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[ 本格 ]
囁く影
ギデオン・フェル博士シリーズ
ジョン・ディクスン・カー 出版月: 1956年08月 平均: 6.69点 書評数: 13件

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早川書房
1956年08月

早川書房
1956年08月

早川書房
1981年06月

No.13 6点 弾十六 2025/04/17 08:13
1946年出版。フェル博士第16作。ハヤカワ文庫(1981年6月初刷)で読了。斎藤数衛さんの翻訳は安定感があります。
ダグラスグリーンは当時英国と米国で妻と離れて暮らしてたJDCの不倫行為が大きく影を落としてるように書いてるけど、元々、JDCって『夜歩く』からヘンテコで色っぽい女に弱い主人公を描いてるじゃないか…
ミステリとしては私の好きなネタが出てくる。まだ英国では一般的では無かったのかなあ。
以下トリビア。
英国消費者物価指数基準1945/2025(55.16倍)で£1=10359円。
p5 殺人クラブ(Murder Club)
p5 六月一日金曜日(Friday, June 1st)◆1945年と合致。
p6 一九四五年◆ヨーロッパ戦線の終結は1945年5月15日のようだ。
p7 戦車部隊ではドイツ兵(ジェリー)が投げつける爆弾… ディーゼル油中毒(Dieseloil-poisoning)
p7 街灯はつけられたが燃料節約のために、再び、すぐ消されてしまうロンドン(a London still pinched by shortages; a London of long queues, erratic buses, dry pubs; a London where they turn on the street-lights, and immediately turn them off again to save fuel)
p8 人びとは熱狂的に勝利を祝わなかった(People didn't celebrate that victory hysterically)◆ ロンドンの戦後すぐの風景。JDCの実感なのだろう。
p8 クリケットの試合の結果が新聞にのり、地下鉄の構内から簡易寝台が片付けられはじめると(when the cricket results crept back into the papers and the bunks began to disappear from the Underground) ◆平時の象徴が英国らしくクリケット。地下鉄を防空壕に使ってる映像は戦時中に作成された映画『恐怖省』(1944 監督フリッツ・ラング)が印象に残っている。
p10 一九三八年にノーベル歴史学賞を受けて(won the Nobel Prize for History in nineteen-thirty-eight)◆現実には存在しない部門。
p15 探偵小説(detective stories)
p17 “優先権”を理由に、寝台車の席もとれなかった(could not get a sleeper on the train, either, because of 'priority.’)◆戦争中は軍務関係の輸送にpriorityが設定されていたようだ。
p22 一九三九年
p25 カリョストロ◆ 現在では「カリオストロ」表記が一般的。
p25 プラス・フォアーズ
p25 主任司祭(キユレ)のスカート(as a curé's skirts)◆curéはフランスの司祭。このファッションはCuré Antoine Labelleで検索すると出てくるようなものだろう。
p26 ゴルフ… テニス
p28 五月三十日の午後
p28 イギリス人の家庭はどこでも犬がいる(In English households there is always a dog)
p29 シトロエンのタクシー(a Citroen taxi)◆Citroën Traction Avant Taxi 1939で検索。
p30 まさしく“レディ”そのもの(in every sense of your term, a lady)◆ JDCの「レディ」の概念はどういうものなのか。そもそもLadyについて私がよく分かっていないだけなのだろう。
p30 ブリッジ
p31 ローレルとハーディが完全なフランス語でしゃべる映画(to the cinema to hear MM. Laurel and Hardy speaking perfect French)◆字幕じゃなくて吹き替え版、という事か。なおMM.はMessieurs(ムッシューの複数形)のフランス流略語。
p31 アナトール・フランスの小説…[略](in the delicious description of Anatole France's story: ‘I love you!What is your name?’)◆なんとなく馬鹿にしてる感じ
p40 八月十二日
p40 ルヴュー・デ・ドゥー・モンド(Revue de Deux Mondes)◆1829年創刊の評論月刊誌。Wiki「両世界評論」
p40 二十ポンド紙幣(twenty-pound notes)◆ White noteの£20紙幣は発行1725-1943、白黒印刷で裏は白紙、サイズ211x133mm。
p59 ジョッキのようにむきだし(as bare as a jug)
p66 アグネス・ソレル… パメラ・ホイト(Agnes Sorel… Pamela Hoyt)◆ アニェス・ソレル(Agnès Sorel, 1421-1450)は、フランス王シャルル七世の愛妾。急病で死んだが現在では水銀中毒死と鑑定されており、殺されたとする見解もある。パメラ・ホイトは架空人物のようだ。
p72 家に行くだけのガソリン◆戦時下はガソリン不足だった。
p77 車を待っていた8人のGIたち
p81 職業紹介所(民間)(employment agency)◆p89との対比でこの注釈
p81 フランスから送還(Repatriated from France)
p87 配給通帳を持ってくるように(to bring her ration-book)◆英国政府は1940年1月から配給制を導入。ration book uk ww2で検索すると当時のration bookを見ることが出来る。
p89 職業安定所(労働省)(Labour Exchange)
p97 電動力装置(the electric power-plant)… 灯はすべてパラフィン・ランプ(paraffin lamps)
p103 “赤い王”と呼ばれていたウィリアム・ルーファスが狩猟中に射殺… “ザ・ホワイト・カンパニー”(William Rufus, the Red King, was killed with an arrow while he was out hunting… The White Company)◆ イングランド王William II of England (1056c-1100)のこと。殺された場所はニュー・フォレストのBrockenhurst近郊。
