皆さんから寄せられた5万件以上の書評をランキング形式で表示しています。ネタバレは禁止
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[ 本格 ] 蠟人形館の殺人 アンリ・バンコランシリーズ |
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ジョン・ディクスン・カー | 出版月: 1954年11月 | 平均: 5.42点 | 書評数: 12件 |
早川書房 1954年11月 |
早川書房 1954年11月 |
東京創元社 2012年03月 |
No.12 | 5点 | 虫暮部 | 2022/11/03 12:53 |
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悪い意味でヴァン・ダインを思わせる臨場感の無さ。死体が蠟人形に抱かれていても全然怖くない。そういえばバンコランの態度のでかさがまるでファイロ・ヴァンス。
ジェフのクラブ潜入捜査記は面白い。真相も説得力を感じた。動機が横溝正史みたい(逆か?)。 13章。“気送速達便”――そんなシステムの存在を初めて知った。パリの全郵便局が気送管で結ばれ、数十分で手紙が目的地に到着していたそうな。 |
No.11 | 7点 | クリスティ再読 | 2022/01/15 10:42 |
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いや「面白いスリラー」を読んだ、という感想。バンコランといえば頽廃感、なんだから、蝋人形館に秘密乱交クラブに加え「狂乱の20年代」のパリのナイトクラブ全盛期。イケナイ夜遊びのワクワク感がある作品なのが重畳。
作品中にもムーラン・ルージュでショーを見るとか、ミスタンゲットも名前だけだけど出るし、パリ遊学のカー本人も随分遊んだことだろうね(苦笑)。だからナイトクラブが得意な、たとえばチャンドラーとの同時代性みたいなものも、結構感じるんだよ。要するにジョセフィン・ベーカーとかモーリス・シュヴァリエとか活躍した時代だし、シャンソンだって花盛り。この華やかさがバンコラン物の一番のお愉しみ、と評者は感じている。 でまあ、ミステリとしては状況の解明が推理じゃなくて、当事者の告白で明らかになりすぎるとか、真犯人がやや隠しすぎてて意外だけど面白味は感じない....それよりも蝋人形館オーナーの娘マリーがなかなか楽しいキャラで、いいな~~でも「このおいぼれ父さんを頼りにしておくれよ」とトンチンカンな父親の愛情が、沁みるぜ。 まあバンコラン、策略が過ぎる方でもあるから、真犯人の指摘でも評者実は「それ自体バンコランの罠なのでは?」なんて深読みしすぎたのは(苦笑)。でも皆さん違和感を感じる運命のカードの件は、あれ「自殺クラブ」へのオマージュじゃないかしら。 頽廃的なバンコラン大好きな評者は少数派だけど、うん、構わないさ。 |
No.10 | 6点 | 雪 | 2020/06/19 05:16 |
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一九三〇年のパリ。オーギュスタン蠟人形館に入るところを目撃されたのを最後に行方不明となった元閣僚の娘オデット・デュシェーヌは、その翌日刺殺体となってセーヌ河に浮いた。予審判事バンコランが老館主を尋問すると、彼は展示中の女殺人鬼ルシャール夫人の人形が、オデットのあとをつけていくのを見たと言い出す。蠟人形館に赴き地下の恐怖回廊入口へと向かったバンコラン一行を出迎えたのは、オデットの親友クローディーヌ・マルテルの死骸を抱えたセーヌ河の怪物サテュロス像だった! 優雅な装いの下にメフィストフェレスの冷徹さと鋭い知性を秘めた、アンリ・バンコラン四度目の活躍。
1932年発表。同年にはバンコランと別れてアメリカへ戻った語り手ジェフ・マールが、滞在先の邸で事件に出くわすノンシリーズ長編『毒のたわむれ』も刊行されています。 バンコラン登場作品を完読するのは今回が始めてですが、フェル博士やHM卿シリーズに比べどうにも据わりが悪い感じ。煽情的なシチュエーションと、悪魔的かつ嘲笑的な探偵役のキャラクター性がうまく噛み合っていません。読者をひととき非日常の空間に誘ったのち事件に幕を引き、再び現実世界に引き戻すのが名探偵のポジショニング。一見エキセントリックに見えても、何かしらの安定性がないと作品全体のバランスが悪くなってしまうのです。そういう意味でバンコランの存在はマイナス要素。法の担い手でありながら法を逸脱するような言動も、それに拍車を掛けています。 