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[ 本格/新本格 ]
マスカレード・ナイト
マスカレードシリーズ
東野圭吾 出版月: 2017年09月 平均: 6.00点 書評数: 4件

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集英社
2017年09月

集英社
2020年09月

No.4 4点 パメル 2023/01/20 07:50
練馬のワンルームマンションで、一人暮らしの若い女性の他殺死体が発見される。そんな中、練馬で起きた殺人事件の犯人が、ホテル・コルテシア東京カウントダウン・パーティー会場に現れるので逮捕してくださいという密告状が警視庁に届く。
以前、同ホテルにフロントクラークとして潜入経験のある新田浩介は、その経験を買われて再度潜入捜査官に任命される。また、フロントクラークからコンシェルジュとなった山岸尚美にも再度捜査への協力が求められた。
コンシェルジュとは、お客様の様々な要望を聞く係である。山岸は、ホテルマンに「無理です」は禁句という信念のもと、お客様の無理難題を解決していく。共感できる部分もあるし、考え方は立派だがいくらなんでも無理があるのではないか。

以下ネタバレしています。


相変わらずのリーダビリティの高さはさすがだが、取引に大々的に警察を巻き込もうとするのは、目的に比べてリスクが高すぎるし、犯人たちの行動も無理矢理感が否めない。日下部が実は、ホテル側の人間で山岸をテストしていたというのも最後に明かされるが、従業員のテストに一般の宿泊客を巻き込むのは不自然だし、あり得ないことではないだろうか。
新田と山岸が、恋愛関係に発展するのではと思っていたがそれはなかった。今後、山岸がロサンゼルスに勤務することが決まったところで物語は終わっているが、新田と山岸の進展はどうなるのか気になるところです。

No.3 10点 Tetchy 2021/10/02 00:41
第1作の時に今流行りのお仕事小説と警察小説2つを見事にジャンルミックスした非常にお得感ある小説と称したが、本書もその感想に偽りはない。2つの持つ旨味を見事にブレンドさせて極上のエンタテインメント小説に仕上がっている。
基本的な路線は全くと云っていいほど変わっていない。高級ホテル、ホテル・コルテシア東京に犯罪者が訪れることだけが警察側に判っており、正体は不明だ。したがって捜査員をホテルの従業員として潜入させ、容疑者を捜し、事件を未然に防ぐ。そして人を疑うのが仕事の警察とお客様を信用し、信頼を得るのが仕事のホテルとの真逆の価値観が生む軋轢とカルチャーショックの妙が読みどころである。

しかしそんな安寧を持たさないよう、東野氏は今回生粋の厳格なホテルマン氏原祐作を新田の指導員にぶつけることで再び新田に不自由を経験させる。基本的に前回の指導員山岸尚美は不愉快に思いつつも捜査に協力的で、なおかつ新田を一流ホテルに恥じないようなフロント係に仕立てようと努力をしていたが、今回の氏原はホテルの規律と気品を守るためにあえて新田に何もさせないでおくという主義を取る。いわばホテル原理主義者とも云えるガチガチのホテルマンなのだ。客の前では満面の笑みを見せるが、新田や他の従業員の前では能面のような無表情で辛辣な意見を放つ。
しかしこの氏原を単なる嫌味なキャラクターに留めないところに東野氏のキャラクター造形の深みを感じる。

そして今回もお仕事小説としてのホテルマンのお客様たちの無理難題を解決しようと試行錯誤するエピソードがふんだんに盛り込まれている。
小ネタと大ネタを交互にうまく配することで東野圭吾氏はグイグイと読者を引っ張っていく。いやあ、巧い!非常に巧い!

そして今回東野作品の人気の高さの秘密の一端を改めて悟った。それは物語の設定が非常にシンプルだということだ。今回の物語は始まって60ページまでに云い尽されている。
即ち一人暮らしの女性が殺され、その犯人がホテルコルテシア東京で開催される年末のカウントダウン・パーティ、通称マスカレード・ナイトに現れると匿名の通報が入る。
正直これだけである。
しかしこれだけで読者は一気に物語への興味を惹かれ、結末までの残り約480ページをぐいぐいと読まされてしまうのだ。シンプルな構成に魅力的なキャラクター、そして読みやすい文体に読者の興味を惹いてページを繰る手を止まらせないプロット。作家として求めるもの全てを東野氏は持っている。

ホテルにあるのはいわば数々の人生が交錯する社会の縮図だ。物語の最後に明かされる事件の真相を読むにますますその意を強くした。
社会を、人間関係を円滑に平和裏に継続するために少しばかりの嫌悪や嫉妬や怒りは仮面に隠しておかないと世の中は進んでいかないのだ。自分の云いたいことややりたいように振舞ってばかりではぎくしゃくし、不協和音が生じる。
ホテルのフロントはそんなお客様の清濁併せ吞み、笑顔で迎える。それらの仮面を知りつつ、大事にするホテル側とそれらの仮面を疑ってはがそうとする警察側のぶつかり合いは今回も描かれる。

