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[ 時代・歴史ミステリ ] ニューゲイトの花嫁 |
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ジョン・ディクスン・カー | 出版月: 1959年01月 | 平均: 5.00点 | 書評数: 6件 |
早川書房 1959年01月 |
早川書房 1983年05月 |
No.6 | 5点 | クリスティ再読 | 2022/11/23 08:30 |
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カーの歴史モノって評者「喉切り隊長」と「ビロードの悪魔」しか読んでいなかった...なので全体像は全然わかってない。ちょっとまとめてやろうかと思う。これが後期歴史モノシリーズの最初の作品になる。
時代はいわゆる「摂政時代」。ナポレオン没落あたりの時期で、本作にもワーテルローの勝利が背景になっている。国王ジョージ3世の発狂から遊び人の皇太子が摂政を務めた(のちに即位、ジョージ4世)ことから「摂政時代」と呼びならわされる時代。摂政皇太子(作中でも「プリニー」って愛称?で呼ばれている)の派手好きからイギリス上流階級の花が開いたのだが、風俗もまた乱れた時代でもある。「紅はこべ」の舞台もほぼ同時期。 面白いことには同時代の日本も家斉の「大御所時代」でいわゆる化政文化が花開いた時代でもある。この時期の風俗が時代劇のデフォルトになっていることもあるから、本作なんて「カー流、時代劇」のまさにど真ん中、と見たらいいんじゃないかな。 カーの歴史ミステリ、というと考証は正確、ミステリ的な謎や仕掛けもある肩の凝らない活劇調、というもので、そのスタイルは第1作の本作でも確立されている。 無実の罪による絞首刑寸前を助かった主人公ディックが、冤罪のリベンジのために犯人を追及する大筋。この主人公、獄中で「祖父の遺産を相続するために何としても結婚しなければならない(でも夫は不要!)」なクール美女キャロラインと結婚するなんて導入。このキャロラインがツンデレでねえ。身分違いでディックをナメてかかるんだけども大逆転。それでもキャロラインが正ヒロイン。 「わたし、ぜったいばらさない。だから、一緒に食事をして」 「わかるけど、毒物に対する知識がなさすぎるんだよ。それに明日の朝は三時に起きて(決闘の)準備をしなくちゃならん。おやすみ」 とハードボイルドみたいな味が出るところがある。これが面白い。 前半、モンテクリスト伯か!というくらいに面白い。でもね、ヒロインはすぐデレるは、敵方?みたいに主人公と決闘する紳士たちにも、何か受け入れられちゃうわ...と話のテンションが下がってくるんだね。ミステリ的な謎も小粒。 トータルでは失敗作の評価。イイ線いっていたのにね。 |
No.5 | 5点 | レッドキング | 2021/07/25 06:10 |
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舞台は今から二世紀昔の英国。西洋はナポレオン時代の終焉。謎の馬車に拉致された若き貴族が連れ込まれた部屋には刺殺死体が。殴打され失神から目覚めた場所からは件の部屋は「消失」していた。冤罪で死刑判決を受け、執行直前に、死刑囚との偽装結婚を模索していた富豪令嬢との婚姻を受け容れる。が、思わぬ運命の変転から、爵位を相続し自由の身となるのみならず、令嬢の婿として莫大な遺産も手にすることに・・・。
ミステリとしては、「消失した部屋」のトリック・・ホームズ短編のあのネタ・・の解明とフー・ホワイの骨格だが、「三銃士」か「モンテクリスト伯」かと思うくらい面白く、かつ、カーのドタバタ活劇も全開で、1点オマケ。 |
No.4 | 7点 | 雪 | 2019/07/03 09:10 |
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ワーテルローの戦いがおこなわれた一八一五年六月十八日の夜、フェンシング道場師範リチャード(ディック)・ダーウェントは貴族殺しの罪でニューゲイト監獄に繋がれ、白々と明け初める翌朝まさに絞首刑を迎えようとしていた。 ディックは最後の告解を施しにきた監獄付き教戒師ホレイス・コットンに、自分が嵌められ青年貴族フランシス・オーフォード殺害の罪を着せられたこと、ならびにハイド・パーク公園を彷徨う幻の馬車と、墓場からやってきたような黴の生えたマントを羽織った御者の話を語る。