かといってピカレスクに走る訳でもなく、悪く言えば中途半端。本編でも要所々々は押えるもののそれほどには動かず、作中登場のインテリ悪役エティエンヌ・ギャランに言及して、自分を実物以上に見せる事への自嘲と自虐、老いを認めるセリフなどが目立ちます。次作でフェイドアウトし新たな探偵役パット・ロシター青年に交代するあたり、作者のカーも扱い辛くなっていたのでしょうか。ラストではいつもの彼に立ち返り、またもや真犯人を弄ぶような態度を見せますが。 逆に大立ち回りを見せるのは語り手のジェフ。暗黒街の大物ギャランとある人物の会話を立ち聞きしたり、彼が上流階級脅迫に使用している秘密社交クラブ〈銀の鍵〉へ潜入したりと、主人公クラスの活躍ぶり。このクラブでの活劇と、クラブと表裏一体の関係にある蠟人形館との関係性が本書最大の魅力でしょう。両者を対置し推理とアクションとを混交させることにより、一定のリーダビリティーをも獲得しています。 またアクションのみならず伏線配置の仕方もかなりのもので、読者の眼前で証拠をチラつかせる手付きは『白い僧院の殺人』を思わせます。さらに現場を検討した上でのホームズ風状況把握も見どころの一つ。 本来ならば単なるイロモノに留まらず、佳作未満の地位を要求できるレベルですが、仕切り役の探偵にあまり好感が持てないのが難点。色々と光るものはありますが、トータルでは平均点の作品ですかね。 |
No.9 | 5点 | レッドキング | 2020/01/29 18:17 |
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バンコランシリーズ第四弾。ミステリには「蝋人形館」「お化け屋敷」「廃墟」「ゲテモノ展示館」等のケレン味は欠かせない。かといってタイトル自体に「蝋人形館」「爬虫類館」謳っちゃうとねえ、ちと鼻白んじゃうかなと。話は面白いんだから、これに不可能犯罪が一つでもあったら満足できたかな。 |
No.8 | 5点 | 弾十六 | 2019/08/04 11:37 |
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JDC/CDファン評価★★★☆☆
バンコラン第4話。出版1932年。よく考えたら、ポケミスは入手してなくて初読。ずっと『爬虫類館』と間違えてて、読んだものと誤解してました。創元文庫の新訳で読了。 冒頭から謎が次々登場してあっと言う間に頭が痛くなります。蝋人形館の見取り図もないので混乱に拍車がかかるのはいつものJDC。でも敵役が登場したら一気にわかりやすくなるので安心してください。その後は推理というより、ちょいエロ香る冒険物語。忠実な助手マール君がバンコランの手のひらで踊ります。(かなり杜撰な計画ですが… ) 解決後、ヘンテコな終幕。何の意図なのか、さっぱりわかりません。 以下、トリビア。原文は入手出来ず。 作中時間は、発端が「1930年10月19日(p160)」と明記。舞台はパリ。 p9 タンゴ: この作品のバックグラウンドミュージックはタンゴ、でも具体的な曲名はありません。フランスでは1910年代に流行、とのこと。 銃は「10年前…ピストルに消音装置をつけて…」「消音装置つきの四四口径」(こちらは現在)が登場。Maxim Silencers社は1912年設立。ライフル用の消音器の会社でセオドア ローズベルトが気に入って早朝の狩用に使ってたらしい。調べてみると1920年くらいから犯罪にサイレンサーが使われだして問題視されMaximは1930年に販売を中止。ただし「四四口径」だと回転式拳銃なので、消音効果は低いはず。 p11「(米国人なら)複雑な心境とでも呼ぶもの」: 原文が知りたいですね。 p30 病的なものに健全な興味がわかなくなったら死人も同然… というのがフランス人なのだ: 見習いたい態度です。ミステリ好きは間違いなく「生きてる」ってことですね! p36「(婚約)してます」: マール君のセリフ。相手はあの女? p60 百万フラン: 仏国消費者物価指数基準(1930/2019)で388.5倍、当時の1フラン=現在の0.59ユーロとのこと。100万フランの現在価値は7136万円。 p75 バンコランの大型ヴォアザン: Avions-Voisin。堂々たる大型車。座席の天井が低いのが特徴か。 p107 (アンヴァリッドの)礼拝堂…オルガンの音: Eglise Saint-Louis-des-Invalides à ParisのオルガンはAlexandre Thierry製(1686)、現在オリジナル部分がどのくらい残ってるかは調べてません。