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2022本格ミステリ・ベスト10 本格ミステリ・ベスト10 |
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| 雑誌、年間ベスト、定期刊行物 | 出版月: 2021年12月 | 平均: 7.00点 | 書評数: 1件 |
![]() 原書房 2021年12月 |
| No.1 | 7点 | Tetchy | 2025/11/05 00:38 |
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| まず国内は『このミス』同様に米澤穂信氏の『黒牢城』が制した。このランキング本で時代小説が1位になるのは初めてではないだろうか。しかも直木賞受賞作!
こんなマニア度の高いランキング本の1位が広く評価される文学賞受賞作になるとはこれが初めてで最後ではなかろうか。 それはつまり米澤氏の著したこの作品が本格ミステリ度が高い上に文学的にも優れ、万人に勧められる稀有な作品であるからと云えよう。ある意味米澤氏はこれから東野圭吾氏の衣鉢を継ぐ国民的ミステリ作家になっていくのかもしれない。 2位は阿津川辰海氏の『蒼海館の殺人』がランクイン。デビュー作からこのランキングで10位圏内に作品が入り、しかも昨年はとうとう1位を獲得した阿津川氏はもはや本格ミステリの雄と認めていいだろう。このクオリティを今後も続けてほしいものだ。 3位が今村昌弘氏の『兇人邸の殺人』とこの人ももはや出せば必ずランクイン、しかも全て3位圏内という途轍もないハイクオリティを発揮しており、本当にため息しか出ない。 そして4位は初登場、浅倉秋成氏の『六人の嘘つきな大学生』がランクイン。この作家が面白いのは自分の作品がミステリ、しかも本格ミステリに該当すると思っていずに書いていることだ。今年『このミス』にも同作はランクインしたがそれを一番驚いていたのが本人だったとのこと。 5位は知念実希人氏の『硝子の塔の殺人』で2011年にデビューして初のランクインとなった。過去の本格ミステリへのオマージュをたっぷり詰め込んだ作品と云われているからまさに狙って書いた作品なのではないか。それが正統に評価されたようだ。 6位以下は芦辺氏の『大鞠家殺人事件』、方丈氏『孤島の来訪者』、三津田氏の刀城言耶シリーズ『忌名の如き贄るもの』、相沢氏の『medium』の続編『invert』が、そして新人の榊林銘氏の『あと十五秒で死ぬ』が10位までを占めた。 このようになんと上位5位は新進作家が占めると云う世代交代を予感させるランキングとなった。三津田氏、芦辺氏もしかしベテランながらの健在ぶりを示しているし、方丈氏もまたデビュー2作目だが、デビュー作同様に10位圏内と強さを誇っている。 そして11位以降はまさに混沌。 ベテラン作家は柄刀氏、摩耶氏の2名のみで若手常連作家は白井氏と青崎氏がランクイン。あとは紙城境介氏、犬飼ねこそぎ氏、夕木春央氏、潮谷駿氏、結城真一郎氏と聞きなれない作家の作品が並ぶ。 それもそのはずでデビューしたての新人やデビュー間もない新人、ラノベ作家などとにかくまだ作家になりたての作家や他ジャンル作品のランキングが目立つからだ。 その中で伊吹亜門氏は私も注目の時代本格ミステリ作家でデビュー作に続いて3作目がランキングしたのは嬉しい。この作家の作品は私も読んでみたい。 『このミス』のランキングと比べると1位は同じながらもそれ以外は『蒼海館~』は5位で『兇人邸~』が4位、『六人の嘘つき~』が8位、『硝子の塔~』が9位、『孤島~』が13位、『忌名~』が7位、『invert』が6位で『あと十五秒~』が12位と20位圏内の作品が10作中9作含まれており―唯一芦辺作品『大鞠家~』のみ選出外―、親和性は高いのだが、11位以下は伊吹亜門氏の『幻月と探偵』と『メルカトル悪人狩り』の2作のみが共通するのみ。 11位以下にこそこのランキングの特色が色濃く出ているのかもしれないが、竹本健治氏の『闇に用いる力学』や道尾秀介氏の『雷神』、若竹七海氏の葉村晶シリーズが入っていないのは選者が若返ったことからだろうか。 一方海外はもう大方の予想通りアンソニー・ホロヴィッツの『ヨルガオ殺人事件』が1位を獲得。これは私も読んだが文句なしの1位だろう。4作連続1位もなって然るべしのハイクオリティ本格ミステリだった。 