月額51ドル68セント(=81034円)を得る。しかし5月で打ち切り。Black Mask1924年8月に掲載されたハメットの詫び状、ずいぶん気弱な感じ。(小鷹さんは「ハメット唯一の見苦しい文章」と評している。) 体調がよっぽど悪かったのか。ボブ・ティール殺し(突っ返されたThe Question’s One Answerのことだと思う。結局、別の雑誌に載った)、そんなに酷い作品かなあ? 1926年7月、結核で血を吐いて倒れた時、復員局補償金月額90ドル(=14万円)を得た。パルプ雑誌での稿料は1語2セント。
※ パルプの稿料について、Richard Laymanの”Corkscrew and Other Stories”序文(2016)によると、Black Maskは渋かったらしく(記録が残っていないが)ハメットは1語1セントだったようだ。(他のパルプ雑誌のスター作家は20年代中盤に1語2セント、後半には3セントになったという) ハメットが1語2セントに昇格したとすればショー編集長時代か? (1926年コディ編集長は稿料の値上げを拒否しハメットはBlack Maskを去る。この時、ガードナーが自分の稿料を削ってハメットに上乗せしろ!と提案したのは有名な話。ガードナーにここまで言わせるコディって結構なヤツだったのでは?) ハメット短篇の語数はサットン編集長時代は2篇を除き6000語以下、コディ時代は14000語。1語1セント、14000語として140ドル(=22万円、1926年基準)。比較の対象にはあまりならないが、新人作家フィッツジェラルドがSaturday Evening Post初短篇(1920)で400ドル(=64万円)。気前の良いポスト誌の稿料とは言え、新人作家と約3倍の差。ハメットが自作を「屑」と卑下する気持ちもわかりますよね…
ところで上述の序文を読んで初めて気づいたのだが(←何のために年代順に読んでたんだろうねえ)、サットン時代のオプものには派手な銃撃戦などは全然ない(例外はBodies Piled Up)。死体とアクションが山盛りになるのはコディ時代。よく考えると、コディが掲載拒否した2作のいずれにもそーゆー場面が登場しない。お馬鹿なコディ&副編ノースには作品の品質より血みどろさがウケるということしか理解出来なかったのだろう。(ハメット詫び状の妙なへりくだりぶりは、お前ら、そんなに文章が読めないのかよ?という皮肉だったのか、と腑に落ちました。)
(この項目、2020-4-28大幅に追記)
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読み物は
『続・桜井一のミステリマップ: ワインは死の香り』地図が大雑把すぎる…
『共犯関係(青木 雨彦)1 女神について』映画『ディーバ』についていつもの雨彦節。
『連載対談 田村隆一のクリスティー・サロン4 ジェーン ・オースティンの伝統(小池 滋)』
『ペイパーバックの旅(小鷹 信光)16 M・E・チェンバーのMilo Marchシリーズ』
『アメリカン・スラング(木村 二郎)4 ダウンタウン物語』『フィルム・レビュー(河原 畑寧)「ジョーズ3」の立体度は?』この頃、また3Dがちょっと流行ってたらしい。
『ロジャー・L・サイモンの東京日記(木村 二郎)』『名探偵登場(二上 洋一)16 おしどり探偵—シンとマユコ』『フットノート・メロディ(馬場 啓一)16 ミステリに於ける船旅について』
『ハメットにダッシュ!(青山 南)4 銀色の目の女』『血の収穫』はつまらないがオプものの中短篇は無類に面白い、という感想。
『推理作家の出来るまで(都筑 道夫)96 馬小屋図書館』今回は特許すべき事なし。
『愛さずにはいられない(関口 苑生)4 少年よ試練の壁に耐えてタテ!』
『新・夜明けの睡魔/名作巡礼(瀬戸川 猛資)4』ヴァン・ダイン『僧正殺人事件』ほとんどSF的にクレイジー、と評している。
『ミステリ漫画(梅田 英俊) 没頭…ってことでしょうかね』
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Crime Fileとして海外ミステリ情報を
『Crime Column(オットー・ペンズラー)28 伝統的“ハードボイルド”の図式』『Mystery Mine(木村 二郎)世界まるごとジョン・D・マクドナルド』『Study in Mystery(山口 勉)カセットで聴くミステリ案内』カセットの時代か。懐かしい…『外国の出版社めぐり9 モロー社』『ペイパーバック散歩(宮脇 孝雄)W・マーシャルの「骸骨詐欺事件」』『製作中・上映中(竜 弓人)』
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HMM Book Review(書評コーナー)
『最近愉しんだ本(紀田 順一郎)劇画的ホラ話の傑作』『新刊評(芳野 昌之/香山 二三郎)』『みすてり長屋(都筑 道夫/瀬戸川 猛資/関口 苑生)』『ノンフィクション(高田 正純)』『日本ミステリ(新保 博久)』『チェックリスト&レビュー(山下 泰彦)』
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最後に
『響きと怒り』『編集後記(S/N/K)』


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