このオルガンが聴けるCDあり。 以下の曲目はオデットが好きだったと言う曲。キャラづけ成功してるかな。 p120 月の光(Claire de lune): ドビュッシーSuite bergamasque(1905)の第3曲。 p120 わたしのそばなら(Auprès de ma blonde): 17世紀の軍隊行進曲Le Prisonnier de Hollandeが発祥。「僕のブロンド娘」が「わたし」になってる訳題はいただけないなあ。(よく調べると歌詞は男のセリフと女のセリフがごたまぜになってるのですね…) p120 マダム、あなたの可愛いお手にキスを(Ce n’est que votre main, madame): Rotter Fritz, Erwin Ralph作のIch küsse ihre Hand, Madame(1928)にAndré Mauprey, Pierre Delanoëが仏語の歌詞をつけたもの。1929発表。日本語版「奥様お手をどうぞ」はディック ミネや菅原洋一が歌ってます。 p120 蛍の光(Auld lung syne): お馴染みのスコットランド民謡。 p137 徽章からするとあなたはフリーメーソンの会員: バンコランはメイソンだった! p186 懺悔: いつも尊大なバンコランが珍しく弱音を吐いています。JDC/CDの本音でもあるのか。 p197 絹ネクタイ… 5フラン: 大道商人が売る品。現在価値357円。 p201 盗聴器: 当時は大掛かりな細工が必要。ポータブル式録音機の普及は米国でも1953年。(ペリー メイスン調べ) p202 黒人ジャズバンド… シンバル、バスドラム、ブラスが主体… ホットな音楽: Louis Armstrong and his Hot Fiveは1925年から。ジャンゴとグラッペリのQuintette du Hot Club de Franceは1934年から。フランスのJazz Hot誌は1935年創刊。 p204 ミスタンゲット… ラケル メレ(訳注: スペインの歌手、女優): Raquel Meller(1888-1962)のことは知りませんでした。某TunesStoreで試してみたら声質はミスタンゲット(『天井桟敷』でお馴染み)に似ています。歌はメレさんの方がずっと上手い。 |
No.7 | 4点 | nukkam | 2016/03/21 06:58 |
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(ネタバレなしです) オーギュスタン蝋人形館で目撃されたのを最後としてセーヌ河に死体となって浮かび上がったオデット・デュセーヌの殺人事件の調査中のバンコランがそこの地下室で新たな死体を発見する、1932年発表のバンコランシリーズ第4作の本格派推理小説です。序盤は蝋人形館の不気味な雰囲気、後半は秘密クラブにおける冒険スリラー風展開と傑出した描写力を見せつけています。他のシリーズ作品と比べるとバンコランがやや精彩を欠いていて捜査に手こずっている印象を受けますが、それでも気の利いた手掛かりによる推理はなかなか見事です。ただ第一の事件の真相が(ネタバレ防止のためはっきりと理由は書きませんが)大いに不満を覚える内容だったのは残念ですが。 |
No.6 | 6点 | 斎藤警部 | 2015/06/04 13:15 |
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雰囲気勝負でしたね。真犯人も真相もなんだかすっかり忘れてしまいましたが、忘れえぬ妖しいロケーション(暗闇社交場)。。。 それだけで1点半アップ。 |
No.5 | 5点 | ボナンザ | 2015/04/29 10:20 |
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初期カーを代表する一作。蝋人形館での死体のシーンなど後の横溝のような一面も面白い。 |
No.4 | 5点 | バード | 2013/06/19 11:30 |
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初のカー作品、蝋人形館の殺人というタイトルだが舞台が蝋人形館である必要はなかったような。犯人は確かに以外な人物で言われてみれば伏線もあったので納得はいくが殺し方についてはちょっと雑な気がした。(突発的な犯行なので当然といわれればそうなのだが。)ただラストの締め方は個人的にはいい感じだった。