そのとき新たな客が囚人を訪れた。二十五歳の誕生日を間近に控えたキャロライン・ロス嬢だ。彼女は祖父の遺産相続の条件を満たすため、明日には処刑されるダーウェントにかたちだけの結婚を求めに来たのだった。恋人ドロシー・スペンサーにせめてもの償いをするため、ディックは五十ポンドの報酬で、コットン師立会いのもと式を挙げる。 だが彼の運命は再度変転する。伯父と従兄弟がフランスでの戦いに絡んで亡くなり、ディックは晴れて爵位を継ぎリチャード・ダーウェント侯爵となったのだ。ダーウェントは決闘でオーフォードを斃したと思われていたが、貴族を裁くイギリス上院では、決闘行為は権利であって犯罪とは看做されないのだった。 無罪放免となったリチャードは酔いどれ弁護士ヒューバート・マルベリーの力を借り、ニューゲイトで彼を侮辱したダンディ、ジャック・バックストーン卿との決着を付け、同時に消えた家の秘密を暴き、彼を窮地に陥れた謎の〈御者〉の正体を探るべく奔走する。 「疑惑の影」に続き1950年に発表された、カー/ディクスン歴史作品の嚆矢。本書を皮切りに翌1951年には「ビロードの悪魔」が、続いて「喉切り隊長」「火よ燃えろ!」などが最後期に至るまで書き続けられ、いずれも高い評価を得ています。 それらに比べると、この作品はやや生硬な出来。ウィンブルドン・コモンでの水車を背景にしたバックストーンとの銃による決闘を端緒に、史実上のキングズ・シアター騒擾事件の中での雇われボクサーたちとの戦い、およびとうとう姿を現した〈御者〉の追跡、ラスト付近の剣戟など、人物取り違えを駆使した種々の盛り上げは流石ですが、全体にコテコテした感じでスマートさはありません。冒頭の「消え失せた部屋の謎」こそ筋運びに直結していますが、経験を積んだ後年の作者であればもっとシンプルに纏めたでしょう。エキセントリックなヒロインが急速にしおらしくなるのは、この際置いときましょう。 次作「ビロードの悪魔」には及ばないものの活劇関連の描写は出色。個人的には中盤の怨敵バックストーンとの対決が、色々と工夫してあって好きです。 |
No.3 | 5点 | nukkam | 2015/08/28 23:38 |
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(ネタバレなしです) カーが歴史ロマンへのあこがれを抱いていたことは(カーター・ディクスン名義の)「赤後家の殺人」(1935年)などからも明らかですが、1950年代になると積極的に歴史ミステリーを書くようになりました。1950年発表の本書はその皮切りとなった作品で、本格派推理小説と冒険小説をミックスしたような作風になっています。活劇シーンを挿入してにぎやかに盛り上げていますがその分謎解きストーリーが寸断気味になるのは功罪半々といったところでしょう(消える部屋という魅力的な謎が用意されているのですが)。とはいえ後年の「喉切り隊長」(1955年)などに比べればしっかり謎解きしています。惜しいのはヒロイン役のキャロラインの出番が意外と少なく、せっかくのタイトルが十分に活かしきれていないことです。 |
No.2 | 5点 | ボナンザ | 2015/01/05 17:52 |
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ストーリーは奇抜で面白い。
トリックがややチープ。 |
No.1 | 3点 | Tetchy | 2008/11/14 22:54 |
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死刑囚が一転して無罪になり、自分を死刑に追いこんだ人物を捜し出すというのが、まずアイデアとして秀逸。
この主人公が無罪放免となる法制度は1815年当時のものだったのかどうか知らないが、通常こういうのはタイムリミットサスペンスになりがちなところを敢えて避けるところにカーのカーたる所以があるかなと思った。 しかし他の歴史ミステリに比べると小粒感は否めない。もう少し捻りが欲しかったな。 |