曽野万智子と貝塚由里の脅迫作戦、それを出し抜く内山幹夫という影武者を立てた森沢光留の殺人計画、そして日下部篤哉こと香坂太一のコンシェルジュテスト。
この3つがホテルコルテシア東京という舞台で交錯し、それぞれがモザイクタイルのピースとなって『マスカレード・ナイト』という複雑なミステリを形成する。それはまさに美しきコラージュの如き絵を描いているようだ。

そしてそれはまたホテルも然り。

ホテルコルテシア東京のような大きなシティホテルは夜景が映える。しかしその夜景を彩るのは一つ一つの窓の明かり、つまり宿泊したお客が照らす部屋の明かりだ。その明かりがまさにモザイクタイルのように夜景を彩る絵を描く。
しかしその1つ1つの明かりの中に宿泊するお客は決して自分たちが作っている夜景のような華やかさがあるとは限らない。
奮発して高級ホテルで家族と一家団欒を楽しむ明かりもあれば、出張で宿泊し、疲れを癒す一人客もいるだろう。その中には単にそのホテルを常宿としている常連もいれば、初めて利用し、胸躍らせる客もおり、高級ホテルを餌に女性を連れ込んで一晩だけの情事を愉しむ者もいることだろう。
待ち合わせに使う客も待ち人と逢って愛を交わす者もいれば、待ち人が来ず、高級ホテルで寂しい思いを抱いている者もいるかもしれない。

こうやって考えると改めてホテルという場所は特別な雰囲気をまとった場所であると認識させられる。
様々な人が行き交い、交錯し、訪れてはまた去っていくホテル。チェックインの時に見せる貌は仮面でその裏には様々な事情を抱え、部屋でそれを解放するお客たちに、それらの事情に忖度して訳を知りながらもスマイルで対応するホテルマンたち。まさに仮面舞踏会そのものである。

次の舞台は山岸尚美の新天地LAであれば、今度は宿泊客としてホテルコルテシアLAを訪れた新田浩介と山岸尚美のコンビもあり得そうだ。
その時、実は自分たちが気付かなかった被っていた仮面を新田と山岸は脱いで、2人の間に進展が見られるのだろうか。
野次馬根性丸出しだがこのお仕事小説×警察小説の極上ハイブリッドミステリの次回作があることを一ファンとして祈ろう。

No.2 5点 まさむね 2018/03/11 21:25
 若い女性の殺害事件に関する密告状が警視庁に届きます。犯人は、ホテル・コルテシア東京で行われる年越しカウントダウンパーティ(通称:マスカレード・ナイト)に姿を現すという…。
 コンシェルジュの山岸尚美と刑事の新田浩介のコンビ、それを取り巻く同僚たち、怪しげな客たち等々、それぞれ興味深く、次々ページをめくらされました。流石に達者ですよねぇ。なお、後半の怒涛の展開は、なるほどと思わせる部分もあるにはあったのですが、全体の構造としては少なからず唐突感がありましたねぇ。これは気付けないよなぁ…。
 ちなみに、高級ホテルって、客の我が儘にそんなに対応してくれるものなの?何か嫌みに感じたなぁ。もちろん、単なる僻みなのだけれども。

No.1 5点 HORNET 2017/11/19 22:16
 基本的に上手い作家さんなので、安心して読める。しかも、サクサクと読めるリーダビリティなので、半日あれば読めてしまう。
 ホテル・コルテシア東京の大みそかには、「マスカレード・ナイト」と呼ばれる仮装カウントダウンパーティがある。警察に、そのパーティに「未解決の女性殺人事件の犯人が現れる」という密告があった。半信半疑ながらも、全力で犯人逮捕にあたろうとする警察で、例によって例のごとく「ホテル従業員に扮した潜入捜査」が行われることに。そして例によって例のごとく、新田がフロントクラーク役に。前回捜査で顔なじみのコンシュルジュ・山岸尚美の協力も得ながら、不審人物のマークに励む新田の傍らで、さまざまな客の要望に応え四苦八苦する様子を見ることになる。
 「不審な客」=容疑者候補のさまざまなエピソード一つ一つが面白く、ホテル業務の喜怒哀楽を読むことそのものが結構面白い。当然、どれかが、あるいはすべてが真相の伏線となるであろうから、こちらもいろいろな想像を巡らそうとするのだが、いろいろありすぎて推理する気にはなれない。案の定、真相はとても入り組んでいて、よく考えられているとは思うが分かることはないだろう、と思った。
 読み物として読めば普通に面白いと思う。


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