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[ 本格 ]
ハイチムニー荘の醜聞
ジョン・ディクスン・カー 出版月: 1960年01月 平均: 5.50点 書評数: 6件

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早川書房
1960年01月

早川書房
1983年02月

No.6 6点 クリスティ再読 2022/12/09 22:41
時は1865年。ヴィクトリア朝も中期になろうかという頃。すでに王配アルバートは死去し女王は長々とした服喪中。ディズレーリはまだ首相になっていない。ディケンズが大作家として君臨していた時代である。コリンズは「白衣の女」は発表済みだが、「月長石」は3年後....

というわけで、それまでの「喉切り隊長」や「ニューゲイトの花嫁」「火よ燃えろ!」よりも少し下った時代が舞台。歴史ミステリでは前作に当たる「火よ燃えろ!」でスコットランドヤードが設立された時代を扱ったわけだが、「火よ燃えろ!」に登場する2人の警視総監のうちメイン氏はまだ在任中。というわけでその続編みたいに読んでもいいのかな。
この1865年というのは、この事件で参照される「コンスタンス・ケント事件」の真犯人が自白した年。カーはこの現実の事件をなぞるかのように本書の事件を設定している。そして「コンスタンス・ケント事件」で真犯人を指摘しながらも、「冤罪!」という声に抗しきれずに辞任したウィッチャー元警部が本作の事件に当たる。

たとえば「月長石」のジェントリー一家から見れば、名探偵カフ部長刑事だって「雇人」扱いだったりするわけで、紳士と庶民の間の階級差というのはかなり大きい時代でもある。本作でもウィッチャー元警部は主人公の紳士クライブにすごく気を使っている。実際、犯人に対する罠がややこしく縺れるのは、紳士であるクライブにウィッチャー警部が真相を率直に打ち明けたら、いろいろ面倒、と懸念したせいじゃないだろうか? クライブとケートの間の恋愛に、事件に絡んでクライブがいろいろ妄想するから話が縺れている...
まあ、本作は活発なヒロインのケート、その姉でエキセントリックなシーリア、快活な継母のジョルジュエット、堅苦しいペネロープ、とカーにしては女性の書き分けが成功している作品だったりする。オマケみたいにだがチェリーというなかなか怪しいお姉さんも登場するしねえ。その代りに主人公のクライブの短慮が過ぎるのが、シラケやすい部分でもある。小説としては一長一短、かな。

ミステリとしては、登場人物の間では率直な意見が交換されて手がかりがでているのを、わざとカーが端折って伝えなかったりするのに、アンフェア感がある。とはいえ、伏線回収はしっかりしているし、トリックの現実性が強いのがいいあたり。不可能犯罪じゃなくても、いいじゃない?

いやカーって、歴史ミステリの方がずっとリーダビリティがいいのは、何でかしら? リーダビリティの高さに好感してギリギリ6点。

No.5 4点 レッドキング 2020/11/13 16:24
ホームズ・ワトスン物語に何故あれほどの「ミステリスタンダード感」覚えるのか考えると、あれがガス灯の世界・・電力以前の世界・・の物語だからだということになる。ミステリには、あの世界がよく似合う。電力照明のない世界、想像しかできない世界、そして、ミステリには英国と英国人が実によく似合う。