p128 暖炉棚の上にはレオナルド・ダ・ヴィンチの小さな油絵
p133 民間のいいつたえによれば、あかいかみ、ほっそりとしたからだ、青い目… (The physical characteristics, the red hair and the slender figure and the blue eyes, are always in folklore associated with …. )
p135 オールド・キング・コール(Old King Cole)
p149 アイヴス=グラントの32口径の拳銃(a .32 calibre Ives-Grant revolver)◆このメーカーは架空だがJDCは『猫と鼠の殺人』(1941)で既に使用している。多分Iver Johnsonのことだと思う。なぜ架空名にしているのかは良くわからない。
p153 ロンドンの二冊の電話帳(with two London telephone directories)◆ こういう時に役立つKelly’s directory
p159 ばかでかい海泡石(メヤシヤム)パイプ
p166 電撃的空襲やV兵器(the blitzes or the V-weapons)
p167 “シックス・アッシズ”の殺人犯や、ソドベリー・クロス(the Six Ashes murderer… Sodbury Cross)◆『死が二人をわかつまで』(1944)と『緑のカプセルの謎』(1939)
p170 ジョリューの3番(Jolyeux number three)◆架空のフランス香水のようだ
p175 スラボニア地方(In Slavonic lands)◆Slavicと同じ。スラヴ地方、と言ったほうがわかりやすいか。
p176 中世ラテン語◆原文では英語訳なし。
p189 釣鐘(ベル)顔負けの丈夫さ(as sound as a bell)◆ 翻訳だけだと何のこっちゃ?だがsoundの連想でbellなのだろう。
p205 サー・マルコム・キャンベルのようにすっとばす(drove like Sir Malcolm Campbell)◆英国人自動車レーサー(1885-1948)。当時、数々の最高速度記録を樹立していた。
p208 一等車のコンパートメントは名目上六人分の座席◆ここに10人がぎゅう詰めになっている、という情景
p208 チェスターフィールド卿の書簡からの金言(a maxim from the letters of Lord Chesterfield)◆ 調べつかず
p209 ドライ・レザーでひっかくように顔をごしごしこすって(scraped himself raw with a dry razor)◆翻訳を読んで「洗顔用に乾いた荒皮みたいなものを使ったのか」と思った。dry razorとは「電気剃刀」のこと。Webで探すと、当時、電気剃刀用のコンセントが客車に整備され始めたという記述があった(米国の話のようだが)。ここではあらかじめ旅行の準備をしていたみたいなので自分用のを列車に持ちこんだ、という事だろう。電気剃刀自体は1930年代から普及し始め、バッテリー式は1940年代後半の登場。試訳「電気剃刀でざっと顔をあたった」
p209 三等の乗車券を持った数名の太った婦人たちは、一等のコンパートメントの中に割り込んで… (except those fat women with third-class tickets who go and stand in first-class compartments, radiating reproachfulness, until some guilty-feeling male gives them his scat)◆ 自由に一等車のコンパートメントに入ってくる描写をピーター卿とかノックスの作品でも読んだことがある。
p210 朝食がわりにポケットにビスケットを詰め込んで(engaged in cramming biscuits into Miles's pockets to take the place of breakfast)
p214 防水外とう(マツク)(a mackintosh)
p215 うまくやれる手札を一枚、二点か三点よりももっと点の高いカードを一回回してください(Give me just one proper hand to play, one card higher than a deuce or a three!)◆ここで想定しているカード・ゲームは何だろう?
p226 それがどうしたね?(エ・アロール)
p236 雨外套(マッキントッシュ)
p239 窓ガラスの一枚は破れたボール紙が打ちつけてあった(a window, one of its panes mended with cardboard)
p248 あるテスト… 溶かしたパラフィンを使う… ゴンザレス検査法(you used melted paraffin… the Gonzalez test)
p263 日曜日でもライオンズかABCの店があいているか… サンドウィッチをおいているパブ(Shall we go out and see if there's a Lyons or an A.B.C open on Sunday? Or a pub where they might have a sandwich?)◆西欧では安息日に店を閉めてる場合が多い。「日曜日でも開いているライオンズかABCが近くにあるか」という趣旨だろうか。パブは日曜でも開いてるものなのか。
p268 ダルタニアンが知っていた英語… “さあ、こい“と”こん畜生“(the only two words of English known to D'Artagnan were 'Come' and 'God damn.')
p295 特にイギリス人の場合には、かなり身分の高い紳士階級でも、レインコートはひどく目障りにならない限り、できるだけ古くなり、よれよれになるまで着るのを一種のほこりとしている(Among Englishmen especially it is a point of pride, even of caste and gentlemanliness, for his raincoat to be as old and disreputable as possible without becoming an actual eyesore)◆よれよれのコロンボのコートは英国流だったのか? ロンドンのコロンボではどう描かれていたっけ?
p301 デヴィル島(Devil's Island)◆映画『パピヨン』(1973)で有名。(知ってるのは古い世代だけ?) Wiki “ディアブル島”参照。
p327 車掌車(guard's van)◆ 当時、英国の客車にはブレーキがついておらず、列車全体のブレーキ力を補うために最後尾にブレーキ専用車(guard's van)を付けるのが当たり前だったようだ。英Wiki “Brake van”参照。

