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ROM 140号
雑誌、年間ベスト、定期刊行物 出版月: 1998年01月 平均: 7.00点 書評数: 1件

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No.1 7点 おっさん 2013/11/12 09:52
ごめんなさい、今回とりあげるのは同人誌です(一般販売もされているので、諸兄、諒とせよ――と思ったら、本号はすでに完売のようです <(_ _)>)。

今年2013年は、ミステリ方面で訃報が相次ぎましたが・・・筆者にとって最大のショックだったのが、クラシック・ミステリ・ファンジン『ROM』(『Revisit Old Mysteries』)の主催者・加瀬義雄氏の、7月の逝去です。
英米の埋もれた作家・作品を、原書を読んで紹介すること30有余年、国書刊行会の<世界探偵小説全集>以降の、クラシック翻訳出版の礎を築き、近年はさらに視野を広げ(そのための、水面下の語学学習を思うと、気が遠くなりそうですが)、北欧やイタリア、ドイツなど非英語圏の古典にも精力的に取り組まれていました。
会員の末席を汚しながら、筆者は Read Only Member となってひさしく、不義理を重ねたまま、永遠のお別れとなってしまいました・・・。

「7月31日発行」の本号は、加瀬氏が編集されていたぶんを、有志の会員が引き継ぎ、完成させたもののようです。
『ROM』は基本的に、作品レヴューと関連エッセイで構成されているのですが、今回は「翻訳ミステリ特集」と銘打ち、珍しい短編を会員の訳でズラリと並べています。
そのラインナップは――

○「隠れ家」A・E・W・メイスン/水島和美訳
○「ポルチコの風」ジョン・バカン/吉田仁子訳
○「風車」「珍品蒐集家」「失われた都市ラク」ニコラス・オールド/小林晋訳
○「ピクニック」H・C・ベイリー/小林晋訳
○「ロト籤札」「第三の指標」S・A・ドゥーセ/ROM訳

最初の、メイスンとバカンの作品は、ミステリ・ファンが条件反射的に思い浮かべる、作者たちのイメージ(『薔薇荘にて』『矢の家』の探偵作家、『三十九階段』のスパイ/冒険小説作家)を良い意味で裏切る、怪奇小説の佳品です。

都会の喧騒に疲れ、地方の屋敷に移り住んだ主人公のまえに、じょじょに死者の霊が実体化してくるという「隠れ家」(1917年刊The Four Corners of the World 所収)の豊かなイマジネーション。
古記録を研究する学徒が訪れた、田舎地主の屋敷では、怪しい何かがとりおこなわれているらしく・・・という「ポルチコの風」(1928年刊 The Runagates Club 所収)の、鮮烈なカタストロフ。

ともに作中では濃密な時間が推移しており、物語としての充実度は相当に高いです。メイスンやバカンの他の小説が、無性に読みたくなってきました。
おそらくこのへんは、編者の加瀬氏としても、自信のセレクトだったと思われます。

さて。
そんな加瀬氏のパートナーとして、創刊まもない頃からエネルギッシュに『ROM』を支え続けてきた小林晋氏が、本号に投じたのがオールドとベイリー。

ニコラス・オールドと聞いてすぐピンとくる向きは、相当な通ですね。本国イギリスでも、正体不詳の幻の作家で、15編を収めた名探偵ものの短編集 The Incredible Adventures of Rowland Hern(1928)は、レアアイテム中のレアアイテムでした(近年になって、アメリカの論創社こと Ramble House から復刊されました)。邦訳も、これまで「ジョン・ケンシントン割腹未遂事件」と「見えない凶器」の二作が、単発的に雑誌とアンソロジーでなされただけです。
今号に訳されたのは、上述の短編集の、最初の三編。ホームズ、ワトスン形式で進められますが、探偵ハーンと「私」のキャラ造型など作者の知ったことではなくw はなから二人は名探偵とその助手として存在し、奇妙奇天烈な謎の数かずに直面します。その本質は、“本格”というよりカミのルーフォック・オルメスもののような“パロディ”だと思います。
チェスタトンの出来そこないのようなw「風車」も印象的ですが、三編のなかでは、古代文字の暗号解読をあつかった「失われた都市ラク」がベスト。

シリーズ第六短編集 Mr.Fortnne Explains(1930)から採られた「ピクニック」は、殺人事件に子供の誘拐がからむ、いかにもベイリーらしい味わいの一品。事件そのものに、代表作「豪華な晩餐」や「黄色いなめくじ」のような特異性はなく(ただ、犯人側の計画がうまくいっていたら、七歳の少年が国外でどんなめにあっていたかを考えると、コワいものはあります)、フォーチュン氏の推理も“黄金時代”以前のレヴェルなんですが、ストーリーテリングで持っていかれて、最後は情に訴えかけられ、納得させられてしまう。

S・A・ドゥーセの訳者ROMは、編者の加瀬氏ご自身です。
不定期連載「失われたミステリ史」(途中までが、<ROM叢書>の一冊として刊行されています)でクローズアップしたドゥーセを「スウェーデンのクラシック・ミステリなどいくら紹介しても大半の人には関心外であろうため、せめてその一端を、ということで(・・・)いくつか翻訳連載してみようと思いた」った企画の三回目。レギュラー探偵レオ・カリンクものです。
出来自体はまあ、よくいって<シャーロック・ホームズのライヴァルたち>の時代の標準作、といった程度ですが、盗難と元祖・オレオレ詐欺(?)をリンクさせた「ロト籤札」の真相の、「今の時代にはない人情味」(訳者あとがき)などには、たしかに捨てがたい良さがあります。犯罪なんだけど・・・最低限のモラルがそこにはあるんですね。
残念なのは、ドゥーセの翻訳のテクストとなった短編集、その詳細がわからないこと。加瀬氏がご健在であれば、おって「失われたミステリ史」の続きで明かされたはずですが・・・。

遅まきながら、この場を借りてご冥福をお祈りいたします。


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