今後も機会があればカーの作品を読んでみたいとは思ったがこの作品オンリーの評価はぼちぼちといったところ。 |
No.3 | 5点 | E-BANKER | 2013/02/16 22:39 |
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「夜歩く」や「髑髏城」などに続くアンリ・バンコラン物の長編四作目が本作。
「蝋人形館」という、いかにもカーらしい怪奇趣味が漂う作品。昨年に出版された新訳版で読了。 ~オーギュスタン蝋人形館に入る姿を目撃されたのを最後に行方不明となった元閣僚の娘オデットは、翌日セーヌ川に死体となって浮かんでいた。予審判事バンコランが老館主を尋ねると、彼は最近館内で女殺人鬼の人形が動き回るのを見たと言い出す。蝋人形館へ赴き現場を確認しに地下の恐怖回廊へ向かった一行を出迎えたのは、セーヌ川に巣食う半人半魚の怪物サテュロスの像に抱えられた女の死体だった!~ 敢えていうなら、ちょっと「竜頭蛇尾」な作品と言えそう。 前半から中盤にかけての謎の提示は、いかにもカーらしいケレン味に溢れている。 蝋人形館、恐怖回廊、サテュロス像、謎の殺人鬼などなど、読者の首筋をゾクゾクさせる道具立てが揃っている。 現場の蝋人形館も密室状況とあっては、その後の展開を期待せずにはいられない・・・のではないだろうか。 ただ、暗黒街の大物・デュランが登場してからがどうもパッとしない。 バンコランの捜査&推理過程が開陳されるわけではなく、ワトスン役のマールの冒険譚などが中心となるのがちょっと拍子抜けなのだ。 確かに、終章で明かされる真犯人の名には「エッ?!」という衝撃を受けるのだが、この人物の登場シーンがあまりにも少なくて、正直かなり唐突感がある。 まぁ、伏線が丹念に張られているのだと言えなくはないのだが、ロジックの鍵となっている「ある材料」について、読者が気付くのはかなりキツイ気がする。 カー作品の解説などを読んでると、やっぱり初期のバンコラン・シリーズはその後のフェル博士やH・M卿物に比べて一枚も二枚も落ちるという評価に首肯せざるを得ないのだろうなぁ。 本作も決して悪くはないのだが、作者の代表作と比べると、高い評価は無理だろう。 (退廃的なパリの街の描写はなかなか惹き込まれる) |
No.2 | 7点 | Tetchy | 2012/04/22 20:00 |
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ハヤカワ・ミステリでしか刊行されていなかったバンコラン物の作品が新訳で刊行された。海外ミステリ不況が叫ばれる今、このような慈善文化事業めいた出版がなされようとは思わなかった。東京創元社の志の高さを褒め称えたい。
さて本作はまだカーの2大シリーズ探偵HM卿とフェル博士が出る前の1932年の作品と、最初期のものだが、物語は実に深く練られている。 まず冒頭の半人半獣サテュロスの蠟人形に抱かれるように死んだ女性の遺体の発見というカー得意の怪奇的演出から始まり、その蠟人形館が身分の高い紳士淑女たちの密会クラブへ通ずる秘密の進入口へとなっていることが判明することで淫靡な趣を呈し、さらにはその経営者の一人である暗黒街の大物エティエンヌ・ギャランへつながっていく。このギャランがかつてバンコランに痛めつけられ自慢の容姿を台無しにされた因縁の相手であり、ライバルの登場と物語の展開がドラマチックで淀みがない。また語り手のジェフが仮面を被って秘密クラブへ潜入するというサスペンスも加味され、なんとサーヴィス精神旺盛な作品かと感嘆した。 単純に蠟人形館に終始せず、この密会クラブをプロットに合わせたのが実に効果的。それが故に最後に明かされる真犯人の心理状況の移ろいが手に取るようにわかる。 しかしとはいえ、主人公のバンコランにはどうも好感が持てない。強引な捜査方法に加え、最後の真犯人の対決シーンはどちらが殺人犯だか解りやしない。それが大いにマイナスになった。 ま、好みの問題なんですがね。 |
No.1 | 5点 | kanamori | 2010/06/24 18:41 |
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パリの予審判事アンリ・バンコランが探偵役を務めるシリーズ第4弾。
なぜか2、3作目はライン河の古城とかロンドンが舞台でしたが、今回は再びパリにもどり、蝋人形館での連続女性殺人事件に挑みます。 退廃的なパリの情景描写とか蝋人形館の雰囲気はよく出ていて、最後の大佐とのカード勝負の場面なども読ませはしますが、フーダニットとしては物足りなく思いました。翻訳が古いのも難点。 |