No.12 7点 クリスティ再読 2022/11/21 12:25
カーでもホラー要素は吸血鬼ネタ。中期にしてはドタバタ要素を排し、ロマンチックな女性像が印象的な作品。トリックよりもそっちの方に魅かれる。

ある意味、人間関係に「謎」を巧妙に隠すクリスティっぽい作品だと思う。中期のカーって「皇帝のかぎ煙草入れ」みたいなクリスティ趣味の作品もあることだし、そう見るのも不自然じゃないように感じるよ。まあだからカーのもう一つの軸の不可能興味が大したことないのを咎めるのは、トリック至上主義というものじゃないかな。

現代の事件が起きるまでの動きが少なくて、ややジレるところもあるけど、ロンドンへ向かう追っかけなど、「動」の要素が出てきてからは本当に一気に読ませる。ヒロインが問題を隠しすぎ、というのはあるんだけども、人の出し入れで「すれ違い」な作劇がそれを目立たせない。これはカーが読者に積極的に仕掛けていることでもあるから、「消極的なミスディレクション」とでも言ったらいいのかしら?

まあでも、ヒロインのキャラクター性が何よりの成功材料。カーのロマンスの数少ない成功例(残念なことに...)。こういうやや時代がかったヒロインへの、カーの憧れが反映しているのかな。だからか、狂言回しの歴史学者の「個人的」な決着の付けかたも何かイイ。評者好感の作品でした。