そして2位がホリー・ジャクソンの『自由研究には向かない殺人』、3位に陸秋槎氏の『文学少女対数学少女』、4位にアレックス・パヴェージの『第八の探偵』、5位にM・W・クレイヴンの『ブラックサマーの殺人』が並んだ。 1、2位とも『このミス』と同じだが、それ以外も3、4位も『このミス』では20位圏内に入っている。 6位以下では6位のディヴァインの『運命の証人』が『このミス』では14位、8位の『スリープウォーカー』はなんと2位で、9位のディーヴァー『オクトーバー・リスト』が5位、10位の『見知らぬ人』が18位と海外本格もまた『このミス』に似通ってきている。 それはつまり翻訳されるミステリがこれまで本格ミステリといえば古典ミステリが多かったが、現代ミステリも本格ミステリの波が来ていることを示しているようだ。特にホロヴィッツの『カササギ殺人事件』や『ヨルガオ殺人事件』でそれ自体が1つの良質な本格ミステリとなっている作中作が受けたことで、海外ミステリに作中作ミステリブームが起きていると云う話もある。 しかしディーヴァーがシリーズ作品ではなくノンシリーズ作品でこのランキングにランクインするとは思わなかった。 さて私がこのムックで一番楽しみにしているのは毎年の特別企画だが、今回はテーマ別厳選の本格短編ガイドであった。論理遊戯、技巧派、特殊設定、学園・青春、ユーモア、社会派本格、密室・不可能犯罪、時代ミステリ、日常の謎・お仕事ミステリ、オマージュ・リスペクトの10のテーマに分けられ、その中で厳選された短編が紹介されている。 私は自分が読んだ作品についてガイドブックや本書のようなランキング本でその作品がどのように評されているのか振り返るのを趣味にしているのだが、昨年も『「推し」作品10×10』の特集があったのだが、その中の作品を探すのに各カテゴリーの中の文章の中に取り上げられた作品名が含まれているため、振り返りの都度、文章全体を読まなくてはならず、なかなか困難さを強いられた。 2019年版の『我が“偏愛”本格ミステリ』のように、まず一旦俎上に上がった作品をリストにして提示してもらうと振り返りの時に助かる。本格ミステリを愛する人たちがもっと読者の分母を増やすためにこれらの特集記事やランキングを纏めているのであれば、ぜひともその時だけの娯楽でなく、後年にも読書の指針として使えるような構成にしてほしいものだ。 今回インタビュー記事は今村昌弘氏と浅倉秋成氏の2名が掲載されているが、後者は上に書いたように自身がミステリという自覚がないまま、物語を書いていたというのが印象に残ったのに対し、前者の今村氏は創作の苦労話がふんだんに盛り込まれており、かなり興味深く読めた。 なんせ出版している3作がこのムックでは全て3位圏内、『このミス』でも5位圏内という非常に高いクオリティを誇っているのだ。かなり本格ミステリを知り尽くした作家だと思ったが、阿津川氏と異なり、それほどマニアックな印象はなく、とにかく本格のロジックと小説の面白さを緻密に考えながら創作している印象を持った。 しかし作り込み過ぎて自分でもこれ面白いのだろうかと思ってしまうという件はなかなかに面白いものがあった。 さて今回も前年に引き続きコロナ禍で刊行された本格ミステリのランキングとなったのだが、私はこの結果を実に意外に思った。 コロナ禍で外出が規制されている中、書店に行く機会が減ったため、思わぬ出会いの機会が少なくなり、いつも読んでいる作家たちの作品ばかりを読む傾向になって、実に保守的なランキングになるのではないかと予想されたが、全くそうではなかったことに驚かされたのだ。 上に述べたように上位10位は『このミス』と付和雷同している感はいつも通りだが、11位以下のランキング本の多種多様さには正直驚いた。よくもまあこれほどの新人作家がランクインしたものだと。 これはつまり翻せば外出する時間が少なくなった分、家にいる時間が多くなり、必然的に読書の時間が増え、これまで興味を持つこともなかった作家たちに目を向ける時間が増えたからだろうか。 いやそれよりもネットショッピングで新刊を買うことが多くなり、各ネットショップで購入履歴から紐づけされるお勧め本の方に興味を向けるようになったことが大きいのではないだろうか。 しかしそれはそれでリアル書店の衰退に拍車を掛けるようになるので、私自身としてはあまり望ましくはないのだが。 果たしてこの2022年版のランキングがコロナ禍という特殊状況下で生れたあだ花のようなランキングになるのか、それは次の2023年版のランキングでまた検証してみたい。 |
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