No.4 6点 2020/02/17 01:43
 一八六五年十月のある晩、〈ブライス・クラブ〉に呼び出された元法廷弁護士の作家クライヴ・ストリックランドは、友人ヴィクター・デイマンに二人の妹たちを結婚させ父親の屋敷から引き離してほしいと頼まれる。レディング近くの田舎にあるハイチムニー荘は元鬼検事の父マシューの邸宅だったが、辣腕家でありながらその経歴にとかくの噂が影を投げかけ、栄典にはこれまで一切無縁なのも消息通の間では不審がられていた。
 クライヴはマシューを説得するためグレイト・ウェスタン鉄道でハイチムニー荘へ向かおうとするが、始発駅で偶然デイマン夫妻に出会う。だがマシュー・デイマンは十歳も老けてしまったように見え、ほおはげっそりとこけていた。彼はそこでデイマン氏から、幽霊が出たという話を聞かされる。昨夜外出した執事バービジの娘ピネラピが、帰宅後階段の途中に立っている男につかまえられかけたのだ。家じゅうのよろい戸はしっかり戸締りされかんぬきもかかっており、外からは誰も入ることができなかった。
 クライヴは脅えるデイマンに懇請されハイチムニー荘の客となるが、屋敷の書斎で告げられたのは十九年前に処刑された女死刑囚ハリエット・パイクの実子が、この家に引き取られ養育されているという事実だった。そしてデイマン氏がなおも語ろうとしたまさにその時、何者かの銃弾が彼に向けて発射された・・・
 『火よ燃えろ!』に続いて1959年に発表された歴史もの。次作『引き潮の魔女』とともにヴィクトリア朝三部作を成しています。時代的には南北戦争の半年後、作中にもあるようにイギリスの大政治家パーマストンが病死しプロイセンのビルマルクがオーストリアに普墺戦争を仕掛ける直前で、日本だと第二次長州征討のため大阪城に入った十四代将軍家茂が急死する前後のこと。
 1860年にイングランド南部のウィルトシャーで起こった幼児殺し「コンスタンス・ケント事件」を下敷きに、同事件で馘首されたロンドン警視庁の元警部、ジョナサン・ウィッチャーに謎を解かせる構成。〈マシューの二人の娘のうちどちらが殺人犯の子なのか?〉を軸に、一目惚れした主人公を操りながら進行させますが、誘導テクニックの限りを尽くしているとはいえあまり成功していません。犯人隠しはこの作者の得意技ですが、カーの場合文章の巧みさ以前に卓抜したシチュエーションで成功させている例が多い(『貴婦人として死す』などはその典型)。本書の場合はやや無理筋で、鮮やかな仕上がりではありません。鏡明氏のようにストーリーテリングを高評価する人もいる反面、犯人逮捕を複雑な形にせざるを得なくなるなど、作劇としては肩透かしに陥っているところもあります。
 とはいえ巻末注記の充実が示すとおり、かなりの意欲作なのは事実。犯人を知っている人物がことごとく言葉を濁すなどいただけない部分もありますが、そうした点を気にしなければ十分楽しめるでしょう。なかなかに尖った作品です。

No.3 5点 ボナンザ 2019/05/12 19:33
いつものカーだが、不可能犯罪や怪奇色は薄い。
手掛かりの示し方は中々凝っている。

No.2 6点 kanamori 2016/07/25 18:35
妹2人を早く結婚させるよう父を説得してほしい-----友人のヴィクターからの奇妙な依頼を受けて、ハイチムニー荘を訪れた作家のクライヴは、ヴィクターの父親から、子供たちの中に昔自ら死刑に追い込んだ殺人犯の遺児がいるという、驚くべき話を聞かされる。クライヴがその名を尋ねたその時、書斎に銃声が響き---------。

ヴィクトリア朝の英国を舞台にした本格ミステリ。
ディクスン・カーの歴史ものは、時代背景やロマンス、風俗描写に重点が置かれた冒険スリラー色が強い作品も多いのですが、本書は(男女のロマンスはミスディレクションの道具になっていて)、フーダニットを主軸にした比較的謎解き要素が強い作品です。
メイントリック自体は、それほど新味を感じさせるものではありませんし、読み終えれば真相も意外と単純なものだったと分かるのですが、語り(騙り)のテクニックで容易に真相を見抜けなくなっています。読む人によっては、真犯人の隠蔽の方法がアンフェアとは言えないまでも、あざとすぎると感じるかもしれませんが、各章の終りで興味をつなぐ”引き”のテクニックをはじめとして、作者のストーリーテラー巧者ぶりを再認識させられる仕上がりだと思います。
なお、文庫版巻末の”好事家のための注記”のなかで、ウィルキー・コリンズ「月長石」の完全ネタバレがあるので、未読の人は注意が必要です。(ただし、クリスティの有名某作と比較したカーの「月長石」評は非常に示唆に富む分析だと思います)。

No.1 6点 nukkam 2014/02/16 11:09
(ネタバレなしです) 1959年発表の歴史本格派推理小説ではありますが作中時代を19世紀後半(1865年の英国)にしたためか風俗描写がそれほど歴史を感じさせず、現代ミステリーに雰囲気が近くなっています。プロットは過去のある作品を髣髴させて二番煎じを感じさせるところは否めませんが、謎とロマンスの盛り上げ方はさすがに巨匠ならではの出来栄えですらすらと読ませる語り口もお見事です。


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