No.11 8点 レッドキング 2019/09/03 09:22
オカルトとドタバタを両翼に、不可能犯罪トリック解明をエンジンにして飛翔するカーのミステリの中で、この作品はオカルトのみドタバタ抜きの片翼飛行で疾走する。そして切なく歪んだ心情とサスペンスが、ハウ・フーを超えて「いったい何が起こっているのだろう」のホワットダニットを噴き上げて行く。
ところでこの作のフェル博士にはいつもの魅力がないが、なんせ片翼のドタバタ自体がないのだからやむを得ず、ヒロインの魔力がそれを補ってあまりある。「あなたは彼女を愛してなどいないのよ・・幻想の女・・あなたの頭が創り出した夢の女よ・・ねえ、聞いて・・」「あの人が、どんな女だってかまわない。僕は、あの人のところに行く。」
嗚呼、「幻の女」「愚かなる男」

No.10 8点 2018/12/13 07:52
 戦火の傷跡が残る一九四五年のロンドン。叔父チャールズの遺産を相続したばかりの歴史学者マイルズ・ハモンドは、ギデオン・フェル博士に〈殺人クラブ〉のゲストとして招かれ、ベルトリング・レストランを訪れた。だがそこにクラブのメンバーは誰もおらず、ディナーの準備が整えられているのみ。
 待ちぼうけを食わされたのはマイルズだけではなかった。同じくゲストとして招待されたフランス人の大学教授、ジョルジュ・アントワーヌ・リゴーは、居合わせた女性記者バーバラ・モレルの懇請で、二人に戦前フランスのシャルトルで起こった不可能犯罪の一部始終を語り始める。
 〈ヘンリー四世の塔〉と名付けられた河沿いの古い塔の頂上で、地元在住のイギリス人実業家、ハワード・ブルックが刺殺されたというのだ。彼が尖塔に登ってから発見されるまでの十五分間、正面から建物に近付いた者は誰もおらず、しかも裏側は切り立った外壁であった。ハワードはとかくに噂のある家庭教師、フェイ・シートンと息子ハリーの仲を断つべく、塔に出かけていったのだった。
 リゴー教授との話を終えて、ホテルに戻ったマイルズ。彼の元に、叔父の蔵書整理に雇う司書の応募者が訪ねてきたという。その女性は、フェイ・シートンと名乗った。
 リゴー教授、そしてフェイ。シャルトル事件の関係者がマイルズの住むグレイウッドの屋敷に集う時、またしても不可能犯罪が起こる・・・。
 1946年発表。地味な印象で初読の際はさほどでもなかったんですが、読み返すうちに評価の上がっていった作品です。今選ぶとディクスン名義も含むベストテンの下位には入りますね。
 最初の密室状況ばかりがクローズアップされがちですがこれは付け足し。メイントリックは犯人の隠し方で、この設定を成立させるため、最初の事件はリアルタイムでなく聞き語り形式になっています。
 その分臨場感が損なわれると見たのか色々と怪奇性を補強する手を打っていますが、なかなかの効果。主人公側であるリゴー教授やバーバラが生理的にフェイを忌避するため読者は不安感に苛まれ、同時に事件の煙幕にもなっています。
 さらにエンディングに至ればこれらが一転してヒロインの悲劇性を強調するという充実ぶり。ニュー・フォレストで起きるのが殺人ではなく、犯行手段すら不明な未遂事件である点も、異様なムードの創出に拍車を掛けています。
 全てが最初からの計算ではなく、諸々の工夫が巧まずして類を見ない出来に繋がったと見ていいでしょう。もっとも不可能犯罪のトリックはそれ単独で勝負できるものではないので、一線級の傑作と互角に張り合うのは難しいですが。
 ステロタイプでないヒロインを配した、カー唯一といえるロマンス小説の成功例。総合力でギリギリ8点には値すると思います。

No.9 5点 文生 2017/11/01 15:51
カー中期の佳作という位置付けの作品で確かに全体のプロットはよくできている。しかし、個人的には最初の不可能犯罪のトリックと犯人が瞬時に分かってしまったのでその時点で興が削がれてしまった。というか、あそこで用いられた手法は不可能犯罪における基本トリックのひとつなのでカーを読み慣れた人であれば誰でもすぐにピンとくるのではないだろうか。それを前提に読むと第2の殺人における展開もさほどサプライズではなくなり、高い評価は与えられなくなってしまう。

No.8 6点 nukkam 2016/08/29 00:17
(ネタバレなしです) 1946年発表のフェル博士シリーズ第16作は作品全体を覆う暗いトーンと不気味さ、そして悲哀を帯びた結末が印象に残ります。但し「仮面劇場の殺人」(1966年)では本書の意外な後日談が語られていますが。会話中心の展開なのにサスペンスが強烈な地下鉄の場面など演出が巧いです。トリック的には(実際に使われたトリックの流用だそうですが)ロンドンの事件のトリックが珍しいです(読者が解決前に予測するのは難しいと思いますけど)。あと本筋とは関係ありませんが冒頭で紹介されている「殺人クラブ」が結局名前のみの出番だったのはちょっと残念でした。

No.7 8点 青い車 2016/02/18 23:03
塔の頂上というあまり見慣れない密室状況を扱っていますが、実に手堅い解決でカー中期の円熟味が感じられる内容です。全体として闇夜の暗い雰囲気の印象が強く、怪奇性も知的な謎解きを侵食しない程度に利いています。一部の登場人物の出現の仕方にご都合主義的なところもありますが、個人的には許容範囲です。また、比較的短めにまとまっているのも好感が持てます。

No.6 6点 了然和尚 2015/10/03 16:22
過去の事件も、今の事件も動機が隠されてたりして、なんとも入り込みにくい内容で4点。犯人が(その正体がと言うべきか)以外で+1点、その後の謎解きでパズルを組み上げるような見事さに+1点と、尻上がりに評価が上がる作品でした。自分の眼の節穴ぶりが情けなくなります。
本作はいかにも本格推理という感じで、90%つまらなくても、最後の10%で見事にやってくれた感じです。非本格の犯罪小説である松本清張の作品では90%楽しく読めて、最後の10%の仕上げでがっかりするのと対照的なのが面白いですね。作品の娯楽量とでもいう指標があるならば、両者は同じなんだなと感じます。

No.5 8点 ボナンザ 2015/02/21 20:47
中期の最高傑作。二つの事件のトリック、伏線の張り方共に初期の傑作群に劣らない見事な出来。

No.4 7点 2012/06/12 20:42
その終戦直後の雷雨の日、なぜか殺人クラブには正規会員が誰も来ていなかった。ゲスト3人のみが集まり、数年前に起こった密室殺人の顛末が語られる…
カーの作品を読むと、普通の密室がいかにも魅力的に思えてくるから不思議です。久々に再読した本作でも、章の区切り方とかちょっとした情景描写で、期待を高めてくれるのです。ただし、6割を過ぎたあたりから最初の不気味な雰囲気が薄れ、普通の都会派サスペンス展開になっているのが、ちょっと残念です。
全体的な構造としては、偶然の重なりが新たな事件を引き起こす元になるところ、安易とまでは言えませんが、やはりご都合主義ではあります。ただし終戦直後という時代背景を生かした骨組みは、横溝正史の有名作との共通点も感じさせますが、悪くありません。
第2の事件-殺人未遂の方法も理由も分からないという謎に対する解決もうまく考えられています。またいつものカーとは違ったロマンス味付けも印象に残ります。

No.3 9点 toyotama 2010/11/11 18:11
カーの作品は結末が見事でも、そこに行くまでに退屈させられてしまう。
そういう意味ではこの作品の長さに満足!
実際、後半は一気に読み通すだけの緊迫感はあったと思います。

No.2 7点 kanamori 2010/06/23 18:55
パリ郊外の古塔最上階での不可能殺人をフェル博士が解く本格編で、中期の佳作だと思いました。
吸血鬼伝説は添えものという感じですが、物語導入部のミステリアスな情景描写や殺人クラブの雰囲気から引き込まれます。
カーの描く若い女性像はいつも類型的ですが、本書のヒロインのフェイ・ノートンの造形は異質で、あるミスディレクションに寄与していると思います。

No.1 2点 Tetchy 2008/11/23 22:34
いやあ、結局、この物語で語りたかった事は何なのか、よく解らなかった。
不可能状況、不可解状況を作り出すためにわざわざ登場人物達を歪曲したような感が強く、興醒めした。
吸血鬼云々の件も、強引に怪奇色を出しているような、取って付けた感が強いし・・・。
物語に牽引力があれば、もっと面白く読めたのだろうけど。


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